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株安2大要因を覆す「理外の理」 マイナス金利と原油安、私はこう見る=山崎和邦

今回は、山崎和邦氏が株安の2大元凶と考える「マイナス金利」と「原油安」を考察します。現状、原油価格が戻ることは理屈の上ではあり得ず、よって株高も望みにくいと見る山崎氏があえて想定する「理外の理」とは?

株安の根本原因、原油安は続く。だがあえて「理外の理」を考えれば

マイナス金利は「麻薬」行き着く先は誰にもわからぬ

北欧の小国ならいざ知らず、大国としては日本が初めてのことだ。

黒田日銀の「バズーカ砲」と呼ばれる、サプライズを以て為替と株価を動かす手法は2013年4月の第1次は「良薬」、2014年10月の第2次は「劇薬」、今回の第3次のマイナス金利は「麻薬」だと一読者が例えてくれたので、本稿はその用語を採ることにしよう。

策師・黒田総裁の投薬は2回までは奏功したが「仏の顔も3度まで」で、為替も株も市場はそれを心得ていて、麻薬だから効き目は2日間しかなく、その後は麻薬注入以前のレベルを越えて逆の副作用が出た形である。

今回のマイナス金利は、金融政策決定会合の9人のうち賛成5人は黒田総裁以降のメンバー、反対4人は白川総裁時代の就任メンバーだった。

学者の白川元総裁」「気合の黒田総裁」と半ば揶揄しながら述べたことがあったが、本稿で“ややマシ”と評してきた福井総裁時代、03年春の7,604円~07年7月の18,261円までの2.4倍の株式相場(小泉改革相場)が現出した際、その福井総裁でさえが在任中の05年に「量的緩和政策で実体経済を動かすのは『おこがましい』」と言ったと議事録にあるのだそうだ。

そうだ、と言うのは、筆者が自分で読んだ訳ではなく、信用すべき学者からの伝聞情報だからである。

本来、実体経済は鉱工業生産、流通、土木建築、運輸、サービス、農業などで構成されており、金融政策はそれらをより良くさせるための「手段」であり、株価は実体経済を「先取りする鏡」であった。

ところが今は「手段」が「実体」を動かすことができず、それを飛ばして「鏡」が「手段」によって動かされている、という珍現象が生じている。妙な表現だが「犬が尻尾を振る」のではなく「尻尾が犬を振る」ということになっているのだ。

インフレ目標の「2%」に対してマイナス金利で頑張る黒田日銀の行方については誰にもわからない。だいたい、「出口戦略なんて元来ないんだ」というのが本稿の従前からの言い分だったし、筆者の知る範囲では出口戦略に対する学術論文は皆無だそうだ。

自分でポジションを持たない人種の言う無責任な評論は幾らでもあろうが、学術論文となると皆無という。FRBのイエレン議長は、マイナス金利の導入には法的にクリアしなければならない問題がアメリカにはある、というような意味のことを言っていた。

マイナス金利の効果には不明な点が多く、かのノーベル経済学賞受賞コンビ、ショールズとマートンさえもマイナス金利は想定してなかったから、ショールズ・マートン方式で適正価格を算出してきた転換社債の計算が不能になったと証券会社は嘆いている。

Next: マイナス金利に慌てる証券会社・銀行の動きが株安を招く


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)、近著3刷重版「賢者の投資、愚者の投資」(日本実業出版)等。

マイナス金利に慌てる証券会社・銀行の動きが株安を招く

マイナス金利の導入は、本稿が述べる「麻薬」の最たるもので、それは麻薬だけに株式市場への効き目は2日しかなく、その後の株価水準は当該政策の導入以下のレベルに下がってしまった。

マイナス金利は、証券会社、銀行業等の金融業に対して最初に副作用を及ぼした。証券会社は、転換社債の適正価格が計算出来ない。それは、例のノーベル経済学賞受賞者ショールズ・マートンの計算方式を使っているからである。ノーベル経済学賞受賞者といえども、マイナス金利のことは想定していなかったからだ。

もっとも、彼らはノーベル経済学賞受賞の後、自ら取締役に就任していたファンドが破綻して、「奉加帳方式」によって処理されたという経緯もあり、それはロシアの金融危機を想定していなかったことに起因するという。その後、再びファンドを破綻させたということはあまり知られていない事実である。このようにマの抜けた学者の計算式を使っていたからだと言われればそれまでであるが――。

投資信託協会会長が日銀に日参して、マイナス金利の遂行は証券会社には避けてもらいたいと請願に行ったそうだが無理もない、MRFの金利も計算できないことになる。MRFは株式・投資信託を買うための資金をプールさせておく、いわば当座預金口座であるから、これが使えなくなれば証券市場を縮小させ、それは株価下落を招く原因になる。

斯くてマイナス金利政策は、その副作用を最初に株式市場に及ぼす。現今の乱高下は、これを嗅ぎ取った予兆である。現に日興証券はMRFの運用を取り止めるという。他の証券もそうなるであろうことは想像に難くない。

次に銀行もマイナス金利のもとでは普通預金と定期預金の区別も付け難く、運用難になる。

マイナス金利でトクをする者はリース会社のように資金の仕入れを必要とする業種、借入金で設備投資する積極的な企業、これらであり、本来、後者の増加を狙ったものだが、企業は90年代の「貸し渋り」と「貸し剥がし」にすっかり懲りてアツモノに懲りてマナスを吹く状態になり、資金を自分の懐にため込んでいる。これも「貸し渋り」と「貸し剥がし」の元祖たる三重野元総裁の罪の深さが世紀を跨いで効いているのだ、と言いたい。

もとより実体経済は鉱工業・運輸・流通・サービス・農業等の全体であり、金融政策はそれがうまく行くための「手段」である。しかし、金融政策が実体経済に効き目が無いとなれば、それを「予見する鏡」である株価は下がることになる。つまり、「鏡」が「手段」に振り回されることになる。

2月21日の日経新聞によれば、2015年の不動産融資は平成バブル時以降26年ぶりに最高だったという。低金利を背景にオフィスビルや住宅などに資金需要があり、異次元緩和で資金が不動産市場に流れ込んだというが、地価の急騰や取引量の急拡大というような過熱感はまだない。

Next: 黒田総裁の“裏切り”により大きく毀損した「日銀と市場との対話」



黒田総裁の“裏切り”により大きく毀損した「日銀と市場との対話」

黒田総裁は1月18日の参院予算委員会で、利下げを「検討していない」としたが、1月29日には「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を発表した。このことはサプライズを市場に与えることによって市場を動かすということを主眼としてきた策師・黒田総裁の常套手段とも言えるが、次のような副作用を生んだ。

  1. 市場は「仏の顔も3度まで」とやらで、13年4月または14年10月のような高揚感を欠落させた。株高は2日間しかもたなかった
  2. 1月18日の発言と29日のマイナス金利決定との乖離は、「日銀と市場との対話」を大きく傷付けた

しかし、「市場の日銀離れ」は依然として難しい。日銀が企業・政府に対する支援を行ったという評価も可能であるが、企業資金と個人資金をどのように経済成長に寄与させるかということが本来は重要な論点になってくる。

日銀の金融政策は実体経済に対して効いていない

実体経済に対してはどうか。本稿ではマスメディアが好む「景気実感」ではなく、客観的な数値で述べる。日銀短観は2015年5月の「15」を最高として「12」・・・・・「7」と下降している。

大企業非製造業の部は2015年9月の「25」までは順調だったが、その後は「18」と落ちている。

一方、景気動向指数(CI)の先行指数は2015年6月の「106.3」を最高とし、その後わずかながら落ち気味である。

景気一致指数である鉱工業生産指数(2010年=100)も2015年2月「102.1」を最高とし、その後わずかながら減少し続け、2015年12月には「96.2」に落ちている。

設備投資の先行指標になる機械受注(前年比)は2015年5月「19.3」を最高として、8月9月12月は前年比マイナスとなっている。

このように金融政策は実体経済には効いていないと言える。アベノミクスの「第1の矢」たる「大胆な金融政策」は、株価の2.4倍高を誘導し、為替の50%超上昇をも誘導し、資産額の増加に寄与し、日本国の外貨資産もドル建ての分だけでも、百兆円ぐらい増加した勘定になる。このことは事実であるが、上記のように実体経済に対しては効いていないと言える。

Next: 今の株式市場の圧迫原因、諸悪の根源は原油安である



今の株式市場の圧迫原因、諸悪の根源は原油安である

マイナス金利の影響も大きいが、「諸悪の根源は原油安である」という本稿従前の言い分は撤回しない。世界景気の変調により需要が減っているにもかかわらず生産は減らさないというのだから価格は下がる一方である。

生産を調整しようにも、OPECが価格調整機能を喪失している現在、原油価格が戻ることは理屈の上ではあり得ない。商品ヘッジファンドの空売り玉が膨大に積み上がっていて、その買い戻しによる「踏み上げ相場」があったとしても、市場内部要因による上昇は一時的なものにすぎない。

サウジアラビアやロシアなど4カ国が増産凍結を合意したが、原油市場の上昇要因にはならなかった。4カ国の会合前には期待が先行して一時35ドル台まで戻し、WTIも31ドル台半ばまで上昇したが、会合の結果が伝わると売りが優勢となって下降に転じた。

今回の合意は、4カ国協議に参加していないOPEC加盟国にも同調を求めており、実効性には懐疑的である。

産油国の運用資金は欧州を通して流入するので実態は不詳であるが、概ね200兆円と言われていて、その内の60兆円が日本市場に入っていると言われている。

その産油国の財政が赤字になるので日本株をさかんに売っている。トヨタ株がその象徴である。アラビア半島の諸国に旅行すれば、どの国に行ってもタクシーは100%近くがトヨタである。当然彼らはトヨタ株を大量に持っているはずだ。それが大量に売られている。この現象は、トヨタ株に象徴されているのであって、今の株式市場の圧迫原因は原油安である。

諸悪の根源は原油であると前述した。これは次のような経緯を辿って現象する。福島原発の後から原発発電が停止されて火力発電重点に移行したために、我が国の貿易収支が急速に赤字化した。これは本来、円安の原因となる(円ドル相場70円台の頃、本稿で「3年以内に円は120円、10年以内に200円」と述べた。前段は良いとして後段は未だ撤回していない。いちいち撤回していたら大手証券の株価予測のように“予言”にはならない)。

実際、12年11月から安倍政権下の金融政策の発表によって1円の介入もなしに円ドル相場は120円台になった。これは火力発電重点のために原油を大量に輸入した結果としての貿易収支の赤字化が結果するところであった。

ところが、原油価格が14年半ばから暴落し、かねて本稿が重視してきたところの12カ月移動平均の40%乖離にまで下がった。そのためもあり、円安のためもあり、貿易収支は急速に黒字化した。貿易収支の急速な黒字化は円高への力学として作動し、また、原油安は日銀の「2%目標」に対する大きな支障となった。

Next: 本来国益になるはずの原油安が株安を招くメカニズム



本来国益になるはずの原油安が株安を招くメカニズム

原油輸入国の日本は原油安を国益として評価したがるが、現実には、原油安はアベノミクスの標榜する「2%目標」の大きな障害となっている。

本来国益になるはずの原油安が何故株安を招くか?これは簡単な事実で説明できる。

今日現在では世界最大の産油国は米国に取って代わったが、従前はサウジアラビアだった。そのサウジの例をとってみればこうなる。

同国の財政収支を均衡させる原油価格は約105ドル、同国の経常収支を均衡させる原油価格は約70ドルと推定される(Bloomberg,IMF地域経済見通し、2015年10月)。

従って、2014年夏から財政収支均衡レベルを割り込み、同年秋からは経常収支を均衡させるレベルを割り込み、その後益々原油価格が下落したために、サウジアラビアには原油安による膨大な赤字が積み上がったことになる。

そのため同国は背に腹は代えられず、一番カネにしやすい日本株を値段かまわず叩き売った。トヨタ株がその象徴である。

東証の2月25日発表によれば、2月の海外投資家の日本株の売り越し額は4000億円強だった。

今年に入り、売り越し額の累計は2兆6000億強になった。年率換算17~18兆円になる。史上最高の海外投資家の買い越し額は2014年の15兆円だった。それを上回る売り越し額がすでに出始めている。

昨年6月24日高値の20,952円71銭をもって、本稿ではアベノミクス相場の大天井としてきた。

これは日柄と上昇率と時価総額GDP比によって単純に述べただけのことだが、その根本には上記のような原油安の力学が作動していたのだ。

Next: 常識では原油の需給改善はないが、あえて「理外の理」に言及すると



常識では原油の需給改善はないが、あえて「理外の理」に言及すると

これだけの膨大な海外投資家の売り越しがあっても、なおこの程度の下落で済んでいるのは年金と目される信託銀行の大幅な買い越しがあるからである。

安倍政権は“株価連動政権”だから、3月末の年金基金の決算を悪化させたくない。そこでこの程度の下落で支えられているのであって、原油価格が上昇しない限り株価の長期的上昇はあり得ない

ところが原油価格は、前述のように需給関係が改善される見込みは理論上は今はない。しかし、原油価格と言っても商品相場であるから「理外の理」というものがないとは言えない。

地政学的リスクに注目せよ

ところで、ここは「世界平和」とか「倫理」を捨象して述べる場所である。

すると「理外の理」の筆頭は戦争だ。現に、2015年1月半ばにイエメンのシーア派武装勢力のクーデターが発生した時に原油価格は40ドル強から60ドルまでを2か月で上昇し、さらに3月半ばにサウジ等がイエメンに軍事介入すると60ドル台後半に2段上げを為した。

では、お前は株価回復のために戦争を望み原油価格上昇を望むのか、などという中学生の議論はなしにしてもらいたい。因みにテレビ出演するとこういうママゴト的なことをテレビ局から非難されるから最近は出演していない。

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