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一人っ子政策廃止は「朗報」か?中国メディアが報じない人々の本音=ふるまいよしこ

10月30日、1978年から40年近く中国で実施されてきた「計画出産」計画の見直しが発表された。これまでの「夫婦1組に子供1人」という、いわゆる一人っ子政策が廃止され、今後は夫婦1組につき子供2人まで持つことが全面的に許可されることになった。

実際にはその日からすぐに許可、というのではなく、2016年より順次計画出産に関する法的根拠を改正し、それにもとづいて各地が実施条例を公布してからの施行となる。

だがこれまで、少数民族の多産許可、農村における一人っ子夫婦の多産許可、そして都市部も含めた一人っ子夫婦の多産許可…とじわりじわりと進められてきた「計画出産」改革は、ここに来て表向き大きな前進を遂げたのは間違いない。(ふるまいよしこ著 『§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな』)

一人っ子政策の「黒歴史」と2人目解禁への現実。国内の反応は

「2人目出産全面解禁」は「朗報」か?

偶然、その発表直後に東京の街角で1989年生まれの中国人留学生と、その話になった。彼女は「わたしはずっと兄弟が欲しくてたまらなかったのよ。当然のことでしょ?」と言った。

彼女は父親の仕事の関係で、小学校時代を日本で過ごした。彼女はその時に兄弟と遊ぶ同級生たちが羨ましくて仕方なかったという。

「家に帰ったらひとりぼっち。国を離れているせいもあって、家の中にはわたしのほかは両親しかいない。同級生たちは家に帰っても兄弟がいて、子供同士で遊べるなんていいなぁと思っていた」

中学生になってから戻った北京では、同級生たちがみな一人っ子であることに慣れきっていて、とても不自然さを感じたという。

「都会育ちの中国の同級生たちはそれなりに恵まれた環境にあって、独立独歩、そして自分中心で育ってた。だから、グループ活動ができないの。みんな、他人の意見を聞くよりも、まず自分の意見を通すことばかり考えているから」

大学時代に同級生たちとグループ作業をやろうとしても長く続かなかった。「他人の意見を聞きながら、それをとり入れて意見を取りまとめることが誰一人できなかった。みんなばらばら。まず自分が一番。小皇帝なんだもの。だから連帯感なんて生まれなかった」

中国では家の中だけではなく、外でも「一人ぼっちだな」と感じ続けていたという。

わたしが北京で暮らしていた頃、付き合う友人たちの中に占める「一人っ子世代」はますます増えていた。彼らと話していると、彼らが「一人っ子であること」は社会における「言わずもがなの前提」として捉え、すべての話題がそうした現実を元に進むのが普通だった。

そんな「一人っ子」生活を「寂しい」というのを聞いたのは、日本の大学院に留学してすでに5年になるというその彼女が初めてだった。それは幼い頃になまじ日本の小学校生活を彼女が体験したせいなのだろう。

その彼女も、「わたしの妹が…」と言いかけて、笑った。「わたしたちは一人っ子で兄弟がいないから、いとこたちを兄弟代わりにこう呼ぶのよ」

そう。一人っ子世代の彼らにとって、父や母方の同世代のいとこたちが「兄弟」なのだ。だが、親の故郷を離れて都会に暮らすようになった核家族にとっては、その「兄弟」もただの呼び名に過ぎない。

実際に彼女自身、今秋日本に留学して来た「妹」を預かっているうちに、習慣も違うし、一緒にアパートを借りて住むのは難しいかなと感じ始めたそうだ。

「人口ボーナス」という目標

これまで約40年間、一人っ子政策は以下のようなさまざまな「定説」がスローガン化され、推進されてきた。

「中国の人口分布はばらばらで、チベットやウイグルは居住に向かないから、面積が広
くても外国と同じにはいかないのだ」
「一つのケーキを10人で分けるならともかく、100人で分けるとどうなる?」
「人が増えると使う資源も増える。そうすれば一人あたりの資源が少なくなっていく」
「都市はもうぎゅうぎゅう詰めだ。不動産価格もうなぎのぼり。これ以上人が増えたらどうする?」
「子供が少なければそれだけ潤う。産めば産むほど貧しくなる」
「産むのは一人でいい。年をとったら政府が養ってくれる」

だが、これらの口語化された物言いに対して、今回の「2人目全面解禁」は、「人口のボーナスが減り、経済成長が減速した」ことを堂々と理由の一つとして論じている。つまり、すでに計画出産の掛け声が始まっていた1970年代以降に生まれた労働力が足りなくなり、それが経済成長鈍化原因の一つだというのだ。

これは明らかに、「人が増えれば資源は減る」「少なければ少ないほど潤う」としていたスローガンとは逆の現象である。さらなる現実として、経済成長が鈍化し、納税者の総体数も減れば、税収は減り、「年をとったら政府が養う」というスローガンの実施も怪しくなる。

また、一方では労働者全体に占める第1次産業従事者の数が1970年代の80%から2014年には全体の40%を切り、逆に第3次産業従業者が1970年代の約10%あまりから、今では40%を超えるに至っている(※中国、見えてきた第13次5ヵ年計画と現状を確認)。

つまり、経済を担う労働者の総数が全体的に減っている上に、「生産」に携わる人が激減していることが分かる。

「一つのケーキ」も「一人あたりの資源」も、分け合う人が多いか少ないかの前に、つくり手がいなくなっているのが中国の現状なのだ。

つまり、生産の総数が減り、小さくなっていくパイをもっと多くの人たちが奪い合い、価格だけが高騰する――それは、先に上げた「一人っ子政策」がその目指していた目標と大きく反するものだったという証明でもあった。

Next: 「一人っ子政策」という黒歴史。心や体に傷を負った親たち

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ふるまいよしこ/フリーランスライター

北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港で広東語を学び、雑誌編集者を経てライターに。主に日本メディアがあまり伝えない中国社会事情をリポート。2003年から10年まで作家村上龍氏主宰のメールマガジン「Japan MailMedia」に中国レポート「大陸の風」を寄稿、2011年から14年6月まで「ニューズウィーク日本版ウェブ」でコラム「中国 風見鶏便り」を連載。
2014年に14年間の香港生活、13年半に渡る北京生活を終えて、日本に帰国、同年7月から2015年6月までニュースサイト「NewsPicks」編集部でアジア・中国ニュースを担当した後、現在フリーランス。新刊準備中。
著書:『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)
共書:『艾未未読本』(集広舎)、『中国超入門』(阪急コミュニケーションズ)
個人サイト:§ 中 国 万 華 鏡 § 之 北京ごろごろ日記
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