マネーボイス メニュー

From Wikimedia Commons

慰安婦20万人の虚構=『正論』元編集長・上島嘉郎

前回のメルマガで、慰安婦問題をめぐる日韓合意について書きました。2週間以上が経過しましたが、ソウルの在韓日本大使館前の慰安婦像は撤去されていません。(『正論』元編集長・上島嘉郎)

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年1月15日号より
※本記事の本文見出しはMONEY VOICE編集部によるものです

世界に拡散した「慰安婦20万人」という数字の出処は

『韓国には言うべきことを言おう』(仮題/ワニブックスPLUS新書)という本を2月に刊行予定と前回書きましたが、その資料調べて千田夏光の『従軍慰安婦』に改めて目を通しました。同書は昭和48(1973)年に双葉社から刊行され、昭和59(1984)年、講談社文庫に収められました。

その文庫版のまえがきで、千田氏は支那事変、大東亜戦争を日本の侵略戦争と断じたうえで、こう書いています。

侵略戦争に従軍させられた将兵は道義心、倫理観を喪失し、〈道義心と倫理観の喪失したとき略奪行為は戦場の必然〉となる。

〈戦場における兵隊はなんでもかんでも殺さねばならなかった。(略)侵略軍にたいしては女子供も撃ってくる、撃ってこないまでも後方にいる味方に通報するから、これも殺害の対象になった。(略)三日この戦場体験をしたら半狂人である〉

〈南京攻略戦で半狂人と化した従軍将兵をしずめるための“鎮静剤”として軍が案出したのが本稿のテーマである前代未聞の“従軍慰安婦”だった…。(略)〉

千田氏は戦前の日本は侵略戦争をし、侵略戦争であるがゆえに従軍した将兵は道義心、倫理観を喪失して「半狂人」となり、それをしずめるために従軍慰安婦が必要になった、と述べるのですね。

しかし、これは事実として証明されていません。千田氏が頭に描いた構図です。読み進めていくうちに感じるのですが、千田氏は人間を「半狂人」とか「悪代官に責められる庄屋」とかの表現に括って、人間性の複雑さというものを顧慮しない。自分が考え出した鋳型に、自分が拾った証言や事実(かどうか不明な記述が多々)を嵌め込んで見せているのです。

現在韓国国内では、日本大使館前をふくめ京畿道高陽市、慶尚南道巨済市など7カ所に、韓国系市民団体のはたらきかけで全米6カ所に「慰安婦碑」や「慰安婦像」が建てられています。

それらに刻まれた碑文にほぼ共通するのが「性奴隷」という表現と、「20万人が強制的に連れ去られた」という記述です。

「日本の軍・官憲によって朝鮮の若い女性が20万人も強制的に連行されて慰安婦にされた」という虚偽を世界に広げたのは、千田夏光、吉田清治と、この2人の著作や証言を積極的に取り上げて権威づけした朝日新聞――という批判も、事の経緯を単純化した物言いではありますが、国連のクマラスワミ報告やマクドガル報告、米下院の対日非難決議などにこれらが根拠として採用された経緯をたどってみると、その因果関係に合理的な説明が可能です。

もちろん、ここにわが国政府の摩擦回避のための事実棚上げの禍根(河野談話など)や、人権派弁護士のイデオロギーに傾斜した反日活動などを重ね合わせてみることが必要ですが。

さて、千田氏の『従軍慰安婦』の内容に戻ると、慰安婦の数についてこんな記述があります。

〈冷厳なる数字としてこんにち示し得るのは、元ソウル新聞編集局副局長で現在は文教部(文部省)スポークスマンを務めておられる、鄭達善氏が見せてくれた一片のソウル新聞の切り抜きだけである。そこには一九四三年から四五年まで、挺身隊の名のもと若い朝鮮婦人約二十万人が動員され、うち“五万人ないし七万人”が慰安婦にされたというのである。〉

挺身隊と慰安婦の混同については、日韓両国ともに誤認であることの理解が多少深まってきたと思いますが、世界に拡散した「慰安婦20万人」という数字の出処はこのあたりのようです。

日本統治時代の朝鮮半島の人口は、それまで一千万足らずだったのが約2500万人に増えています。総人口2500万として、その内の20万ということは、老若男女合わせて125人に1人を慰安婦にしたことになります(約半分は男性ですから、全女性の約60人に1人が慰安婦とは!?)

「そのために日本軍は12歳の少女まで慰安婦にした」と韓国はいうのですが……そんなことが現実に可能でしょうか。

Next: 日本は若い女性を無理やり慰安婦にし、戦地の慰安所に送り込んだか?



これは今日の人権問題でありません。問題の本質は、日本が併合時代の朝鮮半島で、国家として計画的に軍・官憲を動員して大勢の若い女性を無理やり慰安婦にし、戦地の慰安所に送り込んだかどうかです。

日本では昭和33(1958)年に売春防止法が施行されるまで公娼制度がありました。事実としては、売春が合法だった時代の戦地に民間業者が経営する遊郭があり、そこで朝鮮人(当時は日本国民)慰安婦が働いて報酬を得ていたということです。

当時は日本も朝鮮半島も貧しかった。貧困が原因で若い女性が「身売り」することは珍しくありませんでした。そのことを今日の人権観に引きつけて非難しても筋違いというほかありません。

で、20万人という数字の虚構です。

実は、現代史家の秦郁彦氏によってこの数字が誇大であることは平成10(1998)年に指摘されているのです。

秦氏は、政府が集めた二百数十点に及ぶ公式文書を調べ直すとともに、それ以外の外務省資料や警察統計などにも当たったうえで、慰安婦の総数は1万数千人と結論づけました。

内訳も、大部分を占めるとされた朝鮮人女性は2割程度で、日本内地の女性の方が多く、秦教授はそれまで「慰安婦総数は6万~9万人で、7~8割は朝鮮人」と推計していた自説を訂正しました。

秦氏はほかにも、「戦地慰安所の生活条件は平時の遊郭と同じレベルだった」「慰安婦の95%以上が故郷に生還した」「軍を含む官憲の組織的な『強制連行』はなかった」「元慰安婦たちへの生活援護は、他の戦争犠牲者より手厚い」などの事実が調査で確認されたと発表しました。

20年近くも前にこうした指摘がなされていたのに、なぜマスメディアにも政治にもこの数字は顧みられなかったのか。

この発表を大きく報じたのは産経新聞くらいで、発行部数は朝日新聞の約4分の1という情報量の圧倒的な差もあったのかも知れませんが、それ以上に、慰安婦問題について、謝罪や補償のあり方などをめぐる政治的議論ばかりが先行し、事実の究明がなおざりにされてきたということではないかと思います。

当時雑誌『正論』の編集者だった私は、大部数の新聞や地上波のテレビが、こうした問題をいかに先入観や固定観念(東京裁判史観)でとらえているか、いかにそこから踏み出さないかを歯がゆく思いながらそれに抗う雑誌づくりに励みましたが、こんにち海外の慰安婦像のニュースを見るたびに、気分は「日暮れて道遠し」です。

それでも「諦めない限り敗北はない」と信じて匍匐前進を…。

【関連】一人っ子政策廃止は「朗報」か?中国メディアが報じない人々の本音=ふるまいよしこ

無料メルマガ好評配信中

三橋貴明の「新」日本経済新聞

[無料 ほぼ日刊]
●テレビ、雜誌、ネットで話題沸騰!日本中の専門家の注目を集める経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、浅野久美(チャンネル桜キャスター)、青木泰樹(経世論研究所 客員研究員)、平松禎史(アニメーター・演出家)、宍戸駿太郎(國際大学・筑波大学名誉教授)、佐藤健志(作家・評論家)、島倉原(評論家)、上島嘉郎(ジャーナリスト/元「正論」編集長)などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り! 日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。