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統計不正発覚後も「戦後最長の景気拡大」と胸を張る安倍政権、実感できない国民を完全無視へ=斎藤満

政府が今年1月で「戦後最長の景気拡大」になったと胸を張る一方、NHKの世論調査では「実感がない」とする人が66%に達しました。真実はどちらでしょうか。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年2月15日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

真実はどっち?世論調査では景気拡大の「実感がない」が66%に

戦後最長の景気拡大

政府は今年1月で景気拡大が73か月となり、これまで最長としてきた「いざなみ景気」を超え、戦後最長の景気拡大だと胸を張りました(※編注:政府は1月29日、1月の月例経済報告を発表し、国内の景気判断を「緩やかに回復している」と昨年12月と同様の表現を用いて据え置いた。これにより、景気拡大の期間が戦後最長の6年2カ月になった可能性があるとしています)。

その一方で、NHKが2月12日に報じた世論調査の結果によると、景気回復を実感する人が8%に留まる一方、「実感がない」とする人が66%に達しました。

麻生副総理は昨年、景気回復の実感がない人は「よほど運のない人だ」と言い、実感を持てない人がおかしいとでも言いたいような表現をしました。

しかし、NHK以外の調査でも、これまで行われた調査では、JNNも日本経済新聞も、ネットの調査でも、「実感がない」とする人は7割から8割以上との結果となっていて、NHKの数字以上に「運のない人」だらけ、という結果になっています。

戦後最長の景気拡大と言っても、それを実感するのは、企業経営者や一部の投資家、政権に近い一握りの人々に限られ、大多数の人は「戦後最長の景気拡大など、どこの国の話か」と受け止めているのが実情です。

通り一遍の総理説明

安倍総理は今月10日の自民党大会で「悪夢のような民主党政権」と発言し、12日の国会で岡田元民主党副総理から撤回を求められましたが、撤回を拒否したうえに、民主党政権時代は職にありつけず、政策が間違いであったと批判しました。

また、それに対してアベノミクスでは総所得や雇用が大きく拡大したとして、いつものように雇用賃金の拡大をアピールしました。

しかし、安倍総理が強調する「総所得が増えている」という点については、その基礎統計である厚生労働省の「毎月勤労統計」がルールを守らず、データの信頼性がないことを政府も認めたようなもので、多くの期間、実質賃金がマイナスであったことも総理は認めています。

それでも頭数が増えた分、総所得は増えている、と言っています。

しかし、現実を見ると世帯主の実質賃金、実質可処分所得が減って、家族を養えなくなったために、家族が働きに出ざるを得なくなった面も否定できません。

配偶者やその他家族の共働きのおかげで生活が成り立っている状況を、「総所得が増えている」と胸を張れるのでしょうか。それも、配偶者や老人は非正規雇用が多く、その給与は正社員の半分以下となっています。

Next: 「安倍政権の説明」と「国民の実感」の溝は埋まらない。真実はいつもひとつ…



データが裏付ける実感のなさ

安倍政権の説明と国民の実感との大きな乖離は、どう説明したらよいのでしょうか。

これに対して、最も基本的なデータが答えてくれています。それがGDP(国内総生産)の数字です。先日、昨年10-12月期のデータが公表されたので、少し数字にお付き合いください。

いざなみ景気」は2002年1月を底に、2008年1月まで続きました。この間の実質GDPは6年間で10.1%拡大し、このうち家計消費も5.7%拡大しています。

これに対して今回の「戦後最長景気」は、この間の実質GDPが6.9%成長にとどまり、「いざなみ」の3分の2しかないばかりか、実質家計消費は6年で1.6%しか増えていません。これが「回復の実感がない」正体です。

安倍政権下での戦後最長の景気と言っても、実際は14年春の消費税引き上げ前までの1年ちょっとの間だけで、14年春以降は長い間低迷が続いています。

実際、内閣府の景気動向指数の「一致CI」は2014年初めの水準をいまだに超えられていません。そもそも消費税を引き上げた14年4月から1年半以上にわたって、日本の景気は「後退」局面にあった可能性があります。

民主党時代は悪夢だったのか?

また安倍総理が「悪夢のような民主党政権」と言いましたが、民主党政権下ではリーマン危機の影響を引きずったほか、東日本大震災が発生したため、民主党政権の3年余りで実質GDPは0.1%のマイナスとなりましたが、その中でも実質家計消費は2.8%増と、安倍総理の6年間よりもむしろ大きく拡大し、家計の生活は改善しています。

つまり国民にとっては、わずか3年間の民主党政権時の「回復」が6年にも及ぶアベノミクス景気を凌駕しています。

国民生活の視点から見れば、今回の「戦後最長の景気拡大」は悪夢のような民主党政権下の成果をも下回る「戦後最悪の景気拡大」ということになり、安倍総理流に言えば「悪夢のようなアベノミクス」ということになります。

失業者数は実態よりも少なく見えている?

裏を返せば、安倍総理が自慢する雇用賃金の拡大、というのは「信頼のおけないデータ」によるもので、GDPや家計消費の実績から見ると、これら雇用、賃金統計が実態と乖離した「忖度データ」であった可能性が高いことになります。

雇用関連の統計、つまり有効求人倍率などを掲載する厚生労働省の「一般職業紹介」と、雇用、失業率を示す総務省の「労働力調査」を疑ってみる必要があります。

これらの統計の問題点はすでにご紹介しましたが、失業保険をもらえない65歳以上の失業者が増えているため、失業保険申請の場てあるハローワークに申請に行く人が少なくなり、その分「有効求職者」が実態よりかなり少なくなり、分母が小さい分有効求人倍率が高くなり、さらに都道府県が個別に調査しているはずの労働力調査が、都道府県のハローワークデータに多くを依存する分、失業者が過小表示されている可能性があります。

Next: 忖度データで「戦後最長の好景気」と言われても…



忖度データで「戦後最長の好景気」と言われても…

景気回復の実感のなさは、麻生大臣の発言に反して、これが実態のようです。

「忖度データ」を無批判に利用して成果を脚色する政府には分がありません。同様に、これもご紹介しましたが、物価についても統計が示す以上に消費者は物価上昇を「実感」しています。

【関連】政府の統計以上に物価は上がっている~実質値上げラッシュで国民はますます貧乏に=斎藤満

総務省は労働力調査とともに、消費者物価統計についても、調査方法をしっかりチェックする必要があります。

金融機関の経営、株価を大きく圧迫する日銀の無謀な異次元緩和の継続は、この消費者物価統計の「低さ」がもとになって行われています。

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2019年2月配信分
  • 実感のない「戦後最長の景気拡大」再確認(2/15)
  • 株式市場に逆風も(2/13)
  • 問われる国民のチェック能力(2/8)
  • 行き過ぎた米金利低下期待(2/6)
  • 米中通商交渉の行方と波紋(2/4)
  • 物価は統計以上に上がっている(2/1)

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【関連】消費増税、3月までに中止発表か。統計不正を払拭する「ダブル選挙」解散の大義に使われる=斎藤満

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2019年1月配信分
  • 為替を左右する中銀と市場のギャップ(1/30)
  • 超多忙なトランプ日程は日本に吉か凶か(1/28)
  • 物価目標への拘りは有害無益(1/25)
  • 改めて中国リスクへの対処が求められる(1/23)
  • 日本を敵に回した韓国の勝算は(1/21)
  • FRBの真の支配者は(1/18)
  • 戦後最長、戦後最弱の景気拡大(1/16)
  • 今年は短期円安長期円高か(1/11)
  • 身動きがとれなくなった日銀(1/9)
  • 新年日本の課題(2)(1/7)
  • 新年日本の課題(1)(1/4)

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2018年12月配信分
  • 政治リスクの強い新年の日本経済(12/28)
  • 新年の「トランプリスク」をどう読むか(12/26)
  • 苦境に立たされたFRB(12/21)
  • 不気味な「理由なき株下げ」(12/19)
  • セキュリティ対策が先(12/17)
  • 米中通商交渉を巡る複雑な事情(12/14)
  • いつまで続く不安相場(12/12)
  • トランプ対反トランプの国際紛争激化(12/10)
  • 米金利にダブル・リスク(12/7)
  • 米中新冷戦は長期化する(12/5)
  • 消費税対策は徒労に終わる?(12/3)

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2018年11月配信分
・金利差円安の終焉(11/30)
・日産を舞台にした米仏代理戦争(11/28)
・原油価格下落の功罪(11/26)
・成熟した債権国入りはまだ早い(11/21)
・人手不足、低賃金の原因は生産性にあり(11/19)
・大博打の日ロ平和条約交渉(11/16)
・何でもありの消費税対策に混乱も(11/14)
・米国株に2つの逆風(11/12)
・国内景気に変調のシグナル(11/9)
・為替条項と副作用で日銀は出口策前倒し(11/7)
・一旦始めると止められない刺激策の麻薬性(11/5)
・強気通しを下振れリスクでヘッジする日銀の狙い(11/2)
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2018年10月配信分
・米中険悪化の中での安倍外交を危惧(10/31)
・米中間選挙が株の重しに(10/29)
・株価下落にトランプの負の側面(10/26)
・ドル円短期変動の主役は金利からリスクへ(10/24)
・債務依存の景気拡大も曲がり角(10/22)
・輸出が景気の足かせに(10/19)
・歯車が狂い始めた安倍政権(10/17)
・FRBはクレイジー発言でFRBはどうする(10/15)
・対中国戦略も米株に負担(10/12)
・新しい局面に入った米国の金利上昇(10/10)
・日本の景気を脅かす「内憂外患」(10/5)
・日米通商交渉、表の顔と裏の顔(10/3)
・日銀金融緩和の虚と実(10/1)
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2018年9月配信分
・人件費抑制がもたらす経済のゆがみ(9/28)
・3選果たした安倍総理に大きな試練(9/26)
・注目度が高まったFOMCでの「ドット・チャート」(9/21)
・日ソ共同宣言と日米安保(9/19)
・自民党総裁選前に風雲急(9/14)
・何かおかしな日ロ首脳会談(9/12)
・追い詰められた日銀の本音と建て前(9/10)
・安倍・トランプ連合の危機(9/7)
・強まる労働分配率への関心(9/5)
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2018年8月配信分
・米地区連銀が景気後退の可能性を示唆(8/31)
・異常気象が財政規律を破壊する(8/29)
・サウジIPO中止に見るパワーポリティクス(8/24)
・透けて見えるトランプの中国戦略の本音(8/22)
・貿易を救えない日米蜜月(8/17)
・FRBの利上げが新興国通貨不安に(8/15)
・好調米国株の死角(8/13)
・日本経済、単発エンジンの限界(8/10)
・日本の消費を圧迫する恒常所得仮説の重し(8/8)
・円安期待ははげ落ちるリスク大(8/6)
・中央銀行を揺さぶる新しい勢力(8/3)
・物価目標未達でも日銀は政策修正(8/1)
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2018年7月配信分
・物価下振れ下の日銀政策微修正とは(7/30)
・中国経済の実態は苦しい?(7/27)
・「トランプ」プラス「日銀」は円高(7/25)
・トランプの金利高、ドル高けん制発言が示唆するもの(7/23)
・トランプ外交の見えない部分(7/20)
・中国カードにもなるFRBの利上げ(7/18)
・見えてきた価格戦略の勝敗(7/13)
・列島豪雨、多くの死を無駄にしないために(7/11)
・トランプ「米国第一」の功罪(7/9)
・日銀の物価見直しとリスク(7/6)
・トランプの影響、相場にもくっきり(7/4)
・原油高に見る各国の思惑(7/2)
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2018年6月配信分
・所得分配をゆがめる日銀の金利調節(6/29)
・ドル高、終わりの始まり?(6/27)
・貿易戦争に隠されたトランプの狙い(6/25)
・景気の陰りが広がった(6/22)
・なぜ日本で消費者物価が上がらないのか(6/20)
・無視できない米イールドカーブのフラット化(6/18)
・綱渡りのパウエルFRB(6/15)
・歴史的米朝会談と日本の困惑(6/13)
・日銀は物価見通しの引き下げ準備(6/11)
・日銀は密かに金利高め誘導か(6/8)
・個人消費の弱さは重症(6/6)
・FOMC前後の為替の動きに要注意(6/4)
・日銀に追い打ちをかけた弱い鉱工業生産(6/1)
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2018年5月配信分
・収まらない米中貿易戦争(5/30)
・FRBが直面するジレンマ(5/28)
・市場から見た米朝会談破談リスク(5/25)
・景気の減速は本当に一時的か(5/23)
・「ミニ石油ショック」でも油断は禁物(5/21)
・米朝会談までは新興国不安回避要請?(5/18)
・インフレ目標事実上のギブアップ(5/16)
・米長期金利はすでに上昇トレンドに(5/14)
・新興国にイラン不安の追い打ち(5/11)
・トランプ貿易戦争のインフレ性(5/9)
・FRBの姿勢変化に注目(5/7)
・トランプ大統領ノーベル賞を意識(5/2)
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2018年4月配信分
・窮地の安倍政権、解散か総辞職か(4/27)
・物価目標2019年度も黄色信号(4/25)
・米長期金利再上昇の重み(4/23)
・日米首脳会談も安倍延命にはならず(4/20)
・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)
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2018年3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)
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2018年2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)
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2018年1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)
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マンさんの経済あらかると』(2019年2月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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