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2期連続マイナス成長が意味するもの~現政権の景気判断は“政治色”強く=山崎和邦

旧経済企画庁が内閣府に統合されて以来、政府の景気判断は不明瞭になっている――今回は特別編として、2四半期連続でマイナスとなった実質GDP(速報値)に関する山崎氏の見解、および読者との交信をご紹介します。

山崎和邦 週報『投機の流儀』vol.181 2015/11/21号より、マネーボイス編集部にて再構成

旧経企庁の内閣府統合以来、不明瞭になった景気判断

16日発表のGDP市場予測は年率マイナス0.2%、実際は年率マイナス0.8%で、予想を超える悪さだった。2四半期連続マイナスとなった。

旧経済企画庁では、2期連続してGDPがマイナスになると「景気後退に入った」とすることになっていた。

そうなると財政投融資で景気テコ入れ案が出る故に、これは直ちに効くから株価的にはプラス材料となることも多かった。米雇用統計と利上げが裏腹であると同様、景気後退も同じで「もろ刃の剣」となる。株価は下がらなかった。

だが2期連続のマイナスでも日銀は動かないと思う。日銀の黒田バズーカは恐らくないだろう。

旧経企庁ならば「景気後退」と言うところを、いまの政府は月例報告で「国内景気は回復基調」という見方を変えてない。そうすると財政出動もない、ということになる。

「史上最大の株価連動政権」のはずの現内閣は、自ら景気判断を曖昧にすることで株価動向までも曖昧にしてしまう、という罠に陥った。

企業も先行きに自信がなく、賃上げを政府が望むとおりにはしない。よってGDPも6割を占める消費活動も振るわない、そこで黒田さん畢生(ひっせい)の「2%目標」も進まない。

現政府は景気判断を自ら曖昧にした故に自ら罠に嵌った形になった。旧経企庁が内閣府に統合されるまでは実に明快だった。

景気循環の過程を、
」(株は「大底」)→「回復」(株は「上げ相場への移行」)→「拡大」(株は「活況相場」)→「」(株は「大天井」)→「後退」(株は「下降相場へ移行」)→「収縮」(株は「下落相場」)→「」……
と言うと決めていた。これが標準語になっていた。

これみな、客観的な景気指標の加工統計から生まれた景気動向指数で客観的に発表した。選挙も支持率も関係なく経企庁は独立した「官庁の中の官庁」の地位だった。

だから、景気の見方と発表の仕方が鮮明だった。株価は景気循環の都度、それに先行した。各循環にリードタイムの差こそあれ、必ず株価が先行した。

Next: GDP2期連続マイナスは、海外から見れば客観的に「景気後退」である


山崎和邦(やまざきかずくに)


1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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GDP2期連続マイナスは、海外から見れば客観的に景気後退である

内閣府発表で四半期別GDPが2期連続マイナスとなった。GDP実質年率では0.8%減になった。これは海外からは自動的に「景気後退」と見なされる。

日本でも経企庁が独立官庁の時はそうだったが、内閣府のなかに吸収されてからウヤムヤになってしまった。「総合的に判断する」としている。

企業は過去最高の利益額(率も)にも拘らず設備投資を抑制した。設備投資はGDP構成の4要素の中で消費の60%に次ぐ20%を占める重要要素だ。これが前期比1.3%減となった。中国景気の不透明感が夏場から高まり、それが設備投資計画を先送りさせている。

このことがGDP2期連続マイナス(昔なら機械的に「景気後退」と経企庁が宣言した)の主因だったと思う。企業は今年度は高水準の設備投資を計画していたが、実際には動かなかった。

旧経企庁は戦後に経済安定本部(あんぽん)として誕生し、GHQと同等くらいの権威を持ち、且つ、天下の当代一級のエコノミストが集結する官庁の中の官庁であった。そこから経済企画庁が生まれた。

経企庁が毎夏に出す「経済白書」は官庁エコノミスト畢生の力作で毎夏の経済書のベストセラーだったし、そこから経済用語や新語が生まれたものだった。

都留重人氏監修のものは「国も赤字、企業も赤字、家計も赤字」のフレーズが有名になった。

その後1956年(昭和31年)7月に発表された経済白書は調査課長であったエコノミスト後藤誉之助氏の監修で、副題が「日本経済の成長と近代化」。その結語には、太平洋戦争
後の日本の復興が終了したことを指して「もはや『戦後』ではない」と記述され流行語にもなった。

また、60年代後半には「踊り場景気」「景気の陰り」という新語が「白書」から生まれて流行った。現にそれは57ヶ月続いた史上最長の「いざなぎ景気」の途上の「踊り場」であった。

景気循環のそれぞれで、神武天皇以来の好景気だから「神武景気」とか、それを抜いて神話の天岩戸以来だから「岩戸景気」といった名称をつけた。

それを超え史上最長になった景気拡大局面では、神話の時代を遡って「イザナギノミコト」以来だから「いざなぎ景気」(57ヶ月)などと愛称をつけ、戦後十数回の景気循環の新鮮さを都度々々演出した。これみな経済企画庁の業だった。

ところで「10-12月期は1.1%増」と民間の10社の民間エコノミスト18人の予測が出ている。日本経済新聞がまとめているものを要約すると10社の中で最高はSMBC日興の+2.1%、野村+1.7%、三菱+1.7%、一番下がバークレイズ証券+0.6%という具合である。平均すると+1.1%で小幅ながらプラス成長となる。

Next: 悪いことが言えない内閣府?ゼミの友人との「政府の景気判断」に関する交信


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ゼミの友人との「政府の景気判断」に関する交信

ゼミの友人N氏からのメール(抄)

最近の政府景気判断は三菱総研のアナリストレポートで指摘されているように、「政治的」な色づけを強く感じます。昔、経企庁が独立部門であったときは、それなりの客観的な判断が出されていたと思いますが、内閣府に統合されて以来、特に最近は、悪いことが言えないようです。何時も「緩やかな回復」です。とうとう2年連続でマイナス成長となりそうです。

アベノミクスのインフレ期待で全て上手く行くことはありません。物価が上がれば、消費が減少するのは当然でしょう。実質金利が低下しても設備投資が増えることはないし、実際もありませんでした。

「前向き志向」は企業の精神を述べたもので、その点は確かだが、政府が企業のことに関与し過ぎますね。国民や企業は「国の目標」例えば600兆に協力せよ、という妙な雰囲気を感じますが、いかがでしょう。

筆者よりN氏への返信

同感です、特にこの部分!

昔、経企庁が独立部門であったときは、それなりの客観的な判断が出されていたと思いますが、内閣府に統合されて以来、特に最近は、悪いことが言えないようです。

13~14年前までは、経企庁は景気指数のみで政治色皆無で客観的に結論しました。また「4半期別のGDP統計が2期連続マイナスだったら景気後退に入ったことにする」と言っていました。

選挙があろうが無かろうが無関係でしたね。

戦後、経企庁はずうっと、当代一級のエコノミストが集結し、官僚たちの頭脳のその上に居た感じでした。都留重人とか後藤譽之助ら、一世のエコノミストが集結した毎夏の「経済白書」は、官庁エコノミストの畢生の名著で、毎年夏のベストセラーだったが、今は話題にもならない。私自身も10年以上前から白書を読むことを止め、経済誌の要約版でコト足れりとしています。

つまらなくなったからです。昔は「白書」が流行語を生んだりもしましたね。また、流石と思える点もありました。

例えば1989年の白書は平成バブルの9合目に出たが、「土地と株価にバブルの感じがある」と、当時誰も使わなかった「バブル」という言葉を使って軽くであっても警告していました。これはさすがだったと私は言ったり書いたりしました。

今は見る影もありません。尤も「現物を読まずにそう言うのは如何なものか」ですがね。経企庁が内閣府になって竹中氏の担当になった頃からアヤシくなってきました。

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