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デフレの原因は人口減少ではない~人口変動とインフレ率の真実=三橋貴明

なぜ日本はデフレに突入したのだろうか。人口が減っているから?もちろん、違う。人口が減っているのは、別に日本だけではない。その上、日本の人口減少ペースは、世界の「人口減少国」と比べて、別に速いわけでも何でもない。(『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』)

きちんとデータを検証すれば誰にでも分かる「デフレの真実」

人口とデフレには何の関係もない

なぜ日本はデフレに突入したのだろうか。人口が減っているから?

もちろん、違う。平成バブル崩壊で国民が預金や借金返済を増やし、所得創出のプロセスにおいて消費・投資(=需要)が減り、誰か別の国民の所得が縮小している状況で、政府(橋本政権)が緊縮財政を実施したためだ。

ただでさえ需要や所得(同じ意味だが)が減っている環境下において、政府が消費税増税で国民の消費を減らし、自らも公共投資の削減を始めたわけだから、たまらない。

日本の需要不足は深刻化し、供給能力に対し需要過小となるデフレギャップ状況に突入。橋本緊縮財政の翌年(98年)から本格的にデフレーションが始まった。

デフレーションは例外なく、バブル崩壊と緊縮財政を原因として発生する。藻谷浩介氏をはじめとする「人口減少デフレ論者」たちには気の毒だが、人口とデフレは何の関係もない。

何しろ、人口が減っているのは、別に日本だけではないのだ。その上、日本の人口減少ペースは、世界の「人口減少国」と比べて、別に速いわけでも何でもない。

IMFのデータを用い、2013年から14年にかけて人口が減少した国々について、ペースを比較してみた。2015年はIMFの推計値である。

主要人口減少国の人口減少ペース比較(2000年=1)

日本の人口減少について騒ぎ立てているのが、バカバカしく見えてこないだろうか。日本の人口減少など、ジョージアやラトビア、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、アルバニアといった真の意味の「人口減少国」と比べると、誤差のようなものである。

ジョージア(グルジア)の人口動態とインフレ率から分かること

特に、ジョージアやラトビアは2000年と比較し、人口が15%超も減少している。日本で言えば、2000万人もの人口減少に見舞われた計算になる(実際の日本国の総人口の減少ペースは、毎年20万人強だ)。

ちなみに、「ジョージア」という国について聞きなれない響きを覚えた方が少なくないだろうが、以前は「グルジア」と呼ばれていた。コーカサス地方に位置する旧ソ連構成国の1つで、独立後は2008年に南オセチア州の帰属をめぐり、ロシアと戦争を繰り広げた硬派な国だ。

グルジアという呼称は元々は「聖ゲオルギオスの国」という意味だが、ロシア語名「グルーズィヤ」に由来している。というわけで、対ロシア戦争後に反ロシア感情が勃興し、グルジア政府(当時)が日本政府に対し国名表記の変更を要請したのである。2014年10月24日、日本の安倍晋三総理とグルジアのマルグヴェラシヴィリ大統領が会談し、国名の表記変更が決定された。

日本政府は、15年4月22日以降、グルジアについて「ジョージア」と表記している。

このジョージアであるが、世界で最も人口減少ペースが速い国として有名だ。ジョージアの人口が減っていっているのは、旧ソ連圏の国の共通課題である「少子“低齢”化」(少子高齢化ではない)に加え、さらに紛争で難民が多数出ているためである。

ジョージアの生産年齢人口比率はおよそ7割であるため、日本(60.8%)とは異なる形で人口減少が進んでいっていることが分かる。

というわけで、世界で最も急速に人口が減っているジョージアで「デフレーション」が起きているかどうか。日本のデータと並べて比較してみた。

Next: 日本以上の人口減少国、ジョージアでインフレ率が高い理由とは



日本以上の人口減少国、ジョージアでインフレ率が高い理由とは

日本とジョージアの人口(左軸、2000年=1)とインフレ率(右軸、%)

上図の通り、日本の人口が2000年比でほぼ横ばいであるのに対し、ジョージアは17%近く減っている。

それにも関わらず、インフレ率(CPIの対前年比変動率)は日本がマイナスもしくはゼロ近辺で推移しているのに対し、ジョージアは2012年を例外に、5%を超えるインフレが常態化している。2007年や2010年のジョージアのインフレ率は、何と10%を上回った。

人口減少デフレ論者たちは、この事実をいかに説明するのだろうか。

ジョージアのインフレ率が高い水準で推移しているのは、同国が供給能力の蓄積が不十分な発展途上国であり、国内外で紛争が継続しているためだ。要するに、供給能力の蓄積が不十分で、常時インフレギャップの状態にあるためなのである。

供給能力の蓄積とは、設備投資、人材投資、公共投資、技術開発投資の「四投資」が必要だ。ジョージアは投資が足りず、供給能力の蓄積という意味の経済力が小さいままなのだ。

ついでに書いておくと、ジョージアではバブル崩壊は起きていない。すなわち、供給能力を高める投資が不足し、バブル崩壊による需要縮小も起きていないために、ジョージアでは人口が激しく減少しているにも関わらず、インフレ率が高くなってしまうのだ。ただそれだけの話だ。

逆に、日本は供給能力の蓄積が十分な経済大国で、かつバブル崩壊と橋本緊縮財政により需要縮小に見舞われた。結果、供給能力が需要を上回るデフレギャップ状態に突入し、物価下落と所得縮小というデフレの循環が始まった。これまた、ただそれだけの話である。日本のデフレにせよ、ジョージアのインフレにせよ、人口とは無関係な経済現象である。

何を言いたいのか理解できない日銀

あるいは、人口減少デフレ論者たちは、それでも以下のように反論するかも知れない。

「日本の人口減少は生産年齢人口の減少だ。ジョージアとは違う」

日本銀行は2012年8月に「日本の人口動態と中長期的な成長力:事実と論点の整理」というレポートを出している。レポートで、日銀は、

わが国では、人口成長率の低下とともに物価上昇率も低下してきた。この点については、少子高齢化が予測を上回り続けるかたちで急激に進展する下で、中長期的な成長期待が次第に下振れるに連れて、将来起こる供給力の弱まりを先取りする形で需要が伸び悩んだことが、物価下押しの一因となってきた可能性がある。また、少子高齢化の進展に伴って消費者の嗜好が変化していく中で、供給側がこうした変化に十分対応できず、需要の創出が停滞すると同時に、既存の財やサービスにおいて供給超過の状態が生じやすくなったことが、物価の下押しにつながってきた可能性もある。(P2より)

と、書いている。

一度読んだだけでは、日本銀行が何を言いたいのかさっぱり分からないだろうが、筆者の場合は何度読んでも理解できない。

少子高齢化で需要が停滞した」と言いたいのは分かるのだが、途中のロジックは全くもって意味不明である。

Next: デフレという経済現象と人口が無関係であることは明らか



デフレという経済現象と人口が無関係であることは明らか

いずれにせよ、少子高齢化により引き起こされる「人口現象(減少ではない)」は、生産年齢人口比率の低下だ。生産年齢人口比率の低下は、国民経済を需要不足から供給能力不足へと移行させる。

実際、現在の我が国ではそのままの現象が起きており、一部の産業や地域で「人手不足」が顕著になり始めている。

人手不足が深刻化していくと、国民経済ではインフレ率が上昇していく。日本の生産年齢人口比率の低下が経済に与える影響は、「インフレ化」であって「デフレ化」ではないのだ。

すなわち、少子高齢化による生産年齢人口比率の低下という「人口現象」について、インフレ率上昇の理由にするのは分かるのだが、逆はあり得ないのである。

「生産年齢人口比率がインフレをもたらすなら、なぜ日本はデフレなのだ!」と、反駁されてしまうかも知れないが、もちろんバブル崩壊と橋本政権の緊縮財政により需要が縮小し、国民経済がデフレギャップ状態に陥ったためだ。他に、理由はない。

落ち着いてデータに基づき、プロセスを1つ1つ追っていけば、誰にでも理解できる話である。それにも関わらず、未だに「日本は人口が減っているからデフレ」という、単純かつ間違った理解をしている国民が多数派なのは、なぜなのだろうか。

推測だが、大東亜戦争敗北後にGHQが主導した「自虐史観」を植え付けられた世代を中心に、「日本のような国は衰退した方がいい」という価値観を持つ国民が少なくないのではないか。

その種の価値観を持つ国民にとっては、「日本は人口減少によるデフレで衰退する」と想像を巡らせることが「気持ちがいい」のではないだろうか。

ここまでくると、経済や政策というよりは心理学、カウンセリングの世界になるが、いずれにせよ日本のデフレという経済現象が「人口現象(=生産年齢人口比率の低下)」とは無関係であることを国民や政治家の多くが理解しなければ、我が国が再び経済成長路線を歩み始める日は訪れないだろう。

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週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』(2016年1月16日号)より
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