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惨敗を回避した米中間選挙、トランプ政策に現れる変化と日本経済への悪影響は?=吉田繁治

中間選挙の結果についてトランプは「大成功だった」と息巻くが、「共和党が惨敗を避けることができた」との評価が妥当だろう。この結果はどんな変化をもらすか?(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2018年11月7日・8日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

上院多数の死守でトランプ弾劾はぎりぎり回避。だが問題は山積…

トランプ下院敗北が意味するもの

一般に、中間選挙では野党が勝つことが多い。ただ、今回の下院での敗北は、トランプの関税とイラン経済封鎖など、国際政策への「NO(ノー)」の意思表示になります。そういった意味で、今回の選挙結果は日本政府と我々にとっても重要です。

米国では、日本では機能しなかった二大政党制が働いて、政策の行き過ぎの「バランス」をとります。トランプ大統領の誕生は大手メディアの予想外でした。中間選挙は、それにお灸をすえたでしょう。

日本では、市民の個人主義が前提である小選挙区の二大政党制は、機能しなかった。原因は、人の行動が目的に対して「横並びで一律」になる集団主義の傾向が強い文化(行動様式)だからでしょう。民主党に3年間、試験的に政権が渡ったあとは、自民党です。

概念な曖昧な「保守」と「リベラル」

米国で「あなたの意見は?」と訊ねると、意見は異見でもあり、個々人で異なる。日本では、個人に異見を聞く前に「これが正解」とする。

地方は保守の共和党都市部はリベラルな民主党です。

保守」とは、1冊の本が書けるくらい曖昧さが混じった概念ですが、単純化すれば、伝統主義と理解していいでしょう。米国の本来とされるもの、あるいは伝統と歴史を守る政治です。「保守的な経営」で考えると分かります。

リベラルも、保守に劣らず曖昧であり、気分の言葉ですが、本来は、保守に対する革新や左翼ではなく、資本主義の枠内で個人の自由を重んじることでしょう。新自由主義の経済学に通じます。リベラルが極端になると、資本主義経済への政府の介入を排するリバタリアニズムです。

政治思想的には、トランプは、米国の白人の新自由主義を唱える保守派のポピュリストです。民主党の有色人種を含んだリベラルと経済面での、金融主義とグローバリズムへの反動として、米国民が選んだのでしょう。

トランプの強い支持者には、ラスト産業(さびついた金属産業の意味:空洞化が激しい)の労働者が多い。このため、中国に対して、米国の経済成長を、ともに阻害することになる高い関税を課す。

来年からの25%関税は、共和党が下院で大敗したことによってどう向かうでしょうか

ロシアゲートの追求が再熱する

トランプ大統領はセッションズ司法長官を解任しました(相当に重大な事件です)。わが国の法務大臣にあたり、検察官と裁判官を指揮する立場です。

2年前の大統領選挙選挙での、ロシアとの「不透明な関係」の捜査に対して反トランプの動きも見せ、それに対して不満をもっていたからです。トランプに有利になるよう、ロシアがサイバー攻撃やSNSを使って、プロパガンダを発し、米国の世論操作をしていた疑惑です。「ロシアゲート」と言われます。

トランプの悩みのタネがこれです。告発されれば、世界の盟主・米国大統領の職を失うことに至るからです。

例えれば、安倍首相が自らの「モリカケ疑惑」を払拭するため、検察への指揮権(告発を停止する権限)を持つ法務大臣を更迭したことと同じです。共和党のニクソン大統領が、民主党の本部に盗聴器をしかけたウォーターゲート事件(1972年)が明らかになって、世論の反発を招き辞任に追い込まれたことと似ています。

他にはマティス国防長官の更迭も言われています。北朝鮮への軍事的なデモンストレーションになる米韓の合同軍事演習、そしてアフガニスタンとシリアへの米軍駐留をめぐって、判断の隔たりがあり、不快感を表明していたからです。

トランプ内閣の閣僚は2年で「総更迭」に近い(極めて異例)。これができるのは、大統領が直接選挙で選ばれているからです(ただし総得票数ではクリントンに負けていまいた)。

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上院の死守でトランプ弾劾はぎりぎり回避

中間選挙で、民主党が多数派になり、大統領の弾劾決議をする可能性が高まっています。ロシアゲートだけではなく、脱税・セックスなどのスキャンダルがあります。クリントン大統領がモニカ・ルインスキーとの「大統領室での不適切な関係の偽証」から弾劾を受けたことが小さく見えますね。

米国の二院制度では、下院で大統領の弾劾決議が成立しても、共和党が、微差の多数派を維持した上院の2/3の賛成での弾劾裁判が必要です。上院で弾劾が評決されると、副大統領のマイク・ペンスが大統領になって、残り任期を務めます。

大統領が起案する予算案と法案でも、上院の3/5の賛成が必要です。単に、国民からの支持率ではなく、上院の任期6年のエリート層が動かす政治の仕組みが米国の制度です。

<下院:民主党が多数派を奪還>

2年ごとの中間選挙で435人の全議員が改選された下院(任期2年)では、事前の世論調査での反トランプは55%くらいと多かったので、共和党は多数派を失うと予想されていました。結果は、民主党223、共和党199、未定13で、民主党が多数派を奪回しています。

<上院:共和党が多数派を維持>

定数が100の上院(任期6年)の改選数は、35人でした。共和党の改選が8人、6年前に勝った民主党は27人と多かった。米国の国会議員では、現職の当選率が約90%と高い。共和党の51:49の多数派は維持できると見られていました。結果は、共和党51、民主党46、未定3で、共和党が多数派を維持しました。

下院の弾劾決議と、上院の弾劾裁判を恐れていたトランプは、「上院で多数派を維持すること」に精力を注いだ遊説日程を組んでいました。このため、上院での多数派を、トランプは「大きな勝利」としています

民主党が多数派をとる予想だった下院では、弾劾決議が予定されていたので、上院の35人の改選が2年目の大統領選挙になっていたのです。

野党から「7名」取り込まないと予算も法案も通らない

予算案や法案も、上院の3/5の賛成がないと通りません(弾劾裁判の有効化に必要な2/3の賛成よりは少ない)。大統領の強い権限を制限するために設けられた、米国の制度です。

国際経済での、最大の懸案になっているトランプ関税の大統領令については、発動の手続きについて、上院が過半数の賛成で関与する決議がすでに通っています。大統領は、関税発動の権限をもちますが(通商法232条)、その命令権に制限を加えるものです(賛成88:反対11)。

仮に上院が共和党53、民主党47議席で決定すると、3/5は60名ですから、民主党から7名の議員を取り込むことができないと、予算案や法案が通りません。米国の政党には、自民党のような「党議拘束」はなく、比較的自由に、個人の立場で賛否を示し、法案も提出します。

それでも、民主党では選挙・脱税・セックスなどスキャンダルまみれのトランプへの強い反対の勢いが増しているので、取り込みは難しいでしょう。

今回の、「上院で微差の多数派、下院では少数派」という選挙結果から、2012年までの日本の「衆参ねじれ国会」のように、「重要な予算案、法案が通らない事態」が頻発することが予想されます。世論を作る大手メディアは、もともと反トランプです。トランプは、CNNはフェイクを流すと応じています。

セッションズ司法長官を解任は、以上のような選挙結果と米国特有の議会制度を背景にして、発令されています。

Next: 中間選挙は「トランプの惨敗を避けられた」との評価が妥当。政策に変化は?



知事選では敗北色が濃厚

全米50州のうち改選があった36州の選挙前の知事は、共和党26州、民主党9州、無所属が1州でした。米国の知事は下院の選挙区の区割りをする権限をもつので、国政に影響を与えます。

共和党と民主党の支持率が、およそ50:50で拮抗する米国では、支持者の居住地の区割りによって、1%差くらいで決まることが多い議員の当落が左右されるからです(日本ではこの報道が少ないです)。

大統領の候補も、元知事が多い。非改選を含む結果は、共和党が33州からは8州も後退して25州、民主が22州、未定が3州です。ただし共和党は、大票田になるフロリダとオハイオの2州を奪回し、明暗は交錯しています。

今回の中間選挙は、トランプが言った「大成功」ではなく、WSJがまとめたように「共和党が惨敗を避けることができた」と評価が妥当です。

政策変化の可能性

大切なことは、今後の、トランプ政策の変化の可能性です。彼は次回大統領選での勝利を目指しています。しかしトランプ固有の性格からして、「与野党ねじれ国会と弾劾決議の中で、国際的な政策が今より先鋭化する」可能性が高いと見ています。

米国民が好む、人格面で強い印象を与えるためです。たとえば、米国では、戦争が大統領の支持率を上げます。

窮地に陥っても、普通の人のように大人しくなるのではなく、今回の選挙結果を受けての記者会見に見るように、「大成功といきり立つキャラクター」です。

今後の米国政治を予想するとき、感情的な性格は重要です。感情は、知性を経由しない、直接的な反射です。「いい/悪い」「好き/嫌い」というような瞬間の反応です。

支持率を上げるためなら、手段を選びません。対中国関税は、与野党からの支持を受けています。

トランプ政策の激化の予想

トランプが、ロシアゲートなどを理由にして下院の弾劾決議があると、大統領を続けることを目的にしているトランプは、一層、激しく、ポピュリズム受けする過激な政策を打ち出すと予想します。弾劾決議で、政権がレーム・ダックになるのを、ぼかして避けるためです。

日本の安倍首相も、総選挙も含んで、「スキャンダルのぼかし回避」の政策と国会運営をとり続けています。迷惑なことですが、「モリカケ問題」が安倍政権の多くの政策と対策の動機になっているのです。

何が出てくるかわかりません。しかし、支持率に効果のあるものは、戦争です。

Next: 選挙結果を写す株式相場。日米経済は今後どうなる?



選挙結果を写す株式相場

NYダウは、投票日の2万5,750ドルから開票前は2万6,200ドルに上がり、開票後は少し下げて、現在は2万6,000ドル付近を横這っています。

過去、選挙後は政策の不安が消え、米国の株式相場は上がる傾向がありました。しかし今回は上げていません。ダウのコピーが多い日経平均も同じ動きです。

過去のように上がらないのは、投資家の多くが、出口政策で、株がはじけるかもしれないという高所恐怖症にかかっているからでしょう。

投資家の心の動きは見えませんが、売りと買いが拮抗し、価格が動かない罫線から、株価を決めている投資家心理が見えるのです。実際に株を買う投資家は、損に対しては、とても臆病な心理をもちます。

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※太字はMONEY VOICE編集部による

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