中国人民銀行が10月23日に発表した追加の金融緩和策は、マーケットの意表を突いたサプライズ感のあるものでした。一般的に金融緩和は、株式市場にとって最も上昇の可能性が高い政策。ただ、小バブル崩壊を経験したばかりのいまの中国ではどうでしょう?TS・チャイナ・リサーチの田代尚機氏が解説します。
なぜ今、追加金融緩和か?中国株式市場と経済への影響は
サプライズとなった追加利下げと金利自由化
10月23日(金)夜、中国人民銀行は意表を突いた金融緩和政策を発表した。
基準金利を0.25ポイント引き下げ、預金準備率を0.5ポイント引き下げると発表した。実施日は24日(土)。同時に、預金金利に設定されていた浮動上限幅を撤廃。名目上、金利の自由化を実現させた。
昨年の11月22日に利下げサイクルを開始して以来、今年の3月1日、5月11日、6月28日、8月26日と5回利下げを実施しており、10月24日は6回目となる。
それぞれにおける当日(発表後最初の営業日)の上海総合指数上昇率、3営業日後(発表直前の終値と3日目の終値を比較)の上昇率を順に示すと以下の通りである。
- 11月22日:(当日1.9%、3営業日4.7%、以下同様)
- 3月1日:(0.8%、▲0.9%)
- 5月11日:(3.0%、4.0%)
- 6月28日:(▲3.3%、▲3.3%)
- 8月26日:(▲1.3%、9.0%)
過去5回とも、すべて高寄りしている。ところが、当日の騰落率では3勝2敗で、ここ2回連続で負けている。3営業日後で見ても3勝2敗。いずれも、勝ち越してはいるが、短期的なインパクトという点では、決して決定に大きなものではない。
一般に、株式市場にとって、金融緩和は最も上昇の可能性が高い政策である。金利の低下は銀行預金など安全資産の選好を低くし、株式などリスク資産の選好を高めることになる。
また、金融緩和政策は企業の設備投資意欲を高め、企業の資金繰りを改善させ、生産活動を活発にさせる。企業業績の改善見通しを通して株式の価値を引き上げる効果もある。
ただし、中国の場合、そうした効果がどれだけ期待できるだろうか?
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緩和しても、いまの中国株式市場には資金が流入しない
まず、金融緩和によって株式市場に資金が流れ込むかどうかであるが、今年の2月から6月にかけて小バブル発生を経験したばかりである。
その最大の要因は、金融緩和をきっかけとした信用取引の急拡大や、違法性の強い場外融資(ノンバンクを通じて資金を借り入れて株式を購入する行為)の急拡大などである。
前者は信用取引規制の強化、規制の徹底遵守により落ち着きを見せており、後者は行政指導によって9月末時点でほぼ解消している。
当局は金融緩和によって資金が必要以上に株式市場に流れ込むことを強く警戒している。今回、金融が緩和されたからと言って、こうしたルートで資金が再度株式市場に大量流入する可能性は低いであろう。
また、預金金利が低下したからと言ってどれだけの資金が株式市場に向かうであろうか?そうした資金はそれほど多くないだろう。
中国経済への影響は?
経済に与える影響はどうだろうか?
景気減速の最大の要因は不動産投資の減速であり、重厚長大産業を中心とした製造業の設備投資の減速、それに輸出の鈍化である。
不動産投資の減速は政策に起因するものである。商品住宅は投機としての需要に支えられてきた部分が大きく、国務院は2009年以来、それを抑えてきたが、昨年に入り、ようやく成果が現れたところである。
足元では価格は1線級都市を中心に下げ止まりつつあるが、在庫は今年の春以降も、高止まり状態が続いている。
銀行が不動産ローンの融資姿勢を緩めると同時に、不動産開発向けの融資も拡大するのであれば、景気は回復する可能性があるが、不動産投機が難しい中で、不動産向け融資を積極化させる銀行は少ないであろう。
重厚長大産業の不振の一端は不動産投資の不振にある。また、多くの企業が生産過剰にある中でこうした産業において設備投資は増えないし、国務院はそれを見過ごしたりしないであろう。
結局、産業向けに資金が出て行きそうなのは、インフラ建設投資であるが、すでに高水準の投資が3年以上続いており、周辺の投資が追い付かず、さらに投資を加速させるのは難しい。
国務院が最も資金を投入したいのは、戦略的新興産業であるが、こうした産業に銀行が貸せる資金量は限られている。
どうも金融を緩和しただけでは景気は回復しそうにない。それは過去5回の利下げを経ても景気が回復しないことからも明らかである。
Next: それでも追加緩和に踏み切った中国の狙いとは?
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それでも追加緩和に踏み切った中国の狙いとは?
それなら、なぜ金融緩和を行うのであろうか?
その点について、中国人民銀行は、ホームページ上で、「国内外の形成は依然として複雑で、中国経済の成長には依然として一定の下押し圧力がかかっている。金融政策を機動的に用いることで微調整政策を強化し、経済構造調整と経済の安定的で健康的な発展を遂げるために良好な金融環境を作り上げる必要がある」などと説明している。
もっとも重要な景気認識について、たとえば、イギリス訪問時に習近平国家主席は、「中国経済はニューノーマル時代に入っており、確かに一定の下押しリスクはあるものの、引き続き強い増勢を保つであろう。経済成長率は7%程度を保つことができ、また、7%程度の成長で十分である。中国は現在、経済成長の質を引き上げ、不均衡を解消する必要がある。そのために、中国は引き続き改革を深化させ、経済の持続的発展を確保する。最も率先してやらなければならないことは、構造調整であり、それによって、創新、消費を駆動させる」などと述べている。
李克強首相も同様の発言を繰り返している。つまり、「現在の成長率は適正の範囲内にあるが、そこから下振れする懸念がある。だから、その範囲内に成長率を留めるために微調整している」といった認識である。
金利については、「9月のCPIは1.6%上昇だが、1~9月期のGDPデフレーターは0.3%下落、9月のPPIは5.9%下落している。総合的にみると、現在の物価水準はかなり低く、それに合わせて基準金利を引き下げた」と説明している。
預金準備率については、「銀行の流動性体系に対する変化に対応するため」としている。
「外国為替市場における期待は安定しており、外国為替資金が流動性に与える影響は基本的に中立である。ただし、今後の見通しについては不透明であり、また、10月には税金支払いが集中し、銀行内における資金流動性が減少すると見られることから、銀行システムに十分な流動性を与えるために預金準備率を引き下げた」と説明している。
現政権の方針は「構造改革」金融緩和の効果は限定的に
金融改革の一貫として、また、金融システムを自由化・国際化させる一貫として、今回の利下げ、預金準備率引き下げが行われたと言わんばかりである。
はっきりしていることがある。
成長率は一時的に少しだけ戻る可能性があるが、長期的に見れば、下がり続けるだろう。金融緩和は景気減速を弱める程度のものである。
構造改革を徹底的に行うことが現政権の大方針である。
(10月24日作成、有料メルマガから一部抜粋)
『中国株投資レッスン』(2015年10月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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