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G20で中国を袋叩きにした米英 “市場の安定”を演出する欧米系ファンド次の狙い

上海G20でほくそ笑んだのは米英だったようです。中国は議長国としての権限を十分利用できないまま米英に押し切られ、「協調」の成果を謳うこともできませんでした。市場は失望の反応をするリスクがありますが、ここで市場の不安定を再現しては3月利上げの予定が狂います。欧米系ファンドは、意図して市場の落ち着きを演出する可能性があります。(『マンさんの経済あらかると』)

上海G20裏読み~欧米系ファンド、意図して安定相場を演出も

米英の意向が強く反映されたG20声明

上海G20でほくそ笑んだのは米英だったようです。市場が期待した「協調」はやはり実現せず、危機感は共有したものの、結局は各国が責任を持って対応することに留まり、G20としての拘束力、縛りは一部を除き、ほぼない形に終わりました。

その中で、声明の内外に米英の意向がより強く反映されています。

まず、世界経済の下方リスク、脆弱性の認識を共有しましたが、これに対しては、米国やIMFが主張してきた「財政政策で対応」の方向性が提示され、金融緩和策は否定こそしませんでしたが、それだけでは経済の均衡は実現しないと、限界を認識させました。

もっとも、日独を念頭に置いた財政策にも、縛りはなく、独は均衡財政堅持を主張、日本も麻生大臣は消極姿勢です。

市場の動きが大きすぎ、実物経済を反映していないと先に書きましたが、市場を混乱させたのは欧米のファンドで、これに歯止めをかけることはできませんでした。

特に、不安の一因になった原油価格の下落、不安定には何ら言及されませんでした。FRBに利上げをさせたい勢力が、このところ原油価格の安定化を演出した成果とも言えます。

「通貨安競争のけん制」は米国の一人勝ち

その一方で、為替に関しては、ドル高の景気への圧迫を気にする米国から、通貨安競争をけん制する圧力がかかり、結果として「通貨安につながる方策(つまり金融緩和など)をとる場合は、事前に周辺国に通知する(ユーロ・グループ議長)」ことで合意したと言います。

そうなると、日欧や中国などの追加緩和策は機動的に行いにくくなります。

これに関して、日銀の黒田総裁は、追加緩和を円安誘導ととられて動けなくなる事態を避けるために、G20の場では、あくまでインフレ目標を達成するための緩和であって、円安誘導ではないと説明して歩いたと言われます。

もっとも、欧州では通貨高抑制のための追加利下げを認識しているので、日銀の説得には限界もあります。

Next: 「人民元の切り下げはしない」言質をとられた中国に米利上げが追い打ち



「人民元の切り下げはしない」言質をとられた中国

市場不安のもう一つの要因であった人民元の引き下げについても、この「通貨安競争」の縛りをかけました。そして李克強首相から、引き続き人民元の切り下げはしないとの言質をとりました。

その点、米系ファンドの中には、人民元売りで市場かく乱をしたい勢力もあり、ここはアジア周辺国への配慮を優先した形です。

これで中国は人民元安による輸出拡大に逃げる道を封鎖され、米国議会の意向を通したことになりますが、その一方で中国経済の減速を回避する手段として、中国を念頭に置いて、「構造改革」を成長の柱として書き込ませました。

しかし、中国での構造改革は目下のところ政治改革の色合いが強く、習近平体制強化のために、腐敗一掃と称して反体制派の排除に注力しています。

このため、構造改革が当面中国の成長を促進することにはならないと見ますが、構造改革の中で、欧米資本は何らかのビジネス・チャンスを見出そうということだと思います。米国のネオコンなどは、むしろ中国経済の弱体化をはかり、米国支配の強化、米国資本の関与を強める意向のようです。

米国は利上げで中国経済を締め上げる

当然のことながら、市場が最も気にする米国の利上げに関しては、参加国が米国に利上げを抑制するよう、圧力をかけることができず、むしろ米国の利上げを所与のものとして、その結果生じるであろう、中国や新興国からの大量資本流出に対処するよう求めました。明らかに米国(ネオコン)の勝ちです。

つまり、米国は引き続き利上げで中国経済を締め上げると宣言したようなもので、中国としては「作業部会」を設置して資本流出を監視する、というしかありません。議長国としてのメリットを使うにも、米英に押し切られた感があります。

その象徴例が、英国のEU離脱への文言挿入でした。中国としてはもともとこれを書き込む予定はなかったのですが、離脱を押さえ込みたい英国政府のごり押しを、米国財務省が後押しする形で、あえて声明文に、英国のEU離脱はリスクが大きいとの認識を共有した形を作らざるを得ませんでした。

つまり、G20は英国のキャンペーンに利用されたわけです。

欧米系ファンドは意図的に「市場の落ち着き」を演出?

以上のように、中国は議長国としての権限を十分利用できないまま、米英に押し切られ、「協調」の成果を謳うこともできませんでした。

これに期待した市場は失望の反応をするリスクがありますが、ここで市場の不安定を再現しては、原油価格を落ち着かせた意味がなくなり、3月利上げの予定が狂います。欧米系ファンドは、意図して市場の落ち着きを演出する可能性があります。

【関連】世界が注目する3人の大暴落予測 近づく「ダウ6000ドル時代」の生き残り方

マンさんの経済あらかると』(2016年2月29日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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