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“黒田2”窓埋めなら15,701円も。遠いセリング・クライマックス=山崎和邦

軟調な展開が続く東京株式市場。今回は特別編として、「テクニカル指標では陰の極に近いが、セリング・クライマックスは迎えていないように見える」という山崎氏の見解をご紹介します。

山崎和邦 週報『投機の流儀』vol.189 2016/1/17号より、マネーボイス編集部にて再構成

3分の1押し堅持の可能性は低く、まず15,701円の窓埋め意識か

テクニカル指標では陰の極に近い。が、セリング・クライマックスは経ていないように見える。鍋底型底値形成でもなさそうだ

先週末の状態を要約するとこうであろう。高値から380円安で終わった相場だ。3分の1押し(始動点から大天井までの3分の1押し)は切らなかった。

大天井から-20%で下降相場に転換したとNYでは言い、120年間に23回あったが、東証では16,761円に相当する。その少々上で9月29日も1月14日も止まってはいる。

だが週末の相場の顔相は甚だ悪相である。300円高の時にも225銘柄で高いものは165銘柄だけ、TOPIXで高いのは1360銘柄しかない。また野村証券株とJPX株がジリ貧傾向である。良くない象徴であることが多い。

新年早々から5日連続安は東証再開以来の戦後初めてのことだし、大統領選の前年にNYが年足陰線はダウ平均創設以来120年間で初のことだ、とまでは述べた。また、正月の著名20氏のアンケートが的中した年の翌年は1月から大波乱があるとも述べた(72年の翌年と89年の翌年、そして2015年の翌年)。
波乱の年末年始~NY市場と東京市場の「記録づくし」は何を象徴するか?=山崎和邦

50年間で2回の例で断定するなと言う声もあろうがジョン・テンプルトンの「『今度は違う』が最も投資家に損させるセンテンスだ」を銘記しようとも述べた。済んだことはいいから今後はどうだ?

何度も言うが、大切なことは、市場はダイスやルーレットと違って一々独立した事象として出るのではなく過去を記憶して連載ものとして動く、と言う事実である。

週末現在、筆者が鈍感なのかもしれないが、「コツンときた感じ」はない。テクニカル指標では陰の極に近い。が、セリング・クライマックスは迎えていないように見える。

12月1日から1ヶ月半で1,000円大台を4回割った(20,012円~16,944円)。下げ幅は「一人前」だが売買代金と取引高はこんな程度ではダメだ。

もし、自分が目いっぱい買っていて信用取引でも買いこんでいたと仮定して、今のこの状況にぞっとして震え上がるか、と自問すると、未だそこまでは行っていない気がする。

「野も山も、人も我も弱気なら、たわけになりてコメを買うべし」の格言から言えば、確かに「野も山も」暗い環境だが、「人」は弱気でなく、正月早々、野村の永井社長がポジショントークだろうが2万2千円と言っていたし、肝心の「我も」にしても陰の極に近いとは思うが「震え上がる」状態ではない。

だが、テクニカル指標で言えば「陰の極」ではある

  1. 騰落レシオは59%台
  2. 25日線との乖離率は7.6%
  3. カラ売り比率は41%台
  4. 昨年9月末も今回1月14日も大天井からの3分の1押しで止まっている
  5. ファンダメンタルでも週末現在の225銘柄のPERは14.3倍

PERは、時の外部状況や価値観によって14倍でもいいし60倍も良しとされた。平成バブルのころは60倍台で良しとされていたし、それを正当化する理屈も天下にまかり通っていた。めったに「評論家」を信じない筆者もそれを信じた。

だが(1)~(3)は自然現象に近い、相場というヒトより賢い生き物がとった生理現象の結果である。生き物だから時々行き過ぎる。これが稀にバカをやって行き過ぎれば必ず自律作用として修正運動が起きる。「自律反騰」と言われるものであり、「上げにマグレの上げあり」の一種を為す場合である。

Next: 株価のメドは?15,701円の窓埋めを意識、もし下抜ければ――


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

株価のメドは?15,701円の窓埋めを意識

この相場の始動点8,665円(12年11月14日、衆院解散決定日)から15年6月22日20,952円までの、3分の1押しは、正確には16,857円、大天井から-20%は16,761円(NYでは120年間に23回、下降大相場に転換したと言われるレベル)、昨年9月29日16,901円、今年1月14日16,944円。

ここで止まれば「-20%は避け得て、3分の1押しを堅持した形のいい毛抜き底(Wボトム)の形成だ」となるが、その可能性は少ない(03~07年の小泉内閣相場では青春期相場が終わって1年余も保ち合いが続き何度も下値を試しに行ったが決して3分の1押しを割らなかった。あの当時のように下値を5~6回も試せば確信持って言えるが)。

今は15,701円の窓埋めを意識する動きの方が強いという気がする。

では、これを下に突破されればどうか?

14年10月末の黒田バズーカ砲2弾のあとの10月の窓埋めが16,533円、それを下に突破されれば黒田2の直後の大きな窓を埋める15,701円、それを下に突破されれば始動点から大天井までの半値押しは14,809円となる。

今、手を空けてキャッシュポジションを高めて買い場を探している聡明な投資家にとって理想的なのは、この半値押しであろう。そこで「一旦大天井を突いた相場は故郷へ帰る相場だ(故郷とは始動点の8,665円を指す)」とか「半値押しは全値押し」といった根拠のない格言(格言と言うより警句である)が流行ったら、断固、買い場であろう。

が、その頃になると買いたくなくなるものである。そこで自己超越の自律が要る。だが、相場は聡明な投資家の思い通りにもならない意地悪な生き物である。ということは半値押しまではない、と言えるであろう。

見通しとか通念というものは、普通は明るく安定感があって夢のあるものでないと流行らない。筆者はそれを承知で嫌われることでも平気で述べてきた。悪しからずご了承賜りたい。だが、流行った通念というものは居心地がよくて分かり易いが実現しにくい。

今後の市場の注目点――中国の実体経済の悪化・それは原油安の問題に直結しオイルマネーの日本株売りに直結する

中国経済悪化の影響、中国人民元の再切り下げ、利上げ後の米経済の動向、新興国の経済、原油安、TPP変節女ヒラリーのアンチ日本傾向、市場撹乱男トランプが呼ぶ嵐、英国のEU離脱問題、夏の衆参両院選挙、これらを列挙して逐一解説しても、それは学校の教室でやることであって我々には意味はない。

解説者や評論家やキャスターと称する稼業の人々はそういう言論でメシを食っているが、少なくも筆者はハシで飯を食う男である。

市場はカネを獲ってくる場所、或いは資産価値を増やすところであって、評論する所ではない。よって逐一、上げ下げの要因を評論することは止める。ここでは中国の実体経済の悪化に絞る。それは原油安の問題に直結し日本株売りに直結する。

中国株安そのものは金融市場の問題としては小さい。上海株安は中国の実体経済の悪化を象徴するから嫌気しているのだ。実体が巨体だから、倒れたら跨いで先に進めないのだ。金融市場の問題ではない。

シャドウバンキング騒ぎの時に本稿で述べたように、中国の金融問題はサブプライムと違って格付けされて世界中に伝播するわけでもないし、中国市場は先進諸国では必ずしも本気では受け止められてないから、世界の金融市場の神経機能に激震を及ぼす性質のものではない(北朝鮮の水爆実験も始めからハッタリだと思っているからこれも金融市場に影響するものではない。リオ五輪も考慮の外でいいだろう)。

Next: 「逆オイルショック」/週末の騰落レシオは記録的レベル



「逆オイルショック」

要はこういうことである。

中国株の動向=中国の実体経済悪化の象徴→原油需要激減→産油国の財政悪化→彼らは売り易い市場の株を売る→市場流動性の高いNYと日本が売られる→産油国の売りに乗じたヘッジファンドの売り崩しで先物主導の乱高下となる。

別の経路では、安全な通貨として円が世界の通貨の「置き場所」として使われる→円高→日本円と日本株との裁定ヘッジファンドが円買い日本株売り、という構図だから、中国共産党の能力を一応信じていた我々も株式市場に対する彼らの不慣れさとバカさ加減に呆れて「中国株安≒日本株安」の現象を生んだ。

だが、これは市場が時間をかけて消化して行くであろう。問題は中国の実体経済の悪化とそれが惹起する原油安である。目先、諸悪の根源は原油である。「逆オイルショック」と後世、命名されるものであろう。

第1次オイルショックは6~8%成長した日本の高度成長をゼロ成長に転換させた1973年秋の勃発で、池田勇人内閣のブレーンで高度成長論の理論武装の牙城だった下村治博士をしてゼロ成長論者に豹変せしめた事件であった。

下村治博士ほど先を読めた人は珍しい。高度成長論の立役者が73年10月29日以降、ゼロ成長論に豹変し、その後はまさしく長期で見ればそうなったし、晩年はアメリカの一極支配と傲慢さを心配しつつこの世を去った。結果的にそうなった。「オイルショック」は後年命名された。当時、下村博士以外はこのゼロ成長を「安定成長」と呼んだ。

週末の騰落レシオは記録的レベル

戦後初の新年6日連続安を記録して2週間で1000円大台を3度変えて2000円下げた。本稿が昔から重視してきた騰落レシオは週末では59.7%を示現した。

これは2012年6月以来のレベルである。2012年6月と言えばアベノミクス相場の始動以来、週足の12本連続陽線という数十年ぶりを記録して半年で約84%上昇(13年5月23日15943円÷12年11月14日8665円≒1.839)という派手な青春期相場を示現して見せたあと、大天井の日の後場半日で1000円下げ、1000円の大台を4週間で3回割り込み約3500円下げて青春期相場の完結式を派手に挙行した時である。

同時に、そこから壮年期相場が緩慢に動き始めた。昨年8月下旬の丸型天井の右端の2万円台から約4000円下げて9月29日の16900円台の時よりも今の方が騰落レシオは低い。何度も言うが市場は(サイコロやルーレットと違って)過去を記憶して動く。

米雇用の大幅伸びを打ち消す中国経済と資源国債券不安

先々週末、日本市場が閉まってからの米雇用統計では、市場予測20万人より大幅に良い29万人強が発表された。NYダウが300ドル高くらいしても良い話だが、高ヨリして結果は安く引けた。新興諸国の債券への警戒と中国経済の崩壊がよほど怖いのだろう。北朝鮮の水爆実験はNY市場では所詮はハッタリだと思われているだろうから殆ど材料にはならない。

原油の長期下落、新興諸国経済の不安、色々あるが中国経済問題が今の世界市場にとって最大の実体経済の問題だ。なにしろ米に次ぐ巨体だから倒れたら跨いでは進めない。これは実体経済上の問題であり、金融市場の問題は新興諸国の債券不安である。破綻リスクを取引するCDS市場では昨年末比で見る限り、対中国よりもブラジル、南アフリカのような資源国の方が上昇幅が大きい(リスク大と目されている)。

暗い話ばかり述べたが、次回は政策の打ち出し方とタイミングによって再び大相場はあり得るということを述べたい。

【関連】2016年は高値波乱も~「7月参院選にらみ無策ではあり得ない安倍政権」=山崎和邦

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