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GSOMIA破棄~韓国は筋を通すべき、全責任は安倍日本にある=世に倦む日日

記事提供:『世に倦む日日』2019年8月23日号より
※本記事の見出し・改行・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

変わったのは韓国ではなく日本。「村山談話」が日韓の基本法だ

韓国が筋を通す形に出てよかった

GSOMIA(軍事情報協定)を韓国政府が破棄決定した件について、私の受け止めは日本のマスコミ報道や多数世論とは異なる。筋を通す形に出てよかったという感想だ。文在寅の年頭会見を聞いたときと同じである。

大方の予想は、米国の強い意向と要請もあって、韓国はGSOMIAを延長するだろうとの見方だったが、私はその選択は妥当ではないという立場だったため、躊躇なく破棄の決断に出てよかったと思っている。韓国の国家百年の計を見通したとき、ここで安易な妥協に出て、日本(右翼日本)との間で下手な外交の駆け引きに出るのはよくない。国家間の外交はどこまでも原理原則に即くことが大事で、そこから離れて無理な妥協をすると、後で取り返しのつかない重大な失敗に陥る。禍根を残す。

朴槿恵の2015年の「慰安婦合意」がその典型例だ。あの錯誤と迷走によって、慰安婦問題はほとんど解決不可能な泥沼に入り込んでしまった。

日韓の外交関係は、1995年の村山談話に基づくべきで、韓国はそこから後退してはいけない。

日韓の外交関係は、1995年の「村山談話」に基づくべき

文在寅の考え描く日韓関係というのは、村山談話の理念が具体化されたものであり、その関係でなければ両国はだめだというものだ。それでいいと思う。

韓国は、政府も民間も、村山談話のあり方が基本でなければ日韓はだめだという態度を明確にすべきであり、本来のあり方を粘り強く日本側に説き伝え、日本国民が理解するように努める必要がある。戦後50年の節目に宣言された村山談話が日韓の基本法なのであり、そこで謳われた精神に則って政府も民間も関係を組まなくてはいけないのだ。

今の日本の韓国に対する姿勢は、政府もマスコミも国民も、あまりに右翼化して村山談話から遠く離れすぎている。村山談話から遠く離れていることを、文在寅の対日外交の現実が教えていて、つまり、文在寅とは村山談話の化身なのだ。そこに本質と実体があるのだ。

今の日本の文在寅に対するアレルギーとヒステリーは、村山談話に対するアレルギーとヒステリーである。病気に陥っているのは右翼日本である。歴史認識こそが国家間の外交関係の根本だ。

Next: 変わったのは韓国ではなく日本? マスコミが無視する「村山談話」



変わったのは韓国ではなく日本

現在、私のように村山談話を信奉する者は少数派になっている。村山談話は否定され、マスコミ報道で顧みられることはなく、存在すら忘れられた孤絶異端の状態にある。村山談話は間違った左翼思想の落とし子だったという認識が一般化している。

だが、本当にそれでよいのか。24年前に発したばかりの真摯な国家声明を、普遍的な財産とすべきものを、われわれはゴミ箱に棄ててしまってよいのか

24年前に村山談話が発されたとき、反対する者は少数の右翼しかいなかった。その中には、40歳の安倍晋三もいただろうし、49歳の櫻井よしこもいただろう。だが、経世会(橋本龍太郎・小渕恵三)も宏池会(宮沢喜一・加藤紘一)も賛成で、国内の圧倒的多数が村山談話を支持していた。先頭に司馬遼太郎が牽引役で立っていた。

村山談話が思い描く韓国の像から、韓国は変わっていない。変わらなくてよい。変わったら韓国は韓国でなくなる。日本は大きく変わった。日本の変化は逸脱で退化である。日本が元のフレッシュな誓いの姿に戻るべきなのだ。

日韓関係を破壊しているのは誰か?

安倍晋三べったりの日本のマスコミは、今回もそうだが、武藤正敏をテレビに張り付け、文在寅政権の決定や韓国国民の反応に対して、「感情的」というレッテルを貼り付けて貶め卑しめる攻撃に集中している。「韓国=感情的=非理性的」というイメージを言説工作し、テレビを動員してプロパガンダのシャワーを繰り返し、日本国民に刷り込んで固定観念化させている。韓国を矮小化している。

しかし、実際に過激でヒステリックなのは武藤正敏や右翼論者の方で、一方的に日韓関係を破壊する方向へ世論を導き、安倍晋三の嫌韓外交を正当化している。日本の国益にもならないし、韓国が受ける打撃は深刻なものだ。日韓請求権協定の解釈と運用を変えて、日本企業に補償に応じるよう促して、どうして日本の国益の毀損になるのか。

現実に、中国の元徴用工については三菱マテリアルは補償金を支払っている。韓国で商売して韓国で利益を上げているのだから、韓国の最高裁の(民事)判決に従って当然ではないか。それがビジネスの論理であり、感情を排した合理的判断だろう。

嫌韓を煽っているのは日本の政治家とマスコミ

イデオロギー・オリエンテッドに感情剥き出しで嫌韓を煽っているのは、日本のテレビ論者であり、日本の政治家とマスコミである。

そもそも、そこまで日韓請求権協定を神聖化し、厳格に遵守というのなら、なぜ、慰安婦問題で政府がカネを出して基金創設という合意に踏み出しているのか。「完全かつ最終的に解決」という文言が絶対的な拘束要件ならば、慰安婦問題で基金設立という4年前の政策行動は矛盾しているではないか。

そのことを、テレビの論者は一人も言わない。初めに韓国叩きありで、自らの論理矛盾も一切顧みず、過去の外交方針(村山談話)との齟齬にも目を向けず、感情を振り回し、テレビの前の国民の感情を操作し扇動しているのは、NHKキャスターを含めたマスコミ論者である。

少なくとも現在の日韓関係を客観視すれば、感情先行のナショナリズムを噴出させているのは日本の方で、国論が一色に染まって発狂しているのは日本の方である。日本の中には異論がない。安倍政権の韓国政策を批判する声がない。マスコミも野党も、チェック・アンド・バランスの機能を全く果たしてない。

Next: トランプは日本に譲歩を求める? 交渉を拒否しているのは日本



交渉を拒否しているのは日本

今後、トランプがどう出てくるかは予測できないが、慰安婦問題のときは、オバマが双方に妥協を迫る圧力を強力にかけた経緯があった。米国の戦略にとって日韓GSOMIAが決定的に重要なアセットなら、徴用工問題と輸出規制問題でも双方にイーブンに妥協を迫る対応に出ておかしくない。すなわち、徴用工問題で米国が日本に譲歩を求める図もあり得るはずで、そこが今回の文在寅の決断の戦術的な狙いだとも考えられる。

徴用工問題について解決策の提案を出しているのは韓国の方で、頑なに交渉を拒否しているのは日本の方だ。

トランプとオバマでは肌合いが違い、トランプは人権問題や歴史問題ではノン・リベラルの安倍晋三寄りのスタンスだが、実務を担う官僚の感覚はトランプやポンペイオと同じではないだろう。仲裁に入れば、徴用工問題の歴史と人権という所与に直面することになる。

第三者の目からは、基本的に慰安婦問題の悶着と同じだ。日本の民間企業(経団連)が自主的に資金協力して基金設立というプランは、米国から見たとき、落としどころとして悪くはないアイディアだと思われる。

韓国は屈するべきではない

在米の韓国朝鮮系は、慰安婦問題のときのようにNYTに新聞広告を出したらどうだろうか。

コンフォート・ウーマンの歴史問題は、NYTの紙面を舞台にキャンペーンとバトルが展開され、米国の市民社会に広く認知され、韓国側の主張が支持される結果に流れた。国連の表舞台では、この問題では日本は完全に悪者になっていて評判が悪い。それは、韓国側にとっては一つの資産であり、安倍日本と「歴史戦」の政治を戦う上での基盤である。

そのキャンペーンで米国市民が慰安婦問題を知り、深刻さに粛然となったように、徴用工問題も関心と知識を持つよう図ればいい。米国市民の同情と共感は、再び韓国側の訴えの方に向かうだろう。安倍日本が嘯く「完全かつ最終的に解決済み」だの、米国市民の常識には通用しない論法だ。マイク・ホンダの出番だ。

この問題で、私は文在寅政権に無用な妥協はしてもらいたくない。どこまでも、最終的に日本国民は村山談話に戻るべきだという信念を貫き、安倍日本(右翼日本マスコミ)と戦って欲しい。韓国は屈するべきではないのだ。民族を辱める愚策を犯してはいけない。

Next: 結果はどうあれ、どちらの国民にも厳しい運命が待ち構えている



文在寅は韓国の歴史と未来に対して責任を持たなくてならない

この戦いの勝敗がどうなるかは分からない。どちらの国民にも厳しい運命が待ち構えていそうな気がする。

理想を折らない文在寅が敗北して失脚する可能性も十分ある。だが、韓国のリーダーは、韓国の歴史と未来に対して責任を持たなくてはならず、まさに過去の反省の上に立って決断と行動をしなくてはいけない。来年の選挙がどうとか、支持率がどうとか、韓国経済の一時的悪化がどうとか、そういう問題ではないはずだ。

盧武鉉ならどうするか、選択と意思決定の基準はそこになくてはいけない。

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2019年8月配信分
  • 倫理の問題を感情の問題に矮小化する言論工作 – 関口宏の韓国叩き(8/26)
  • GSOMIA破棄 – 韓国は筋を通すべき、全責任は安倍日本にある(8/23)
  • 日米地位協定見直しがあるのなら、日韓請求権協定見直しもある(8/21)
  • 孫正義が100億円出して徴用工基金を作れ – 私財と勇気によってのみ(8/19)
  • 政策構想のベストセラー本を出版せよ – 政党支持率の目標管理を(8/7)
  • れいわ新選組の課題と幹事長人事 – 支持率5%の政党にするために(8/5)
  • れいわ重度障害者議員の初登院 – 障害者基本法と福祉国家の理念(8/2)

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世に倦む日日』(2019年8月23日号)より一部抜粋
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