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「日本売り」を決めた外資に、年金と個人投資家は敗北する=E氏

先々週のFOMCでハト派的なメッセージが出たことで、世界のマーケットは短期的にリスクオンに推移する可能性もありましたが、先週のマーケットは逆にリスクオンの終了を感じさせるような動きになりました。

それもこれも、FOMC声明から数日しか経っていないというのに、FOMCメンバー数名が「4月利上げ」を支持する発言をしたためです。あまりに唐突なのでまだマーケットは消化不良ですが、為替はドル高基調に転じ、戻り歩調だった新興国資産やコモディティは調整をし始めました。そんな中、企業収益で日本株は買うことはもはや困難になっています。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

外国人投資家は完全に「日本売り」 株価の押し上げ材料乏しく

日本株は3ヶ月/1年パフォーマンスで独歩の下げ

先週は、その前の週のECBの追加緩和を機に日米中央銀行に対してもハト派的メッセージ及び追加緩和期待が出たことで日本株以外のマーケットは比較的堅調に推移しました。

そんな中で先週の米国株は、原油の上昇が止まったことや度重なる4月利上げ発言で大きく売る動きもありませんでしたが、上値を追う動きが無くなり、S&P500は週間で-0.67%と6週ぶりの下落となりました。

週前半は原油高とECBの緩和を好感して堅調に推移し、FOMC以降は利上げ回数の予測が減少したことでリスクオン的な動きとなり、週間で+1.35%と昨年11月以来の5週連続のプラスで終わりました。ECB、原油、FOMCと、ショートスクイズを牽引する主役が上手く切り替わる形で、2月中旬以降の米国株は押し目らしい押し目もなく上げています。

一方の日本株は、その前の週末に3連休前のポジション調整で下がった反動で週初の火曜にギャップアップしましたが、その後は狭いレンジのもみ合いとなりました。しかし、円安の推移を好感する買いもあり売り込みにくい展開となり、日経平均は週間で+1.67%の上昇となりました。

週間パフォーマンスでは日本株がトップになっていますが、週初は日本が休場、週末金曜は海外市場がイースターで休場だったので、材料に欠け薄商いの中で前週末の反動で上げた分が売り込まれなかったに過ぎません。

3ヶ月パフォーマンスでは、依然として日本株は独歩の下げになっていますので、為替が多少戻したくらいでは日本株は買いなおされないということです。

多少円安になっても日本株を買い難いのは、日米欧中央銀行の政策の方向性の違いから当面は円高を予測する向きが多い上に、リスクオフ時はさらに円が買われやすく、そして、世界のリスクオフの原因の1つである中国が隣にあるためです。

日本株ディスカウントの傾向は1年パフォーマンスで見ても同じです。従来、日本株は1年パフォーマンスでは主要先進国に比して軽微な下げにとどまっていましたが、今年になってからの大幅な下げで先進国平均を下回るパフォーマンスになってきています。

くすぶる中国リスク

今年になってからの下げが突出して大きいのは、年初以降、隣の中国が様相がおかしくなったのと、昨年6月あたりから買い材料よりネガティブな材料の方が増えていたにも関わらず他先進国より堅調だった反動が中国リスク顕在化で一気に出たためと思われます。

従来、1年パフォーマンスのような長めの期間では、マネーの増えている地域や国のパフォーマンスが引き締め政策の国より良い傾向が続いていましたが、今年に入ってからその基調に変化が出てきました。米国より日欧のパフォーマンスの方が劣位になっているのです。

欧州株、特にドイツ株が劣位なのは欧州金融機関の経営不安が依然として燻っているのもありますが、日欧とも中央銀行の緩和政策が出尽くしと捉えられ始めているためです。これは、ECBドラギECB総裁総裁のように、自ら「追加利下げをしない」と発言したこともありますし、日銀黒田氏のように「他国から通貨安政策へのけん制が入った」ことで緩和しにくいと捉えられているのもあります。

先週突如出た4月利上げ発言をきっかけに、戻し歩調にあった新興国市場も変化の兆しが見え始めました。

原油を始めとする商品市況も4月利上げに反応して売られ始めたので、新興国市場の上昇も止まってしまいました。

新興国の為替が昨年8月より依然として下落しているのに、新興国株式市場は年初来でプラスになるなど、短期的にオーバーシュートしていたので今後の調整はきつくなる可能性があります。

これは原油を始めとするコモディティ市場も同様です。

原油のショートスクイズの持続性が想定よりはるかに長かったので、結果的にこの1ヶ月はリスクオン的な動きになりました。しかし、FOMC複数メンバーによる4月利上げ支持発言をきっかけにショートスクイズが終了してしまったようです。

一方、年初からの世界のリスクオフ相場の元凶である中国株に関しては、政府主導で信用向け融資を積極化させていることもあり、このところ持ち直していますが、信用向け融資が引き揚げられたために中国株は急落したのではありません。

素人でも分かるくらいファンダメンタルズが悪すぎるのと、元安が原因ですが、この1週間ほど元は少しずつ下落をし始めているので、中国株も安泰とは言えないでしょう。

今までの株式の戻り相場は、原油と中国株のアヤ的反発で支えられていただけで、きっかけは何にしてもこれらのアヤが終れば再度リスクオフに戻る可能性は高いです。

どう転んでも円高

FOMC声明からわずか数日で、楽観的な声明を出した張本人たちが4月利上げを声高に叫び始めたので、中央銀行マネーの逆流リスクが一気に出てきました。

短期的に円は売られることもあるでしょうが、中央銀行マネーの逆流によるリスクオフで円は再度買いなおされるので、どう転んでも円は最終的には上がりやすいわけです。

従って、今週は世界が徐々にリスクオフに向かう中で円安と年度末の買い支え期待という需給要因が買い支えになるでしょうが、本格的になリスクオフで円が上昇に転じた場合、一気に値幅が出て下げる公算が高いので要注意です。

Next: 日本株を取り巻く厳しい環境~企業収益を材料に買うのは難しい



日本株を取り巻く厳しい環境

■ファンダメンタルズ

上場企業の中間決算は、売上+2.1%、営利+25.0%、当利+20.7%なので強い基調でしたが、7-9期だけで見ると経常は2.4%増益と大幅に鈍化し10-12期は5%の減益になりました。

今期は増益と言っても、足元は7-9期から減益基調なのです。これは為替だけが理由ではなく、中国減速や新興国減速も要因です。

足元さらに円高が進んでいることから、現在の為替水準では、来期の期初予想は間違いなく減益で出てくるでしょう。

実際、この1ヶ月で日経平均採用銘柄のEPSは一気に低下しました。また、TOPIXのリビジョンインデックスも急速に低下しています。

どちらも10%以上の落ち込みになっているので、現時点で織り込まれている来期企業収益は10%程度の減益だということです。これでは外人や長期系投資家などの買いは見込みにくいでしょう。

このように企業収益で日本株を買うことはもはや困難になっています。こういった場合でも株価が上がるには、マネーの総量が増える過剰流動性相場が持続することが不可欠ですが、マネー総量はむしろ減少する方向にあるので、株価を押し上げる材料がほとんどありません。

■バリュエーション

日銀の追加緩和のお陰で突出してマネーが集まる市場となった日本株は、どの国よりも過剰流動性相場の恩恵を受けPERが上昇しても良さそうなのに、なかなかPERが上がりませんでした。

しかし、日米欧中央銀行が引き締めバイアスをかけたことで過剰流動性相場は終了しました。

過剰流動性相場は業績以上に株が買われる相場なので、過剰流動性相場時はPERが上昇しますが、過剰流動性相場が終焉するのと世界的なリスクオフに伴い、日本株のPERは今後も切り下がっていきます。

PERが安いから買いというのは過剰流動性相場終焉後の世界では通用しません。

■需給

まずは信託銀行(編注:国内年金)です。一昨年10月末のGPIF改革で発表された新基本ポートで日本株の標準ウエイトは25%です。昨年4月以降ずっと新基本ポート比較でアンダーでしたが、7月に入ると2万円超の日経平均に炙り出されたのか猛然と買い始め、結果として9末で7兆円程度の運用損を計上してしまいました。

しかし、10月に入っても買い越し基調が続き、11月こそは売り越しましたが、昨年12月の米国の利上げ以降のマーケットで一番の買い主体は信託銀行です。

昨年12月から買い始め、中国株急落を契機に世界がリスクオフになった1月も4週連続で買い続け、リーマンショック級と言われたドイツ銀経営不安で揺れた週ですら買い越し、そして過度の経営不安が去った先々週以降はとうとうこの5年で最大規模の買い越しです。

しかし、先々週は急減してほぼフラットになりました。

この週、特にネガティブになるような材料はなく、すでにかなりオーバーウエイト(恐らく27%程度)なので、そろそろお腹が一杯になってきたのだと思われます。

現在マーケットでは、年度末の株価維持のため信託銀行が大量買いをするのではという期待が出ていますが、過去数週間の動きを考えると大幅な買い越しは見込みにくいと考えています。

また、私の経験では、配当落ちから年度末にかけては、年度末に予定しているウエイトにそろえるための微調整しかしません。大きな乖離は3月中旬までに行ってしまうものです(年度末にかけてボリュームが急低下するなどの不確定要素を避けるため)。

このようなことを考えると、今週の信託銀行はフラット程度でしょう。

仮に指数に影響を与えるほど買った場合、新年度入りしてからの反動がきつくなると思います。

一方、4月からの新年度は、すでに新基本ポートをオーバーウエイトしているので、企業収益や外部環境を考えるとこれ以上の買い増しの可能性はかなり低いでしょう。

逆に、本格的なリスクオフになった場合は売り越しに転じる可能性も高いです。

基本的に信託銀行は、「本当にリスクオフだと連中が理解したとき」はどんなに含み損を抱えていても売りまくります。なので、すでにお腹一杯になっている状況でリスクオフになった場合は、下値を切り下げる戦犯になるでしょう。

Next: 外国人投資家は完全に日本売り~個人投資家が投げるまで売ってくる



外国人投資家は完全に「日本売り」

次の外国人投資家は、年明け後は中国発のリスクオフで日本株の売り姿勢を強めていましたが、欧州金融機関不安が和らいでからは、世界的なリスクオンに乗じて売り越し額が減少傾向にありました。しかし、この数週間はこの5年で最大の売り越しとなりました。

あまりにも額が大きかったので、ロールオーバーに絡んだテクニカルなものと思っていましたが、翌週も売り越しが続いています。

対内証券投資で見ると、株売り/円債買いでネット売り越しを続けていましたが、直近週は債券も売り越しています。

完全に日本売りです。

日米欧の中央銀行による通貨安競争で日銀が負けた以上、円は買われやすくなるため、日本株は外人から見ると「売りやすい」対象です。

今後仮に日本株を買い越しにすることがあっても、それは強気だから買うのではなく、全世界的にリスクオンなので、自動的に増やすだけでしょう。

アベノミクス以降ずっと外資は日本株を買い越していましたが、日経平均先物の外資合計の建玉残高がショートに転じたのは昨年6月からです。昨年6月以降、外国人投資家が急激に日本株に対してネガティブになった点は以下の通りです。

先週のECBの追加緩和が出尽くし的に取られたことでユーロも買われやすくなりましたが、ユーロは欧州金融機関という真の爆弾(やオイルメジャーの経営不安の噂もある)が控えているし、隣に中国がないので仕掛けにくいです。

これに対して日本株は財政期待などのポジティブ要因もありますが、昨年6月以降、アベノミクスはすでに終りという認識を持たれてしまっているので、見方を変えて強気になるにはしばし時間が必要かと思われます。

昨年以降で外国人投資家が売り越しに転じたのは、1月下旬からのギリシャ問題時、3月下旬からの世界的な利益確定相場、4月下旬からの欧州債券安 をきっかけにした世界的な株価調整、そして8月の世界的な株安しかありませんが、そのいずれも「押し目なのに関わらずに売っている」のです。

彼らは値段がいくらになっても、リスクが出た場合は売ります。「リスクと水準を天秤にかけて押し目買い」なんて絶対にしません。

特に、リスクオフのメイントリガーである中国は日本の隣に位置しますので、外人は日本への影響を非常に気にしていますし、中国株のショートが危険(当局に拘束される可能性がある)なので、代わりに日本株をショートする動きも出ています。

また、世界的なリスクオフ時は円高がさらに加速するため、堅調と思われていた企業収益も下方修正してしまうことから、新興国危機に日本株はリンクしやすいのです。

買い向かう信託銀行と個人投資家は投げさせられる

従って、きっかけは新興国危機か何か判りませんが、一旦世界のマーケットの楽観に修正が入ると、外資の日本株売りに拍車がかかるでしょう。これは信託銀行と個人投資家の投げによるセリングクライマックスが起きるまで続くでしょう。

個人投資家はずっと方向感がない状態が続いていましたが、信託銀行同様に2万円から買い下がり始めてしまいました。そして、年明けからの株安にも関わらず個人投資家は猛然と買い向かい出し、一旦終息したものの、2月に入り再度買い越しに転じています。

Next: マーケットの信認を失った黒田日銀には、もはや期待できない



マーケットの信認を失った黒田日銀

散々追加緩和に消極的な発言を繰り返していた黒田氏が昨年12月にまたもや市場を騙まし討ちにしと思いきや、1月会合でも再度ダマシ討ちですが、その結果とうとうマーケットから信認を失ってしまいました

1月末の日銀政策決定会合で日銀では初めてとなるマイナス金利を導入して、しかも、その後も黒田氏は様々な機会を利用して、必要ならさらなる緩和もあると言い続けていますが全く効果がありません。日銀のマイナス金利導入をあざ笑うかのように、直後から急激な円高になりました。

直後から「必要なら更なる緩和も躊躇なく」と発言していますが、今までの行動から完全に信頼されなくなってしまいました。決まった日程でしか会合が開けない以上、日ごろの発言の信頼性が極めて重要なのに、黒田氏は完全に信頼されなくなってしまったのです。

加えて、上海G20で日本が通貨安政策の国としてやり玉に挙がってしまいましたので、外部からも追加緩和を封じられたのです。

通貨安政策の回避は、アベノミクスの第1の矢である「積極的な金融政策」ができないことを意味します。ETF買い入れ、付利撤廃、マイナス金利、国債買い入れなど追加緩和の手段は様々ありますが、通貨安に結びつくと思われているのは国債買い入れのみです。

G20の決定は約束だけで実際に圧力がかかるものではないと思うかもしれませんが、先週、米国は昨年から通貨安誘導発言をする国に圧力を掛けていたのが判明しました。

実際、3月の日銀政策決定会合は多少は期待されましたが、結果はノーアクションでした。

外圧だけでなく、物理的にもマイナス金利幅拡大などが困難と思われる兆候がすでに出てきました。

また、安倍首相は今春のベアが不満だと漏らしましたが、平均賃上げ率は日銀のインフレターゲット以上なので、早期の追加緩和の必要性はありません。

外圧、物理的な弊害、賃上げもインフレターゲット以上とそろい踏みした以上、当面日銀は追加緩和をする必要はないでしょう。

また、黒田氏の信認が失われてしまったので、追加緩和期待が醸成されることもないと思います。

発言の重みや信頼性がなくなった以上、当面日銀発のニュースは気にする必要もなくなります。従って、4月の日銀政策決定会合直前まで日銀のことは気にすることはありません。

それよりも、今週の中央銀行関係のイベントでは、FOMCメンバーの4月利上げに対する発言が最も重要になります。

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元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2016年3月28日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドマネージャーをしてきたE氏による「安定して稼ぐコツ」「相場の見方」「銘柄情報」を伝授していきます。

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