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マツキヨとスギ薬局、異例のココカラ争奪戦へ。ドラッグストアの成長は頭打ちなのか?=栫井駿介

ドラッグストア業界に再編の波が打ち寄せています。4月26日にマツモトキヨシ<3088>がココカラファイン<3098>との資本業務提携の検討を公表しましたが、30日にはスギHD<7649>も経営統合の提案を持ってきたのです。

わかりやすく言えば、マツモトキヨシがココカラファインに告白した直後に、スギHDがプロポーズしたようなものです。マツモトキヨシも負けじと、結婚(経営統合)を含む検討を始めています。ココカラファインはモテモテなのです。

場合によっては、3社による経営統合もあり得るでしょう。好調が続くドラッグストア業界に何が起きているのでしょうか。その詳細を紐解きます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜ好調なドラッグストアで再編が必要?業界全体に暗雲が迫る…

スーパーとコンビニの需要を取り込んで一人勝ち

ドラッグストア業界はこの10年程度、飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大してきました。消費が頭打ちの国内市場において異色の存在です。

あなたの身近でも店舗数が増えているのを実感できるのではないでしょうか。その要因は品揃えと価格設定にあります。

ドラッグストアには、薬だけでなく日用品やお菓子、さらには生鮮食品まで置いてあります。深夜や24時間営業も多く、ちょっとした買い物をするには、スーパーよりも手軽で、コンビニよりも安いのです。

例えばジュースとお菓子を買いたい場合、同じ距離にドラッグストアとスーパーとコンビニがあれば、私なら間違いなくドラッグストアに行きます。

豊富な品ぞろえと低価格を可能にしているのが、医薬品の販売です。高齢化の進展で薬を買う人は増えている一方、価格を気にする人はほとんどいません。そのため、薬の販売は高い利益率を維持できます

医薬品で生んだ利益を、日用品の値下げに回して普段から客をひきつけておけば、ついで買いや必要な時に、また利益率の高い薬を売ることができるのです。この好循環が、ドラッグストアの急拡大につながっています。

冒頭の3社も例外ではありません。

業績・利益ともに拡大を続けてきました。いずれも実質無借金で、財務的にも健全です。

Next: なぜ好調なドラッグストア業界で再編が必要なのか?



市場の頭打ちは近い?経営者の思惑を読む

それでは、これだけ好調な業界でなぜ再編が必要なのでしょうか。

一般的に、市場の成長が止まり、業界内の競争圧力が高まった時に再編機運が高まります。あれだけ好調だったコンビニも、いつの間にかセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの3社に集約されました。スーパーも、イオン系とそれ以外という状況です。

業界内での再編が進めば、取り残された企業は苦しい状況になります。売っているものの差別化が難しい以上、規模は正義だからです。規模があれば、プライベートブランドの販売や物流コスト、商品購買力で有利な立場に立つことができます。

さらには、エリア内で店舗数が過剰になった場合、グループ内であればジリ貧になる前に機動的に再編することができます。これが、寡占企業が取る行動です。

ドラッグストアの経営者たちはすでに市場の頭打ちを見越した行動を取っていると考えられます。うがった見方をすれば、彼らはドラッグストア業界の頭打ちは近いと見ているということです。

独立独歩のマツキヨ、攻めのスギ、都会育ちのココカラ

マツモトキヨシは、この業界の先駆けとして有名です。1932年に創業し、一貫して薬の販売を続けてきました。他社が合従連衡に走る中、小規模な買収を除いては独立独歩の経営を続けてきました。その姿勢は、売上高が業界1位から転落しても変わりませんでした。

そのため、ココカラファインへの資本業務提携・経営統合の提案は驚きをもって受け止められています。それだけ、ドラッグストア業界は再編待ったなしということです。

マツモトキヨシとは対照的なのがスギHDです。積極的なM&Aや出店攻勢により、規模を拡大してきた経緯があります。2006年の売上高はマツモトキヨシの半分にも及びませんでしたが、直近では間もなく追い越すというところまできています。

状況から察するに、スギHD次の買収候補としてココカラファインを狙っていたのでしょう。そこへマツモトキヨシとの提携話が出てきたため、慌てて自らも提案したというわけです。拡大に積極的なスギHDらしい動きと言えるでしょう。

モテモテすぎて困っているのが、ココカラファインです。

同社は2008年にセイジョーとセガミメディクスが経営統合して誕生しました。

セイジョーが東京、セガミメディクスが大阪の企業だったことから、関東・関西の都市部に強い特徴があります。マツモトキヨシは関東、スギHDは中部地方が主力ですから、いずれもココカラファインとは補完関係にあるのです。

【ドラッグストア各社の主要エリアと売上高】

これまでのドラッグストアの再編を見ても、ほとんどがエリア拡大のためのものです。まさに陣取り合戦の様相を呈しているのです。

Next: ドラッグストアは今後も成長を続けるのか?



割安な株価は市場の頭打ちを織り込んでいる

では、ドラッグストア企業への投資は有望なのでしょうか。株価を見ると、この1年間での下落が目立ちます。

出典:Yahoo!ファイナンス

下落要因は、相場全体が軟調なことや、これまで上昇してきた反動の売りが考えられます。特に後者に関しては、マツモトキヨシを例にとっても10年で一時は4倍にまで伸びました。「そろそろ刈り入れ時だろう」と考える投資家が少なくないのです。

出典:Yahoo!ファイナンス

PERを見ると、かなり買いやすいところまできました。マツモトキヨシが13倍、スギHDが18倍、ココカラファインが15倍です。ここから大きく成長しないとしても、決して割高な水準ではありません。むしろ、これまでの成長を踏まえると割安にすら見えます。

ここで、投資家がどのように見ているのかを考えなければなりません。私が想像するに、すでに株価は市場の飽和を織り込んでいるのではないかと思います。国内で活動する限り、市場がどこまでも伸び続けることはありません。

単に成長が止まるだけならさほど問題にはなりませんが、その先に待っているのは競争激化です。1店舗あたりの客足が鈍れば、やがて固定費が重荷となり急速に減益が進みます

コンビニ業界でも見られた現象

これはコンビニ業界でも見られたことです。コンビニ業界は東日本大震災以降絶好調でしたが、ピークをすぎると減益に転じました。急速な拡大は、どこかで逆回転を生むのです。

ローソン<2651> 業績推移(出典:みんかぶ)

ドラッグストア業界の再編の動きは、まさにこれを見越したものと言えるのです。

Next: 決して悪い投資対象ではない?ドラッグストアの勝ち組はどこだ



勝ち組として残れそうな企業を吟味すること

もちろん、特定の地方などでは、まだ出店余地が残されている可能性もあります。それを発見できるなら、今の株価は安いと言えるでしょう。単純に医薬品の需要だけを考えても、高齢化にともなって拡大が想定されます。

プラスとマイナス、両方の要素が考えられますが、決して悪い投資対象ではないと考えます。どの会社の財務状況も健全です。あとは、この中から勝ち組として残れそうな企業を吟味することが大切です。

これまで破竹の勢いで拡大してきた業界ですから、今後も株価の動向や再編の動きから目が離せません。ドラッグストアに行ったときは、業界の動きを思い返しながら買い物してみてはいかがでしょうか。

image by:Torjrtrx / Shutterstock.com | okumeigakarinoaoshima at Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons | MASA at Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年6月21日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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