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量的緩和バブル崩壊後に世界経済を待つ試練~IMF・BIS・ダラス連銀前総裁の警告

IMF「世界経済は間もなく脱線転覆」、BIS「中銀に対する信認が揺らいでいる」、米ダラス連銀前総裁「量的緩和は麻薬、株価を上げる以外の効果なし」――いま世界の要人が「量的緩和バブル」の崩壊を口々に警告しています。(『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』)

米ダラス連銀前総裁「何せ弾薬はもう残っていないのだ」――

「世界経済は間もなく脱線転覆状態に」IMF(国際通貨基金)

現在は中間層が消えつつあり、報道も二極化しているようです。貧困層は無料の地上波テレビ以外の情報を与えられませんが、富裕層はおカネさえ払えば、キメの細かい、そして重要な情報が得られます。

IMF次席専務理事が全米ビジネス経済協会で披露した「IMFが見た世界経済の状況」を、米フォーチュン誌が報道しました。その記事のタイトルは「IMF:世界経済は間もなく脱線転覆状態に」です。

報道のポイント

IMFの首脳の1人、David Lipsky次席専務理事は2016年3月8日、全米ビジネス経済協会の講演の中で、「世界経済は危険な状態で脱線する可能性が高い。米国は株価がラリっており、雇用データも堅調で、不況に対する恐怖感は薄らいでいるが、世界経済の実態は健全ではなく、呆けていては駄目だ」と警告した。

IMFの認識では、世界経済は再び弱体化している。金融市場は落ち着かず、リスクが高まっており、各種コモディティ価格(貴金属を除く)は安く、それらが世界経済への懸念をもたらしていると判断している。

「欧州も米国も、全世界の政府は深刻な不況が来ることに目を覚ますべきだ。海外需要および国内需要を高める政策が必要だ。つまり豊かな国(どこの国?)は、短期間に雇用を作り出し経済成長させるために、インフラ投資の予算をもっと増やすべきである。また規制緩和をして役所の手続きを簡素化しなければならない」

…とのご託宣。記事の紹介はここまで。

量的緩和が限界でも、出口戦略は存在せず

つまり「金利をいじったり、バラ撒きをしても有効ではない。各国に必要なのは雇用だ。それには箱物建設等が必要なのだ」と言っています。

しかし、もう何十年もバラ撒き予算と箱物建設をやってきて、背負い切れないほどに公的債務を増やしても、効果はほとんどなかった。挙句の果てに残ったのは累積債務だけ。貧富の格差をなくさない限り、中間層は復興しない。分かっているのか?いないのか?たぶん、これからも同じことを何十年も続けることでしょう。

いったんマイナス金利にすれば、もう後戻りはできない。各国は出口戦略など持ってもいないし、考えてもいない。考えても実行不可能だからです。

もし利上げをすれば何が起こる?金融引き締めをすれば何が起こる?それを考えると後には引けない。今までやってきたことが、すべておじゃんになるからです。今すぐの破産が嫌なのは、責任問題が出てくるからでしょう。反対に、後に後にと延ばせば延ばすほど、責任は遠のくのですから、当然、この線で動いていくはずです。

実際の講演の中身もちょっと覗きましたが、前述のフォーチュン誌の内容で十分でした。スピーチは冗長で、中身は新味に欠けるものばかりでした。そこで、現状認識部分を抜き出したのが上記画像です。赤枠が「もう手持ちの矢がなくなった。金融当局の打つ手はなくなった」との認識、青枠が「世界経済は脱線転覆の可能性が高まった」との認識を示す箇所です。

Next: 「中央銀行に対する信認が揺らいでいる」BIS(国際決済銀行)



「中央銀行に対する信認が揺らいでいる」BIS(国際決済銀行)

世界中の中央銀行群の中心に位置し「中央銀行の中央銀行」と言われるBIS(Bank for International Settlements:国際決済銀行)が、中央銀行という組織に対する信認が揺らいでいる」との警告を発しました。ロイター報道です。

報道のポイント

BISは2016年3月6日、マイナス金利政策および新興国経済に対する懸念を示すかたわら、中央銀行はその「経済的治癒能力」に対する信認を失いつつあるとの懸念を示した。

金融・財政面の安定性を追及する世界中の中央銀行群の中で、その協調行動を助成する役割を担うBISは、最近の懸念材料として、中国経済や原油価格、商品価格の低迷だけでなく、世界経済の中で大きく地殻変動が起きているユーロ圏の銀行問題を挙げている。

BISの税制経済部門トップであるClaudio Borio氏は、2016年第1四半期報告で、「銀行間の資金の貸し借りがこの2年間で初めて収縮している。同時に、世界経済の成長が止まり、債務総額が上昇を続ける中、欧州や日本がマイナス金利政策を実施したことは世界経済に脅威となっている。市場の大幅変動を抑えるための道具である金融政策は行き詰まりを示しており、最近の大嵐は、中央銀行が2008年以降大きな重荷を背負わされていることのメッセージである」と述べている。

さらに、「市場参加者はこのことにすでに気づき、中央銀行の治癒能力に対する信認が落ちていると感じており、これは史上初めてのことだ。政治家もそのうち気がつくであろう」と述べている。

このコメントでは、銀行の余剰資金にかかってくるマイナス金利の副作用についての懸念も詳細に述べられている。

BISのこの報告書は、スウェーデン、デンマーク、スイス、日本、ECBのマイナス金利政策はそれぞれ内容が異なるものの、共に今後、さらにマイナス金利が深く進行していくと見ている。

スイスでは、マイナス金利は顧客の預金に適用されず、そのかわり不動産ローン等の銀行手数料等のコストを増やしている。

BISの報告書では「もし、マイナス金利のコストが個人や企業に対する貸出レートに応分に反映されなければ、その個人や企業は、この手法は合理的ではないと判断するだろう。他方、もしマイナス金利が個人や企業向けの貸出金利に反映されるものの、預金にはマイナス金利が反映されなければ、銀行は収益に大きな影響を受ける。こうなると預金そのものの安定性に疑念が生じるだろう」と述べている。

ユーロ圏外の複数の企業は、ユーロ建ての借入を増やしており、総額で年率15%も伸びている。もし彼らが、通貨先物でヘッジしていないのであれば、それは今後もユーロ安になるほうに皆で賭けているようなものだ。

米国企業の間ではユーロ建ての資金調達が増えており、非金融部門に属する米系企業での発行残高は昨年第4四半期で48%も増加している。

新興国ではこれまで6年間、米ドル建て資金調達が伸びていたものの、昨年の新興国通貨安および調達コスト上昇により、米ドル建ての資金調達は減っている。

国際金融大手の新興市場への貸出は2015年第3四半期6%の減少となっており、そして同時に新興国の国債やローン残高も2015年第4四半期に47B$減少しており、これは3年間で最大の落ち込みであった。

「これは新興国経済市場のサイクルが膨張し、破裂した時点で起きたのであり、破壊的な大波に襲われたようなものだ」と述べている。

…報道の紹介はここまで。

ATM手数料の値上げは預金に対するマイナス金利そのもの

さて上記に「スイスでは、マイナス金利は顧客の預金に適用されず、そのかわり不動産ローン等の銀行手数料等のコストを増やしている」との記述がありますが、これは不思議な話で、ちょうど一昨年、某氏のスイス預金口座の明細では、手数料が毎月引き落としされ、実質マイナス金利の状態でした。

日本のマイナス金利に関して、普通預金にマイナス金利はないので問題ないと解説しながら、他方でATM手数料の値上げを示唆する筋がありますが、これも奇妙な話です。ATM手数料の値上げは、預金に対するマイナス金利そのものです。マイナス金利という表現では文句が出るので、ATM手数料という表現に置き換えて誤魔化しているだけです。

ATM手数料の値上げにはもう1つの目的があります。現金引き出しをしない状況、つまり紙幣を使わない電子決済化に誘導するのに好都合なのです。

Next: 「量的緩和は麻薬。株価を上げる以外の効果なし」ダラス地区連銀前総裁



「量的緩和は麻薬。株価を上げる以外の効果なし」ダラス地区連銀前総裁

団塊世代のダラス地区連銀前総裁、リチャード・フィッシャー氏のCNBCでの放談が話題になっています。

総裁職を辞めたのは2015年。現議長とは異なり妥協を好むタイプではないようで、ダラス地区連銀総裁時代の2013年、ベン・バーナンキ前議長が進める量的緩和に対しても反対の意を唱えています。

2015年12月18日にイエレンFRB議長が利上げを発表しましたが、その後もあからさまに「第3次量的緩和は間違いだ。あの時、私は反対の投票をしたよ。やりすぎな、過剰な政策だったから!」と語っています。

かように言いたい放題の名物男ですが、本日ご紹介するのはそんなフィッシャー氏の新たな言いたい放題、CNBCインタビューです。動画はここここで見てください。

CNBCインタビューのポイント

我ら連銀は、金融システムにコカイン(1回目の量的緩和)ヘロイン(2回目の量的緩和)を打って資産効果(株価上昇)をもたらした。今はリタリン(3回目の量的緩和)でその効果を維持させているのだ。

前に言ったように、我らが連銀は巨大な軍事力を持っているのだが、何せ弾薬はもう残っていないのだ。

株価は上げたが、それ以外には何もできていないのだ。

米国の景気回復にはとにかく時間がかかるし、これからはもっともっと時間がかかるだろうね。なぜかと言えば、それは米国連銀、議会、大統領が完全無欠の無責任だからさ。

…インタビューの紹介はここまで。つまり連銀はもう無力化しており、金融市場は崩れるのみ

もはや彼らのかけ声を信じる者はおらず、言えば言うほど、やればやるほど、虚しい結果となっているのです。その状況はこの種の言葉に集約されるでしょう。「いま出口戦略を語るのは好ましくない」――

Next: いまSNB(スイス中央銀行)が金鉱株を買っているのはなぜ?



いまSNB(スイス中央銀行)が金鉱株を買っているのはなぜ?

さてこのような中、SNB(スイス中央銀行)が、大手金鉱山のAgnico Eagle社(AEM)の株式を購入したとのことです。本当なのか?噂ではないのか?をチェックしました。

(ア)Agnico Eagle社の株価です。2008年から現在までの動きです。

(イ)同社の業績です。3番目のパラグラフで、2016年の予想キャッシュコストが590ドルから630ドルですから優秀なものです。キャッシュコストが低いので、この値段でも利益が出ており、今後3年間の生産計画も安定したものとなっています。

(ウ)同社の大株主リスト。赤枠がスイス中央銀行で、持ち株数が2,023,753株、53,071,000ドルと記載されています。2015年12月31日現在です。

(エ)スイス中央銀行の持ち株リストの一部です。赤枠がAgnico Eagle社の持ち株数です。持ち株数は2,023,753株。+1,900とは、2015年9月30日から12月までの間に1,900株を買い増したということです。これは同社の全発行株の約1%弱に相当します。

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いつも感謝している高年の独り言(有料版)』(2016年3月10,11,14,15日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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