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G20終了で市場は「米中雪解け」の評価。中長期の視点では米市場のバブル相場に警戒=山崎和邦

6月いっぱいは売買代金2兆円未満の日が多く、戻り高値圏の中間地点で閑散相場となった。G20が首尾よく運び、7月はどのような相場となりそうか。(山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2019年6月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

直近の市況を振り返りつつ、これから中長期の市場について

6月いっぱいの市況を振り返れば…

6月末の2日は連続して東証一部の売買代金が2兆円を超えたが、6月いっぱいは2兆円未満の日が多く、戻り高値圏内の中間での閑散な状態が続いた。

月末は25日線を辛うじてクリアして終わったが、昨年10月2日の「老年期相場大天井」(2万4,400円)~12月25日の「陰の極」(1万9,000円割れ)までの下げ幅の半値戻り(約2万1,700円)をも超えることができず、“Sell in May”の5月を過ぎたが、6月はこのような状態で終わった。

また、ドル換算の日経平均で「200ドルの壁」をもクリアできなかった。日本株は例えばPER12倍というように、先進諸国の中で最も割安であるままに今年半年は過ぎた。

週末の米国市場は米中首脳会談への期待から小幅高、NYダウは+73ドルで4月の最高値に近づいた。6月の月間騰落率は+7.1%と、Sell in Mayの5月の▲6.6%を取り戻す動きとなった。

日本市場の日々の市況は短期の個人投資家の売買で値動きの軽い中小型株中心の動きであったし、一日で持ち株を手仕舞う「日ばかり商い」組と言われるデートレーダーが主体で勢いはなかった。

また、海外投資家も局地戦指向ばかりだったようだ。海外勢は現物株を7週間連続売り越した。4月最終時点で1.6兆円まで増えた累計買い越し額は、約0.7兆円まで萎んだ。

世界の中で最も出遅れている日本株を海外勢も国内投資家も局地戦と小型株中心と日ばかり商いに走って、力強い相場はなかった主因は本稿の書き出し部分で「用心深くあれ」と呼びかけた背景として5項目挙げたが、これが横たわっている。

G20の際の米中会談が成功裡に運び株高を呼んだとしても、世界景気に最も敏感な日本株を果敢に買い続けるという動きはとりにくいであろう。

Next: 首尾よく運んだG20に見られた、安倍首相の活躍



G20は波乱要因を含みながら前回のような決裂状態は避け得た

米中会談は平和裡に終わった。米が追加関税を見送った。共同声明も出せた。一応の成功と見られる。議長国の安倍首相のカオも立った。

さらに米はファーウェイに米製品を売らないと言っていたことを撤回した。「米中雪解け」が市場で前向き材料として評価されるだろう。

まず、安倍首相はG20会議に先立ってトランプと短時間だが会談し、日米同盟の確認と貿易問題の早期解決とを約し、為替問題も避け得た。「議長国の首相としての僕の立場を配慮してくれ」という意味の事前の調整だったのであろう。

一応の共同声明は成立しての解散だったから、議長国の安倍首相の役割は果たせたということになろう。選挙に役立つことはもちろん計算済みだ。何しろ「外交の安倍」だから。

米朝会談の決裂のようなことになることを恐れたのは、むしろ中国の方だったろう。習近平は人民の手前、メンツを立てることに腐心してきたが、本心は米中摩擦で経済が壊れることを最も気にしているはずである。習近平は、トランプが演説する場面を欠席する予定だったらしいが安倍首相が出席を求めたので出席したという経緯があった。安倍首相は議長国として頑張ったのであろう。

一方、トランプも来年の再選に向けて経済が壊れてNY株が下がることを何よりも恐れているはずだ。しかし支持層に対するポーズもある。

前回のG20は共同声明が合議に至らず、端的に言えば失敗に終わった。アメリカが「保護貿易と闘う」という文言を削除するようにこだわったからだ。

今回もトランプは事前に同盟国にさえも矛先を向けてから日本に来た

「今までアメリカを利用尽くした国々(貿易相手として最大手の中国・日本を指す)とG20で会うのが楽しみだ」「彼らはアメリカ合衆国を利用し尽くしてきた」と「憎まれ口」を敢えて飛ばしながら大阪に向った。

開幕前に大阪市内で開いたBRICSの振興5か国は、米国を保護主義と決めつけ、カドの立つ用語で世界経済の公正な新モデルを作ろうと呼び掛けたが、安倍首相がカドの立つ言葉を避けて抽象的な言辞で共同宣言をまとめようと努めた

議長国の議長たる者の責務であるが、さすがに「霞が関文学」で磨かれてきた官僚の作った文言であろう。

一方、米中の対立の隙を突いてロシアとインドは台頭しようとしている。

また一方で、欧州勢は精彩を欠いた。無理もない。彼らの国内はナショナリズムとポピュリズムが幅を利かせつつあるから。

各国が国益をかけて闘いながら表面的には仲良く開催して(抽象的文言ながら)国際協調を誓い合って笑顔で解散した、こういうG20であった。

200年前、ナポレオン戦争の後のウイーン会議は「会議は踊る」と揶揄されたが結果的には難渋しながらも問題は決着させた、これと似たG20会議だったろう。ただし、ウイーン会議で名を馳せたメッテルニヒ・タレーラン(※注)のように200年後まで安倍首相が語り伝えられることはないであろう。

注:ナポレオン戦争の終結処理のために、ロシア、イギリス、プロイセン、オーストリアの四大国からなる委員会の議長にメッテルニヒが選出された。彼が最初に行ったことは、タレーラン仏代表を参加させることの同意を委員からとることだった。

これを今回のG20会議で習近平がトランプの演説場面を欠席する意図を止めさせるべく安倍首相が説得して出席させたこと比較し、安倍ファンが200年前のメッテルニヒと比べたがるかもしれない。一方、仏代表のタレーランは外交の名人として名高い人だった。

Next: 売買代金2兆円割れが続いた6月、閑散に売りなし



「閑散に売りなし」の一方でPERが100倍を超える銘柄が激増

閑散に売りなし」という。「(幹事長の)菅(かん)さんに売りなし」などというつまらない戯言が流行っている。文字通り6月7日以降は、ほとんどの日が東証一部の売買代金が2兆円を割った。これは約4年半ぶりの低水準である。その後も2兆円が2日あったのみで2兆円割れが続いた。

一方PERが100倍を超える銘柄が激増している。上場企業の5%に匹敵する銘柄がPER100倍を超える。日経平均のPERは12倍だから特殊な172銘柄(PER100倍以上のもの)に資金が向かっていることになる。「ものづくりに強い日本」であったはずだが、サービス業が今年に入って日経平均の株価上昇を大幅に上回って上昇した。

チャートに見る「日経平均200ドルの壁」

日経平均をドルで測って200ドルになったところが上値抵抗線となってきた。2018年の10月と12月、今年の4月及び今年の5月末である。昨年秋以降4回にわたって「ドル換算で200ドルの日経平均」は上値抵抗線として跳ね返されてきた

これは東京市場の半数以上を占める海外投資家が日経平均をドル換算で見ているからである。また、海外投資家の日本株に対する関心の低さの現れでもある。

「ND倍率」の落ち込みは、日本株が出遅れているということになる

日経平均株価とNYダウとの比率は「ND倍率」と言われているが、これが0.8倍に落ち込み、この状態はアベノミクス相場の初期の状態であり、約6年半ぶりのことだ。

それだけ、日本株が出遅れているということになる。このND倍率は6月に入ってから急速に落ち込んだ。

中長期の見方:景気下降を予防するための好景気中の予防的利下げ反復は危ない

これは本来、小型バブルか大型バブルを生む原因になることが多かった。米景気がなお堅調な中での予防的利下げは、株式相場を過熱させてバブルの発端になったのは1990年代後半の米国であった。これがITバブルにつながった。

また、80年代後半の日本であった(澄田日銀総裁の時代)。これが平成大バブルの源の一つとなった。

米国株は過去最高圏内にあり、SP500種株価は20日に史上最高値を付けた。こういう時に予防的利下げをすると、過度なバブルを引き起こす原因となりやすい。景気後退に陥っていないのにFRBが利下げをして、1995年7月、1998年9月の2回でITバブルをつくる結果となった。

日本では80年代後半の連続利下げであった。両者ともに株価上昇を加速させ前者はITバブルをつくり、後者は(国土庁発表の土地バブルを煽るかのようなレポートも大いに影響したが)事前の予防的利下げは平成大バブルの原因になった。

日本株は投資家に警戒心が強く米国株が上がっても薄商いの膠着状態が続いている。しかしNYが下がれば、陶酔的過熱相場がなくても一人前に下がる。ここが用心のしどころだ。ITバブルの下げもその後のリーマンショックの下げもBREXITの下げも、日経平均が一番派手に効いた。

Next: 米株市場のバブル相場を警戒するべき理由とは?



「大暴落」の前には必ず「熱狂的な陶酔(ユーフォーリア)」がある

この命題はかなり高い確率をもって真であるとする。そうすると、この「命題の対偶」は「熱狂的な陶酔がなければ大暴落はない」ということが真であることになる。「AはBである」の命題が真であるとすれば、「BはAである」は真である時もそうでない時もある。これは論理学上「『命題の逆』は必ずしも真ならず」と言う。

または「AでないならばBではない」は必ずしも真ではない(「『命題の裏』は必ずしも真ならず」、である)。

ところが、「BならざるものはAではない」。これは常に真である(「命題の『対偶』は真である」ということになる)。

くどいようであるが、多くのエコノミストやストラテジストと称する人たちは、この論理の基礎的な組み立て方の法則を無視して語るケースが多い。

念を押すが、陶酔的熱病と言えるほどの活況相場がなければ大暴落と言えるほどの下降相場は起きない。

言い回しの問題はともかくとして、日本市場に熱狂的相場がなくもNYにそれが起こって暴落すれば日本株も一人前に暴落する。これが現実であろう。

現実に株価が大幅下落する要因は大別して3つある。米中貿易戦争の長期化、消費増税の強行、FRBの動向、この3つであるとしよう。

中長期の見通し:均衡為替レート

日本経済新聞社と日本経済研究センターは、外国為替相場は長期的に見たら経済のファンダメンタルズで決まるという考え方から独自の均衡為替レートを算出した。

御承知の通り為替相場は、財・サービスの輸出入という実需とともにその何倍、場合によっては何百倍もの投資行動によって左右され、または覇権国の意向によって大いに左右されてしまうという面があるが(プラザ合意の例等)、長期的にはファンダメンタルズによって決まるという考え方である。

その考えに基づいて前掲2者は「日経均衡為替レート」を算出した。それによると円相場の理論値は2019年3月時点で「107円台前半」となった。国内の経済実態を写す種々のマクロ経済の指標から見て妥当な水準を言う。

これは為替相場の予想には向かないと筆者は見るが、割高か割安かを見る客観的な尺度にはなると思う。19年1月~3月時点では107.2円が理論値だった。同期間の相場実態は平均110円だった。均衡為替レートの算出の仕方には様々あり、英エコノミスト誌が長年やってきた「ビッグマック指数」(マクドナルド・ハンバーガーの)が有名だが、筆者はこんなものは昔から信じていなかった。いくら世界中で販売されているものとは言え、購買力平価を数百円の物で計測はかるべきではない。

筆者は理論値よりも「相場は相場に訊け」にしたがって企業卸売物価指数の40ヶ月移動平均の40%上下乖離をもって上限下限と見てきた。この見方は概ねこの30年間は大きくは外れなかったが、プラザ合意のように覇権国家の意向によってどうにでもなることは事実だ。

一方IMFは、経常収支という外貨を稼ぐ力を指標として計測してきた。これの方が英エコノミスト誌のやり方よりも妥当性がある。

ともかく、日経新聞社と日本経済研究センターの均衡為替レートの算出によれば理論値は107年、米利下げなら105円、これが妥当だと言う。

ところで、18年度の日本企業の想定為替は99円台だった。したがって多少の円高に振れても輸出企業が直ちに減益になることはなさそうだ。

Next: アベノミクスは企業成長に効果を与えたのか?



円ドルについて、「緩やかに100円に迫る」

標題は榊原英資元財務官の言い分である(日経ヴェリタス紙6月23日号)。金融政策の正常化議論がしぼみ、先行き不透明感から緩和狂騒の気配が濃くなっている。そこで榊原英資氏は「円相場は来年はじめにかけて緩やかに1ドル=100円に迫る」と語っている(前掲紙6月23日号)。

中長期の見方;日本の企業は円高をそれほど恐れていない

標記の件は、内閣府が毎年実施している「企業行動に関するアンケート調査」による。

それによれば、企業のドル円レートの採算点は18年度は99.8円だった。26日に5ヶ月ぶりの106円台を見たが、輸出企業は多少円高になっても採算がとれる体制をとっている。

アベノミクスの経済政策は企業の長期的成長マインドにほとんど影響を与えていない(企業が考える中期的な中長期の経済成長見通しは、アベノミス始動の年の12年度に1.1%だったものがその後13年・14年には1.4%に高まったが、18年度には1.1%に減り、まさしく「行ってこい」になってしまった。

アベノミクス政策は短期的に経済を刺激することには成功したが、中長期的な成長力の活性化にはつながらなかった、ということになる。

そもそも論で言えば「生産の伸び率=(雇用の増加率)+(労働生産性上昇率)」である。この企業の生産性向上への取り組みは不十分だったと言わねばならない。

雇用増は大いに結構なことであるが、生産の伸び率につながっていない。つまり、「第三の矢」は、当メルマガでアベノミクス始動期から述べているように民間企業がやることであるから政策的に持って行くのは難しいのだ。

中長期の見方;トランプの行動

米下院は民主党が多数だから、トランプに対する調査委員会の委員長は民主党が占めることになろう。トランプのロシアゲート疑惑はもとより選挙資金不正利用疑惑・脱税疑惑まで徹底的な調査を進め得ることになる。そこでトランプは何とかして米国民の目をそらせようとする。

それはもとより議会を通さずに遂行できる外交と通商である。これを通して大統領はアピールしようと図るだろう。また、大統領は非常事態宣言を出せば議会を通さずに、平時では制限されている権力を自由に行使できる。したがって、国家資金も議会を通さずに支出できる。今年の2月にトランプはメキシコとの国境の壁の建設資金を出させるために国家非常事態宣言を出した。

彼はほとんど全てを「思い付き」でやっているように見えるが実はそうではなく、来年の再選に向けて全てを計算し尽くした行動であろうと筆者は思う。したがって来年の秋に向けて、トランプはますます飛びぬけたことを突然に言い出すことになろう。

トランプ大統領の弾劾を巡って民主党が二つに割れている。下院で過半数を握る民主党が弾劾決議案を可決したとしても、上院の弾劾裁判で有罪判決が出なければ大統領は罷免されない。上院を支配する共和党が自らのリーダーに対して有罪判決を下す道筋は考えられない。

民主党の中でもトランプ弾劾に反対する一派もある。例えば、下院議長もそれに与する者である。今弾劾に踏み切ったら、かえってトランプ支持者の結束力をたかめるだけで逆効果だという読みだ。

弾劾の効果を最大に高めるためには大統領選挙の寸前まで待った方がいいという考えだ。弾劾を急ぐ民主党議員はトランプ支持者の団結を高める刺激剤となるだけであり、トランプの思う壺になるという考えだ。トランプ自身も弾劾されれば支持者の凝集力を高め支持率が上がると信じていると勘繰る向きもある。

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第1部;7月は高く始まろうがその持続性には問題ある。用心深くあれと呼び掛けたい

第2部;当面の市況

第3部;中長期の見方

第4部;念のため、筆者の基本的スタンスを要約しておきたいと思う

第5部;「2000万円問題」の金融庁の真意

第6部;読者との交信蘭

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※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2019年6月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2019年6月30日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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