マネーボイス メニュー

米利上げ再開でも「1ドル125円超え」が難しいこれだけの理由=斎藤満

ハト派的だった3月FOMC通過直後から、要人らが相次いで「利上げ近し」発言に出たこともあり、ドル円は113円まで戻しました。ただ利上げ再開となっても、昨年付けた1ドル125円台を超える円安となる可能性は小さいと予想します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

簡単には円安にならない環境、「1ドル125円の壁」はかなり厚い

利上げ再開=ドル高?そう単純ではない

米国ではFRBが3月のFOMC(公開市場委員会)で利上げを見送り、しかもイエレン議長の会見内容が予想外にハト派的になったことから、一旦はドルが大きく低下しました。ドル円は一時110円台まで円高が進みました。

しかし、その直後から、地区連銀総裁などが相次いで「利上げ近し」発言に出たため、ドルがじり高となり、ドル円も113円に戻しました。

一旦は年内の利上げ困難とみた市場が、再び利上げを見込むようになれば、日欧が緩和を続けるだけに、ドル高に向かいやすくなるのですが、そこは単純ではありません。

利上げ再開でも昨年付けた1ドル125円台を超える円安となる可能性は小さいと予想します。米国が利上げを再開する中での、ドル円の見方を以下に紹介しましょう。

強すぎるドルを望まない米国

まず米国の事情を見ておきましょう。

昨年来、米国は強すぎるドルは米国経済には負担だ、との見方をとっています。このため、サミットの場でもその立場を明確にし、各国が通貨切り下げ競争に走ることをけん制しています。先の上海G20でも、これが確認され、通貨安策をとる場合は、事前に通告するようルールづけられました。

これはECBにも日銀にも圧力になり、米中間にも為替の密約が交わされたとの見方が広がりました。実際、人民銀行は対ドルで人民元を高めに調節しています。

米国が利上げに出るにしても、ドルを安くしておきたいとの意向が働くはずです。つまり、声の大きな米国がドルの上昇を望んでいないことは念頭に置いておくべきだと思います。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

注意すべきリスクオフの流れ

次にFRBの利上げの進め方を見る必要があります。3月のFOMCの前には、利上げに出ても見送ってもドル安だとの見方を示しましたが、次は少し異なります。

つまり、利上げを市場に織り込ませれば、利上げ時のショック、リスク・オフの懸念は軽減され、利上げを織り込む過程でドル高、円安が徐々に進みます。

しかし、十分に利上げを織り込ませないうちに利上げに出れば、やはり市場にはリスク・オフ現象が広がり、ドル円は円高になります。米国のインフレ率が高まり、FRB関係者のタカ派発言で、少なくとも6月利上げはある程度視野に入ってきました。

それでも4月利上げとなると、それまでに織り込めないと、市場も驚きの反応となり、株は下げ、円高となる可能性があります。

Next: 金利差はドル買い材料にならず/外債にシフトしづらい機関投資家



「金利差」はドル買い材料にならず

次に円サイドの要因を見ましょう。

まず「金利差」はあまり重視すべきではありません。何しろ、アベノミクスの当初、期待先行で、日米金利差以上にドルを買い上げました。

ドル円と密接な関係が見られる日米2年国債金利差と対比すると、120円台の円安ドル高は、金利差が3%以上に拡大した時の水準で、明らかに金利差を無視した買いでした。

最近の1ドル110円台の水準でも2年債の金利差が2%以上に相当しますが、現実の金利差は1%程度です。この金利差からは1ドル90-95円が妥当なところです。

それだけ日米の金融政策格差、金利差を先取りしてドルを買ってしまったわけで、それ以上の格差拡大が予見されないと、円売りを進めにくいことになります。

外債投資にシフトしづらい機関投資家

次にドル債投資の環境が良くないことに注意が必要です。

1月に日銀がマイナス金利を導入しても、機関投資家はすぐに外債投資にシフトできません。年度の予算、計画があるためです。生保は恐らく4月の新年度入りで動きやすくなると思いますが、メガバンクはそれより遅れるとみられます。

タイミングのほかに、為替リスクを回避する際のスワップコストが、ドルについては高騰したことも考慮が必要です。

為替リスクを無視する投資家は問題ないのですが、為替をヘッジしたい投資家にとっては、ドル需給がタイトになっているため、円投・ドル転の際のスワップコストが1.3%くらいかかります。

そうなると、米国債投資をするにも、金利がそれ以上のものでないとペイしません。中短期債では逆ザヤになります。

その点、ユーロではその問題がないので、比較的金利の高いフランスの長期国債などに資金が向かっている反面、米国債にはコスト後ではあまり金利のメリットがないことになります。

Next: 円安になるとしても小幅、1ドル125円の壁はかなり厚い



米国の利上げ再開、日本の追加緩和となれば、ドル需給はさらにタイトになり、ドルの調達コストは高くなるとみられます。

日本の機関投資家はドルが買いにくく、逆に米国の投資家はマイナスのコストで円が手に入るので、円債投資が魅力的になります。

このスワップコストは、日米金利差を減殺する効果があり、円安を阻害します。

米ドル/円 週足(SBI証券提供)

以上のように、通常は米国の追加利上げ、日本の追加緩和期待はドル高円安要因と考えられがちですが、これらの要素を考えると、簡単に円安にはならないことになります。

米利上げ思惑で短期的にドルが買われても、また円の買戻しが入って、円安になるとしても、小幅になるでしょう。1ドル125円の壁はかなり厚いと見ます。

【関連】アベノミクス相場崩壊、3つの予測シナリオ~日経1万円割れ、1ドル90円も=斎藤満

マンさんの経済あらかると』(2016年3月25日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

マンさんの経済あらかると

[月額880円(税込) 毎週月・水・金曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。