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反中国を標榜したデモの混乱のなか、アリババが香港市場への上場を果たした背景=田代尚機

アリババが11月26日、香港市場に上場した。香港市場での公募株数は当初1,250万株であったが、事前の取り決めにより、発行株数は5,000万株まで引き上げられた。(『中国株投資レッスン』田代尚機)

応募倍率は42.44倍、アリババは依然として高成長企業だ

ニューヨーク市場で250億ドルを調達しながら、さらに急成長を続ける

アリババが11月26日、香港市場に上場した。

発行株価は176HKドル。ニューヨーク市場に上場しているのでその株価が参考になるが、幹事団によって20日の終値と比べ2.9%ディスカウントされた水準(ブルームバーグ社による為替換算)に決まった。

香港市場での公募株数は当初1,250万株であったが、応募倍率は42.44倍と高く、事前の取り決めにより、発行株数は5,000万株まで引き上げられた。機関投資家向けには、4億8,750万株が割り当てられているが、幹事団には追加割当権が付与されており、上場後の相場の状況をみて、需要が強ければ、一定の株式が追加発行される。

上場後の株価の値動きは悪くないので、全体では当初予定の5億株に加え、限度枠一杯の7,500万株の追加発行が行われる可能性があり(通常、1か月程度の株価安定操作期間終了後に発行されたかどうかわかる)、そうなれば、市場から1,012億香港ドル(1兆4,168億円相当、1香港ドル=14円で計算)の資金が調達されたことになる。これは、今年世界最大規模であり、歴史的にみれば、香港市場では2010年10月のAIAグループ以来の規模である。

アリババは、2014年9月、ニューヨーク証券取引所に上場した際、250億ドル(2兆7,500億円、1ドル=110円で計算)の資金調達を行っているが、これは当時、世界最大規模のIPOであった。

アリババは1999年6月、創業者である馬雲が18人の投資家から50万元(750万円、1元=15.6円で計算)の資金を集め、創業した企業である。創業からわずか20年、社会主義国である中国の一民間企業が、政府の厳しい規制の網を潜り抜けて、これほど巨額の資金をグローバル市場から集めて急成長できたという点にもっと注目すべきである。

誰がアリババを育てたのだろうか。

もちろん、馬雲前CEOや、張勇CEOをはじめ、去って行った多くの優秀な幹部、従業員を含め、社員たちのひた向きの努力が実を結んだのであろうが、それを資金面からサポートしたのは、国際金融市場である。世界の投資銀行、会計事務所、法律事務所が資金調達のための支援を行い、世界の投資家が巨額の資金を出したことで、僅か20年でGAFAと肩を並べる大企業に成長することができた。そこには国境など存在しない。世界経済は金融を通じて一体化しているのが現実だ。

アメリカの対中強硬派は中国企業を市場から切り離そうとしている。経済体制の違いから人権問題まで、アメリカは中国に対してその価値観を強要しているが、中国はそうしたメリカに対して覇権行為と激しく批判している。問題は、アメリカと同じように中国を批判する国がどの程度あるのかといった点である。

Next: 国際金融市場は、アメリカの対中強硬派は長期化しないと考えている



米中貿易戦争が冷戦に向かえば、世界の金融市場にダメージ

EU諸国はどうだろうか。韓国、ASEAN、中東、中南米、アフリカ諸国はアメリカと同調するだろうか。

民主化、反中国を標榜した若者のデモで混乱を続ける香港市場においてアリババの上場を成功させたのは、グローバル投資家であり、グローバル金融機関である。彼らの多くは、自由化、国際化が自分たちの利益に繋がり、それは世界の繁栄、世界の平和にも繋がると考えているはずだ。もし、米中貿易戦争が長期化し、冷戦に向かうとすれば、金融業界や金融市場が成長機会を失い、大きなダメージを受ける。アメリカも困る。だから、そうならない可能性の方が高いと考えている

アリババを語るうえで、忘れてはならないのはソフトバンクである。

ソフトバンクの孫正義会長は2000年、設立後わずか1年足らずでアリババの将来性を見抜き、2,000万ドル(22億円)の投資を行った。2004年には6,000万ドル(66億円)の追加投資を行うなど、成長の各ステージで追加投資を行っている(一部、売却もある)。

上場後も、ソフトバンクはアリババの圧倒的な筆頭株主となっており、株主構成(追加割当権を考慮せず、主要株主の売却がない場合、目論見書より)をみると、公開部分が発行済み株式総数の66.0%あるが、ソフトバンクは25.2%を占めている。第2位株主は創業者である馬雲前CEOであるが、その比率は僅か6.0%に過ぎない。

アリババの急成長でもっとも大きな利益を得たのはソフトバンクであろう。

日本のマスコミは、ビジョンファンドの投資先である共有オフィスのウィーワーク、配車サービスのウーバー・テクノロジーズへの投資の失敗を盛んに報道しており、孫正義CEOの資質に言及するところまである。

投資に失敗は付き物だ。ベンチャー投資など“センミツ”の世界である。1,000件調査して、3件優良企業が探せればよい方だ。残念ながら、先のことなどわかるはずがない。もちろん、投資を決める際には、事業計画、市場環境、財務内容から経営者の資質に至るまで調査するのだが、いくら精緻に調べ、分析したところで、大した意味はない。最後にモノを言うのは“経営者の頑張り、事業への執念、成功への執着”であり、だから、経営者の質を見抜く力が重要だ。孫正義会長にはそれがある。だからこそ、創業後間もない一中国民営企業にまとまった資金を投資できるのだ。

あらゆる投資で当てはまることだが、大きなリスクを取らない限り、大きなリターンは得られない。日本人全体に欠けているのは、大きなリスクをとるということ、大きなリスクを取る人をリスペクトするということである。小さな失敗を咎めているのであれば、みんな、小さなリスクしかとろうとしなくなる。それでは小さなリターンしか得られないということになり、社会は委縮する。それがこの約30年間、日本経済がほとんど成長しない最大の要因だと考えている。

投資対象として、アリババをどう考えたらよいのだろうか。

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中国株投資レッスン』(2019年12月6日)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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TS・チャイナ・リサーチの田代尚機がお届けします。中国経済や中国株投資に関するエッセイを中心に、タイムリーな投資情報、投資戦略などをお伝えします。中国株投資で資産を大きく増やしたいと考える方はもちろん、ただ中国が好きだという方も大歓迎です。

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