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米中会談で株価操作、トランプ「中間選挙対策」の反動は遅れてやってくる=近藤駿介

いよいよ米国の中間選挙を迎える。トランプの支持率は堅調な米経済があってこそだが、株価対策として打ち出したのが先週の米中電話会談だ。その狙いと効果について解説する。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

※本記事は有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』2018年11月5日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

「株価対策」以外に実利はなかった? 中間選挙後に何かが起きる

「ねじれ議会」となるか

いよいよ今年最大の政治イベントである中間選挙を迎える。

直近の情勢は、上院では共和党が過半数を確保(共和50:民主44:互角6)し、下院では民主党が過半数を確保(共和196:民主203:互角36)する「ねじれ」が生じるとみられている(Real Clear Politics 11月3日調査より)。

日本のメディアでは「分断される米国」をキーワードにトランプ大統領に批判的な報道をしているが、「RASMUSSEN REPORTS」の世論調査によるとトランプ大統領の「支持」は51%(うち「強く支持」は37%)と、「不支持」の47%(うち「強く不支持」は40%)を上回っており、トランプ大統領の支持率は堅調さを保っている。

好調な経済がトランプの支持率を下支え

批判の多いトランプ大統領が堅調な支持率を保てているのは、経済が好調のおかげだ。

米労働省が2日発表した10月の失業率は前月に続いて1969年以来49年ぶりの低水準である3.7%を維持し、平均時給は前年同月比で3.1%上昇した。リーマン・ショック後、平均時給が前年比で3%を超える上昇を示したのは初めてのこと。

経済政策が高い支持率の要因になっているトランプ大統領にとって、再選に向けての経済面での懸念材料は10月に入り突然不安定な動きを見せ始めた株式市場の急落くらいになっている。

再選に向けたトランプの一手「米中電話会談」

こうした状況の中で、中間選挙が迫ってきた先週、トランプ大統領はこの唯一の懸念材料に手を打ってきた。

それは、今月1日に突然行われた5月以来半年ぶりとなる米中首脳による電話会談である。中国側の報道で「米国側から申し込みがあった」その会談の内容について、トランプ大統領は「長い時間とても良い話し合いができた。貿易問題に重点を置いた」とツイート。ブルームバーグも「トランプ米大統領が複数の閣僚に中国との貿易摩擦に歯止めをかけるための合意案の作成を指示した」と報じた。

米中貿易戦争の拡大懸念を薄めるこうしたニュースは、10月に入り大幅な調整を強いられていた株式市場に歓迎された

月末要因自律もあり反発の気配を見せたタイミングで発表されたこの電話会談のニュースは、トランプ大統領の狙い通り買い戻しを加速させ、3日間でNYダウを約937$、ナスダックを約380Pts上昇させることに成功した。

Next: 株価操作のためだけの会談? それ以外にはまったく実利がない



ぎりぎりのところでさらなる株価暴落を防いだ

米中首脳会談に関しては、10月24日に11月末にアルゼンチンで開く20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて会談する方向で調整に入っていたことが報道されており、米中首脳会談開催自体は目新しいニュースではない。

問題だったのは、10月24日の米中首脳会談調整のニュースが米国株式市場の混乱をすぐに止められなかったことだ。29日には一時NYダウは24,100$台まで下落し、高値からの下落率が約9%に達してしまった。

この29日には、米商務省が国家および経済安全保障上の懸念を理由に中国国有の新興半導体メーカー・福建省晋華集成電路への米企業による製品販売を制限すると発表した日で、米中の貿易戦争激化懸念が高まった日でもあった。

好調な経済を武器に中間選挙を乗り切るつもりだったトランプ陣営にとって、米国側のこの制裁に対して中国側が強く反発することは、米中貿易戦争激化懸念を強め、さらなる株価の下落を招きかねない事態で、許容し難いものだったことは想像に難くない。

そうしたリスクを回避するために「米国側から申し出」をして米中首脳による電話会を実現させたと考えるのが自然なのだろう。

株価操作のためだけの会談か

カドロー米国家経済会議(NEC)委員長は、翌2日のCNBCテレビとのインタビューで「トランプ政権が当局に対中貿易協定案の策定を指示した事実はない」と当初の報道内容を否定。

そのうえで、米中2国間の交渉の行方について「以前ほど楽観視していない」との考えを示したのは、今回の米中首脳の電話会談は株価の反発を誘うことを目的にもたれたもので、それ以外に実利がない会談だったことの証明だと思われる。

大きく上下する日米株価

米国株式市場の反発を受けて、東京株式市場も日経平均を大幅に反発し2万2,200円台を回復してきた。こうした株価の反発を受けて日米ともにボラティリティは上昇してきている。

S&P500のヒストリカルボラティリティは先週末時点で23.8%と、過去の平均12.7%の倍近い水準にあり、日経平均株価のヒストリカルボラティリティも27.3%と過去4年半ほどの平均値17.3%を10%も上回って来ている。

Next: 株式市場に新たな歪み? 中間選挙前後で何かが起こる…



「恐怖指数」に現れた異変

市場のボラティリティが上昇してきている中で特徴的なことは、市場で注目を集める「恐怖指数」の水準がヒストリカルボラティリティを下回って来ていることだ。

S&P500の「恐怖指数」は19.51と、ヒストリカルボラティリティ23.8%を4%以上下回り、日経平均株価の「恐怖指数」も25.29とヒストリカルボラティリティの27.3%を2%下回った状態にある。

通常「恐怖指数」はヒストリカルボラティリティを上回って推移する。過去平均で見るとS&P500では約3.4%、日経平均株価では約3.9%「恐怖指数」がヒストリカルボラティリティを上回っている。

「恐怖指数」がヒストリカルボラティリティを下回った状態というのは、市場が持つリスク量を投資家が低く見積もっている、言い換えれば準備不足の状況にあることを示唆したものである。

こうしたボラティリティの状況は、株価の変動が生じた場合、投資家の行動を順張りにする要因となり得るものである。

計算上しばらくはヒストリカルボラティリティが大きく下落する可能性が高くないことを考えると、「恐怖指数」が上昇する形でヒストリカルボラティリティと「恐怖指数」の関係は正常化していく可能性が高い。

中間選挙後に何が起きる?

中間選挙を目前に、一旦は株式市場の底抜けは回避できた格好になった。しかし、実際には中身がないと思われる米中首脳による電話会談によって売り方の買い戻しを誘い株価を持ち上げたことで、株式市場には新たな歪みエネルギーが蓄積された格好になっている。

ポイントは、中間選挙の前後で何が変わるのか、というところ。

中間選挙の結果が世論調査通りになり「ねじれ議会」が生じた場合に、世の中がまず認識することは、トランプ大統領の思い通りに法案が成立しなくなる結果、トランプ大統領のエネルギーのはけ口が議会の影響が及びにくい「通商問題」になるということになる可能性が高い。

米中首脳による電話会談が本当に有意義なもので、米中の貿易戦争がおさまっていくことになるのかが明らかになっていくのは、その後のはずである。

米国株式市場を中心とした市場の混乱にはもう少し続きがありそうだ。

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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2018年11月5日号)より一部抜粋
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