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中国が極秘裏に描く「世界金融戦争の終盤戦略」~金買い増しと資金流出のウラ

「中国は外貨準備として米ドルで3.2T$を保有しているが、中央指導部は米ドル覇権体制に対する戦いの最終盤戦に入ったと考えている。それで米ドル外貨準備に対するヘッジとしてゴールドを保有しようと声高に主張しているのだ」(『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』)

米ドル基軸体制に対する戦いの最終盤戦に入った中国

「中央指導部はゴールドを金融システム動乱に対するヘッジと見ている」

中国に詳しい、ゴールドセクターのアナリストのインタビュー記事を紹介します。
China’s Global Gold Strategy

このインタビューの語り手はWillem Middelkoop氏で、解説では略称WMとしています。

オランダではジャーナリストという肩書きもありますが、この人物が名を上げたのは、2008年の金融危機を正確に予測し、その見識を生かして、貴金属鉱山の投資ファンドを立ち上げたことです。また、中国のゴールド投資戦略を描いた著作でも有名になったそうです。

今回のインタビューの要点としては、「中国の金準備買い増し方針」「人民による保有」「金融システムの建て直しに至る終盤戦での戦略」があります。質問者とWillem Middelkoop(WM)氏の対話形式です。

インタビューのポイント

質問:
中国はゴールドをどのように見ているのですか?

WM:
中国はゴールドを金融システム動乱に対するヘッジと見ており、それで現在、戦略的安全資産として金を準備しているのだ。

現在、中国は外貨準備として米ドルで3.2T$を保有しているが、米ドル覇権体制に対する戦いの最終盤戦に入ったと考えている。それで米ドル外貨準備に対するヘッジとしてゴールドを保有しようと声高に主張しているのだ。

欧米では、この中国の主張はほとんど紹介されていないが、中国国内で発行されているあらゆる記事に「最短時間で最大量の金準備を保有しよう」と書かれている。

昔、1920~1930年代頃の中国は結構な量のゴールドを保有していたが、それも日本軍が第二次世界大戦前に侵略して大半を奪い取ってしまった。残りのゴールドも、戦後に国民党が台湾に持ち出し、その後1990年代まで中国本土の金保管庫は空っぽのままだった。そのような経緯があったので、中国の金保有熱は非常に強いのだ。

質問:
中国の現在のゴールド保有量はどれくらいだと思いますか?

WM:
過去15年で積み上げた量を見るなら、公的金準備保管量だけを見ていては駄目だ。中国人民銀行の保有量は、比較的少ないからだ。

公的な金準備の数字は1800トン以下だが、それは全外貨準備の2%弱でしかない。これを10%にしたいのだ。ロシアはすでに10%以上だし、欧米ではもっと大きな比率になっている。西側が全世界の金準備の大体5割を握っている。

中国の公式な計画として「人民の間で金保有を!」という表現がある。それは昨年6月に中国人民銀行のホームページに公開された記事だ。ちょうど公的金準備を大幅修正発表した時期だ。

中国の現物ゴールド保有量総計は1万トン以上になっており、それらは一般の商業銀行、企業群だけでなく、一般市民が保有している合計数量である。その半分以上を中国国民が保有している。

中央指導部は金融史を非常に良く研究しており、金融危機には政府がゴールドを没収し、その対価としてペーパーマネーを渡すことができると熟知している。特に中国のような中央支配体制国家では、容易であると知っているのだ。

同様のことはアジア危機の時の韓国でも起きたし、1933年の米国では、時のルーズベルト大統領が米国民の保有するゴールドを没収したし、その後1974年まで、米国民はゴールドを買うことも保有することも禁止されていたのだ。

中国は必要とあらば金没収をするのは可能だが、そのような事態とは、例えば人民元防衛で外貨準備の多くを失ってしまった場合などが考えられる。そうなれば、中央政府は中国の一般国民から金を取り上げるだろうが、それはよほど状況が絶望的になった場合の治療薬のようなものだ。

Next: もし中国が金価格を1オンス3000ドルにしたいと考えればいつでもできる



質問:
中国は、そのような大量のゴールドを価格上昇させずに、これまでどのようにして蓄積することができたのでしょうか?

WM:
急激に価格が上昇してしまうような事態は避けたかったので、「米ドルに対するヘッジとして金保有をする」などとは公言しなかったのだ。そうではなく、前述のやり方で外貨準備に対する公的金準備を小さな比率に抑えてきた。これは賢明な手法だ。もし中国が金価格を1オンス3000ドルにしたいと考えればいつでもできる。例えば外貨準備の25%を短期間で金準備に代えれば、すぐにも可能だ。

質問:
上海黄金交易所は一体どのようなものなのですか?

WM:
COMEX先物市場の価格形成メカニズムを上海に持ち込みたかったのだ。それで上海に取引所を作ったのだが、そこではほとんど誰でも口座開設、先物取引ができる。少し異なる点としては、上海では市場参加者の3件の取引に対して1件は現物引渡しになっている。他方、COMEXでは、300件の取引で1件のみが現物引渡しになるだけだ。現在、銀先物取引で見れば、COMEX以上に上海での取引数が多いのだ。

質問:
中国が、ニューヨークとロンドンの金保管庫を買い取りましたね。

WM:
中国はゴールドがさらに重要視されるような次の段階(重大危機で没収するような事態)に備えているのは明らか。16B$程度の資金規模のゴールド投資基金も創設し、これで、新シルクロード周辺国(ユーラシア圏)の金鉱山に開発探査資金を貸し出すのだ。

金先物市場を創設すれば、次に現物引渡しのための決済システムが必要であり、そうなると現物地金の保管庫が、世界各地で必要となる。金保管庫を所有管理すれば、現物決済システム管理ができるゆえに、保管庫こそが金価格を決定する金先物取引の必要条件になるのだ。

先物市場は紙証文取引だが、それでも裏付けの現物が必要であり、それで保管庫が必要なのだ。保管庫の鍵を保有していなければ、保管庫内に実際に現物があるのかどうかも分からないではないか。それで中国はニューヨークのJ.P.Morgan金保管庫を買い取り、ロンドンのドイツ銀行の金保管庫を買い取ったのだ。

質問:
中国にとっての「終盤戦」とは、どのようなものになるのでしょう?

WM:
中国の計画は、最終的には金融システムの中でゴールドが最重要な役割となるような道程までの長期的なものだろう。金融システムの次の段階は、ゴールドがシステムの中で支配的な位置を占めるようなもので、それに備えている。そうなれば、金価格がさらに大きく上昇すると中国は考えていると思う。

以前James Rickards氏が語ったことだが、IMF内部では米欧中国で合意事項が存在し、それによると米国、ユーロ圏、中国は、それぞれの経済規模に応じての金準備を保有し、その合計量を3万トンにして、それをSDR(特別引き出し権)の準備バスケットにリンクさせるということだ。

中国は英国の王立国際研究所に、次世代の金融システムとはどのようなものか?という分析報告を依頼していたが、この分析では、ゴールドも次の金融システムに含まれるようになるとの報告となっている。中国が国際金融システムにゴールドの追加を望んでいるのは明白であり、それゆえ、未来のSDRはゴールドにリンクしたものになるだろう。

私が思うには、中国は米国やIMFと何らかの合意をしており、それには中国の金準備の一部を米国に預けたままにするだろうと想像している。

つまり中国が買い取ったニューヨーク金保管庫の中に預けたままにするのだ。この元J.P.Morgan金保管庫はJ.P.Morganの建物内に存在し、道を挟んでNY連銀ビルに隣接しており、そのNY連銀ビルの金保管庫はFort Knox基地を除くと世界最大の金地金を保管しているのだ。

質問:
金地金を金融システム内で保管する利点は一体何なのでしょう?

WM:
金融システム内で保管しておけば、金融システムの信認が保たれ、それでハイパー・インフレを防止できるからだ。

それにSDRの通貨バスケットの裏付けに使えるからだ。もし、1オンスのゴールドの公定価格を現在の42ドルから8400ドルに評価し直せば、世界中の中央銀行にとって大きな利益となる。特に米国財務省と連銀のバランスシートは健全な状態になるからだ。

この公定価格の修正で、バランスシート上の金準備が11B$から一挙に2.2T$になる。混乱に対する容易な解決法は、この公的金価格の切り上げなのだ。

Next: いま中国人富裕層と中国共産党が最も恐れていること



質問:
中国人はゴールドを資金逃避に使っているのでしょうか?

WM:
中国人が恐れていることは多々ある。国家を裏切って金持ちになった腐敗汚職官僚は、海外に出国しようとしたり、偽旅券や、国外の住宅を買おうとしており、カナダ、米国、豪州等の住宅不動産を買う者も多い。しかし、そのような者たちは過去15年間に資産を持ってすでに出国している。

汚職官僚ではなく、もっと合法的な方法で資産を築いた中国人は沢山おり、彼らは人民元の大きな切り下げを恐れているのだ。このリスクを避けるために中国国外に資産を移したいと考えている普通の中国人がいる。しかしそんな事をせずとも、合法的に人民元でゴールドを中国国内で買い増しすれば、それで人民元切り下げに対するヘッジになると理解しているのだろう。

もちろん自国政府が信用できないときには、国外にゴールドを持ち出したいと考えるだろう。また、そのマネーが不法に得られたものであれば、そのような者は刑務所に放り込まれるだろう。

質問:
人民元切り下げに賭けているヘッジファンドがあるが、それは正しいのでしょうか?

WM:
約70年前の1940年代後半に中国はハイパー・インフレに見舞われた。この金融動乱時に共産党政権はできた。それゆえ、中央指導部は常に人民元というペーパーマネーに対する信認の崩壊を恐れなければならないのだ。

共産党政権が唯一支配権を失う可能性があるのは、人民元への信認の崩壊だ。だからこそ、金融市場の大変動を恐れている。中央政府は金融市場、通貨市場を制御しなければならないし、そのために一番重要なのは金準備なのだ。それこそが権力を持ち続けられるかどうかの要諦となっている。

質問:
インドはどうなるのでしょう?インドは世界最大の金保有国と言われています。

WM:
金輸入関税が非常に高く、それで闇市場が大きなものとなっているが、中国はそうではない。インド経済は孤立した経済だと言える。インドと国際金市場の関係は、中国と比較してそれほど深く結びついているわけではない。

中国は昔は閉鎖された経済であったが、現在は国際経済の中で大きな部分を占めている。それで、世界経済システム内で重要になっているのだ――

インタビュー紹介はここまで。だからこそ、欧米では持っていなくても持っている振りをしなければならない…真実の数字は、外部の人間には分からないものです。しかし、奪われる側と奪う側は分かっているのです。

Next: 「中国からの資金流出」本当の理由、BIS(国際決済銀行)の分析



「中国からの資金流出」本当の理由、BIS(国際決済銀行)の分析

BIS(国際決済銀行)の分析報告によると、中国の外貨準備175B$(20兆円)の流出は、投資家が逃げ出したのではなく、ドル高を見越した各企業が抱えるドル建て債務の返済を急いだ為であるとの報道です。
China’s $175 Billion Outflow Wasn’t Investor Flight: BIS

報道のポイント

最新のBIS分析報告によると、2014年夏以降からの中国の資金流出は、投資家が中国資産を処分して逃げ出していると言うよりも、中国企業が米ドルの先行き高をを予想して、米ドル建て債務の繰り上げ返済を開始したために、米ドル価値が上がったと見ている。

BISの分析によると、この中国の資金流出には2つの異なる説明が存在している。

1つは投資家による中国本土資産の大量売却。もう1つは中国系企業の米ドル債務の返済繰り上げである。

BISの分析として選ぶとすれば、後者の説明を採用するが、両者の説明で欠落している部分を指摘しておきたい。それは中国国外での人民元預金の減少である。

BISの昨年12月時点での分析では、新興国群の借入額が急速に拡大し、海外から中国への資金流入が反転し、2015年7月~9月の第3四半期ではネットで175B$の減少となったが、その中の12B$のみが中央銀行からの流出であり、残りの163B$は企業からの流出であった。

中国の公的な外貨準備ではない、すなわち一般企業等からの流出額が163B$である。その中の4分の3である121B$が人民元建て預金の流出減少である。そのうち国外へ資本流出したのが80B$であった。

さらに中国系企業が海外の金融機関から借りた外貨建て債務の返済で34B$。同じく中国系企業が中国国内の金融機関から借りた外貨建て債務の返済で7B$であった。

2015年第4四半期も中国からの資金流出が続いているようである。中国国外の人民元預金の減少は緩やかになったものの、中国企業による外国通貨建て債務の返済は増加しているようである。2016年の2月までの動きは昨年の第2半期よりも多く、大きな問題になると予想される。

中国人民銀行は「人民元を安定したレベルに保つとの意思を宣言したが、その意味は、主要通貨に対して米ドルが上昇しており、その米ドルに対して人民元を弱含みのレベルに保つとの意味であり、こうなれば、中国国外の預金者は人民元建て預金を保有をせずに、さらに中国系企業は米ドル建て債務の返済を急ぐことになるだろう」とBISは分析している。

BISの分析報告

この報道の元となった、BISの分析報告を紹介します。

(ア)BIS報告書のオリジナル部分です。
(イ)桃色の棒グラフは中国国外での人民元建て預金の変化です。青色の折線グラフは中国人民元/米ドルの為替の変動チャートです。
(ウ)桃色の棒グラフは外貨建てローン債務残高-外貨建て預金残高です。返済を急いでいる様子が分かります。青色折線グラフは中国人民元/米ドルの為替変動チャートです。

外為市場では、かような、自分で自分の首を絞める現象が比較的高頻度で発生します。ドル高を見越して、ドル建て債務の返済を急ぐ。そのために人民元を売りドル買いをする。そうするとさらにドル高となり、周りも慌てて同じ行動をします。合成の誤謬です。

人民元の安定を願うのであれば、そして自国の外貨準備を守りたいと願うのであれば、焦らずに行動すべきなのですが、人間の心理としては、自分だけは安全に逃げ出したいと思うものです。もうこれは人間の消しがたい本能的な動きなのでしょう。

金融システムの崩壊も全く同じです。となれば、最初からリスク重視の観点で、誰よりも早く静かに準備行動をすべきです。

【関連】量的緩和バブル崩壊後に世界経済を待つ試練~IMF・BIS・ダラス連銀前総裁の警告

【関連】ノーベル経済学者・スティグリッツ氏の提言をスルーする日本マスコミ=三橋貴明

いつも感謝している高年の独り言(有料版)』(2016年3月11,17日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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