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東京を攻めるウエルシアと、窮地に立つマツキヨ。次にドラッグストア覇権を握るのは?=佐藤昌司

2016年度、それまで22年もの間守り抜いてきたドラッグストア業界売上ナンバーワンの座をウエルシアHDに明け渡して以来、業績が低迷するマツモトキヨシHDですが、ウエルシアの容赦のない攻勢は続くようです。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、マツキヨの領域に侵攻を開始したウエルシアの動きを紹介するとともに、激しさを増す業界の覇権争いを分析しています。

競争が激しいドラッグストア業界。大手による寡占化は今後も進む

業界首位ウエルシアが4位マツキヨの領域に侵攻。マツキヨ、5位転落の危機

ドラッグストア首位のウエルシアホールディングス(HD)が4位のマツモトキヨシホールディングスとの対決色を強めている。これまで両社は出店地域や品ぞろえの重点の違いなどで競合度はそれほど高くはなかったが、近年、ウエルシアHDがマツキヨHDの領域に踏み込むことが多くなっており、両社の競合度は日に日に高まっている

ウエルシアHDは昨年12月17日、子会社のウエルシア薬局と一本堂を3月に合併すると発表した。ウエルシア薬局を存続会社、一本堂を消滅会社とする吸収合併を実施する。統合後に一本堂全店の看板をウエルシアに変更する。一本堂は東京都内を中心に調剤併設型店を含むドラッグストア約40店を運営しており、昨年3月にウエルシアHDが完全子会社化していた。

ウエルシアHDでは中核の「ウエルシア薬局が国内店舗数で9割を占める。関東を地盤とし全国に1,700店近くを展開するが、一本堂が地盤とする東京都内には約170店しか展開していない。その170店も多くが郊外店だ。一方、一本堂は東京都内でも都市部の駅チカ立地が多い。両者はこういった立地戦略の違いから商圏の重複が少なく、M&A(合併・買収)において自社競合を避けられるとの判断があったようだ。ウエルシアHDは一本堂を取り込んだことで、東京の都市部の店舗網拡大に弾みをつけたい考えだ。

ウエルシアHDが勢力拡大を目論む東京は「マツモトキヨシ」が権勢を誇る。マツキヨはウエルシア薬局と同じく関東を地盤としている。その中でも本社がある千葉県と首都の東京都に多く店舗を構え、東京では都市部の駅チカ立地の店舗が少なくない。そのため、これまでは東京郊外中心のウエルシア薬局とはそれほど競合度は高くはなかった。だが、ウエルシアHDが東京都市部の出店に力を入れていくとなると両者の競合度は高まっていくことになる。今後、両者は激しい競争を繰り広げることになりそうだ。

ウエルシアHDとマツキヨHDはこれまで立地の違いで一部では住み分けができており、競合度はそれほど高くはなかったが、その一方で品ぞろえの重点が違うことも競合度が高まらない要因になっていた。

Next: 化粧品の充実度に大きな違いが



マツキヨ、業界5位転落の懸念

両社は化粧品の充実度において違いがある。マツキヨHDは化粧品が強く、販売割合は40%(2018年3月期)にも上る。一方、ウエルシアHDは18%(18年2月期)にとどまる。ウエルシアHDは一般的なドラッグストア像に近いが、マツキヨHDはどちらかというと化粧品販売店の色が濃い。こういった違いで住み分けができていた側面もある。ただ、今後はそういった住み分けがなくなっていき、競合度が高まっていきそうだ。

ウエルシアHDはこのように化粧品がそれほど強くはなかったが、岡山県や関東、近畿で高級化粧品販売店34店を運営するマサヤを18年12月に子会社化しており、今後は化粧品が強化されていきそうだ。なお、一本堂も化粧品が強く、販売割合は28%(18年3~11月期)にもなる。このように化粧品が強い企業を買収するなどして化粧品を強化しマツキヨHDに対抗したい考えだ。

ウエルシアHDを迎え撃つマツキヨHDはどうか。最近の同社の業績は冴えない。業界で22年間にわたり売上高で1位を誇っていたが、16年度にウエルシアHDと「ツルハドラッグ」を展開するツルハHDに抜かれ、3位に転落した。17年度にはサンドラッグに抜かれ、4位に後退している。5位には成長著しいコスモス薬品がわずか約9億円差で迫っており、マツキヨHDのさらなる順位低下が懸念される。

なお、17年度の売上高は、首位のウエルシアHDが6,952億円、2位のツルハHDが6,732億円、3位のサンドラッグが5,642億円、4位のマツキヨHDが5,588億円、5位のコスモス薬品が5,579億円となっている。首位のウエルシアHDと2位のツルハHDが頭一つ抜き出た格好で、残りの3社は100億円以内の差で収まっており、3社は僅差で3位を争っている状況だ。トップ2と残りの3社との差はやや開きがあるものの、M&Aなどを駆使して一気に抜き去ることは可能で、まだまだ順位は流動的に入れ替わるだろう。

マツキヨHDは近年、M&Aよりも合理化を優先しており、ウエルシアHDなどのような急拡大路線とは一線を画している。一方で、従来のドラッグストアとは異なる都市型のドラッグストア「マツキヨラボ」を開発し、独自色を打ち出そうとしている。マツキヨラボは通常のドラッグストアの機能に加え、薬剤師や管理栄養士、ビューティースペシャリストといった専門スタッフが健康や美容についてサポートするのが特徴だ。15年9月から出店を始め、現在、首都圏を中心に15店を展開している。

Next: 業界覇権争いを制するのは?



激しさを増す一方の覇権争い

もっともこういった高付加価値型のドラッグストアを展開するのはマツキヨHDだけではない。ウエルシアHDは、オーガニックコスメやサロン用のヘアケア用品などが充実し、調剤薬局やネイル・エステのサービスも併設する都市型のドラッグストア「ビビオン」を16年6月から出店を始めている。現在、東京と京都の2店舗にとどまるが、化粧品強化路線に合わせてビビオンを拡大させる可能性が十分あるだろう。

ウエルシアHDとマツキヨHDの競争は今後激化しそうだが、競争を繰り広げるのはもちろんこの2社だけではない。両社が地盤とする関東はツルハHDとサンドラッグの地盤でもある。

ツルハHDは北海道旭川市で創業したこともあり、北海道で勢力を伸ばしてきた。現在は札幌市に本社を構える。北海道から南下するかたちで東北や関東などにも店舗網を広げ、東日本を中心に勢力を誇っている。同社は積極的なM&Aで店舗数を伸ばしてきており、昨年、国内のドラッグストア業界で初となる2,000店超えを達成した。中長期では24年5月期までに3,000店を出し、売上高1兆円を目指す。

サンドラッグは東京都世田谷区で創業し、関東を中心に勢力を拡大してきた。現在、東京都府中市に本社を構える。積極的な出店のほか、徹底したコスト管理で収益を伸ばしてきた。17年度の売上高販管費比率は18%台。26%のウエルシアHDや24%のマツキヨHD、22%台のツルハHDと比べて圧倒的に低いことがわかる。コスト競争力を武器に、ウエルシアHDなど競合との競争を制したい考えだ。

コスモス薬品は宮崎県延岡市で創業。九州を中心に勢力を拡大してきた。現在、福岡市に本社を構える。同社は食品販売の割合が大きいことで知られ、17年度は56.2%にも上る。食品を安値で販売して集客し、利益率の高い医薬品で利益を稼ぐ。販管費比率が低いのも強みで、サンドラッグ(18%台)をさらに下回る15%台だ。現在の出店地域は中部以西となっているが、関東などにも進出していくことを表明しており、今後ウエルシアHDなどとの競争激化も予想される。

大手各社は資金力を背景にM&Aを積極的に繰り広げており、大手による寡占化が今後ますます進むとみられる。競争は激しさを増しており、どの企業が覇権を握るのかに注目が集まる。

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店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』(2019年1月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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