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2016年「アベノミクス官製相場」の仕掛けと対策 問題は7月参院選後=吉田繁治

原油価格の持ち直ししか理由がないのに、日経平均が1週間で492円(3%)上がっています。再びの政府主導による官製相場です。近年の日経平均は2つの原因でしか上がりません。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

「外国人投資家の買い」との見分け方、7月参院選後のシナリオは

最安値から15%反発した日経平均株価

原油価格の持ちなおし(1バーレル$36.8:WTI)しか理由がないのに、日経平均が1週間で492円(3%)上がっています。最安値の2月12日からは2846円(15%)の上昇です。15年12月の2万円以降の、ここ3か月の高値と安値をまとめてみます。

15年12月 2万円以降の日経平均株価

15年12月01日 2万0012円(基準とする)
16年01月21日 1万6017円(-20%) 中国&原油ショック
16年02月01日 1万7905円(+12%) 1/29日マイナス金利
16年02月12日 1万4865円(-17%) マイナス金利ショック
16年03月09日 1万6625円(+12%) 1760円(12%)回復
16年03月15日 1万7117円(+ 3%) 492円(3%)回復

安倍内閣は「株価政権」と言われてきました。確かに、異次元緩和による円安と、政府関連機関の株買いによる株価上昇が、政権の支持を図る基本政策になっています。

最新の世論調査(読売新聞)

事実、株価が上がる時期の世論調査では、経済政策への評価と支持率が高まり、下がると支持率も下がります。新しい調査では、以下の結果です(3月6日:読売新聞)。

(1)安倍内閣の経済政策を…評価する(39%)、評価しない(47%)
(2)安倍内閣を…支持する(49%)、支持しない(40%)
(3)景気の回復を…実感していない(78%)

(注)同じ質問を始めた13年6月以降で、安倍内閣の経済政策を「評価する」は最低、「評価しない」は最高です
(注)安倍内閣を「支持する」は前回の52%から49%に低下。他方、支持しないは前回の36%から40%に上昇しています
(注)読売新聞の内閣支持率は、朝日新聞より3~7%程度高く表れる傾向があります

景気回復の実感なき株高政策

驚くのは、「景気回復」を実感していない人が、今年になって、78%にも増えていることです。アンケートの景気回復が何を示すか定かではありませんが、5300万人の雇用者にとっては自分の会社の売上や利益と自分の賃金、240万人くらいの個人事業(会社組織)にとっては売上でしょう。

電話アンケートに答えた5人のうちほぼ4人が、会社や周囲の状況から景気回復を実感していないと答えています。政府・日銀は、4半期の実質GDPが低下しても「不況」とは決して言いません。

15年10~12月期の実質GDPは、年率換算でマイナス1.1%でした。消費者物価(CPI)上昇率は原油価格の下落を主因にほぼ0%に下がっているので、金額の名目値でもマイナス1.1%です。

2013年の4月、日銀が異次元緩和を発表したとき、名目GDP上昇では3~4%/年、CPIの上昇では2%が政府目標でした。日銀は国債を予定通りに、当初70兆円/年、14年11月以降の追加緩和では80兆円/年の金額で買い進んでいます。

金融機関が日銀に預けている当座預金は、3月14日で258兆円になり、マイナス金利以降は現金(残高94兆円)も増えています。日銀が保有している国債は349兆円になり、国債残高の35%になっています。

銀行の当座預金は、まさに、これ以上はないくらいのじゃぶじゃぶです。日銀は、これからも国債を買い続け、マネー供給量を増やし続けます。どこまで行くのか、心配になってきました。金利を高騰させるので、国債買いを止めるわけに行かなくなっています。しかし、もうこれ以上は買えなくなるという臨界点(変曲点)は必ず来ます。

Next: リフレ策の導入から2年10カ月/株価と不動産のみが上がっている理由



リフレ策の導入から2年10カ月

当初はクルーグマンが『流動性の罠』で、その後は日銀副総裁になった岩田規久男氏が提唱し、内閣府参与の浜田宏一氏が「世界標準」と言いながら経済理論的な背景を作っていた「マネーを増発することによるリフレ政策」は、目的としていた名目GDPの増加効果を上げていません(あれから2年10か月が経過しました)。

(注)当方は、1929年からの大恐慌をケーススタディしてフリードマンが言った「インフレもデフレも貨幣現象」というのは、グローバルな輸出入と通貨交換が進んだ現代では、誤りだったと考えています

政府と日銀のインフレ目標2%は、逃げ水のように、1年半後あたりに先送りされ続けます。ただしこの金融策で、株価と資産価格(3大都市の不動産)は上がっています。

7.2%上がったマンション価格

全国のマンション価格は平均で4618万円になり、1戸当たりでは前年比で7.2%上がっています。低金利マネーによる資産バブル経済の最末期(1991年)が4488万円でしたから、それよりも3%高いのです。米欧と中国大都市に比べればつつましやかですが、それでも、前回のバブル価格を超えたのです。

(注)一次取得としてマンションを買う世帯の年収(30代から40代前半:約450万円)の、すでに10.3倍です。年収の5倍が妥当ですから、はるかに超えています。この価格は、超低金利ローン(10年固定で0.8%)による「ミニバブル」の価格です。大都市部では年収の20倍も多い中国ほどではないにせよ、金利が上がったとき、将来所得でローンを払える価格ではない

マネーの増発によるリフレ策は、米国と欧州でも、株価と不動産でのミニバブルは生んでも、実体経済の成長と2%のインフレ目標の達成の面では効果を上げていません。

ユーロと米国は、デフレ基調

ユーロ(19カ国)の消費者物価上昇率は、我が国より低いマイナス0.2%です(2月)。もともと2%から3%の物価上昇だった米国でも+1.4%に下がっています(1月)。金融の要因では、住宅価格は上がっても物価は上がりません。原油・資源価格の下落が、原因の50%を占めるでしょう。

しかし長期的、そして構造的には、米国の元財務長官ローレンス・サマーズが言ったように、米国・欧州・日本は「ビクセルの長期停滞(Secular Stagnation)」に陥っていると思えます。

長期停滞とは?

長期停滞は、1人当たり所得が高い先進国(日米欧)で設備投資が減少し、成長率が大きく低下することです。その国の経済が長期停滞にあるときは、金融緩和でマネーを増やし、ゼロあるいはマイナス金利にしても、企業はそれを借りて設備投資を増やすことはしない。

理由は、将来GDPの低い成長、またはゼロ成長が想定されるときは、借入金による設備投資の予想ROI(Return On Investment:予想利益/投資額)が確保できないからです。

このため、減ってきた設備投資の増加がなく、経済(GDP)は成長しなくなります。需要(消費と設備投資)が増えず、デマンドプル型での物価上昇はない。デマンドプル型での2%から4%の物価上昇は好ましい物価上昇です。

株価と不動産のみが上がっている理由

金融の超緩和やゼロ金利により、資産(株価と不動産)だけが、つかの間の上昇を示しています。これは過剰流動性の相場です。

上がった資産価格は、金利が上がる時期になると、実体経済(GDP=所得)に合わせて再びしぼみます。

ゼロ金利やマイナス金利の効果は、GDPの実体経済には及ばない。株価の上昇はGDPには入りません。
(注)日本とユーロ(特にドイツ・イタリア・スイス)の自然成長率の低下は、ほぼ似た人口構造問題によるものでしょう

日経平均の問題から、思わず、原因である「長期停滞:Secular Stagnation」にまで話が進んでしまいましたが、自然成長率(潜在性成長力ともいう)低下傾向については、別に論を準備すべきでしょう。とても重要なことです。

Next: 再びの政府主導による官製相場~「外国人投資家の買い」との見分け方



再びの政府主導による官製相場~「外国人投資家の買い」との見分け方

3月の日経平均の上昇(2252円:15%)原因は、再びの政府主導による官製相場です。近年の日経平均は、2つの原因でしか上がりません。

(1)売買の70%を占めている外国人投資家(ヘッジファンド、海外年金基金、産油国の国家ファンド)による買い超。週間で2000億円くらいの買い超で株価は横ばい、4000億円以上のとき株価は上昇します。
(2)日銀のETFの買い、年金基金を使うGPIFの買い、郵貯・かんぽの基金による買い

海外投資家の買い超で上がるときは、株価が上がる一方で、円安になります。理由は、円ベースの保有株(31%:150兆円)の上昇があると、円高(ドルでは株価下落)のときのリスクが増すので、この円高リスクをヘッジするため、円の先物が大量に売られるからです。

円の先物を売っておけば、円高のときドルベースでの日本の株価が下がっても、利益をヘッジできます。

具体的に言うと、$1=120円の円安・株高のとき円の先物を120円で売っておけば、限月である6カ月後に$1=110円の円高・株安になったときも$1=110円で買い戻せるので、10円の利益が出ます。
(注)ちょっとややこしいでしょう。自分で数字に置き換えるとわかります

現象的には、

になります。逆に、日経平均が下がるときは、円高になります。これが、外人買いの特徴です。

16年3月の日経平均の上昇(15%)を見ると、ドル/円は、113円付近であり、動いても112.5円から114円の1.3%幅です。つまり、ドル/円はほとんど動いていません。3月株価の上昇は、外国人投資家の買い超によるものではないからです。誰が買ったのか。

2016年の株価形成は単純構造

投資主体別にみると、外国人投資家は3月の1週は945億円の売り越しです。個人投資家も1989億円売り越しています。買い越しは信託銀行部門であり3月の1週で2813億円です。

信託銀行は、2月の3週に4989億円、4週に3848億円という大きな買い越しです。信託銀行の買いの中身は、日銀の株ETFの買いと、年金基金の買いです。

一方で外国人投資家は、16年2月には4週間の合計で2兆円(週平均5000億円)も売り越しています。1月にも1兆円売り越し、2016年には3兆円という、激しい速度での売り越しです(年間に延長すれば12兆円の売り越しに相当します)。

2016年は、単純な構造の株価形成になっています。

です。

この構造を言えば身も蓋もないことになります。

日銀が、年金基金と郵貯・かんぽがもつ国債を買い上げる→マイナス金利のマネーが日銀当座預金に溜まる→行き場を失ったマネーで年金基金と郵貯・かんぽが株を買う。以上の構造です。

Next: 「やけっぱち」の政府と日銀。問題は7月参院選後



「やけっぱち」の政府と日銀。問題は7月参院選後

16年7月の参院選の前には、自民と公明で2/3の議席を得るため、政府は、

  1. 一層のマイナス金利を図り、
  2. 株買いを誘導する

でしょう。

ただし、これから世界と日本の「景気減速感」が強まるので、その中で官製相場によって上がる株価には、日経平均で1万8000円程度という限界があるでしょう。1万7000円を超えて上がると、「先高感の期待が薄いため」に売る人が増えるからです。

問題はそのあと(7月)です。国内株への運用資金枠を2014年10月以降25%に増やした年金基金の買枠も23.5%に達して、少なくなってきています。買うのは、郵貯と日銀しかなくなります。

2016年夏以降、どうするつもりでしょうか。アベノミクスが失敗とされることを恐れる政府と日銀は「あとは野となれ山となれ」と、やけになっている印象を受けます。

マイナス金利、さらに拡大も

日銀は「追加緩和」、つまり銀行の利益に対して副作用が大きいマイナス金利の拡大も画策しています。元日銀副総裁の岩田一政氏(日本経済センター理事長)は、預金と違い、現金は保管の費用がかかるので、マイナス1%までは可能という論を出しています。

政府や日銀が経済政策をとるときは、いつもその前に「論陣」を張ります。株価と不動産対策でメディア統制をしている中国政府に似てきました。

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