自分にもしものことがあった場合に備えて、遺言書とあわせて用意しておきたい「エンディングノート」(終活ノート、ラストプランノート)の上手な活用法を、メルマガ『こころをつなぐ、相続のハナシ』でお馴染みの行政書士・山田和美さんが解説します。
法的効力のない「エンディングノート」をあえて書く意味とは?
遺言書の替わりにはならないが――
エンディングノート、という言葉が世に出て、おそらく10年近くなるでしょうか。その頃から相続の仕事に携わっている身としては、ずいぶん浸透したなあなんて感じています。
最近では種類も豊富。様々な団体が作成していますし、書店でもたくさん並んでいます。
さて、ではこのエンディングノート。その役割や位置づけを正しく理解できているでしょうか。今日はエンディングノートと遺言書の役割の違いについて、お伝えします。
まずは大きな違いから。遺言書は、法律で決まった文書。一方エンディングノートは、法律は関係ありません。
遺言書に書いてあることは、その遺言が有効なものであれば、法的な効力が生じます。たとえば誰に何を相続させる、とあれば、原則としてその通りにしなければなりません。
一方でエンディングノートは、法的な効力は一切ないと思って、ほぼ間違いないです。エンディングノートの中には、遺産を誰に渡したい、とか、形見分けをどうしてほしい、等さまざまな希望を書く欄がありますが、これはあくまでも「希望」であって、何ら法的に拘束できるものではないのです。
尊厳死を望むかどうかとか、介護をどうしてほしいかとか、そういったことも同様です。
つまり、遺言書は法的に一定の拘束力がある。一方、エンディングノートは法的な効力はない。これが大前提です。
そして、遺言書は法的な効力を満たすためにさまざまなルールがありますが、エンディングノートはそもそも法的なものではありませんので、書き方や内容は自由です。まずはこれを覚えておかれると良いでしょう。
上手に使いこなしたい、エンディングノート4つの役割
では、エンディングノートは意味がないのか?というと、私はそうは思いません。エンディングノートは、こんな役割があります。
1.遺言書を書くための気持ちの整理
たとえばいきなり遺言書を書こうと思っても、誰に渡したいか、どういう配分で渡したいか、等なかなか決められないこともあるでしょう。
エンディングノートには、これまでの人生でお世話になったかたのことや、嬉しかったこと、悲しかったことなどを書く欄があります。こういった欄をつかって人生の棚卸しをして、だれに何を渡したいか、考えを整理するために使われると良いでしょう。
Next: 「2.遺言書を書くための財産の棚卸し」のポイント
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このメルマガでは、「相続人って誰のこと?」という基本的な事から、「相続が起きると銀行口座どうなるの?」等のより実務的な疑問まで幅広くお伝えして参ります。
2.遺言書を書くための財産の棚卸し
遺言書には原則として、すべての財産について書いておくのが望ましいです。まとめて書いたり「全財産の3分の1を~」等と書いても無効ではないのですが、実際の手続の際には、たとえばA銀行の預金は誰の口座に入れるのか等、もらう人を特定する必要があるためです。
もちろん細かいものは「その他の財産」とまとめてもよいですが、できるだけ具体的に書くためには、ある程度財産を把握してから書くと良いでしょう。そのためにエンディングノートが活用できます。
また、相続税が心配な方は、この段階で基礎控除額を超えそうかを仮計算してみて、相続税が発生しそうであれば、専門家に記載内容を相談することをおすすめします。
3.手続をスムーズにするためのメモ
相続が起きた後、どこに何があるかわからず困る、というケースは結構あります。その場合、相続人はまず家中の捜索をすることから始めなければなりません。
また、せっかく遺言書を書いても、遺言書がどこにあるか見つけられない場合もあります。こういった事態にならないために、エンディングノートに「どこに何の財産があるか」「遺言書があるなら、どこにしまってあるか」を書いておいて頂くと、スムーズに手続にはいることができます。
またあわせて、債務等がないのであれば「ない」と書いておいていただくと、相続人は安心しますので、これも記載しておくと良いでしょう。
4.想いを伝えるために
これがエンディングノートの一番おおきな役割だと思います。法的なルールがないからこそ、エンディングノートには何でも自由に書くことができます。
- 例えばこれまでお世話になった人への感謝の気持ち
- 例えば遺言書を書くに至った経緯
- 例えば人生で幸せだったこと
- 例えば家訓など、後世にのこしたい想い
こういったことを伝えるのに、ぜひエンディングノートを使われてはいかがでしょうか。
遺言書にも「付言」といってお手紙のような内容を書くことは可能です。なのでもちろん、感謝の気持ち等を遺言書の中に書いても良いです。しかし遺言書は法的な文書であるがゆえに、公正証書遺言なら公証人や証人に、その他であっても、実際に手続に使う際には金融機関の担当者等の手続先に、など、人目に触れることも結構多いものです。
エンディングノートであれば、特段どこかに提出する義務はありませんので、大切な方やご家族に伝えたい想いを、思う存分のこすことができます。
このように、遺言書とエンディングノートにはそれぞれ違った役割があります。それぞれの特性を知った上で、どちらか一方のみではなく、両方セットでのこしておいて頂くことをおすすめします。
『こころをつなぐ、相続のハナシ』(2015年12月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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