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韓国・徴用工問題、日本は国際裁判で敗北する?必ずしも日本有利と言えないワケ=世に倦む日日

マスコミ報道を見るかぎり、日本側は国際司法裁判所の提訴について自信満々で、必ず勝利判決を得ると確信しているようだ。果たして、本当に日本側の勝訴は確実なのだろうか。(『世に倦む日日』)

※本記事は有料メルマガ『世に倦む日日』2019年1月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

国連機関に持ち込まれると日本は分が悪い?世論は自信満々だが…

過熱する嫌韓報道

先週のテレビの報道番組は、ずっと日韓問題を取り上げ、途切れることなく文在寅叩きのプロパガンダを続けていた。

20日はTBSサンデーモーニングが「風をよむ」で日韓問題を取り上げたが、映像に登場した共同通信の太田昌克氏やコメンテーターで出演した涌井雅之氏が、韓国と文在寅を悪辣に叩いて視聴者の韓国憎悪を煽る場面があり、見ながら不愉快な気分にさせられた。

この問題では、一般的にはリベラルと見られている者たちが右翼と同じ口調で揃っていて、右も左もなく韓国叩きに狂奔しているのが特徴だ。

マスコミでも、ネットでも、村山談話のキーワードを持ち出して反骨の論陣を張る者が一人もいない。文在寅大統領の日本政府批判に対して、それを内在的に拾い上げて積極的な意味を見出す者がいない。歴史認識での日本側の右翼化に反省を促し、啓蒙し、そこから安倍批判の説得力に繋げる者がいない。

在日学者の姜尚中氏は、徴用工問題がどのような歴史問題かをよく知っているくせに、それを正面から説明せず、韓国は反日ではなく嫌中だなどと話を逸らし、どうでもいいコメントを垂れて卑劣に逃げていた。マスコミで商売してギャラを稼ぐことの方が大事なのだろう。

日本は国際司法裁判所に訴える構え

23日にダボスで日韓外相会談が行われる(編注:原稿執筆時点2019年1月22日)。河野太郎氏は、「元徴用工問題で生じた日韓請求権協定違反状態の早期是正を康(京和)氏に促す」と言い、協定に基づく政府間協議を受け入れるよう韓国政府に要求すると息巻いている。

つまり、これは例の「30日以内」の回答要求を念押しするということで、国際司法裁判所に提訴することを前提にした上での、その形式的な既成事実を積み固める外交だろう。ダボスでどういう応酬があるか、修羅場があるか不明だが、双方が妥協して歩み寄る図は考えにくい(編注:河野外相は23日、日韓外相会談で早期に二国間協議に応じるよう要請するも、韓国の康京和外相は従来の立場を述べるにとどめ、進展なしという結果に終わっています)。

韓国と揉めれば内閣支持率が上がる

今回の日韓問題では、とにかく安倍晋三の側は、韓国と悶着を起こして騒ぎを拡大すればするほどよく、問題を紛糾させればさせるほどマスコミが韓国を叩いてくれ、韓国と喧嘩する安倍晋三を支持する世論を国内に醸成してくれる。

サンデーモーニングが韓国を悪者にして攻撃し、反射の効果で安倍晋三を善玉に仕上げてくれる。国会を控え、選挙を控えて、これ以上格好の支持率維持装置はない。

時事通信の18日の世論調査で、内閣支持率が前回より4.6ポイント増の43.5%となったが、韓国との問題が影響していることは間違いなく、安倍晋三の支持率上昇に寄与している。

Next: 本当に国際裁判で勝てるのか?マスコミの論調は自信満々だが…



本当に国際裁判で勝てるのか?

マスコミ報道を見るかぎり、日本側は国際司法裁判所の提訴について自信満々で、必ず勝利判決を得ると確信しているようだ。それを断定した報道ばかりで、負けるかもしれないという予想には一度も接したことがない。

韓国側が、国際司法裁判所での訴訟に躊躇する姿勢を見せ、日本側が前のめりである事情は確かで、そこから進行を窺うと日本側が有利なのかなという印象を抱く。

果たして、本当に日本側の勝訴は確実なのだろうか

佐藤優氏は、昨年11月の週刊ポストの記事で、「要は無理筋な話をしているんです。だから、日本がこの話をICJ(国際司法裁判所)に持っていけば、100%勝ちます」と断言している。

一方、木村幹氏は、昨年12月のニューズウィーク誌上で、「ICJ提訴は必ずしも有利にならない」という見方を示している。その判断の中身は、今回の徴用工の請求を認めた大法院判決の法的論理が、日韓請求権協定の枠内での権利侵害(賃金不払い)を認めるものではなく、その外側の日本の植民地支配の下での人権侵害を捉えたもので、その不法行為に対する賠償責任を認めたものだからという点にある。そこが争点になり、こうした枠組みで問題を審理されると、日本側に不利だと言っている。

日本側に必ずしも有利ではない…

私は、木村幹氏とは別の観点と理由から、日本側に必ずしも有利ではないという観測をする。

まず、裁くのは誰かという問題だ。

答えは、国際司法裁判所である。国際司法裁判所というのは、言うまでもなく国連機関の1つである。15人の元外交官が判事団を務めている。

国連機関である国際司法裁判所の判事たちは、この徴用工をめぐる日韓の紛争を持ち込まれたとき、第三者の立場から、どのように案件の審理を進めるだろうか。

そのとき、同じ国連機関であるILO(国際労働機関)国連人権理事会(国連人権委員会)のかつての作業や報告が無視されるとは考えにくい。

実際、この問題については過去からILOに提起がされ、1998年から何度も報告書が出され、日本政府に対して勧告が出されている。

09年のILOの勧告では、「年老いた強制労働者が訴えている請求に応える措置をとることを(日本政府に)望む」とある。国連人権理事会も、徴用工問題について日本政府の対応は不十分だという判断を示していると、昨年12月の赤旗の記事にある。

国連機関は、基本的に徴用工問題と慰安婦問題をセットに捉えていて、日韓の戦後処理をめぐる紛争案件として1つの問題だという認識にある。

そして、同じ戦時人権侵害の問題だという理解でいる。

Next: 過去、国連機関に持ち込まれると日本は分が悪い?



過去、国連機関に持ち込まれると日本は分が悪い?

木村幹氏が言っているように、国連機関に持ち込まれた日韓の歴史紛争では、日本に分が悪く、日本側の評判が非常に悪い

年を追う毎に日本側の主張の反動性が露わになり、孤立化し、世界から異端視されている現状にある。反動性とは、戦後の国連体制の秩序的基礎を認めない極右のイデオロギー性と言い換えてもよく、また、反ジェンダー・反人権の性格が際立ったところの、国際社会における非常識性と言ってもいいだろう。

これら、ILO、国連人権理事会をめぐる過去の調査と審理と報告が、ICJが問題を裁くにあたっての所与である。

いわば「下級審の判決」で、関係する国連機関の多くの委員や職員が、日韓の歴史問題について検討し、論点整理し、公平な立場で勧告を出してきた。これらが有意味な知見として参考にされるだろう。

徴用工問題を持ち込まれたICJ判事団は、日本が正しいか、韓国が正しいか、どちらかに軍配を上げなくてはいけないが、判事たちにとって、それは荷が重い面倒な任務で、判事を出した国が日韓どちらかから恨まれることになる。

だから、一番いいのは、両国でよく話し合って和解に歩み寄れという結論で、ILOもその線でマイルドな勧告を出してきた。

すなわち、客観的状況としては、必ずしも日本側勝訴が確約されているわけではない

注目すべき1998年「ILO報告書」の一節

私が注目するのは、1998年のILOの報告書の中の次の一節である。こう書いている。

「これらの所見に応えて、日本政府は、その報告において、日本政府が植民地支配を通じてもたらした損害と苦難について、韓国政府に繰り返し遺憾の意を表明してきたと述べている」。これとは、1995年の村山談話を指すだろう。

ILOの報告書をサーベイし、ICJの判事たちは村山談話の存在を知るはずだ。そして、1995年の日本政府の宣言と現在の日本政府の主張の乖離に気づくはずだ。

そこに、「現在取り組んでいる戦後処理問題についても(略)ひき続き誠実に対応してまいります」の文言があることを見つけるだろう。さらに、2002年の日朝平壌宣言の文面も見るだろう。

Next: 国際司法裁判所の判事たちは「村山談話」に着目する。文在寅は計算済みか…?



国際司法裁判所の判事たちは「村山談話」に着目する

1995年の村山談話が新しい外交指針として打ち出され、1965年の日韓基本条約と日韓請求権協定を相対化している外交事実を知るだろう。

1965年の日韓基本条約と日韓請求権協定は絶対的なものではない。だからこそ、慰安婦問題については、アジア平和国民基金ができたし、日本政府からの見舞金が出るという展開になった。

河野談話(93年)と村山談話(95年)の外交が出発点となっている。ICJの判事たちは、この紛争の法的処理にあたって村山談話の意義に着目するだろう。

文在寅の年頭会見での大胆な発言は、ICJでの勝利を計算した上での自信を持ったものだったのかもしれない。

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世に倦む日日』(2019年1月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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