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いま必要な景気対策は「消費増税凍結」のさらに上を行く「消費税減税」だ=藤井聡

今、日本経済は、大変に厳しい状況を迎えていますが…その中で、来年4月の増税が予定されています。しかし、この増税は、ただでさえ厳しい日本経済に対して、「最後通牒」をつきつけるようなダメージを与えかねないものであるという危惧が、さまざまに指摘されています。そのような中、景気刺激策として最も有望なのは、「消費増税凍結」のさらに上を行く「消費税減税」です。

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年3月15日号より
※本記事のタイトル・リードはMONEY VOICE編集部によるものです

純粋な「政策論」に基づいた、消費「減税」の議論を

今、日本経済は、大変に厳しい状況を迎えていますが…
http://www.asahi.com/articles/ASJ3804DPJ37ULFA03T.html
その中で、来年4月の増税が予定されています。

しかし、この増税は、ただでさえ厳しい日本経済に対して、「最後通牒」をつきつけるようなダメージを与えかねないものであるという危惧が、さまざまに指摘されています。
(例えば…http://www.yomiuri.co.jp/politics/20160314-OYT1T50179.html

折しも、総理はかねてより、「大震災」や「リーマンショック」の様な非常事態とならない限り、増税は行う、と発言しておられますが……
http://jp.reuters.com/article/abe-tax-increase-idJPKCN0W40ED

データを確認すると、既にわが国は、かの「増税」によって「大震災」クラス、あるいはそれ以上のダメージを被っていることが見えてまいります。

例えば、こちらの資料をご覧ください。

この資料の上のグラフは、実質GDPの推移を示しています。

2011年のかの3.11の東日本大震災の際、実質GDPは縮小します。

が、その翌年の2012年、ふたたび日本経済は回復していきます。

一旦ダメージを受けても再び回復し、盛り返していく――これこそ、「強靱性=レジリエンス」のイメージです。

そして、震災前年から翌年にかけて6.6兆円、成長しました。

一方、2014年4月の3%の消費税増税でも、同様に実質GDPは縮小しその翌年に回復しています。

その意味で、日本経済にも、増税に対して幾分のレジリエンスがある――ともいえなくもないのですが、その回復は、震災時に比べて「圧倒的に弱弱しい」ものです。

というのも、これは当たり前。

震災のショックは一時点だけでもたらされるものですが、増税は、その増税時点だけでなく、その次の年も、またその次の年も続いていくからです。

そして、実質GDPは、増税前年から増税翌年にかけて、一応「成長」はしているのですが、その水準は2.1兆円に過ぎません。

つまり、増税の時の成長は、大震災後の成長のたった、三分の一、しかなかったのです。

つまり、少なくとも実質GDPの視点から見れば、わが国は、「大震災時」の時よりもさらに大きなダメージを受けている、と言えるのです(!)。

では、なぜそんなことになったのかと言えば……

先の資料の「左下のグラフ」に記載したように、実質消費は、大震災の時には一応成長していたのですが、増税してから、右肩下がりに縮小しているからです。

「消費税」をかければ、消費そのものにブレーキがかかるのは、当たり前、です。

で、その結果、当然のように、人々の所得は下がっていきます。皆がおカネを使わないのですから、人々の給料が下がっていくのも当然です。

先の資料の「右下のグラフ」からも明確なように、震災時、所得はそれほど大きな変動もなく、横ばいに近い状況だった一方で、増税によって実質賃金は右肩下がりに、文字通り、「奈落の底に落ちていくように」低下しているのです。

この賃金の低下は消費の縮小を導き、消費の縮小は賃金の低下を導く――という最悪のスパイラルが今、回っている、という次第です。

その結果、上述の様に実質GDPの成長が、大震災の時よりもさらに悪い水準へと低迷してしまったのです。

Next: 現在の世界経済は「リーマンショック級」のダメージを負っている



もうこれだけで、増税を考えることは厳しい――ということになりそうですが、わが国の経済は現在、さらに厳しい状況に至っています。

こちらのグラフをご覧ください。

このグラフは、世界の貿易総額の推移を示したものです。

このグラフからも一目瞭然な通り、現在の世界経済は、「リーマンショック級」のダメージを負っているのです!

これは、チャイナショックや、ギリシャ危機、アメリカの利上げ、(そして、消費増税による日本経済の停滞!)といった、複合的な悪要因が重なったことで、世界経済は大いに疲弊してしまっているからです。

以上を踏まえれば、大震災クラス、

「あるいは」

リーマンショック級の被害があれば、増税は厳しい――のだとすれば、増税なんてとんでもない!という状況にある、という客観的状況が見えてまいります。

なぜなら、わが国経済は「8%増税」という「大震災を上回る経済ショック」に苛まれているのみならず、

「リーマンショック級」の世界経済の停滞状況にも直面しているからです。

つまり、どちらか一方でも増税が厳しい。。。という状況の中、今や、「どちらも一挙に」わが国経済は、(ダブルパンチで!)ダメージを被る状況に至っているのです!

だとすれば、増税凍結

「だけ」

では、この日本経済の危機を乗り越えることなどできない、ということになります。

増税凍結を決断した

「上」

で、さらなる、景気刺激策を図らなければ、日本経済の失速、それを通した財政基盤の脆弱化と財政悪化がもたらされることになるでしょう。

だから、「8%増税ショック」に対策を打つための「増税凍結」を

「マスト」

と考えた上で、「世界経済危機」への対策を打つための何らかの景気刺激策、が求められているのです。

筆者は、そうした対策として、現時点で最も合理的な対策は、

ゼロ金利活用戦略

であると考えます。

ただし、これら対策は、「投資」対策であるため、直接的な「消費」対策も必要であると考えます。

その中でも最も有望なのは、「消費増税凍結」のさらに上を行く、

「消費税減税」

です。

Next: 政策論不在の政治プロセス論は、確実に日本経済を衰弱させる



例えば、消費税率を5%に戻す、という取り組みも考えられるかもしれません。

あるいは、「軽減税率」の仕組みを、現在の税率8%の現状に対して施す、という方法もあり得るかもしれません。

もちろん、以上の議論はあくまでも、

「純粋な政策論」

であり、

「政治プロセス論」

から考えるのなら、それは困難だ――ということなのかもしれません。

しかし、政策論不在の政治プロセス論は、確実に日本経済を衰弱させることになるでしょう。

だからこそ今こそ、「純粋な政策論」を軸に、あるべき政治プロセスを考える、という姿勢が求められているのではないかと、筆者は考えます。

筆者の以上の考察が、日本経済を救うための政治決断に幾ばくかでも貢献し得ることを、心から祈念いたしたいと思います。

【関連】「マイナス金利」の現状を、如何にすれば活用できるのか?=藤井聡・京大大学院教授

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