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IPO初値が公募価格を40%超えたピー・ビーシステムズは、VRコンテンツの伸びに注目

ピー・ビーシステムズ<4447>は、9月12日福証Qボードに新規上場しました。1,380円の公募価格に対して、初値は差異率+41.30% の1,950円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年9月25日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

VRシアター「4D王」の技術開発・販売事業を展開

ピー・ビーシステムをジョブ理論の視点からみる

株式会社ピー・ビーシステムズ<4447>(以下、同社)は、2019年9月12日福証Qボードに新規上場しました。業務内容は、企業の基幹システムをクラウド化する製品・サービスの販売およびVR(仮想現実)シアターの技術開発と製造販売です。

同社の株価は、公募価格1,380円に対して初値は1,950円をつけました。差異率は+41.30%と値をあげました。なお、9月24日時点の株価は1,705円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社は、セキュアクラウドシステム事業およびエモーショナルシステム事業の2つの事業を展開しています。セキュアクラウドシステム事業は、中堅企業を主な顧客ターゲットとし、企業の基幹システムをクラウド化する製品・サービスを販売し、その対価として収益を得ます。

エモーショナルシステム事業は、4D王運営者を顧客とし、商品およびコンテンツを販売し、その対価として収益を得ます。また、パートナー・代理店を顧客とし、商品およびコンテンツを販売し、その対価として収益を得ます。なお4D王とは、次のようなものです。

4D王は特許(特許第4166260号:立体映像の投影方法及び立体映像の投影装置)を取得しており、360度スクリーンに切れ目なく3D映像を投影する特許技術を基にした移設可能なミニシアターであります。円筒形のスクリーンの中に客席が設置され、スクリーンに囲まれた空間に映像が縦横無尽に飛び回り、観客を突き抜ける特殊効果と、映像に同期した立体音響、突風、地面の揺れによって、360度に展開するストーリーに観客を没入させる、独自のVR空間を作り上げる装置となっております。ヘッドマウントディスプレイ型のVRと異なり、軽量な3D眼鏡を使用することで仲間と感動を共有する、いわゆる「体験共有型VRシアター」と言えます。

ビジネスモデル的にみれば、いずれの事業のそれも、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品──クラウド化のための製品・サービス、4D王運営のための商品・コンテンツへ──と変換する価値付加プロセス型事業です。

同社は、対処すべき課題の一つとして「4D王の新分野への展開」を、事業等のリスクとして「セキュアクラウドシステム事業遂行上のリスク」「エモーショナルシステム事業遂行上のリスク」「全社のリスク」をあげています。

Next: ピー・ビーシステムズが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社が対処すべき課題としてあげる「4D王の新分野への展開」を取り上げます。同社はそれを、次のように認識しています。

エモーショナルシステム事業においては、2018年9月期から事業の見直しを行い、再構築の途上にあります。遊園地系以外の分野への特殊3D映像によるVRメディアとしての市場の開拓と、科学館、博物館、防災施設、観光施設、シネコン、製造業の工場見学ルート、あるいは海外への展開を担う、分野別の販売代理店の確保及び育成に努めてまいります。

ここで着目したいのは、科学館または博物館の分野への特殊3D映像によるVRメディアとしての市場の開拓です。具体的には、小さなネズミの視点で自然を観察するのです。狙いは、子どもたちに自然科学への関心をもってもらうことです。

こういった状況で顧客──主に親子連れ──がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「立体映像をみる」ということ。感情的側面として「娯楽」「魅力」「癒し」、社会的側面として「親子のつながり」といったことを重視するでしょう。

なお、同社は競合を次のように認識しています。

当社の属する情報通信サービス産業においては、技術革新とともに既存技術の陳腐化が早いため、他社との差別化を図るためには高い付加価値をもった製品・サービスが求められます。競合先が多数存在する中、プライベートクラウド構築技術・セキュリティネットワーク構築技術においては、長年クラウド構築に特化した事業を行ってきた当社ならではの、独自に蓄積した実装・コンサルティング能力、ノウハウや実績において他社に対し優位性を有していると考えておりますが、競合先の技術力等の向上により当社の競争力が大きく低下した場合は、当社の事業及び業績に影響を与える可能性があります。

Next: ピー・ビーシステムズを評価するときのポイントとは?



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客がVR画像を雇うとする際に障害となり得るのは、一つには、重いヘッドマウントディスプレイ型の専用端末を着けなければいけないことです。その点、同社は軽量な3D眼鏡を使用することができます。その結果として顧客は「小さなネズミの視点から捉えた立体映像を親子でみることで、共通の話題ができ、子どもは自然科学への関心をもつようになる」というすぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

社内プロセスの統合という意味で同社の課題となるのは、親子で楽しめる立体映像を継続的に制作できる体制を構築することです。

では、同社がこうしたコンテンツ制作を行うのであれば、評価基準はどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社はリトル・ハイア──コンテンツが見られた回数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベー ションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年9月25日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by: Gorodenkoff / Shutterstock.com

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年9月25日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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