昨年7月に改正された遺言書のルールが今年順次施行されます。なかでも最も早く1月13日に施行される自筆証書遺言の方式緩和について、改正点をおさらいします。(『こころをつなぐ、相続のハナシ』山田和美)
1986年愛知県稲沢市生まれ。行政書士、なごみ行政書士事務所所長。大学では心理学を学び、在学中に行政書士、ファイナンシャルプランナー、個人情報保護士等の資格を取得。名古屋市内のコンサルファームに入社し、相続手続の綜合コンサルに従事。その後事業承継コンサルタント・経営計画策定サポートの部署を経て、2014年愛知県一宮市にてなごみ行政書士事務所を開業。
1月13日、遺言書のルールが変わります
今回の改正のポイントは…
自筆証書遺言を作成する際に、遺言書と一体のものとして添付される財産目録については、自書することを要しないこととされます。
自筆証書遺言はこれまで、財産の内容も含め、全文を自書することが要件の1つとされていました。
この方式が緩和された形です。
よくある誤解と注意点
・自筆でなくても良いのは一部だけ
全文が自書でなくてよくなるわけではなく、自書でなくても良いとされるのは、あくまでも財産目録の部分のみです。
誰に何を相続・遺贈させたいかといった根本の箇所は引き続き自書が必要となりますので、混同しないようにしましょう。
・その他は変更なし
日付の記載が必要な点や、捺印が必要な点など、上記以外の方式の変更はありません。
自筆証書遺言を作成する際には、方式に不備がないか、その都度しっかりと確認するようにしましょう。
・捺印箇所に注意
自書以外の方法で財産目録を作成した場合には、その財産目録にも署名と捺印をする必要があります。
また、紙の両面に財産目録を作成した場合には、その両面ともに署名捺印が必要となりますので、注意しておきましょう。
・訂正方法に注意
自筆証書遺言を書き損じた場合等の加除訂正の方法は、法律で厳密に定められています。
これは、自書以外の方法で作成した財産目録の記載を修正する場合にも同様。訂正を誤った場合には、せっかく作成した遺言書が無効となってしまったり、意図しない内容で執行されてしまうおそれがあります。
加除訂正をする場合には、訂正方法を誤るリスクを減らすため、できるだけ全文を作成しなおすことをおすすめします。
仮に加除訂正の方法による場合には、方式の誤りのないようしっかりと訂正方法を確認したうえで行なうようにしましょう。
Next: 改正が行われたら、自筆証書遺言で良い?
方式が緩和されたから、公正証書遺言ではなくて自筆証書遺言で良い?
結論を先にお伝えすると、やはり遺言書は可能な限り公正証書で作成することをおすすめします。
その主な理由は2つ。
1つは、方式緩和されたとはいえ、やはり専門家が介入しない自筆証書遺言では、無効になったり解釈に疑義が生じたりと、手続き上問題が生じる可能性が払拭できないためです。
もう1つは、本当に本人の意思で書いたものかどうかといった点や、書いたときに本人は既に認知症であったのではないかといった点で疑念が生じた際に、自筆証書遺言では、どうしても証拠力が弱いためです。
なお、法務局で自筆証書遺言の確認と保管をしてもらえる制度は2020年7月10日に施行されます。
確認・保管制度を利用した場合には自筆証書であっても形式的に無効ということは格段に減るでしょう。とはいえ、本人の判断能力の確認や意思の確認といった点では、やはり公正証書遺言には劣るものと思われます。
そのため、やはり公正証書遺言をおすすめします。
大前提の話
各所で繰り返しお伝えしていますが、自筆証書であっても公正証書であっても、遺言書は形式さえ整えれば良いというものではありません。
大切なのはむしろ、公証役場や保管制度利用時の法務局で確認してもらえる点よりも、その遺言書でスムーズに手続きができるのか、税務や他の面でひずみが生じないか、家族にわだかまりを残さないのか、以後の状況変化に対応できるかといった、考え方に関する部分なのです。
改正でどうしても形式面に目が行きがちかとは思いますが、この根底の部分は忘れないようにしていただきたいと思います。
『こころをつなぐ、相続のハナシ』(2019年1月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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