立憲民主党が最低賃金を1300円に引き上げることを参院選の公約に据えた。太郎新党は1500円(政府補償付)を公約に掲げている。選挙の論戦で最低賃金が焦点になることは結構なことだ。社会保障の財源を立て直すためには、所得と税収を増やさなければならず、そのためにはGDPを拡大させなければならない。それは賃金を引き上げて労働者の購買力を高め、個人消費(内需)を拡大させることによって実現される。(『世に倦む日日』)
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(※編注:2019年7月4日、初出時よりタイトルを変更しております)
日本経済の景気回復は、広範な国民の所得の増大によってのみもたらされる。論戦を先取りする意味で、デービッド・アトキンソンが昨年3月に東洋経済に寄稿した記事に着目しよう。アトキンソンは今年4月17日の報道1930に出演し、日本の最低賃金は低すぎるという持論を述べている。あの反響を呼んだところの、20年間で他の先進諸国は時給が70%伸びているのに、日本だけが-9%と落ち込んでいるではないかという衝撃のOECD統計が紹介された放送回である。1年前の東洋経済の論稿では、日本の最低賃金は台湾や韓国よりも低く、豪州やフランスの5割から6割の水準でしかない事実が示されている。
この記事のハイライトは、労働者の質(a)と最低賃金(b)の関係を指標表現した絶妙なグラフの説得だろう。日本の労働者は世界第4位の質の高さを持ちながら、最低賃金では先進諸国中最低レベルに甘んじさせられていて、その乖離が甚だしいと指摘している。まさに正鵠を射たデータ分析であり、我が意を得たりと膝を打つ本質的な説明である。労働力商品の不等価交換の真実暴露。これこそエコノミクスだ。画期的な問題提起であると評価したい。このアトキンソンのモデル解析に加えて付言する議論があるとすれば、aとbのギャップ分である価値生産はどこへ行ったかという問題である。消えたわけではない。生産されてないわけでもない。言うまでもなく、その価値分は内部留保と配当金とケイマン諸島に計上されているのであり、特別剰余価値の集積となって資本会計に回収されているのだ。日本の労働者が働いてないわけではない。その真相までアトキンソンが言及すれば満点なのだが、マルクス経済学の知識と視角がないとそこまでの究明や結論には行き着かない。しかし、見事な分析と提起であり、どうして日本のアカデミーの経済学者はこれができないのだろうと溜息をつく。
日本の労働者の能力に注目し、経済学的観点から問題を正しく洞察したアトキンソンの功績を称えたい。特別剰余価値(内部留保+配当金+ケイマン資金)を年70兆円も溜め込んでいる絶倫資本主義国など、米国は知らないが、日本以外には他にないのだ。特別剰余価値への搾取分が半分になれば、すなわち年40兆円が労働者と国庫に還流されれば、年金財源は立て直され、非正規労働者の年収は倍になり、日本経済は年5%以上の成長軌道に乗ることができる。その内容については別途論じるとして、まず何より言いたいのは、日本経済の右肩上がりは終わってないという事実であり、右肩上がりは終わったなどと軽々しく言うべきではないということである。田中優子や小熊英二が無分別に言うような、経済成長が不能なインポテンツには日本人はなっていない。脱構築の左翼社会学者は経済を何も知らない。経済を語る言葉を持っていない。知らないくせに知ったようなことを言い、経済成長は悪だと呪文を吹き込み、日本人を経済能力の自信喪失と自己否定に追い込む。日本人に自虐経済観を刷り込み、経済成長を憎悪させる。ユニクロ着て鍋をすすって満足する緊縮教の信徒にする。去勢動物にする。
■各国のGDPの伸びを比較するグラフを自製した。日本経済の異常な病態がよく了解・納得できる図だ。1994年を100とした25年間の伸び、1999年を100とした20年間の伸び、二つのグラフを作成して各国のGDPの推移を検証した。1994年から2019年の間に、米国は2.9倍になり、英国は2.7倍となり、フランスは2倍の経済となった。日本は1.1倍である。ちなみに、韓国は5倍となり、豪州は4.1倍になっている。
■1999年から2019年の間に、米国は2倍に、英国は2.1倍に、フランスは1.7倍に、ドイツも1.6倍になっている。日本は1.1倍と冬眠。引きこもり。今回、グラフ作成の作業をしながら再発見した重要な事実を申し上げると、この20年間の各国の平均成長率が、米国5.1%、英国5.6%、フランス3.6%、ドイツ3.4%だったということだ。高い。20年間の平均成長率である。日本は0.4%。日本が長くゼロ成長で、失われた30年を続けていることは誰もが既知の事項だが、他国の経済成長率が思っていた以上に高いのに驚く。
ドイツの20年間の平均成長率は年3.4%である。この数字を日本に適用して、1999年のGDP値519兆円から年3.4%で成長を続けたと仮定するとどうなるか。20年後である今年2019年、めでたく1000兆円を超える試算の結果が出る。フランスの平均成長率3.6%を当て嵌めると、昨年2018年にGDP1000兆円を突破している。英国の実績である年5.6%で試算すると、7年前の2012年にとっくに1000兆円を突破し、何と今年2019年には1500兆円の大台に乗っていた。他の国と同じようにやっていれば、日本は1000兆円の経済規模に達していて、所得も税収も2倍になっていたのである。年金基金の財源も万全だったのだ。不安なく働き暮らせたのだ。今、われわれは、GDP1000兆円の高みなど夢の夢だと思っている。だが、20年前の当時、20年後のGDP1000兆円は決して不可能な未来ではなかったし、実際にEU諸国は20年で2倍化を達成している。韓国は20年で3.2倍にしている。平均成長率は11.1%だ。他諸国が何か特別な施策を行ったわけではない。日本が間違った制度改悪のために自滅型の病気になり、さらに自虐経済観の自己否定に陥ったことが原因だ。
ジョン・レノンは「想像せよ」と言った。想像力を持つべきなのだ。内部留保と配当金とケイマン諸島に積み上がっている年70兆円を、そのせめて半分の年40兆円を労働者と国庫に回し、すなわち所得と税収に正しく還流すれば、消費(内需)が自律的に回復し、日本経済は健康を取り戻し、年率5%から7%の拡大循環の運動を始めるとができる。社会保障の財源不足も解消され、子どもの貧困も解消され、現役世代は夢を持って会社に出勤し、若者は結婚して二人の子どもを育てる家庭を持つことができる。最後に、各国GDP値の推移を比較するスプレッドシートの入力とグラフ化の作業をしながら、私は「泣いたエリツィン」を思い出した。泣いたエリツィンを思い出して胸が詰まった。91年だったか、訪米してヒューストンのスーパーマーケットを視察したとき、店に溢れる食料品の数々を見て、目眩のするような豊かさを目の当たりにして、ロシアはどうしてこれほど酷い仕打ちを受けなければいけなかったのかと、涙が止まらなかったエリツィンを思い出した。ロシアだけが、どうして地獄の運命を遭わされなければならないのかと、人目も憚らず号泣したエリツィンを思い出した。
いい男だった。
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『世に倦む日日』(2019年6月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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