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南鳥島に眠る大量のレアアースで日本は勝てるか?世界生産量8割を占める中国の焦り

中国が世界生産量の8割を占める「レアアース」は、いまや先進国各国の経済の要となっています。日本の南鳥島で発見された大量のレアアースは日本経済を救うでしょうか?(『らぽーる・マガジン』)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2019年4月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

武器は「脱レアアース」「都市鉱山」。さらに国内採掘も可能に?

レアアース市場は中国の牙城

レアアースとは、周期表3族に属する17元素である希土類元素(rare earth element)のこと。この言葉は科学用語になっています。

レアメタルという表現がありますが、これは日本でしか通用しないようで、希少な金属と訳され、一般的には、経済産業省が指定した31種類の産出量が少ない金属類を指すようです。レアアースの17種類は、このレアメタル31種類の中に含まれます。

レアアースの生産量は、中国が世界の8割を占めています。2位のオーストラリアが13%ほどですから、中国がダントツ1位ですね。埋蔵量で見ると、やはり中国がトップで世界の4割強と、半分近くを占めています。2位はブラジルで2割強となっています。

レアアースは高磁束・高保磁永久磁石の原材料として近代産業には欠かすことができない必須の金属です。例えばセリウムというレアアースは物を磨く研磨(けんま)剤、ネオジムやジスプロシウムは磁石を作るのに使われます。

1982年、価値がないと思われていたレアアースを使って日本のメーカーが高性能磁石を開発したことから、「ゴミから磁石を作った」と、レアアースが世界中で注目されるようになりました。

レアアースなしでは語れない

製品を造る過程において、液晶テレビはレアアースを使った研磨剤でガラスの基板を磨きますし、パソコンのハードディスクやエアコン、冷蔵庫の心臓部に当たるモーターにもレアアースは必要です。モーターと言えば、ハイブリッド車(HV)電気自動車(EV)にも使われています。携帯電話のマナーモードでぶるぶる震える振動モーターにも使われています。また、光ファイバーや医療用の画像診断装置、レーザー機器やレーダー装置にも使われています。

特に、電気自動車(EV)の世界的な推進の流れとレアアースの需要は注目されています。フランスとイギリスが2040年までにガソリン車の販売を禁止して電気自動車(EV)のみにすると発表したことを受けて、中国も近い将来、ガソリン車を禁止すると発表しました。中国の電気自動車(EV)の販売台数は2013年の1.7万台から2017年には77.7万台に伸びています。

今や世界の電気自動車(EV)メーカーのトップはBYDで、第2位が北京汽車と中国ブランドが並び、トップ10で見れば、第8位が栄威、第10位が知豆と、中国ブランドが4社ランクイン、世界生産の5割以上を占めています。

世界中が電気自動車(EV)シフトを指向しているわけですから、電気自動車(EV)に使われる電池とモーター用のレアアース磁石の今後の需要が飛躍的に伸びることは明らかです。

対外折衝の道具となるレアアース

中国は対外折衝の切り札として、このレアアース輸出を制限することをちらつかせることで、対外折衝を有利に進めようとしています。足下の米中貿易戦争においても、中国から米国へのレアアース輸出を制限する動きが見られます。

尖閣諸島沖での中国漁船と海上自衛隊衝突事故において、中国政府の報復ではないかと推測されている輸出停止措置となったことは記憶に新しいでしょう。2010年時点では、レアアースの輸入の90% を中国に頼っていましたから、日本にとってはまさに死活問題と言えます。

中国は2010年以前の2005年ぐらいから輸出規制を強めていたとも言われています。中国の思惑次第でレアアース供給を調整することで、世界の産業に多大な影響を及ぼす現状を何とかしなければならないと、各国では、中国依存体制の見直しが進められています。

Next: 日本に勝ち目はあるか?中国対策で進む「脱レアアース」と「都市鉱山の採掘」



レアアース代替戦略〜脱レアアース

レアアース供給を、中国に大きく依存している状況を何とか打破しようと、レアアースを極力使用しないようにする3R運動(Reduce Reuse Recycle)の技術的開発は進んでいます。

例えば、トヨタは電気自動車(EV)に使うネオジムやジスプロシウムの使用量を大幅に削減したモーター用磁石を開発しました。その代替材料として安価で資源量の豊富なランタンとセリウムを使う計画も発表しています。

ホンダは大同特殊鋼と共同で、レアアースの中でも主な産地が中国に限られる重希土類を全く使わないハイブリッド車(HV)用の駆動モーターを世界で初めて開発しました。

高性能磁石に不可欠だったジスプロシウムの代替技術もあります。日立金属と物質・材料研究機構がネオジム銅合金を使い、高い磁力を保つ新技術を開発、ジスプロシウムが要らない高性能磁石を先駆けて実現しました。

経済産業省も「脱レアアース化」を勧める方向で動いています。

ただ、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)にとって、レアアースが不可欠であることは間違いありません。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)のモーターのネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする高性能ネオジム磁石の最大の欠点は、高温下で磁力が低下することです。それに対して、ジスプロシウムをネオジム磁石に添加すれば、高温での磁力の低下が抑えることができるのです。

このことから、ジスプロシウムほか、現代の電気自動車(EV)ハイブリッド車(HV)にとってレアアースが欠かせないものであることも否めません。

今後も代替技術への努力は進むことが予想されますが、ガソリン車から電気自動車(EV)へと大きくシフトされる自動車界において、レアアース代替戦略が追いつくかどうかは、今後を見守るところでしょう。

都市鉱山発掘

都市鉱山」という言葉があります。

こうした貴重なレアアースを、都市で大量に捨てられる携帯電話やパソコンといった家電品からリサイクルによって取り出していこうというのが、都市鉱山発掘というものです。「地上在庫」いう表現で語らえることもあります。

地味なイメージはありますが、これが大きな効果をもたらした事例があります。2020東京五輪で必要なメダルは、この都市鉱山から調達したというものです。

都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」のことで、2020年東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会が、2017年4月から全国で携帯電話や小型家電の回収を呼びかけ、なんと銅は必要量の100%、銀は85.4%、金は93.7%をすでに回収したそうです。

メダル作成に必要な金は30.3キロ、銀は4,100キロ、銅は2,700キロだそうで、なんと100台の携帯電話から約3グラムの金が取れるそうです。かなりの数の小型家電や携帯電話が回収されたことになります。地道な作業も馬鹿にはならないですね.

Next: 日本に朗報?南鳥島EEZ内海底泥にレアアース発見



南鳥島EEZ内海底泥にレアアース発見

日本にとって朗報となるのでしょうか。

日本最東端に位置する南鳥島(東京都小笠原村)の排他的経済水域(EEZ)内の海底の泥に含まれるレアアース(希土類)の埋蔵量は従来推定の2倍強で、世界需要の数百年分に及ぶことが東京大などの調査で分かったと、2018年4月10日、東京大学などが英科学誌に発表しています。

報道によれば、島南方の1,000平方キロの範囲に国内需要の230年分に当たる680万トンが存在すると推定していたとあります。

深さ5,700メートル前後の25地点で掘削した海底下の試料を初めて詳しく分析した結果、15種のレアアースが計1,600万トン存在することを突き止めたとあります。

元素別の埋蔵量は…医療用レーザーなどに使うイットリウムが世界生産量の780年分、電気自動車のモーターに使う強力な永久磁石に欠かせないジスプロシウムは730年分、次世代記録素子の材料となるユウロピウムは620年分、プリンターの印字ヘッドに必要なテルビウムは420年分です。

先端技術に使われる重要な元素が豊富に存在することが分かったそうです。

この数字は排他的経済水域(EEZ)内のことで、1,000平方キロメートルの広さの海底だと、国内需要の悠に300年分が眠っていると推定されるそうです。量も豊富ですが、高濃度であることも注目されています。

現在中国が採掘しているレアアース濃度は300ppm程度ですが、南鳥島沖の濃度は6,600ppmのところもあり、中国産の20倍という圧倒的な高濃度だと、このレアアースの存在を突き止めた東京大学大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンターの加藤泰浩教授は語っています。

日本の国産資源になる

日本の排他的経済水域(EEZ)にあるものは、まちがいなく国産資源です。いかなる他国にも、領有権を主張される心配はありません。

南鳥島のレアアースは海底面にごく近いところにあり、船の上からサブボトム・プロファイラーという音波探査により、レアアース泥の分布状況が簡単に把握できるそうです。

さらに海洋のレアアースには、開発の障害になる放射性物質のトリウムがほとんど含まれていないそうです。陸上で採掘されるレアアースは陸上のマグマ活動によって生成され、必ずトリウムを伴ってしまう宿命を背負っているそうで、トリウムがほとんど含まれていないことが、今回の発見では非常に重要な点だと加藤教授は指摘しています。

「産業のビタミン」と呼ばれるレアアース17種の中でも特に重要な重レアアースであるジスプロシウム、テルビウム、ユウロピウム、イットリウムに、軽レアアースのネオジムを加えた5元素が、南鳥島沖のレアアース泥に、高濃度に含有しているのだそうです。

Next: 中国が日本産レアアースに警戒



中国が日本産レアアースに警戒

当時の報道を調べれば、南鳥島沖でのレアアース存在報道を受け、中国メディアが敏感に反応しているのが分かります。前述の通り、世界のほとんどのレアアースを生産している中国の優位性が、南鳥島採掘技術進展で失われる恐れがあると警戒しているようです。

中国共産党中央委員会機関紙・人民日報系の環球時報が、当時南鳥島沖でのレアアース発見報道を取り上げていました。

経済的採掘が可能かどうかが問われており、今すぐに産業に活用できるというものではなく、電気自動車(EV)の普及等、社会インフラのスピードに、南鳥島沖開発が進んでくれるかどうかが鍵になります。

中国がレアアースを武器に外交を進めてくるでしょうが、当面は中国に頼るところは大きく、中国との関係が重要であることは変わりません。それは米国も欧州も同じでしょう。

今後レアアースの話題からは、目が話せないですね。

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らぽーる・マガジン』(2019年4月8日号)より一部抜粋
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