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日経平均株価が2万2,000円を突破、2019年後半の株価はアルゴリズム売買でどう動く?=伊藤智洋

週末のNYダウの上昇を受けて、日経平均株価が昨年12月以来で2万2,000円を突破しました。この先どこまで上昇するのか、2019年後半株価の変動について解説します。(『少額投資家のための売買戦略』伊藤智洋)

※本記事は有料メルマガ『少額投資家のための売買戦略』2019年4月15日号を一部抜粋・再構成したものです。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。今月配信済みバックナンバーや本記事で割愛した全文(日経平均・NYダウの今後のシナリオ、予測の仕方)もすぐ読めます。

プロフィール:伊藤智洋(いとうとしひろ)
証券会社、商品先物調査会社のテクニカルアナリストを経て、1996年に投資情報サービス設立。株や商品先物への投資活動を通じて、テクニカル分析の有効性についての記事を執筆。MS-DOS時代からの徹底したデータ分析により、さまざまな投資対象の値動きの本質を暴く。『チャートの救急箱』(投資レーダー社)、『FX・株・先物チャートの新法則[パワートレンド編]』(東洋経済新報社)など著書多数。

本年は後半へ向けて不安材料が多い

4月10日、「イタリア政府が今年のGDP成長率見通しを下方修正し、財政赤字と公的債務の見通しを引き上げた。これにより、財政赤字の今年の対GDP比率目標が2.4%となり、12月時の2.04%から上昇した」という記事が掲載されていました。

昨年末、欧州委員会は、巨額の財政赤字を計上して問題化したイタリアの2019年の予算案をめぐり、赤字幅を当初のGDP比2.4%から2.04%に引き下げた同国の修正案を承認し、イタリアに対する制裁手続き開始の見送りを表明したばかりです。

昨年末は、EUによる制裁手続きが現実味を帯びて、外国人投資家のイタリア債の売り越しが欧州債務危機のさなかだった2012年以降で最大となり、イタリア国債が急落しています。今年も、イタリアの年度末となる12月を前に、昨年と同様の問題が浮上することになります。

4月10日、EUは、イギリスのEU離脱の時期を(5月23日の欧州議会選挙にイギリスも参加するという条件つきで)10月31日まで延期することを合意しました。

米国では、2018年2月、2018年度と19年度の歳出上限を合計3,000億ドル(約33兆円)引き上げる予算関連法案を可決しています。同法案は、裁量的経費を対象に、18年度が法定歳出上限を1430億ドル引き上げ、19年度が同1,530億ドル増やす内容です。

2019年10月から始まる2020年度は、拡大した歳出上限が2019年度よりも低い水準に設定されているので、議会が立法によって上限を引き上げなければ、2020年度の歳出は大幅に減少することになります。

その他、ベネズエラ、トルコ、シリア、韓国、中国など、今年の株価下落への影響が懸念される不安材料は後を絶たない状態です。IMFは、4月9日に発表した2019年の世界経済成長率を3.3%とし、1月の3.5%から下方修正しました。

4月11日、麻生財務相はG20の終了後、記者団に対して、「日本経済の持続的成長に向けた決意として10月に消費税の引き上げを実施する」と語っています。

FRBの政策変更により、日銀が現状を継続するなら、本年後半、ドル・円相場は、円高の流れを作る可能性があります。10月へ向けて、100円を目指す動きになる可能性があります。

Next: 2019年の日経平均株価はどんなパターンになりそうか?



日経平均株価は弱気パターンの年になる可能性がある

以上のことを考慮すると、日経平均株価は(消費税の引き上げを延期するか否かにかかわらず)本年が年初よりも年末の値位置の低い、弱気パターンの年の展開になる可能性があります。

昨年を除けば、日経平均株価は、年初よりも年末の値位置が低い場合、6月までに年間の最高値をつける傾向があります。

<2000年以降の弱気パターンの年の日経平均株価の展開>

2000年

2001年

2002年

2007年

2008年

2011年

2018年

Next: 不安材料が多いのに、いまなぜ日経平均株価は上げている?



先の展開が上値重くても上昇する理由

投機は、将来的に価格が上昇するか否かに沿う格好になるように、現在の仕掛けを判断しているわけではありません。毎年繰り返される経済活動による資金移動を利用して、値幅の伴った価格の大きな振れを作っています。

前述した通り、日経平均株価が弱気の流れを作る年は、年の前半から下降を開始する年もありますが、よく見られる展開は、強気材料出尽くしとなる4~6月までの期間で、年間の最高値をつけて、下降を開始する展開です。

投機は、上下どちらでも大きく動いてくれればいいだけです。

その年の後半に価格が下げる可能性があるとしても、積極的に売りを入れられる状況へ入らないなら、下降への振れ幅を大きくする作業として、強く上値を抑えられる場所を探る動きになります。

個別銘柄では、将来の業績悪化が明確になっているものが、積極的に買われることがほとんどありませんが、投機の対象になっている銘柄は、将来的に明確な弱気材料があっても、短期的に上昇することで、下げ方向の振れ幅を大きくできるなら、その作業を実行します。

これまでは、人の思惑の中で、その作業が行われてきたため、行ける場所にも限度がありました。

戻り高値を試す場合でも、これ以上へは行き難いという場所があるなら、その十分手前で止まり、上値を抑えられる動きが見られました。そのため、半値戻し、3分の2戻しなど、人の考える範囲内でのテクニカル的な上値の目安が役に立ってきたわけです。

しかし、現在は、“行けるところまで”という目安が変化しているように感じます。
前述した通り、以前は、人の思惑の中で、警戒感を強く感じる場所で、価格が強く上値を抑えられる動きになりました。そのため、前述したようなテクニカル的なポイント、多くの市場参加者が目安にしている場所で、上値を抑えられる動きがあらわれてきました。

現在は、そのような人も思惑による警戒感などなく、一定の条件のもとで、勝手に取引がなされています。そのため、上値の抑えられる可能性のある場所は、過去の経験則から人が警戒感を感じる場所ではなく、特定の時間、日にち、特定の値位置のギリギリを試すことのできる状況になっています。

これまでは、ある高値が戻り高値になっているなら、この地点まで上昇しないだろうと推測できる場所だったとしても、そこを簡単に抜けて、なんの兆しもなく、想定していた戻り高値が意識されて、結果として下げているという展開になっています。

そのため、近い将来に価格が下げるとしても、その日、下げられないのであれば、翌日以降、価格が下げるとき、より大きな値幅を取るため、その日の価格がなるべく上昇するように仕向けられるという動きがあらわれているように見えます。

Next: テクニカル的な目安が役に立たなくなったのはなぜなのか?



アルゴリズム取引が約定の大半を占めている

少し古い資料ですみませんが、2016年5月に金融庁総務部企画局が作成した資料の中に、アルゴリズム取引の市場全体の割合が紹介されています。
※参考:(取引の高速化)-金融庁商務企画局(2016年5月13日公開)

図 高速取引のイメージ

図 コロケーションエリアからの約定の割合

アルゴリズム取引とは、「あらかじめ定めた条件にしたがって、コンピュータープログラムが自動で売買のタイミングを決めて注文を繰り返す取引」のことです。

取引所では、取引所のシステムセンター内に証券会社や投資者などのサーバを設置することで、より早い注文処理を実現するサービスを行っています。このサービスは、コロケーションサービスと呼ばれています。

市場全体の中でのアルゴリズム取引の取引量は、コロケーションサービスを通じた取引が市場全体の取引に対してどの程度の割合になっているかで推測することができます。今更のグラフになりますが、上図を見ると、2016年の時点で、注文数ベースで75%、約定件数ベースで44%を占めています。

アルゴリズム取引では、「一定量の注文を小分けにして、一定時間内で分散して取引をこなす」、「統計データなど、特定の材料に反応して注文を仕掛ける」などが、超高速で実行されています。

Next: 4月12日のNYダウ急上昇はどんな背景があったのか?



NYダウの4月12日の急上昇は下げる前の一時的な動きの公算も

前週末4月12日のNYダウは、269ドルを越える反発場面となっています。

本年後半に価格が下げると推測しているなら、当然、昨年末からの上昇は、昨年10月の高値2万6,951ドルを越えられずに下げると考えられます。だとすれば、4月5日の高値2万6,487ドルは、2万6,951ドルまであと少しの地点へ迫っているのですから、強い抵抗になっていると考えられます。

4月5日から4月11日までの動きでは、終値ベースで上値、下値を切り下げて、はっきりとした弱気の流れを作っています。2万6,487ドルを越えられないなら、12日に価格が反発しても、4月9日の高値2万6,246ドル程度が上値の限界になると推測できる場面です。

人の警戒感や恐怖心がある中で、取引が行われているのだとすれば、2万6,487ドルに上値の重さがある場合、12日の上げ幅はあらわれないと考えられる大きさのものです。したがって、12日の反発からは、戻り高値2万6,487ドルが強い抵抗になっていないと推測できます。

NYダウは、下げ方向に価格が動く場合、下げ幅が大きくなりやすい展開になっています。チャートを見ると、11日に終値で上値、下値を切り下げる動きになり、すでに下降の流れが勢いづいているなら、12日は寄り付きから下放れて、下げ幅の大きな動きになる可能性がありました。

それにもかかわらず、(NYダウの寄り付き前の)ダウ先物が上値を試す動きになっていたことで、12日は下げ難い状況があるということ、下降の流れへ入っているとしても、12日に積極的に値幅の大きな下げ場面へ入るわけではないことを示していました。

価格が下げ難いと推測できる展開ができている中、12日は中国の3月の貿易統計で輸出額の伸びが市場予想を大幅に上回る、JPモルガン・チェースの発表した2019年1~3月期決算が市場予想を上回る増収増益などのニュースがありました。

4月12日の上げ幅は、4月5日の高値2万6,487ドルが重い抵抗になっているとしても、12日に価格が下げにくい状況の中で、強気材料でエネルギーを補給して、上げられるだけ上げた結果の値位置であるという見方もできます

だとすれば、NYダウが、寄り付き値ですでに2万6,487ドルに接近していながら、2万6,487ドルを越える程度まで上げられなかった動きが納得できます。

人の考える値動きの範囲内で価格が動くという過去の値動き経験則を参考にするなら、12日の上昇は、強気有利な状況を示していて、週明け後の価格がさらに一段高を目指すと考えたくなる場面です。

しかし、単純に上げられるギリギリを試しているに過ぎないなら、週明け後、月曜日、ダウ先物は、早い時間帯から金曜日の高値付近で上値を抑えられて、下降を開始するはずです。

12日の結果は、月曜日の日経平均株価が寄り付き後、すぐに上値を抑えられる動きになるか、寄り付きで一段高の後、そのまま上昇の流れを作るかで見えてきます。

長くなってしまいましたが、結論としては、方向感のない状況において、人の思惑によってあらわれていた上値、下値の目安が通用しなくなっていると考えていた方がいいということです。

これは、チャート分析がまったく役に立たないと言っているわけではありません。チャートの示す強弱感を知っていなければ、その日の値動きが示す意味を推測することができません。

チャート分析は必要ですが、強弱の判断の仕方が形や値位置だけではなくなってきています。

NYダウ 日足(SBI証券提供)


※本記事は有料メルマガ『少額投資家のための売買戦略』2019年4月15日号を一部抜粋・再構成したものです。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。今月配信済みバックナンバーや本記事で割愛した全文(NY金の展望、日経平均の今後のシナリオ)もすぐ読めます。

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『少額投資家のための売買戦略』』(2019年4月15日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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