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ほっともっと、190店閉店で経営危機。からあげを増やして直営店を減らす大悪手=栫井駿介

お弁当屋の「ほっともっと」を運営するプレナス<9945>の業績が悪化しています。店舗の運営費が上昇したことで採算が悪化したため、190店を閉店するということです。人手不足による人件費高騰も叫ばれる中、一体何が起きているのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

売上好調の「からあげ弁当」が首を絞めた?経営陣最大の悪手とは

この1年で業績が急激に悪化

プレナスは、もともと「ほっかほっか亭」の九州地区におけるフランチャイジーとして活動し、1999年に東日本エリアを統括する「株式会社ほっかほっか亭」を買収することで全国進出を果たしました。

その後フランチャイズ本部との対立が激化したため2008年に独立し、「ほっかほっか亭」の店舗を「ほっともっと」ブランドに改め現在の形に至っています。店舗数は約2,700店舗で、お弁当チェーンとしては日本最大です。

ほっともっとだけでなく、定食レストランの「やよい軒」も運営しています。ご飯がおかわり自由なので、私も独身時代には足繁く通いました。こちらのは現在400店舗弱となっています。

目立って業績が悪化しているのは、ほっともっとの方です。2019年2月期の決算では、ほっともっと事業が8億円の赤字(やよい軒事業は12億円の黒字)となり、最終赤字の主因となりました。

出典:プレナス 2019年2月期決算概要

その前年の2018年2月期までは黒字だったため、ここ1年で急速に悪化したことになります。直近の第1四半期も営業赤字となり、この傾向は止まっていません。

プレナス<9945> 週足(SBI証券提供)

そこで、やむを得ず190店の閉店を決断するに至ったというわけです。

Next: ほっともっとは何を間違えた?売上増加・利益減少に陥った理由



人件費よりも「人材募集コスト」が店舗運営の重荷に

利益が低下した要因を、決算短信では以下のように説明しています。

利益面につきましては、主に商品力強化・人材確保・育成への投資、仕入コストの上昇により、前年同期実績を下回りました。

出典:プレナス 2019年2月期 第2四半期決算短信 ※PDFファイル

人材確保や仕入れコストの上昇は外部要因として仕方のない部分があります。

人材確保のためのコストとは、具体的にはアルバイトを探すために人材会社に支払う手数料のことです。今は募集してもなかなか人が集まらないので、店舗を回すためにどんどん募集コストをかけなければならないのです。

これは、時給の上昇よりも大きな負担となっていると考えます。その証拠に、人材会社の業績は絶好調です。以下は「バイトル」を運営するディップ<2379>の業績推移ですが、とてつもない勢いで伸びていることがわかります。

人材募集のコストが業績を圧迫し続けるなら店舗運営が成り立たないため、もはや閉店するしかないという状況には頷けます。仕入れコストも、トラックドライバーの人件費高騰などによる上昇である程度説明ができるでしょう。

実店舗を持つ小売会社はこれだけ厳しい状況に立たされているのです。

売上増加→利益減少に陥った理由

しかし、これらの中で会社側が選択を誤ったと思われるものがあります。それが「商品力の強化」です。

具体的には、2018年2月期の決算説明で以下のようなスライドがありました。

出典:プレナス 2018年2月期決算概要

ここで気になるのが「内容をボリュームアップさせた特から揚弁当は若年男性層の獲得にも成功」という部分です。

確かに売上も伸びたようですし、一見成功したように見えます。

しかし、1つ1つの値段は、リニューアル前と同じ価格です。ボリュームだけ増やしたとしたら、当然弁当1個あたりの利益率は低下します

から揚げ弁当を買った人は他の弁当は買いませんから、売上が増えたとしても利益は増えないどころか減ってしまう「豊作貧乏」になっている可能性が考えられるのです。

その証拠に、売上高は増える一方で、原価率は46.5%から49.7%に急上昇しています。利益率数%のビジネスモデルでこの上昇は致命的です。

ほっともっとの顧客の大部分は中高年の男性だと言います。独身者や肉体労働者も少なくないでしょう。彼らは結局、リニューアルによって最も量的なコストパフォーマンスの高くなったから揚げ弁当ばかり買うようになったのです。

その結果が原価率の上昇だとしたら、戦略の失敗と業績の悪化の辻褄が合うのです。

Next: 最大の悪手「直営店のフランチャイズ化」で窮地に



直営店のフランチャイズ化は「悪手」

ほっともっとはこれからどう立て直したら良いのでしょうか。

これまで、直営店のフランチャイズ化による業績改善を目指していたということですが、これはとんでもない悪手です。

確かに、プレナス自身の業績は一時的には改善するでしょう。なぜなら、フランチャイズ化してしまえば、本部は人材募集のコストを負わなくて良くなり、ロイヤリティ収入で「確実に」儲けることができるからです。

もちろん、これで苦しくなるのはフランチャイズのオーナーです。本部で採算が取れないものを引き継いで、ロイヤリティを払いながらどうやって採算を取ろうと言うのでしょう。

コンビニでも問題になっていますが、「オーナー」という甘い言葉を借りた「ブラック労働」に他なりません。本部が儲かっても、現場が疲弊すればそれは顧客満足度の低下につながり、やがてはブランド価値の低下となって本部に跳ね返って来るのです。

これをやって大コケしたのが、「プロ経営者」の原田氏がCEOを務めていたときの日本マクドナルド<2702>でした。

【関連】V字回復マクドナルドと苦戦するモスバーガー、なぜ明暗が分かれたか?=栫井駿介

採算の取れない店舗を閉店することを決断しただけでも、ほっともっとは英断だったと思います。

「ボリュームアップ」以外の方法で顧客満足度を高める

目の前の問題に少しずつケリをつけたら、考えることはシンプルです。それは、売上を伸ばしてコストを減らすことです。

売上を伸ばす上で、足かせとなっているのが「デフレ志向」だと考えます。顧客離れを恐れるが故に、値段を上げられないのです。その結果、今回のように原価だけが上昇する結果となってしまいます。

しかし、近年のコスト上昇を考えると、値段を据え置くのは限界に来ているのではないでしょうか

本来顧客に提供するのは単なる安さではなく「価格以上の満足」です。ニトリの「お値段以上」を見習わなければなりません。値段を上げるには、顧客の満足度を高める必要があります。まずは思考をそちらに向けなければなりません。

から揚げ弁当が「ボリュームアップ」しかできなかったのは、これまで本当の顧客満足をおろそかにしてきた結果だと思われます。

顧客のことを見つめ直し、いい商品を作り続ければそのうち大きなヒット商品を生み出すことも可能なはずです。

Next: 顧客満足度を上げる施策を。業績を急回復させる秘策など無い



業績を急回復させる秘策など無い

あとは、コスト削減でできることは何でもやるべきです。

私が店舗に行って気になるのは、待ち時間がとても長いということです。これは、お弁当を買いに来る人の時間が集中することが原因です。

これでは顧客満足度が下がるだけでなく、収益機会を逃してしまいます。

私は待つのが大嫌いなので、ほっともっとで弁当を買うときは、スマホで事前注文・決済を行います。これをもっと大々的にアピールすれば、人件費の削減、機会損失の削減、顧客満足の向上につながると考えます。

今はとても投資できる状態の会社ではありませんが、私もお世話になっているお弁当屋ですから、うまく立て直してもらいたいと思います。飛び道具はありません。当たり前のことを当たり前にやるだけです。


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image by:Ned Snowman / Shutterstock.com

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年8月18日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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