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FRB利上げ見送りの裏事情 「トランプ大統領」という想定外に備えよ

FRBの3月利上げ見送りは、一見想定通りの結果ですが、事前のフィッシャー副議長の認識などを考えると不自然なまでにハト派的。その理由として2つの可能性が考えられます。(『マンさんの経済あらかると』)

利上げ見送り、2つの理由~今後は6月利上げに向けて市場誘導か

不自然なまでにハト派的、利上げを思いとどまったFRB

今回のFRBの利上げ見送りは、一見想定通りの結果に見えますが、事前のフィッシャー副議長の認識や、国際金融資本の意向、新保守派の戦略を考えると、むしろ不自然なまでにハト派的な内容になっています。

4-6月での利上げ示唆もなく、意図的に市場をなだめるような節さえ感じます。FRBに利上げを思いとどまらせる何らかの事情があったと考えられます。

というのも、フィッシャー副議長の「ほぼ完全雇用にあり、インフレ率は上昇をみせ、近いうちに目標に到達する」との予想に沿う指標も出ていたからです。

16日発表の2月のコア消費者物価は、前月比が0.3%、前年比では2.3%の上昇と2%を超え、FRBが重視する消費デフレーターも2%に接近する可能性があります。

世界経済の不安は米国には波及せず、国内景気は堅調で、金融市場も著しい改善を見せている(イエレン議長の会見コメント)うえに、懸案の「低すぎるインフレ率」に改善が見られれば、FRB執行部は自信をもって利上げを提示できたはずです。

にも拘らず利上げを見送り、年内の利上げ予想を引き下げることになった事情は何か。2つの可能性が考えられます。

1. シェール企業の社債借り換えに配慮した可能性

1つは、中国や対外的な事情が変わったとも思えないので、恐らく米国自身に利上げを見送らざるを得ない事情ができたことです。

最も可能性が高いのは、4月にシェール企業の社債の借り換えが集中していることで、12月の利上げ以降、ジャンク債の金利上昇が激しく、そこへ追加利上げでさらに金利が上がると、借り換えできずに破たんする企業が続出するリスクです。

一頃に比べると、ジャンク債の利回りはやや落ち着きましたが、まだ高水準で、シェール企業への銀行貸し出しも借り換えが難しくなっています。まずは市場を落ち着かせ、借り換えを混乱なくさせることを優先した可能性があります。

そのために、原油価格を上げるための「協調会議」を3月、4月に計画しています。

今回4-6月の利上げにも触れず、意図的にハト派的なトーンにしたのは、ジャンク債の金利低下を意図した可能性があります。シェール企業の借り換えが終われば、利上げの自由度は高まりますが、次回4月は、まだ月末借り換えの企業があるとまずいので、6月利上げに向けて市場誘導する可能性が考えられます。

6月は大統領選挙での党大会に近く、そこでの利上げが市場の混乱を招くと、民主党のヒラリー・クリントン候補の負担となり、逆にそこでも利上げを見送れば、反FRBのトランブ、クルーズの両共和党候補の批判の的にもなりかねません。

6月に混乱なく利上げをするには、その前に何が何でも市場に織り込ませる必要があります。

Next: 2. 国際金融資本の支配力が低下か?/想定外の「トランプ大統領」も



2. 国際金融資本の支配力低下の可能性

2つ目は、ニューヨークやロンドンに拠点を持つ国際金融資本の支配力、統制力が低下している可能性です。

ロックフェラー・グループの総帥、デイビッド・ロックフェラー氏は、昨年100歳となり、最近は車いすで移動する姿が報じられています。金融グループの中で、NY系とLDN系の間の勢力図が変化している可能性もあります。

気になるのは、米大統領選で、国際金融資本などが想定した共和党の候補ルビオ氏が早々に撤退を余儀なくされたことです。彼らが推すクリントン氏で行けるとの読みがあるかもしれませんが、共和党に関しては、大きな読み違いがあり、それを力ずくで修正することもできなかったことになります。

政治戦略的にみると、利上げを遅らせれば遅らせるほど、大統領選挙の荒波の中で難しい選択を余儀なくされ、困難になります。

選挙を考えれば、利上げのチャンスはなるべく早い時期と選挙後の12月の2回ということになりますが、これも金融市場が動揺すれば保証の限りではなくなります。

今回の利上げ戦略をみるにつけ、従来の国際金融資本のやり方と比べると、必ずしもスマートでなく、歯切れの悪いものを感じます。

彼らが力を保持しているなら、シェール企業の借り換え後に済々と利上げを行うでしょう。しかし、大統領選の運び方をみても、国際金融資本や欧州支配層の力が低下している可能性もうかがえます。

想定外の「トランプ大統領」も視野

さてどちらの要因が大きいのか。FOMC参加メンバーによる金利見通しを見ると、今年の利上げペースこそ2回、0.5%に下げましたが、来年以降は年4回、1%の形は変わっていません。

これを見ると、とりあえず、目先のジャンク債のデフォルトを回避し、借り換えを済ませてから利上げ、とのミニ修正の可能性が高いと見ます。

しかしもし、金融資本や欧州支配層の力が低下しているなら、逆に昨今の中東のように、秩序のない市場の動きや、ポピュリズムに流された政治選択をするリスクが高まることになります。

市場では米国の利上げを見込んでドルを買った人の巻き戻しが懸念され、選挙では想定外の「トランプ大統領」への準備が必要になるかもしれません。

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マンさんの経済あらかると』(2016年3月18日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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