マネーボイス メニュー

逆イールドやブレグジットなど、これからのマーケットを動かす世界リスクの行方=式町みどり

米中貿易交渉の進展でマーケットは落ち着きを取り戻しました。今回はEU離脱合意や逆イールドなど、この先の為替市場を動かしそうな世界情勢について解説します。(『億の近道』式町みどり)

プロフィール:式町みどり(しきまちみどり)
学習院大学経済学部卒業後にフランス語を習得、1973年に仏ソシエテ・ジェネラル銀行東京支店入行。長年にわたり内外金融市場で為替・資金・債券・デリバティブ等のディーラーとして活躍。同行資金本部長を経て退職後、ファイナンシャル・プランナー資格(AFP、CFP®)を取得。NPO法人を立ち上げ、消費者向け講座企画・運営、セミナー、ワークショップの企画事業を行なっている。

為替市場動向~米国の長短金利差の行く末~

EU離脱合意案の延期を受け、マーケットはリスクオフ

米中貿易交渉の進展を見て、今日の東京株式市場は久しぶりに大きく上昇しました。

一方、為替市場では、英国のEU離脱合意案の議会採決の延期を受けて、メイ首相への不信任案決議の必要人数が揃ったとの報道からポンドが売られたため、全般的にドル買いの流れに。ドル円相場は113円台半ばまで反発しています。

ドル円相場は、リスクオフマーケットでも、底堅い動きで推移。下値での実需買いが推測されます。

さて、年の瀬のあわただしさの中、来週18~19日は今年最後のFOMC(米国の金融政策決定する会合)があり、今年4回目の利上げがあるのかに注目が集まっています。

低金利のサポートによる景気持続を目指すトランプ大統領からは、≪利上げけん制発言≫も聞かれましたが、また、エコノミストによる利上げの確率予想は74%(Bloombergによる)と微妙です。

決定前週に発表される、最新のインフレ指標や景気指標も参考になると見られます。

11日の生産者物価指数は2.5%と予想通りで、エネルギー価格下落にも拘わらず、他の物価は堅調な動きでした。12日発表予定の消費者物価指数、14日の個人消費や鉱工業指数も注目になります。

FOMCを控えた先般、パウエルFRB議長が今後の利上げに関してトーンダウンしたこともあり、長期金利(10年物利回り)は3%を割れ、一時2.8%前半まで低下しました。(直近は2.88%)

さらに、長期金利の水準よりもマーケットが注目したのは、長短金利の逆イールドが示現したことでした。逆イールドとなったのは、3年VS2年、5年VS2年でしたが、10年VS2年の利回り格差もついに直近で0.11%まで縮小して来ています。

Next: 10年VS2年の逆イールドは起こってしまうのか?今後の注目ポイントは…



来週のFOMCで発表される、利上げ政策の方向性に注目

何故、この10年/2年の利回り格差が注目されるかと言えば、当メルマガでも何度か取り上げてきましたが、今後の景気見通しのある種の指標と見られているからです。

10年/2年の格差が逆転して平均約16.8カ月後に米国の景気が後退するという過去の例によるもので、例えば、記憶に新しいところでは、2006年初に逆転(最大0.11%2年債が10年債を利回りで上回り)、その後2年弱の2007年末から景気後退が始まりました。

それ以前ではITバブルの2000年初に逆イールドとなり、翌年3月から景気後退時期がありました。80年代、90年代にも類似の事例がありました。

長短金利が逆転する背景には、
1)2年債という短期債に利上げを織り込み過ぎた場合
2)10年債に今後の景気見通しを悲観的に織り込みすぎる場合
があります。

量的緩和政策の導入などでリーマンショックから回復が見えた2010年に10年/2年の格差は最大で2.8%ありました。超低金利を経て、短期金利が正常化へ向かう中、格差はどんどん縮小。今年初は0.54%から直近0.11%へ。この水準は、過去10年間で最も縮小しています。

FRBが短期金利の景気への影響をどう考えているのか?来週のFOMCでの利上げの有無、さらに来年からの利上げ見通しがどう伝えられるのか、要注目です。

Next: 欧州ではブレグジットの先行きに不安。このままだと起きるかもしれないリスクとは?



「合意なき離脱」となれば、日常生活にも大きな支障

さて、欧州ではクリスマスが近づく中、フランスの反政府デモの激化や、英国のBrexit関連の混乱が伝えられ、昨日から今朝にかけて、ポンド安に拍車がかかりました。

もともと12月11日可否が問われることになっていた離脱案の採決は延期となり、その後、メイ首相の不信任決議に必要な書簡が揃ったとの報道もあり混乱が伝えられます。

保守党が不信任投票を行う可能性、野党が不信任案を出す可能性(不信任なら総選挙)、また首相が辞任する可能性などが言われていますが、どれも、3月29日の離脱期限が迫る中で「合意なき離脱」になる高いリスクをはらみます。その場合は、離脱期限の延長をEU側に求めることになるのでしょうが、混乱は否めません。

ところで「合意なき離脱」となると、通常の生活でも多くの支障が予想されます。

国内扱いだったものが外国扱いになるわけで、例えば、携帯通信でEUとの通信が国際通信になり有料ローミングに。英仏を繋ぐ高速鉄道ユーロスターでも、EU圏の域外扱いになれば、デジタル関連のみならず、運行にも影響する可能性があるようです。その他、航空関連、貿易関連と不都合なことが多く予想されるようです。これは英国民のみならず、旅行するものにとっても大問題でしょう。

BREXIT投票時には、EU離脱賛成が勘定論より感情論が大きかったように思います。

改めて国民投票のやり直しを求める運動も起こっているようですが、あと3カ月。時間が足りない感が否めません。

当面、ポンドの乱高下が予想されます。ポンドは、元々、乱高下しやすい通貨ですし、BREXITの混乱への賭けは、ギャンブルに近いものがあると思います。

あちらこちらで騒がしい年末になりそうですが、しっかり足元を固めて過ごしたいと思います。

日本も、気温が乱高下していますので、健康に注意してお過ごしください。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

※12月12日日東京時間14時執筆
 本号の情報は12月11日のニューヨーク市場終値ベースを参照しています。
 なお、記載内容および筆者見解は参考情報として記しています。

【関連】米国、ハリボテの経済成長。ロイター、フォードほか大規模リストラで失業者急増へ

【関連】通信障害で嵐の船出、ソフトバンク上場は成功するか?過去最大2.6兆円も不人気のワケ=栫井駿介

【関連】「宝くじ」で夢を買って現実を毟られる庶民たち、なぜ買うのをやめられないのか?=鈴木傾城

image by:Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

億の近道』(2018年12月12日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。