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「今のリスクオン相場は勘違いだ」イエレンFRB議長の二段論法

11月6日(金)に発表された10月米雇用統計は、非農業部門雇用者数が27万1000人増と市場予想を大きく上回りました。これにより12月利上げの可能性が極めて高くなりましたが、相場は相変わらずリスクオンのまま。元ヘッジファンドマネージャー「E氏」は、イエレン議長をはじめとする要人らの牽制発言が相次ぐなかでも先行きを楽観しつづける市場に対し、過剰流動性相場に夢中になりすぎていると指摘します。

12月利上げはほぼ確実。イエレン自ら楽観に警鐘を鳴らしている

これまでの利上げ回避は単なる「様子見」に過ぎず。FOMC議事録を復習

9月のFOMC議事録のポイントは以下のようなものでした。

一番上の文言から出てくるのは「国内労働指標は既に完全雇用状態なので、今後多少悪くても問題なし」です。一度判断した以上、その後の指標が悪くても後戻りできないでしょう。

もし、海外経済が問題なければ利上げをしていたのです。なので、9月の雇用統計が悪いとかくらいで見解を変えるはずはありませんでした。

次の文言は、世界経済が不透明なので利上げが危険とは言っていません。影響を見るために、少し時間の猶予が必要と言っているだけです。

では、時間の猶予とはどのくらいなのでしょう?弱い雇用統計後のマーケットが期待しているように、来年3月まで時間的な猶予が必要なのでしょうか?

それは次の文言で書いてあります。「そうは言っても、年内に利上げはすべき」なのです。そして、釘を指すように以下の文言も付け加えています。「金融市場の動向が米経済の先行きを著しくは変えない」。

この意味するところは、「利上げが怖くなったからと言って、株が多少下がったくらいでは利上げは先送りにしません」ということです。つまり、催促相場をしても無駄ですよと言っているのです。この議論内容のどこが超楽観相場の根拠になったのでしょう?

「利上げは当面なし」は市場の妄想、FOMCメンバーは利上げ支持

次に世界経済に対してどの程度深刻に見ているのかについてですが、IMFの見通し以上に悲惨な見方をするはずはありません。そのIMFの見通しは、毎年10月上旬に改訂され、今回も世界経済の見通しを下方修正していますが、肝心の中国は修正していません。

新興国、先進国に関わらずおしなべて下方修正させていますが、当の中国当局の統計数字が捏造なので、それを使っている以上当然ですが肝心の中国経済は下方修正していないのです。

つまり、9月FOMCで「世界経済が不透明」と言ったのはこの程度なのです。我々日本人投資家が中国バブルは崩壊するのではないかと危惧するようなレベルの不透明さではない以上、今回の先送りはこの数ヶ月急に不透明になったので、数ヶ月様子を見る程度のものだと考えるのが自然だと思います。

にも関わらず、世界のマーケットは10月初旬に発表された弱い雇用統計以降、「利上げは当面ない」と決め付けてしまい、世界のマーケットはリスクオンになったのです。

これは市場の妄想であって、金融当局者の真意ではないとこの欄で常に書き続けていましたが、結果的に市場の楽観は想像以上で、米国株は月間では4年ぶりの上昇率になりました。この間、多くのFOMCメンバーが年内利上げ支持の発言を繰り返していたにも関わらずです。

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妄想する市場に危惧し、イエレン議長が重い口を開く

しかし、10月27日、28日のFOMCで年内利上げがメンバー内のコンセンサスという声明が出たことで、徐々に楽観の基調に変化が出てきました。これはFOMCの真意を読まず、勝手に妄想をする市場に危機感を覚え、より明確な言葉で警鐘を鳴らしたというのが真相でしょう。

比較的ハト派とされるロックハート総裁が「12月利上げはありえると市場に認識させるのを意図した声明だったので、その意味で声明は成功した」と述べています。

それでもマーケットはまだ半数程度が3月以降の利上げを見ていました。その理由は、イエレンFRB議長が明確な意見を表明していなかったからです。サービス精神旺盛で、ときに口からでまかせ的な軽はずみなことも言うドラギECB総裁と比べ、イエレンFRB議長は慎重すぎます。

結果、利上げ時期をはぐらかしてきたのですが、妄想派が主流の今は、そこに付け込まれ「年内利上げと明確に言っていないので、年内利上げはない」という屁理屈の根拠になっていたのです。しかし、そのイエレンFRB議長も先週下院金融委員会での証言で、やや明確に年内利上げについて言及したのです。

イエレンFRB議長の「二段論法」

イエレンFRB議長は回りくどい表現で述べていますが、これは二段論法になっています。

  1. インフレが時間とともに加速するという確信が今後の経済指標で変わらなければ、12月利上げになる
  2. なお、今の時点では経済は順調

ということなので、今の時点では12月利上げになるということを暗に言ったのです。これで、さすがの楽観マーケットも年内利上げに傾き、米国債は急落しドル高が一気に進みました。

では、年内利上げの確信が揺らぐほどの悪い指標はどの程度のものかということですが、少なくとも10月初旬発表の弱い雇用統計程度ではないということです。もし、弱い雇用統計を少しでも気にしているのでしたら、今の経済は順調だなんて言うはずがないからです。

つまり、今回の証言でイエレンFRB議長は、10月初旬から世界的に続いている「米国の利上げ後退を囃したリスクオンマーケットは勘違いですよ」と言ったに等しいのです。

金融当局が考える以上に過剰流動性相場に賭けている市場

そして止めを刺したのが金曜発表の雇用統計です。ここではエバンズ、ブラード総裁ともに12月利上げが適切と言ったことを記します。ブラード総裁は、昨年10月の量的緩和終了直前に「新しい量的緩和を始めるべきだ」といったくらいの人物なので、決してタカ派ではありません。

そもそも、FOMCでの投票は多数決なので、イエレンFRB議長もブラード総裁もみな1票ですが、エバンズ、ブラード両総裁は少数派ではないオピニオンリーダー的な存在なので、彼らがこのようなコメントを出すということは、今回の雇用統計で限りなく100%に近い可能性で12月利上げになるだろうと考えていいです。

結果、マーケットの12月利上げ見通しは跳ね上がりましたが依然として74%です。

注目すべきは、雇用統計前の12月利上げ確率の低さです。FOMC声明やあれだけ大勢の要人が年内利上げを支持した発言をしていたのにそれを54%しか信じていなかったのです。ということは、マーケットの半数はFOMCが考える以上に過剰流動性相場サイドにベットし過ぎていると言い換えることができます。

これこそが、私がかねがね言っている「妄想によるアヤ(フェイク相場)」なのです。

年内利上げは揺るがず。延期は「世界的な危機」が発生した場合のみ

正直、ここまで妄想が続くと思いませんでしたが、それはFOMCメンバーも同様でしょう。彼らの立場で言えることを何度も何度も誠実に言っているのに、市場がまったく聞く耳を持ってくれていなかったのです。

今回の雇用統計で、12月利上げはダメ押しになりましたので、今週はまだ年明け以降の利上げを妄信している74%以外の連中が「利上げが思ったよりも早まりそうだ。これはタカ派的な状況で宜しくない」と考えポジションを修正させていく週になるでしょう。

従って、今週もイエレンFRB議長を始めとするFOMC要人の「先週発表の雇用統計で、12月利上げが如何に決定的になったか」を左右する発言が重要になるでしょう。既に年明け利上げ派は少数派になったのですから、12月利上げを支持する要人発言が出るたびに雪崩を打ったように12月利上げの確率は高まるでしょう。

なお、私の利上げ時期と幅も引き上げています。

12月FOMC (可能性80%→95%)
1月利上げ (可能性3%)
3月FOMC以降 (2%)

12月FOMCまでに、FOMCメンバーが重要視する経済指標は、12月初旬発表の雇用統計しかありませんが、10月初旬発表の弱い雇用統計をまったく気にした形跡がない以上、国内経済指標が多少悪くても年内利上げは確実でしょう。

単に株式市場が下がるだけでなく、中国株が暴落するとか比較的大きな新興国がデフォルトになるなど、「不安」ではなく「世界的な危機」にならない限り利上げは行われると思われます。

【関連】米雇用統計インチキ疑惑。27.1万人増はどこまで信用できるか?

元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2015年11月9日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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