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2019年秋のGDP低下で…ドイツ銀行が抱えるリスク、デリバティブ契約は銀行平均の8.3倍=吉田繁治

ドイツ銀行の破たんがあらためて懸念されています。そこで今回は日銀より早くゼロ金利からマイナス金利を敷いた、ユーロの金融機関がかかえる問題を解説します。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2019年7月18日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

世界的な株高のなか、異常に低い株価から見えるドイツ銀行の危機

ユーロの銀行危機を集約するドイツ銀行

19か国で構成する、ユーロ最大の銀行であるドイツ銀行(総資金量1.77兆ドル=運用資金195兆円)に集約された「ユーロの銀行の危機」をとりあげます。三菱UFJの総資金量が2.79兆ドル(307兆円)ですから63%の規模です。

ドイツ銀行は民間の銀行です。名前から間違えやすい中央銀行ではありません。統一通貨ユーロの加盟する、ドイツの中央銀行はユーロのECBです。ユーロはドイツが加盟したというより、ドイツが作ったと言うのが正しい。

矛盾した統一通貨の中の、ドイツ銀行

ユーロは経済の生産性と水準が異なり、財政赤字が3%以上の南欧を抱え、矛盾を内包した統一通貨です。ドイツが、「経常収支の構造的な赤字」(=ドルの増刷になる)から、価値を下げ続ける基軸通貨のドル」から逃れるために作った通貨がユーロです。

欧州が、再び、第二次世界戦のような国家間の大戦争を起こさないための統一通貨とされていますが、それは名目上の目的にすぎません。ドイツが、対外的な貿易黒字によって貯めていたドルが、プラザ合意(1985年)で、マルクに対して1/2に切り下げられ、ドルを貯めていたドイツ(と日本)が大きな損をしたことがきっかけでした。1985年から、15年かけてじっくりとユーロを作ったのです。このときは、ことあるごとに。ドイツには反対するフランスも、ドルの価値低下に苦しんでいたため、賛成したのです。

「最適通貨圏の理論」を作ってノーベル賞を得たマンデルは、国家を超えて統一通貨(最適通貨)にするには、生産性の水準を同じに向かわせるために「労働の移動の自由」が必要としていました。

しかし、EU内で移民風な労働の移動があっても、ドイツ、フランス、南欧のGDP生産性(GDP÷労働者数)の格差は解消しなかったのです。そして南欧では、ユーロ加盟条件を満たさない3%以上の財政赤字が続きました。

成立上の矛盾をかかえていても、統一通貨なら、加盟19か国のユーロの内の貿易決済は、ドルを使わずユーロで決済できます。

ユーロの為替レートは、{(ドイツ)マルク+(フランス)フラン+(南欧)南欧通貨}として、GDPの構成比をかけて平均化されるため、ドイツにとっては常にマルクより安い。南欧諸国にとっては常に高い。このためドイツの貿易黒字は、恒常化します。貿易黒字のため、ドイツにユーロが集まり続けるということです。

1999年の統一通貨のあと、ユーロはドイツ銀行に集まりました。ドイツ銀行は、そのユーロを国内より高い金利をもとめて、南欧、東欧、中東、アジア(中国)、アフリカ、つまり海外に貸し付けていたのです。

Next: ドイツ銀行の危機は、いつ、なにをきっかけに起きたのか?



まず4年前だった

ドイツ銀行の危機が最初にいわれたのは、2015年の7月から16年9月にかけて17ユーロ台から6ユーロ台に下がったときでした。
※参考:Investing.com ドイツ銀行

ドイツ銀行の株価は、リーマン危機の前の2007年にはおよそ100ユーロでした。

08年9月のリーマン危機のあとは、
・米国MBS(不動産ローンの回収権を担保とする証券)の下落と、
・CDSとCDO(債権の回収を補償する保険)の保険料の高騰と、保険金支払いリスクの上昇が、
・それらを売買していた欧州の銀行に波及し、ドイツ銀行の株価も20ユーロ(1/5)に下がっていたのです。

ECBによるユーロ増刷(4兆ユーロ:484兆円)という対策

米国大手銀行の実質的な同時破産(支払い不能からのデフォルト)の波及の危機は、加盟19か国の金融政策を実行している中央銀行(ECB)が、
・緊急の貸付、
・下がっていた南欧債の買い(金利は上昇)、
・ゼロ金利策の3セットを実行し、
ドイツ銀行の株には、再び投資家の買いが起こって30ユーロ台に回復していました。

16年9月には6ユーロ台に下がったのです。そのあとは例によって、再びECBからユーロ増発の救済策がとられ、17年3月には16ユーロ台に上がりました。

【19年7月の株価】

しかし19年7月には、再び6ユーロ台に下がっています。コメルツ銀行との合併策が、相手の拒否によって破談したためでもあります。

その後は、政府がお金を出した旧国鉄の清算事業団(不良債務30兆円)のように、「不良債権を切り離すバッド・バンク構想(600億ユーロの資金)」が出ています。

ただし、メルケル首相は、政府はドイツ銀行を救済しないと言ってきました。しかしいざとなれば、「大きすぎてつぶせない」という、リーマン危機のときの非論理を繰り返し、バッド・バンクにマネーを出す可能性はあるでしょう。可能性は70%でしょうか。

【20%の雇用カット】

ドイツ銀行は、全職員の20%にあたる1万8,000人の解雇を発表しています(19年7月7日)。世界の大手銀行は、普通、顧客からの信用を維持するため、経営危機を示すことになる社員の大量解雇は行いません。

預金取り付けの恐れがあるので、銀行危機は言われない

債務超過(不良債権の金額が、自己資本を上回ること)の危機があるという市場の認識が広がると、預金取り付け(預金の一斉非引き出し)になる可能性が生じるからです。

大衆の預金取り付け、または多くの大口預金者の預金引き出し(送金)があると、銀行は、自己資本がいくらあっても短期間で潰れるからです。

Next: ドイツ銀行が破産したら、ペイオフの金額は?



預金のペイオフの上限は、242万円と低い

ドイツにも、銀行が破産したとき預金の引き出しを保証するペイオフの制度はあります。上限は、2万ユーロ(242万円)であり、日本のペイオフ(1銀行で1,000万円が上限)よりはるかに低い。ペイオフでは、米国が上限10万ドル(1,100万円)、英国が最大3万1,700ポンド(427万円)です。日米が高く、欧州は低い。

企業等の決済性の預金(金利のつかない当座預金)は、銀行が破産しても政府が全額を補償します。企業の、大きな支払いに対してペイオフをすれば。経済が回らなくなるからです。

10ユーロ以下の大手銀行株

ユーロの銀行の株価では、10ユーロ台以下は経営破産を示す水準でしょう。

銀行は、公表するバランスシート(B/S)は、いつも正常としかしません。世界中の銀行で不良債権の自己開示はない。実質的に不良債権であっても、自己評価はしないのです。

外部から検査するしかない(これがストレス・テスト)。投資家は、不良債権を推計して、株価を6ユーロの破産水準に下げています。ストレス・テストにも、危機の銀行に対しては、政府と銀行間で取り付けをふせぐための「お手盛り」があるからです。

【海航集団の王健会長の、不審な死】

ドイツ銀行の大株主は、中国の航空会社グループというより、共産党が直轄している海航集団になっています(7.6%の持ち株)。ドイツ銀行の貸付が中国にも多いからです。

海航集団の王健会長(56歳:共産党員)は、フランスの海につづく15メートルの断崖で、なぜか不自然に、写真撮影のためのポーズをとっていたとき脚を滑らし転落したとして死亡しています(19年7月4日)。落ちる危険のある、危ない断崖で写真を撮る人がいるでしょうか?

奇妙な事故です。海航集団の負債は、7,400億元(12.3兆円)と言われ、資金繰りに窮しているとされます。王健会長は、習近平主席の盟友である王岐山国家副主席と、共産党内で深い関係がある人と言われます。

ドイツと南欧の大手銀行の株価は、軒並み、破産水準

ユーロの大手銀行の株価は、共通に低くなっています(19年7月)。左が2007年以降の最高価格の水準、右が現在の株価です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フランス BNPパリバ     80ユーロ → 43.2ユーロ
イタリア ウニクレディト  374ユーロ → 11.7ユーロ
イタリア モンテパスキ   566ユーロ → 1.6ユーロ
スペイン サンタンデール  14ユーロ → 4.2ユーロ
ドイツ コメルツバンク   300ユーロ → 6.6ユーロ
ドイツ ドイツ銀行     100ユーロ → 7.2ユーロ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

フランスの最大手BNPパリバは、若干ましです。

しかし、イタリアのウニクレディト(11.7ユーロ)、モンテ・デイ・パスキ・デイ・シエナ(1.6ユーロ)は、破産水準の株価です。スペインのサンタンデールも4.2ユーロでしかなく、破産水準です。

【コメルツ銀行もバッド・バンク】

ドイツ銀行との合併が進んでいたコメルツバンクも、株価が6.6ユーロであり、これも破産水準です。ドイツ銀行と合併しても、救うことはできなかった。バッド・バンク同士の合併だからです。

株を買う投資家は、見誤れば損をするので、銀行バランスシートと損益計算書に隠れた嘘を見抜いて、真剣に価格をつけています。

その国の大手銀行は、資産の検査をする政府・中央銀行とも一体であり、中国の銀行のように、不良債権を進んで公表することは、ないからです。

Next: 世界経済の行方を握る鍵は、英国のユーロ離脱と米中貿易戦争



2019年の世界経済の減速という要素

英国のユーロ離脱と、米中貿易戦争からの波及により、世界経済が減速に向かっています。

これはリーマン危機期のあと、ゼロ金利と中央銀行の通貨増発から、負債が返せないくらい大きくなった、中国を筆頭にした世界中の企業債務の悪化を意味します。

現在、銀行の貸付金の不良債権は、全体のマクロ経済から増える要素はあっても、減る要素はない。世界経済の、近い問題(2019年秋)は、ドイツ銀行、銀行史上最大のデリバティブが、世界のGDP低下予想のなかでどうなるかです。

IMFは、2019年は3.3%に減速し、2020年は3.6%に回復としています。世界銀行は、2019年の世界の実質GDPは2.6%に減速するが、2020年は2.7%に上がるとしています。

両者の見通しにも、無視できない乖離があります。原因は、「英国のユーロ離脱と米中貿易戦争からの波及」を誰も見通せないからです。トランプ自身も、中国関税の結果をわかっているとは思えません。

デリバティブは、不良債権の隠れ蓑(みの)

ドイツ銀行の危機の内容を判定するには、デリバティブの仕組みと内容を知る必要があります。メディアとエコノミストが、十分な解説ができていないので本稿で行います。

本当なら、大きな損害をもたらす大地震の、まだ先の確率より大きく、報道の必要があるものです。自主規制しているのかも知れません。

リーマン危機のときも同じでしたが、資産の連鎖的な縮小を生んだ銀行のデリバティブの内容については、経済学者の発言もない。

【デリバティブは、金融リスクをマネー化した証券】

理由は、ブロックチェーンの仮想通貨とおなじように、
・ブラックショールズ方程式の確率計算に基づいて作られ、
・金融機関の相互がお互いに、確率的なリスクを負っているデリバティブの仕組みについて知識をもつ経済学者が、少ないことが第一です。

第2の理由は、多くの経済学者は体制側に立っていて、現代通貨論(MMT)のような通貨の増発を推進し、賛成する側だからです。

どこまで行っても「金融資産=別の誰かの金融負債」である

通貨の増発は、誰かの負債の増加になるものです。ゴールド以外のペーパーマネーは、「金融資産=誰かの金融負」という本質的な構造をもつからです。

預金者の銀行預金は、銀行にとっては負債です。国債は、持ち手にとっては金融資産ですが、発行した政府にとっては負債です。中央銀行が発行した通貨は、その持ち手にとっては金融資産ですが、発行した通貨は中央銀行にとっては負債です。

【20兆ドルの通貨増発】

米、欧、中国、日本の中央銀行は、2009年以降、合計で20兆ドル(2,200兆円)の通貨を増発しています。

増発されたマネーは、国債や債券のマネタイゼーションによって、金融機関の現金資産になると同時に、金融機関の間の借り入れ、企業の社債と借入、世帯の借り入れにおいて、6,000兆円以上の負債の増加になっているでしょう(2019年時点)。

Next: 世界の借金が不良債権化するときは…



世界の債務が急増した10年

2008年の世界の総債務は150兆ドル(1京6,500兆円)でした。10年あとの18年末は、世界のGDP8,000兆円の3.44倍の250兆ドル(2京7,500兆円)です(国際金融協会:JI.JI.com)。

最近10年で1京1,000兆円(67%)も増えています。リーマン危機のあとは、まさに、「大きな負債の上の、経済の宴」です。

【返せない負債の上の、宴の経済】

借金が過剰になっても、不良化せず借り入れを増やすことができるあいだは、使うお金(投資+消費+利払い)を増やすことができます。「GDP=企業所得+世帯所得」ですから、世界の所得の3.44倍の負債になっていると考えていい。

とんでもない金額の所得者も、世界中に現れています。アマゾンのジェフ・ベゾスの離婚(財産分与)では、4兆円が支払われています。自社株の時価総額が9,323億ドル(103兆円:19年6月)もあるからです。創業者として相当な株数をもっているからです。

株式は、返済の必要な借り入れではありませんが、会社にとっては資本の負債です。金利の代わりに、配当の支払い義務があります。株価が上がると、利払いにあたる配当額を増やさねばならない。

決済がなく、無限に使えるクレジットカードがあれば、生活は豊かになり続けますが(負債の上の饗宴)、決済のときが来ると、所得からは払えず(銀行債権の不良化)、一挙に、財産が差し押さえられて破産になることと同じです。

株価の上昇での金融資産の増加は、返済の要る負債の増加ではない。代わりに、「CEOが株価を上げ続ける義務」があるでしょう。米国の株価時価総額は、日本の6倍の3,000兆円です。

米国株の1,200兆円(40%)以上が、自社株買いによるバブル株価でしょう。この株価は、世界の負債にははいっていません。自社株を社債発行で買った$4兆(440兆円)は負債の一部です。

家計でいえば、年収1,000万円の世帯が平均で3,440万円(所得の3年分)の負債です。

借入金は平均化するものではない。ほぼ50%の大きな負債のある世帯だけでは、2倍の6,880万円(6年分)になっているでしょう。企業では、年間粗利益(付加価値という)に対して6年分の負債です。

これが日本、中国、米国、欧州の「政府+企業+世帯」の世界平均ですから恐れ入ります。250兆ドル(2京7,500兆円)の総負債は、返済と利払いがムリな金額です。ところが、世界の銀行の、不良債権の増加はまだ見えないのです。

CDSやCDO(両方とも債権の回収を補償する保険)するというデリバティブがかっている債権は正常債権になりますが、不良化するときは、6か月以内の短期でしょう。リーマン危機ときがこれでした。

Next: 銀行において、デリバティブが担う役割とは…



デリバティブ=債権の回収や将来収入に対する保険

危ない債権に対してはCDSやCDOとして、地震保険と同じ機能をもつデリバティブがかかっていてます。このため、借り手が返せない額に増えている銀行債権が、正常とみなされています

地震が起こらないときは、保険料が収入(利益)になるCDSやCDOの販売がもっとも多いのが、ドイツ銀行です。CDSやCDOをかけた債権に不良債権が増えるとドイツ銀行は、破産保険金の支払いができず破産します。

衣料の売り上げに所得保険がかかっている「天候デリバティブ」も、同じ仕組みです。数%の保険料を払って天候デリバティブを買っていれば、異常気象が原因になって衣料の売上が減ったとき、その減少分を補償されます。保険料は、異常気象が起こる確率で決まります。

地震保険でも広範囲の大地震が起こると、支払いができず、保険会社は破産します。このため、政府の再保険がかかっているのです。

BISが集計した、世界のデリバティブの総体

中央銀行の上の中銀行とされているBIS(国際決済銀行:スイス:バーゼル)が集計したデリバティブを、内容別に示します。

デリバティブは、金融機関の間の店頭の密室(Over The Counter)という意味で、契約されるものです。バランスシートには出ず、簿外の債権・債務です。

        相互契約額      現在の時価価値
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・通貨関連   $ 90兆(9900兆円)   $2.3兆(253兆円)
・金利関連   $436兆(4京7960兆円) $6.4兆(704兆円)
・株式関連   $6.4兆(704兆円)   $0.6兆(66兆円)
・コモディティ $1.8兆(198兆円)   $0.22兆(24兆円)
・CDS/CDO    $8.3兆(913兆円)   $0.19兆(21兆円)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 合計     $544兆(5京9840兆円) $9.6兆(1056兆円)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
出典:BIS

通貨、金利、株式のそれぞれに、先物、スワップ(交換)、買う権利・売る権利のオプション、その他の4種があります。

Next: 先物、スワップ、オプションの解説



【先物】

先物は、債券、株、通貨などの先物を売買するものです。ボラティリティ(確率的な変動率=標準偏差の2倍)が上がり、
期待金利が上がると、先物の時価価値は上がり
ます。逆なら下がります。

【スワップ】

スワップは、外貨や金利の、その時点の相場での等価交換(売買)の契約です。金利では、変動する短期金利と、固定金利の交換が行われます。

A銀行がもつ短期金利がたとえば0.8%、B銀行がもつ固定金利が3%のとき、交換したとします。A銀行は、3%の固定金利を受け取る(または支払う)ことになるので金利が高くなった代わりに、金利の変動リスクはなくなります。

一方で、B銀行は3%の固定金利の代わりに、A銀行がもっていた0.8%の変動金利を受け取る(または支払う)ことになります。直近の金利が下がった代わりに短期金利の、変動リスクをかかえることになるのでです。

金融機関の間のデリバティブ契約の中で、金利スワップが$326兆(3京5,860兆円)ともっとも多い。その時価価値は、いまは$5.6兆(616兆円)とされています。この時価価値は、中央銀行が金利を上げるとる上がり、金利を下げると下がります。

金融機関の中に、スワップ契約で損をするところと得をするところが等分に出ます。金利スワップの契約が、何重にもかかっていて、世界の金融資産額以上に大きくなっているので、中央銀行の金利政策が金融機関の利益を大きく左右しているのです。

この金利スワップは、従来の銀行間のコールローンに代わる機能も果たしています。

通貨交換(通貨スワップ)も、金利交換とおなじ仕組みです。通貨変動もこれにより、金融機関の収益を大きく左右しています。

ファイナンスの用語では、通貨の将来変化を確率的なリスクとしますが、通貨交換の増加により($24兆:2,640兆円)、通貨変動のリスクが金融機関の間で大きくなってます。

三菱UFJグループの、円での資金量の10倍もの通貨交換額があるからです。この通貨交換の増加により、どの国の銀行も海外通貨の変動リスクを浴びやすくなったのです。

世界の銀行が通信回線(お金の瞬間輸送路)で結ばれているので、銀行の立地する国は、あまり関係がなくなったと言ってもいい。世界同時に、ドルリスク、ユーロリスクに晒されています。

【オプション】

オプションの仕組みは、先物と似ていますが、将来の一定期間に、決めた金額で、通貨、金利、株、国債、社債などの債券を買う契約、または売る契約です。

予想がはずれると損をしますが、予想が当たると利益になるギャンブルと同じです。

【予想を戦わせるギャンブル】

デリバティブである先物、スワップ、オプションの契約の増加により、銀行のファイナンス(金融)は、
・クラシックな、貸付金利で稼ぐものから、
将来予想を買い手・売り手が戦わせる、エキゾチック金融のギャンブルと同じになってきたのです。

金利、株価、外貨は、価格の傾向は持ちますが、短期では、上下にランダムウォークするので、次のサイコロの目が1と出るか、2と出るかという勝負と同じになります。

明日の株価がいくらになるか、世界中の誰も「原因→結果」の根拠をもった予想はできないからです。当たっても、サイコロの目と同じ偶然のものです。

昨年、日経平均の過去20年5,000日の終値を集計すると、上がった日と下がった日は、きれいに50:50になっていました。ルーレットの白/黒や、奇数/偶数の丁半博打と同じです。

Next: ドイツ銀行のデリバティブ契約は平均の8.3倍…



デリバティブ契約が、歴史上でも世界1大きなドイツ銀行

ドイツ銀行が、他の銀行との間に交わしているデリバティブの契約額は、7,500兆円といわれています。世界のデリバティブの総契約額、$544兆(5京9,840兆円)のうち、12.5%と多い。

(注)7,500兆円の負債というわけではありませんので、念のために。7,500兆円は、デリバティブをかける対象(原資産)となるマネーの契約の増額です。

【デリバティブが他行の8.3倍】

ドイツのGDPは3.7兆ドル(407兆円)であり、世界の5%です。ドイツ銀行の資金量(1.77兆ドル:195兆円)のシェアはドイツ国内の30%くらいでしょう。

そうすると、世界の銀行での、ドイツ銀行の資金量のシェアは「5%×30%=1.5%」くらいです。資金量で1.5%のドイツ銀行が、デリバティブ契約では8.3倍の12.5%(7500兆円)です。平均的な銀行の8.3倍のデリバティブ契約です。

ドイツ銀行がデリバティブに奔走した理由

どうして、こんなに異常なことになったのか?というより、首脳が、なぜデリバティブ契約を推進したのかということです。

【ドイツ国内のユーロのゼロ金利】

第一の理由は、リーマン危機のあとの、ECBによるユーロのゼロ金利策です。マイナス金利でも、2016年かの日銀に先行しています。

金利が低いと、0.5%から1.5%の銀行の貸付金利では収益が出ません。このため、金利、通貨、株価の上昇または下落の予想に依存するデリバティブ契約を増やしたのです。

【補償保険のCDS、CDOの発行、売却を増やした】

2番目の理由は、貸付債権、債務の、回収を保証するCDS、CDOを多く作って、世界の銀行に売却したことです。目的は、金利に代わる、数%~10%の保険料の収入です。

ある債務にCDS(保証保険)をかけると、その債務の連帯保証をしたことと同じになります。

【CDS、CDOは、債務の連帯保証】

企業が借金や社債を返せなくなったとき、ドイツ銀行が、代わって返済しなければならない。ただし、その債務が不良化しないときは、数%の保険料が収入(ドイツ銀行の利益)になります。

【リーマンとAIG】

リーマン危機のときは、AIGとリーマンブラザースが、住宅・不動産証券(MBS、ABS)に、大量のCDSをかけていました。住宅・ローン・不動産ローンのデフォルトが増えていったとき、AIGとリーマンブラザースは、保険金の支払いができなくなって(デフォルト)、2週間で破産しています(08年9月)。

このデフォルトは、CDSを買っていた銀行の損失に連鎖し、カウンター・パーティー(契約の相手)の銀行も、同時破産になったのです。2008年9月の当初、100兆円の不良債権の発生と言われましたが、後に、400兆円くらいに拡大しています。FRBは、これを公表していません。

ドイツ銀行のデリバティブ契約(7,500兆円)の中で、いくらがCDSやCDOの契約か、公開されていません。推計では、500兆円以上はあるでしょう。金利スワップや、外貨交換も、利益と得るため、高いリスクの契約が多いでしょう。

Next: 危険なのは2019年秋、ドイツ銀行が破産したとき政府は救済するか?



【海外貸付が大きなドイツ銀行】

ドイツ銀行が大きな利益を必要とした理由は、ドイツ国内は低金利ですが、金利の高い南欧、東欧、中近東、アジア、アフリカへの融資の焦げ付きが、増えていたからです。

貸付の金利が高いことはデフォルトのリスクが高いことです。リーマン危機あと、ドイツ銀行は世界中の高い金利で運用しようとしていました。

【まず、2019年秋が危険】

2019年秋の世界のGDPの低下から、大きすぎる負債の不良債権は増えるでしょう。ドイツ銀行は、保険料を得る目的で後発国企業に債務の連帯保証のCDSを売っています。

後発国の破産が増えたとき、同時にデフォルトするのが、連帯保証をしているドイツ銀行になったのです。CDSやCDOの面ではリーマンやAIGと全く同じです。この確率は50%でしょうか。

問題はドイツ銀行がデリバティブから破産したとき、相手銀行の連鎖破産になることです。ドイツ政府はいままでの発言をまげて、「つぶすには大きすぎる」として救済するでしょうか。

【政府の支援はあるか?】

ドイツ銀行は、債権の時価評価をすれば、実質的には自己資本比率8%(金額では16兆円)はなく債務超過に近いと推計されます。

倒産のジャンク債の水準とはいえ、7.2ユーロという株価はついています。7.2ユーロを安いと見て、買う投資家がいるからです。これらの投資家は、「ドイツ政府、またはECBが、数十兆円の救済資金を投入する」と見ています。

国民の支持を失っているメルケル首相は、2021年に退陣すると表明しています。アルコールの中毒症状が出て、公式の場でも手が震えているのが、TVの映像でもわかります。昔から、1日と酒を欠かすことのない酒豪と言われていました。公式のパーティーでも、抑制が効かずワインを大量に飲むひとかもしれません。

メルケル首相の決断にかかっています。ドイツ政府が支援の発言をしないと、2019年秋には、デリバティブからのリーマン危機と同じ規模の、他の銀行に連鎖する金融危機が、今度はユーロ発で起こる可能性がでてきました。デリバティブのデフォルトが連鎖するのは、銀行間の双務契約だからです。

以上は、リーマン危機の経験から、ユーロの首脳にもわかっています。ドイツ政府は、新任の、シャネルを着こなす悪魔ではありませんが、元IMFの理事長クリスティーヌ・ラガルドECB総裁を通じてドイツ銀行への金融支援(増発のユーロ投入)を促すと見ています。彼女は、フランスの元財務大臣です。

EUの新しい委員長もドイツ国防省の大臣だった、リリー・マルレーンとも見紛う顔のウルズラ・フォンデアライエン女史です。政治家の顔は、意外に政策にも見通しを与えます

【その後のユーロ】

ドイツ銀行のデフォルトの危機が発現したあとは、どうなるか。ユーロは売られて、大きなユーロ安になるでしょう。

シティという、米国のウォール街に次ぐ金融センターをもつ英国のEU離脱と重なるので、30%程度は下げるかもしれません(121円→最安値85円)。

(注)域内の関税がなく、労働移動自由な経済連合であるEU28か国(英国を含む)のうち、19か国が、統一通貨のユーロです。

そのあとです。独自の通貨政策と財政政策がとれないことを理由に、南欧のユーロからの離脱の動きが表面化するかもしれません。

【ユーロの命運】

いまイタリアとスペインも、大手銀行には通貨の増発・供給が必要だからです。ユーロ加盟のままでは、ECBに従属せねばならず、通貨の供給ができないからです。

19か国の生産性と財政が異なるユーロは、最適通貨圏を形成していない矛盾をかかえる通貨です。結成20年目に、解体に向かうかも知れません。確率は40%でしょうか。問題は、ともにポピュリズム政権になった、イタリアとスペインです。

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