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もはや日本株を買っているのは年金だけ 再度のリスクオフは時間の問題=E氏

突如の円高進行で世界的なリスクオフになった2月は、欧州金融機関の経営不安の噂まで出ましたが、当該金融機関の自社株買い発表で一旦は落ち着いたように見えます。しかし、そもそものきっかけであった円高は多少戻したもののまだ続いています。リスクオフになった原因をマーケットがきちんと認識していない以上、再度リスクオフ的な流れになるでしょう。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

過剰流動性相場の終焉に市場が気づいた時、悲劇は始まる

再度リスクオフ的な流れになるのは時間の問題

先週の米国株は原油が続伸したこともあり、過度なリスクオフからの揺り戻しが引き続き起きたことで堅調に推移し、S&P500は週間で+1.58%と週間ベースで続伸しました。

一方の日本株も円高が続いていることで上値は重かったものの、米国株に引きずられる形で堅調に推移、日経平均は週間では+1.38%と続伸しています。

米国株は2011年以来という大幅なショートスクイズが発生しての上げなので、ショートスクイズが終了したら再度下げ基調になる可能性が高いです。米国株に連動して上げた日本株もショートスクイズに引きづられオーバーシュートしている可能性が高いでしょう。

日本株は週間ベースで続伸したとはいえ、それまでの下げが突出していたことから、3ヶ月パフォーマンスでは日本株は突出して下げています。

世界のリスクオフ時は円が買われ易いので、リスクオン時、日本株は他先進国よりアンダーパフォームする傾向がある為です。しかし、日本株が本当に売られるのは世界が中国リスクにおびえる時なので、日本株のディスカウントはこれからも続くでしょう。

これは1年パフォーマンスで見ても同じです。従来、日本株は1年パフォーマンスでは主要先進国に比して軽微な下げにとどまっていましたが、2月に入ってからの下げで先進国以下のパフォーマンスになってきています。

これは、「とっくに魅力がなくなっていたにも関わらず他先進国より堅調だった」という日本株の過剰なプレミアムが完全に消失した為だと思われます。

日米欧のマネーは引き締め見通しに転じる

基本的に1年パフォーマンスのような長めのパフォーマンスで見ると、日欧のようにマネー増加の裏づけのある地域の株式市場が強く、引き締め傾向にある地域の株式市場が冴えないパフォーマンスになっていましたが、この1カ月で様変わりしました。

中央銀行の緩和意思が依然としてあるはずの日欧市場と、基本的に利上げ方向の米国のパフォーマンスに差がなくなっているのです。これは、日欧中央銀行が1月会合で追加緩和や3月会合での緩和に言及した事で、当面の緩和が出尽くしと思われたことが大きいですし、2月は日米欧中央銀行ともに会合がないという不安心理からくる過剰反応も多分にあるでしょう。

これに加え、この週末に上海で開催されていたG20で各国の通貨安競争へのけん制が入った事で、量的緩和をする余力も意思もある日欧が動きにくくなりました。

先週、米国では通貨安政策をする国への制裁をかける法案が成立したこともあり、過剰流動性相場終焉時にも関わらず追加緩和期待が持ちにくくなってしまいました。かと言って、米国が利下げをするわけではないので、世界の基軸通貨である日米欧のマネーは引き締め見通しに転じることになりそうです。

まずは日欧株式市場のパフォーマンスが影響を受けますが、徐々に周辺国や周辺アセットも過剰流動性相場終焉によるリスクオフ的な流れに戻る確度が高まってきました。

足元の原油反発は一時的

しかし、先週に関しては、新興国市場はまだ落ち着いています。

先進国が上げる中でフラット程度のパフォーマンスなので、再度アンダーパフォームし始めていますが売り込まれてはいません。

これは原油反発もあって商品市況が横ばっている影響も大きいでしょう。

しかし、原油は生産水準横ばいが決定されただけで減産される訳ではありません。原油の最大需要国の中国が年率2割で原油需要が落ち込んでいる以上、足元の原油反発は一時的な公算が高いでしょう。

この2週間のリスクオン的な反発は、結果的に過剰な下げとなった欧州金融機関の噂が消失したことでもたらされましたが、もともとリスクオフになった原因が欧州金融機関の経営不安ではなかった以上、原油市場が再度下落に転じると、新興国だけでなく先進国のリスクオンも終わる可能性が高いでしょう。

更に、米国利上げ下の救世主、言いかえると売り方にとっては最大リスクであった日欧中央銀行の追加緩和が、G20の決定でしにくくなってしまったことも、過剰流動性相場の終焉確度を高めることになりそうです。

先週金曜は強い米個人消費支出と米10-12期GDP改定値の上方修正で、一気に利上げ確度が高まっています。これで日欧の緩和期待が消失すると、日米欧のマネーは明らかに引き締めサイドに転じるので、中国株安や商品安、新興国通貨等のリスクに対し打たれ弱くなります。

週前半はまだショートスクイズが続くかもしれませんが、中央銀行発の緩和発言によるものでない以上、その持続性は限定的と思われます。

リバウンド相場が終焉した後に待っているのは、中国株安がなくてもリスクオフマーケットですし、中国株急落があれば更に悲劇的な展開になると考えています。

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再三の「騙し討ち」で市場の信頼を失った黒田日銀に打つ手なし

散々追加緩和に消極的な発言を繰り返していた黒田氏が昨年12月にまたもや市場を騙まし討ちにしたと思いきや、先々週の1月会合でも再度騙し討ちです。

先月末の日銀政策決定会合で日銀では初めてとなるマイナス金利を導入することにしました。しかも、その後も黒田氏は様々な機会を利用して必要なら更なる緩和もあると言い続けていますが、全く効果がありません。日銀のマイナス金利導入をあざ笑うかのように、直後から急激な円高になってしまいました。

直後から「必要なら更なる緩和も躊躇なく」と発言していますが、今までの行動から完全に信頼されなくなってしまいました。決まった日程でしか会合が開けない以上、日ごろの発言の信頼性も重要なのに、黒田氏は完全に信頼されなくなってしまったのです。

しかも、先週末の上海G20で日本が通貨安政策の国としてやり玉に挙がりました。

ユーログループ議長は、ECBの追加緩和のアピールをした反面で、日銀にはくぎを刺したのです。

どう考えても、ECBの追加緩和と日銀の追加緩和では内容の差はなく、日銀だけが通貨安の犯人で責められる必要はないのですが、中国以上にやり玉に挙がってしまったのです。

過去G20では、黒田氏の異次元緩和は称賛されることはあっても批判されたことはありませんでしたので、黒田氏にとってさぞショックだったでしょう。せっかくのサプライズだったマイナス金利も理解されただけであり、好意的な評価はありませんでした。

これはうがった見方をすれば、欧州が経済競争力を高めるために、日本に外交戦争を挑み、日本が負けたと見ることもできます。しかし、先日の記事で紹介したように先週米国では通貨介入をする国に対し制裁を加える法案が成立したので、米国からすれば日本も欧州も同じかもしれません。

日銀は打つ手が出尽くしと取られ、発言の信頼性がなくなっただけでなく、追加緩和という手段すら使えなくなった可能性があるのです。

発言もサプライズもなかったら、マーケットがリスクオフに転じたら日銀は救う事ができません。

これは日銀にとってもネガティブですが、日本株にとっては最後の救い手が頼りにならないので非常にネガティブです。

日銀は手をもぎ取られてしまいましたので、こういうときは仕掛けが入り易いです。先週も書きましたが、救世主がいない不安に乗じて、動かし易いアセットを使い、無知な個人投資家でボラティリティが上がっている日本株と為替で仕掛けている可能性が高いのです。

黒田氏に対する発言の信認が崩れた以上、3月の日銀政策決定会合まで何を言ってもマーケットは反応しないでしょう。

発言の重みや信頼性がなくなった以上、当面日銀発のニュースは気にする必要も無くなります。従って、3月の日銀政策決定会合直前まで日銀は気にすることはありません。

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日本株の株価押し上げ材料がない中、信託銀行が突出して買い越し

日本株のファンダメンタルズ

上場企業の中間決算は、売上+2.1%、営利+25.0%、当利+20.7%なので強い基調でしたが、7-9期だけで見ると経常は2.4%増益と大幅に鈍化し10-12期は5%の減益になりました。

今期は増益と言っても、足元は7-9期から減益基調なのです。これは為替だけが理由ではなく、中国減速や新興国減速も要因です。

足元更に円高が進んでいることから、現在の為替水準では、来期の期初予想は間違いなく減益で出てくるでしょう。

このように、企業収益で日本株を買うことはもはや困難になっています。こういった場合でも株価が上がるには、マネーの総量が増える過剰流動性相場が持続することが不可欠ですが、今まで観てきたように、マネー総量はむしろ減少する方向にあるので、株価を押し上げる材料がほとんどありません。

日本株のバリュエーション

日銀の追加緩和のお陰で突出してマネーが集まる市場となった日本株は、どの国よりも過剰流動性相場の恩恵を受けPERが上昇しても良さそうなのに、なかなかPERが上がりませんでした。しかし、日米欧中央銀行が引き締めバイアスをかけたことで過剰流動性相場は終了しました。

過剰流動性相場は業績以上に株が買われる相場なので、過剰流動性相場時はPERが上昇しますが、過剰流動性相場が終焉するのと世界的なリスクオフに伴い、日本株のPERは今後も切り下がっていきます。PERが安いから買いというのは過剰流動性相場終焉後の世界では通用しません。

日本株の需給

一昨年10月末のGPIF改革で発表された新基本ポートで日本株の標準ウエイトは25%です。昨年4月以降ずっと新基本ポート比較でアンダーでしたが、7月に入ると2万円超の日経平均に炙り出されたのか猛然と買い始め、結果として9末で7兆円程度の運用損を計上してしまいました。

しかし、10月に入っても買い越し基調が続き、11月こそは売り越しましたが、昨年12月の米国の利上げ以降のマーケットで一番の買い主体は信託銀行になっています。

昨年12月から買い始め、中国株急落を契機に世界がリスクオフになった1月も4週連続で買い続け、リーマンショック級と言われたドイツ銀経営不安で揺れた週ですら買い越し、そして過度の経営不安が去った先々週はとうとうこの5年で最も買い越しています。

Next: 今週の注目材料/日米欧の当面の金融政策は出尽くし



今週の注目材料

今週最も重要な指標発表は米雇用統計です。

3/1(火)
中国PMI
米ISM製造業景況指数
3/2(水)
ADP雇用統計
3/4(金)
米雇用統計

金曜発表の雇用統計は日本株にとっては影響ありませんが、強い指標が出た場合はコンセンサス利上げ確率が上がったとはいえ依然として楽観的なマーケットがFOMCの見方に収れんする可能性が高いので非常に重要です。

また、中国PMIも重要ですが、コンセンサス49.4(50が平均)を大幅に乖離して発表されることはないでしょう。

今週は、G20で決まった過度な通貨安政策を止めるというのが追加緩和政策の打ち止めとして捉えられるかどうか、また、先週金曜発表の米個人消費支出と米GDPの上方修正で、米FRBの政策が引き締めサイドに転じるとマーケットが「考えるかどうか」が重要になるでしょう。

その意味で、従来以上に米欧中央銀行の要人発言が重要になります。

日米欧の当面の金融政策は出尽くし

リーマンショック対応から始まったFRBの量的緩和が2014年10月のFOMCで終了し、2015年12月16日にはリーマンショック初となる米国の利上げが決定されました。

2014年10月の量的緩和終了で他に供給する基軸通貨マネーが無いとマネー逆流になり過剰流動性相場は完全終了するところでしたが、間一髪のタイミングの昨年10末に日銀が追加緩和をしたことで、先進国に関してはリスクオフには歯止めが掛かりました。

その後、原油安やギリシャ政情不安が出てきたところでタイミング良く2015年3月から欧州ECBによる量的緩和も始まり、昨年10月理事会後の定例会見で今年12月には更なる緩和があるとECBがアナウンスし、先月理事会で予定通りに追加緩和を決定しています。

何もなければリスクオフになるところを、日欧の中央銀行が必死にマネー供給してリスクオンマーケットを維持しているというのが現状なのです。

しかし、12月中旬の日銀政策決定会合での追加緩和もどきで、日米欧の当面の金融政策は出尽くしました。日欧の追加緩和は出尽くし、米国は今後粛々と利上げをしていくのみなので、日米欧中央銀行の金融姿勢は先々週を境にして完全に引き締めサイドに転じたといえます。

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元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2016年2月29日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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