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さあどうするイエレン議長、押しても引いても市場大混乱の利上げゲーム

ここにきて、イエレンFRB議長が利上げ継続を示唆しても、利上げシナリオを撤回するとの印象を与えても、いずれの場合もリスク・オフの引き金となる恐れが高くなってきました。逃げ場のないFRBの選択としては、第3の道をとるしかありません。(『マンさんの経済あらかると』)

イエレンの議会証言は「茨の道」か。リスク・オフの落とし穴多く

シティG・NY系ファンドと欧州系ファンドの暗闘

先のフィッシャー副議長に続いて、3日にはニューヨーク連銀のダドリー総裁が、3月利上げを見送る可能性を示唆しました。

12月の利上げ以来、金融の状況が著しくひっ迫していて、これが3月まで続けば、利上げを考え直さねばならないこと、世界経済の減速やドル高が米国経済にも重大な影響を及ぼす、との認識を示したからです。

しかし、ことは単純ではありません。ここでFRBが利上げシナリオを撤回すれば、その信頼、面子が潰れる以外にも、市場に想定外の影響を及ぼす可能性があります。さらに、米国の新保守派(ネオコン)の戦略に大きな狂いが生じることになり、その勢力低下は、日本の安倍政権にも及びます。

そこでまず来週の10日に予定されるイエレンFRB議長の議会証言を考えてみたいと思います。

年初の市場混乱、株価下落の中でも、フィッシャー副議長は年4回の利上げシナリオをあえて維持しました。市場の混乱を抑え込む自信があって、少なくとも2月10日のイエレン議長の証言では、3月利上げの可能性を示唆してもらう段取りであったようです。

実際、市場混乱の一因にもなっていた原油価格の下落を抑えるために、OPEC関係者に「協調減産」の可能性をしゃべらせ、原油価格の反発から株価の反発に成功しかけたかに見えました。

少なくとも、3月の利上げ、あるいは議長の議会証言までには、市場の安定を取り戻す予定だったようです。シティGやNY系のファンドもこれに協力しました。

欧州系ファンドによる原油売り浴びせ

ところが、ここに伏兵が現れました。欧州系のファンドが原油を売り浴びせるなど、市場をかく乱する行動に出ました。彼らはこれまで収益の基盤が弱まり、苦境にありました。それもNY勢が欧州市場を荒らしまわったため、との認識もあります。そこでNY勢の利益独り占めを許さず、「売り」で市場を揺さぶる形で利益確保に出たようです。

彼らはNY勢と同様、中国市場を混乱させ、最後にはそこでの利権を手に入れる戦略で、最近でも人民元売りなどで中国攻めを展開しています。NY勢はそれも含めて当面は「市場の安定」を模索していたのですが、欧州勢の攻勢に押されています。結果として市場の動揺はいまだ収まっていません。

その中でのイエレン議長による議会証言となります。従来通り3月の利上げを進めたいのであれば、ここで議会や市場にその準備をさせる発言が必要になります。しかし、今回の執行部のメンバーであるフィッシャー副議長、ダドリーNY連銀総裁の発言からすると、この状態でFRBが利上げ強行を示唆した場合のリスクを懸念しているように見えます。

しかし、リスクは両方にあります。このまま利上げ継続を示唆すれば、新興市場からの資金流出、ドル高、株安で米国経済にも悪影響が懸念されます。

逆にFRBが利上げシナリオを撤回するとの印象を与えれば、FRBの信認を揺るがすばかりか、市場はFRBが利上げをあきらめるほど、経済が弱っているか市場不安が大きいと判断する可能性があります。

Next: 逃げ場を失ったFRBがとり得る「第3の道」/安倍政権にも影響大



逃げ場を失ったFRBがとり得る「第3の道」

後者の場合も、市場にはリスク・オフをもたらし、FRBとしては逃げ場がなくなります。

内外のメディアから昨今の市場不安は、米国の利上げが原因との批判が強まっていることもあり、FRB内部には利上げ見送りの機運が高まっているように見えます。それでも、これを前面に出せば、市場に無用な不安を持たせ、かつネオコンの反発も予想されます。

そうなると、FRBの選択としては、第3の道をとるしかありません。つまり、市場の不安は無視できないので、これを十分考慮し、市場の安定が戻れば利上げサイクルを進める、という条件付きの利上げ示唆に留めるのが得策と見ます。これで10日の証言をきっかけとした市場の混乱は回避され、3月のFOMCまで先送りとなります。

そうなると、3月のFOMCはどちらにしても市場には波乱要因となります。これまでの米国の独り勝ち、出口の抜け駆けは、結局その間のドル高で薄められ、米国景気の減速、単独利上げの困難さを誘引したことになります。

結局、米国の利上げ見送りが経済的には自然で、それでもネオコンの戦略優先で利上げを強行すれば、世界的な株安、混乱を呼ぶでしょう。

逆にここで利上げを見送れば、FRBには「第2の速水」との声も予想され、FRBの信認を傷つけるほか、それだけ米国経済の不安が大きくなったか、市場の不安をFRBも強く懸念している、との理解から、市場にリスク・オフが広がる可能性があり、そこでは米国の利上げを想定したドル買いが巻き戻され、株価下落と相まって円高が大きく進む可能性があります。

ひところ、利上げを嫌い、利上げ懸念後退につながる弱い指標を好感して株が上がる場面が見られましたが、昨今はFRBの意向にも拘らず、市場は利上げ困難と見ています。足元でも弱い指標で株は売られています。

ここで利上げ見送り判断が出た時の反応は、やれやれの安心の買いになるより、それほど経済が悪いのか、の不安がより強く出る懸念があります。

ロンドン勢が勝った場合、安倍政権にも大きな影響

参院選前にリスク・オフの株安、円高が進んだ場合に日本はどう対処するのか。そこでは日銀もマイナス金利の副作用を考え、追加利下げにはかなり慎重になるはずです。日銀は温存した量的緩和の追加を改めて持ち出し、マイナス金利はアナウンスメント効果の範囲内に抑えるのではないかと思います。

同時に、ロンドン勢とNY勢の争いでロンドンが勝つようなら、米国ネオコンの後押しで成り立つ安倍政権も、それだけ後ろ盾が弱まることを意味し、外交戦略の見直しも必要になります。

そこまで政権内に気転の効いたスタッフがいるのか、いささか不安ではありますが。

【関連】黒田総裁「必要な場合さらに引き下げ」の危うさ~マイナス金利は無制限ではない

マンさんの経済あらかると』(2016年2月5日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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