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外国人労働者の受け入れ拡大へ。移民への拒否反応がすごい日本で通用するのか?

政府は2日、単純労働を含む外国人労働者の受け入れを拡大する「出入国管理法改正案」を閣議決定しました。日本の雇用と治安はどうなるのか。その影響を考えます。(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2018年11月5日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

移民は増やさず、労働力が欲しい。日本のわがままは通用するか?

日本は世界に取り残される?

サウジアラビアによる自国批判記者殺害問題や、ジャーナリスト安田純平氏釈放等、中東情勢に大きな変化が見られることは確かなようで、そんな中で、米国による対イラン制裁が再開されます。

米中貿易戦争に関して、米中首脳で貿易合意に向けての動きが見られるようですが、本質は次期IT覇権争いである以上、単なる関税問題だけでは解決する話ではなさそうな感じです。

ロシアの台頭もあり、欧州ではEU存続の危機が叫ばれています。

世界秩序が変わって来ているようにも思えます。

米中紛争があるから、ロシアが日本に急接近し、中国もアジアでのプレゼンスを固めようと動き、中ロが日本をどう取り込むかを模索していて、それでも日本は米国との新たな関係を築けないでいる状況で、世界の中で日本は国家としては埋没していきそうな怖さを感じます。

ここから年末にかけての動きを注意深く見守りながら、来年早々にでも、世界の新しい秩序、新たな世界地図を検証したほうがよいようですね。

世界秩序変化のテーマは、日々追いかけていきたいと思いますが、今回は実にドメスティックな話題ですが、日本における外国人労働者受入に関する入管法改正を取り上げてみます。

「入管法改正案」を閣議決定

まずは日経新聞電子版をチェックします。記事の冒頭は、

政府は2日、単純労働を含む外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案を閣議決定した。

人手不足の分野で一定の技能を持つ人を対象に新たな在留資格「特定技能」を来年4月に創設する。

経済界の要望に応じ、これまで認めてこなかった単純労働受け入れにカジを切った。日本の入国管理政策の大きな転換で、政府与党は今国会での成立をめざす。

出典:入管法改正案を閣議決定 単純労働で外国人受け入れへ – 日本経済新聞(2018年11月2日配信)

とあります。ここでマークしたい言葉は「人手不足の分野で一定の技能を持つ人」「経済界の要望」「単純労働」の3つです。

人手不足で「猫の手も借りたい」から外国人労働者を受け入れる、それは経済界からの要望だから認めた…ということでしょう。

参議院選挙を控えているので、経済界の言うことは聞かざるを得ませんよね。

「人手不足が深刻で、今回の法改正は重要かつ急務…」。11月2日、閣議後の山下貴司法相記者会見での発言です。山下貴司氏法務大臣は、石破派唯一の入閣者で元検察官、当選3期での大抜擢人事です。

この外国人労働者受け入れと「移民政策」との違いが議論されそうですが、日本では「移民」に対する強いアレルギーがあり、野党のみならず与党内からも、この政策に対して慎重な意見が飛び出しているようです。政府は与党内の慎重論に配慮し、施行3年後に制度を見直すとしています。

まずは言葉の整理から「移民」について考えていきましょう。

Next: 日本の治安と雇用は守られるか? 根強い日本の「移民アレルギー」



「移民」とは何か

国連ホームページには、「移民」と「難民」についての定義が書かれています。国際連合広報センターのページには、「移民」の説明を、

国際移民の正式な法的定義はありませんが、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意しています。3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です。

出典:難民と移民の定義 – 国連広報センター

とあります。この定義から考えると、今回の日本での外国人労働者は1年以上日本に在住することになりますので、単純に「移民」と理解できると思われます。

根強い日本の「移民アレルギー」

まさに「移民」という言葉のアレルギーへの配慮が、表現等をややこしくしているのでしょう。

日本人の労働機会が奪われる…。
治安が悪くなる…。

移民アレルギーの背景には、これらの懸念があることが考えられます。

移民受け入れに関しては今までも議論はされてはいました。少子化が進む日本にとっては避けては通れない問題なのですが、それでもずっと移民を拒んできた経緯が日本にはあります。

選挙のために、増税と移民問題と社会保障削減は封印されてきたわけです。

経済成長に「労働力増加」は必須

米国は移民政策をやめたことがあり、そのことで経済が疲弊した経験から、移民政策をずっと「国是」としてきました。しかしトランプ政権になって、移民政策を見直す動きが出てきました。

経済成長には労働力増加は必須で、常に労働力確保が欠かせないにも拘らず、リーマン・ショックで経済規模が縮小傾向にあり、自国民の労働機会を奪われることのほうがクローズアップされてきました。

それだけリーマン・ショックという出来事は、世の中の価値観を変える大きな出来事だったのですね。

景気悪化で生活困窮が蔓延している社会情勢下でもてはやされるのが「ポピュリズム」、つまりは大衆迎合主義です。まさに今のトランプ政権は、ポピュリズムの最たるものと言えそうです。

前述の通り選挙に勝てばいいわけですから、集票にはポピュリズム政策が手っ取り早いですからね。

Next: 安倍総理「いわゆる移民政策をとることは考えていない…」の真意とは?



入管法改正は「移民政策ではない」?

「政府としては、いわゆる移民政策をとることは考えていない…」

安部総理は、10月29日の衆院本会議で立憲民主党の枝野幸男代表の質問に答え、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管法改正案について「移民政策」ではないことをあらためて強調し、「深刻な人手不足に対応するため、即戦力になる外国人材を期限付きで受け入れるものだ」と説明しました。

安倍総理の発言から、今回の入管法改正は、決して移民政策ではないというのが政府の見解です。誰がなんと言おうと、入管法改正は移民政策ではないのです。

2016年5月24日自由民主党政務調査会労働力確保に関する特命委員会における「「共生の時代」に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方」という政策書の注釈に、自民党が考える移民の定義が記載されています。それによれば、

「移民」とは、入国の時点でいわゆる永住権を有する者であり、就労目的の在留資格による受け入れは「移民」には当たらない。

となっています。「入国の時点でいわゆる永住権を有する者」という定義は、まさに自民党だけの考え方であって、国際的に通用するものではないでしょう。

大転換した「入管法改正」の中身

「入管法」というのは略称で、正式には「出入国管理及び難民認定法」となっています。

「出入国管理」ですから、日本に来てもいいよという許可を出すための決め事とお考えください。今回の改正は、その条件変更をするわけです。

これまで高度な専門人材に限って外国人労働者を受け入れてきました。これを、単純労働を含む外国人労働者の在留を認めることにするわけですから、まさに、今回の入管法改正は大転換となるわけです。

現在の在留資格は、大きく分けて5つに分類されます。

  1. 専門的・技術的分野:語学教師や大学教授、企業経営者、弁護士、医師など
  2. 身分に基づく在留資格:日系人などの定住者や日本人の配偶者等を持つ永住者
  3. 技術実習:技能移転を通じた開発途上国への国際協力を目的とした外国人技能実習制度で来日して報酬を得ている人
  4. 特定活動:経済連携協定(EPA)に基づく看護師や介護福祉、ワーキングホリデーなどで訪れている人々
  5. 資格外活動:学校に通いながらコンビニや居酒屋などで働く留学生

留学生の場合は、この在留資格の活動を阻害しない範囲(原則週28時間以内)で働くことが認められています。

上記専門人材から単純労働にまで拡大する入管法改正案は、新たな在留資格「特定技能」を2段階で設けるとしています。

  1. 特定技能1号…「相当程度の知識または経験を要する技能」を持つ外国人最長5年の技能実習を終了するか、技能と日本語能力試験合格
  2. 特定技能2号…さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人

<特定技能1号者>

・在留期間は通算5年
・家族帯同は認めない

<特定技能2号者>

・1~3年ごとの期間更新が可能で回数制限はない
・家族帯同は認める
・長期就労可能(10年滞在で永住権取得要件の一つを満たす)

<1号で対象として想定している業種は…>

介護、ビルクリーニング、素形材産業(イメージ的には町工場)、産業機械製造、電気・電子機器関連産業、建設、造船・船用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造、外食

受け入れ先機関は日本人と同等以上の報酬を支払うなど、雇用契約で一定の基準を満たす必要があります。直接雇用を原則とし、分野に応じて例外的に派遣も認めます。

Next: 労働力を借りるだけ、永住者は増やさない? 細かい取り決めは「これから」



細かい取り決めは「これから」

政府は日本語教育など環境整備の具体策を盛る「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策(仮称)」を年内にまとめるとしています。

山下法相は、1日の衆院予算委員会で、受け入れを拡大する外国人労働者の人数について、「数値として上限を設けることは考えていない」と説明しています。

以前安倍総理は、「国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人やその家族を期限を設けることなく受け入れ、国家を維持する政策は考えていない」と発言しています。入管法改正が「移民政策」ではないことを訴えたいのでしょう。

細かい部分は「これから」のようです。

労働力を借りるだけ、永住者は増やさない?

「混同されたら困る。永住する人がどんどん増える移民政策はとらないと、今まで再三言っている通りだ。混同しないでほしい…」

1日の衆院予算委員会で、立憲民主党の長妻昭代表代行が「多文化共生を軸に国を開くのか、『日本人になってもらう』という同化政策をとるのか」との質問に対する安倍総理の答弁です。

今回の入管法改正は、一定期間外国人労働者の力を借りるのであって「移民」ではないというのが自民党の見解です。

それゆえ、受け入れは生産性向上や女性、高齢者など日本人の労働者を確保する努力をしても人材が足りない分野に限定させるようです。

具体的には農業や介護、建設、造船、宿泊など14業種(上述)を想定していて、なし崩し的な受け入れを防ぐため、人材が確保されれば受け入れを停止する措置を盛り込み、施行3年後に制度を見直すとしています。

景気の悪化も想定し、国内の働き手を前提とした補助的な受け入れにとどめるとしています。

政府は法務省入国管理局を改組し、受け入れや在留管理を一元的に担う「出入国在留管理庁」を設けます。不法就労の温床とならないよう、日本から強制送還された自国民の受け入れを拒否した国などからは受け入れを制限するとのことです。

繰り返しますが、安倍総理は、この入管法改正を「移民政策」ではないことを強調したいようです。

Next: 日本の移民流入者数はすでに世界4位。新制度を悪用される懸念も…



日本への移民流入者数は世界4位

ただ現実として、日本で働く外国人労働者は昨年10月の時点で過去最多の約127万9,000人に上っています(厚生労働省調べ)。経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の最新(2015年)の外国人移住者統計では、日本への移民流入者数は世界4位に上昇しました。

政府はこれまで原則として就労目的の在留を認めておらず、高度な専門人材に限って受け入れてきましたが、実態としては外国人技能実習生や留学生のアルバイトが多くを占めていました。

現在の入管法では、外国人留学生は、週28時間までのアルバイトが認められています(前述)。たしかに、飲食店やコンビニ、外食レストランでの外国人労働者が増えている気がしますよね。

新制度では、海外留学生の場合は、学校の卒業後などに新たに特定技能1号の取得が必要になります。

日本は「移民」と真正面から向き合うべき

海外労働者受け入れに際しては、制度をしっかりと整える必要があります。

津田塾大学の萱野稔人教授は「現在の制度だと、外国人労働者が在留資格を得て健康保険に入ると、母国にいる家族を被扶養者にして、母国で使った医療費を日本の健康保険から出すことも可能。また、日本の健康保険目当てに在留資格を得る人が出てくるなど不正行為が懸念され、社会保障の財源がさらに厳しくなる」と指摘しています。

今回の入管法改正による単純労働者受け入れを「移民政策」としないことは、その後の社会制度や法整備に大きく影響を及ぼすような気がします。

日本人と同じように働く日本人でない外国人」の存在は、日本の社会制度とどうかかわってくるのでしょうか。中途半端なままに放置されることにはならなのでしょうか。それがかえって治安を悪くすることにはならないのでしょうか。

真正面から「移民」と向き合うことが、先進国日本、成熟国日本、もっと平たく言うと「大人の国」日本に求められているような気がしてならないのですがね…。

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らぽーる・マガジン』(2018年11月5日号)より一部抜粋
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