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国民不在の「自公プロレス」消費税10%と軽減税率で得をするのは誰か?

自民・公明の両党が、消費税率を10%に引き上げる際の低所得者対策として導入する「軽減税率」の対象品目について、生鮮食品だけでなく加工食品まで含めることで合意したことが報じられています。

それにしても、これまで自民・公明の両党は、いったい誰を喜ばせるために軽減税率をめぐって揉めに揉めてきたのでしょうか?12/7に配信されたメルマガ『らぽーる・マガジン』は、「低所得者層の負担感を言うなら、逆進性を考慮して消費税導入そのものを考えなおすべき」だとしたうえで、今回の軽減税率に関する議論のさまざまな不透明さを指摘しています。

「低所得者の負担を考慮」しながら、消費税を上げるという欺瞞

自民党と公明党は何を揉めていたのか?

軽減税率の問題が与党内で議論されています。生鮮食品だけを対象にするのか、加工食品も対象にするのか、自民党と公明党で駆け引きが行われているようです。

来年夏の参議院選挙を考えると、今の自民党は公明党の組織票なしでは戦えないことから、ここは譲歩すべきだとする意見も出ています。自民党谷垣幹事長は、財務大臣を経験していて、どうしても財務省寄りの発言になりがちで、税収が減る軽減税率にはそもそも消極的だとか、両党もめにもめているようです。

この議論でわかったことは、お刺身は一般的には生鮮食品ですが、マグロとイカとを盛り合わせたものは加工食品になるということです。刺身の盛合せは生鮮食品ではないそうですよ。

大根のつまの上にマグロだけが乗っかっている場合は生鮮食品になるそうです。

軽減税率は「公平」か?

さて、軽減税率の是非は、その税収額の問題以外のところで、さまざまな議論を呼んでいます。

財務省のWebサイトは、税制を説明する中で、税は、私たちみんなが、社会の構成員として広く公平に分かち合っていかなければならないとし、「公平・中立・簡素」であることが税制を構築するうえでの基本原則だとしています。

軽減税率は、果たしてこの3原則に当てはまるのかどうか、学者の間でも議論されています。

まずは「公平」かどうかです。

そもそも消費税に関しては「逆進性」が問題とされてきました。高所得者よりも低所得者のほうが負担感が増すのではという議論です。

例えば、消費税率が上がると低所得者ほど収入に対する食料品などの生活必需品購入費の割合が高くなり、高所得者よりも税負担率が大きくなる…まさにいまの軽減税率導入議論そのものです。

消費税導入時は、この逆進性は「ない」としていたのです。

公明党は、低所得者の人ほど加工食品を手にすることが多いと主張しています。

そもそも高額所得者は、同じ生鮮食品でも値段の高いものを買うでしょうし、産地などにこだわり、高くても良いものを求める傾向にあるのではないでしょうか。

ここで言う「公平」とはどういうことを意味するのでしょうかね。

低所得者を特定するために、マイナンバーを活用して収入を確認するという案も出ていましたね。マイナンバーカードを持ち歩く危険、ネットで申請しなければならない不便さ、還付金額に上限があり、その金額があまりに低すぎるなど、いろいろ叩かれていますね。

軽減税率は「中立」か?

次に「中立」に関してですが、前述の高額所得者と定額所得者の差もありますが、軽減税率が適用される品目とそうでない品目との差も問題になってきそうです。

当然、軽減税率の適用となるかならないかで、売上にも影響が出てくるでしょう。業界団体の陳情合戦、利権争い、裏金が飛び交うなど、まあ今までの政治スキャンダルが容易に想像されますね。

ジャーナリストの二木啓孝氏がラジオ番組で、軽減税率に関して自民党が「生鮮食品、および一部の新聞」としていると指摘した際、「一部の新聞」ってなんだろうと考え込んでいましたね。

番組では、二木氏が所属していた日刊ゲンンダイは「一部」には入らないだろうと言っていました。さらに「一部」とは、おそらく全国紙やブロック紙と呼ばれるものではないかと言っていましたが、新聞紙同士、どうやって線引きするのでしょう。

そもそも新聞への軽減税率適用は当然なのでしょうか。国民の知る権利を前面に出していますが、それは必ずしも新聞だけとは限らないでしょうけどね

読売新聞は、新聞を軽減税率に入れることをかなり主張しているようです。

Next: 軽減税率は「簡素」か?/「どのみち消費増アップ」前提の自公プロレス



軽減税率は「簡素」か?

さて「簡素」についてですが、まさに軽減税率は複雑で、とても簡素とはいえないですね。

国民にわかりやすい税制が良いとされています。複雑でわかりづらい税制は、ごまかしが効きますし、抜け道もできます。国民の税金を預かるわけですから、わかりやすいというのは基本です。国民の納税感にも影響してきます。

なぜこの品目に軽減税率が適用されるのか、適用するなら丁寧に説明してほしいものです。

そもそも軽減税率導入に際して、低所得者層の負担感を前面に出だすのなら、「逆進性」を考慮して消費税導入そのものを考えなおすべきでしょうし、新聞や加工品などの品目選定の議論も、何か別なところに意図があるように思えてなりません。

軽減税率は国民に受けがよい話のようです。「軽減」というネーミングが曲者ですね。

「どのみち消費増アップ」前提の自公プロレス

民主党・自民党・公明党の3党合意では、消費税率引き上げに際して、増えた税収はすべて社会保障にまわすとされています。

自民党案の生鮮食品のみを軽減税率の対象とすれば3400億円税収が減ることになります。公明党案の、酒を除く飲食料品だと1兆3000億円税収が減ります。

この分を他で埋めようとするなら、景気回復で増えた分を充てるか、たばこ増税を検討するなどの必要性が出てきます。

軽減税率の枠を広げると社会保障費に税金が回らない、社会保障を充実させるには軽減税率は我慢する、そんな構図を突きつけられているような気がしますね。

参議院選挙に向けて、低年金受給者へ直接給付、携帯電話料金の引き下げ要求など、国民の受けを狙うような政策が目立ってきています。

先の総選挙では、公明党は安全保障に触れずに軽減税率一本を主張していました。軽減税率の本質を、もっと丁寧に議論してほしいですね。

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らぽーる・マガジン』(2015年12月7日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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