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原油、歴史的減産で世界供給20%減へ。トランプ大勝利で原油安に歯止めがかかるか=江守哲

ついに主要産油国が減産で最終合意。減産幅は過去最大となり、米国・ロシア・サウジも加わる歴史的合意となっています。コロナ禍で低迷していた原油相場は回復するでしょうか。(『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』江守哲)

本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年4月13日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

コロナ対策で原油減産、歴史的合意

OPEC(石油輸出国機構)とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」は12日、5−6月に日量970万バレルの減産を行うことで最終合意しました。

新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた原油価格を支えるため、世界の原油供給の約10%に当たる過去最大の減産を実施することになります。

新型コロナウイルスの感染拡大を抑える取り組みで原油需要が落ち込み、原油価格が急落する中、産油国の財政が圧迫されています。さらに、コストの高い米シェール業界が大きな打撃を受けています。

OPECプラスが今回合意した減産の規模は、08年の金融危機時の減産の4倍を超えます。減産は22年4月まで実施されますが、減産幅は段階的に縮小されことになっています。

一方、10日に開催されたG20エネルギー相会合は、新型コロナウイルス危機を受けて急落した原油価格を支える大規模な減産で、最終合意に至らないまま終了していました。トランプ米大統領の仲裁申し出にもかかわらず、サウジアラビアとメキシコの対立は解消しませんでした。

OPECプラスは9日に、日量1,000万バレルの減産を5月と6月に行うことで合意しましたが、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は、「最終的な合意は、メキシコが参加するかどうかにかかっている」との見解を示していました。

トランプ米大統領はツイッターに「OPECプラスとの大規模な原油合意が成立した。米エネルギー業界の数十万の雇用が守られる」と投稿し、ロシアのプーチン大統領とサウジアラビアのサルマン国王に謝意を示しました。

一方、減産を渋っていたメキシコのロペスオブラドール大統領は10日、メキシコの減産を米国が肩代わりするとトランプ大統領から申し出があったと明かし、トランプ大統領もメキシコの「不足を補う」としていました。

実際は合意よりもさらに大幅な減産?世界供給の20%相当か

OPECプラスの関係筋は、メンバー国による合意以上の大幅減産や、非メンバー国の減産、各国による戦略備蓄の積み増しなども合わせれば、5月1日から実質的に日量2,000万バレル超、世界供給の20%相当の減産となる見通しです。

これらの数字は合意文書の草案に含まれていましたが、最終文書では削除されたもようです。関係筋によると、ペルシャ湾岸のOPEC加盟国は合意より大幅な減産を行うとみられています。

サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は、サウジ、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)が自主的な追加削減を提案したと明らかにした。実施すれば、OPECプラス全体の実質的な減産量は日量1,250万バレルに達するもようです。

また、OPECプラスの関係筋によると、非加盟の米国、カナダ、ブラジル、ノルウェー、インドネシアは日量400万〜500万バレルの減産を実施する見込みとのことです。

また、国際エネルギー機関(IEA)が今後数カ月で日量300万バレル程度のメンバー国による備蓄積み増しを発表するとされています。IEAは15日に発表する月次リポートに最新情報を載せるとしています。

米国、インド、日本、韓国はすでに石油備蓄を積み増す可能性があると表明しています。

カナダとノルウェーはこれまでに減産に前向きな姿勢を示していました。米国は法律上、OPECなどとの協調が難しいものの、原油価格の下落を受けて今年の産油量は自然に大幅減になると説明しています。実際に産油量はピークから日量60万バレル減少しており、その兆候が見られてます。

今回の減産幅は、OPECプラスが日量970万バレル、米国とブラジル、カナダは生産減少を踏まえて名目上370万バレルの減産に寄与する方針です。

さらに、他のG20加盟国の減産寄与は130万バレルで、実際の自発的減産というよりも低価格が生産に及ぼした影響を反映したものとなるため、実施には数カ月もしくは1年余りかかることになりそうです。

メキシコの減産幅は、負担分を下回る10万バレルにとどまる見通しです。またメキシコは、将来もOPECプラスに参加し続けるかどうかは不確実で、離脱の是非を今後2カ月で判断するもようです。

今回の減産合意について、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は、「OPECプラスが健在なことを実証できた。合意は何よりもうれしい」としています。これがサウジの本音でしょう。それだけ、追い込まれていたと思われます。

Next: 今回は紆余曲折がありましたが、最大の勝者はトランプ大統領でしょう――



今回の減産の勝者は米国か

さて、今回は紆余曲折がありましたが、最大の勝者はトランプ大統領でしょう。トランプ大統領は米国の石油生産の積極的な削減を拒みながら、メキシコのロペスオブラドール大統領やロシアのプーチン大統領、サウジのサルマン国王との電話協議を通じて合意を仲介しました。

米国の生産者はすべて民間企業ですし、法律で強制的に減産を指示することはできません。今回の措置が精いっぱいでしょう。その中で、今回の減産をまとめ上げたのはなかなかの交渉力であるといえます。

プーチン大統領とトランプ大統領、サウジのサルマン国王はOPECプラスの減産合意を12日夜の電話会議で支持したとされています。そのうえで、首脳らは引き続き連絡を取り合うことで一致したことも明らかにしています。

まだまだ紆余曲折がありそうですが、ひとまず原油安に歯止めがかかる可能性が出てきました。

米石油掘削リグ稼働数は減少

米石油サービス会社ベーカー・ヒューズが10日公表した統計では、同日までの週の米国内の石油掘削リグ稼働数は前週比58基減の504基となりました。4週連続で減少し、16年12月以来の低水準となりました。前年同期の稼働数は833基。大幅な減少で、米国内の産油量の大幅な減少が見込まれます。

米国内の石油掘削リグ稼働数がこの2週間で激減しています。2週間で120基ものリグが稼働停止になっています。これはきわめて大きい減少といえます。

こうなると、産油量の減少は確実に続きそうです。さすがに米シェール企業も生産継続ができなくなってきたということでしょう。

このような状況の中で、原油相場の落としどころを見つけていくことになります。

また、米国内のガソリン需要の落ち込みもすごい状況です。需要サイドの弱さも相当なものがありますので、これらも考慮したうえで原油相場を見ていく必要があります。

Next: 3日までの原油在庫は前週比1,518万バレル増となり、増加幅が過去最大と――



米石油在庫は大幅増加

米エネルギー情報局(EIA)が8日発表した週間石油在庫統計によると、3日までの原油在庫は前週比1,518万バレル増となり、増加幅が過去最大となりました。産油量は日量60万バレル減の1,240万バレルで、ようやく減産の動きがみられ始めています。

原油輸入量は日量17万バレル減の587万バレル、原油輸出量は日量32万バレル減の283万バレル。ガソリン在庫は前週比1050万バレル増、ガソリン需要は日量159万バレル減の507万バレル。

ディスティレート在庫は前週比48万バレル増、石油製品需要は日量340万バレル減の1445万バレル。製油所稼働率は6.70%ポイント低下の75.60%で、08年9月以降で最大の落ち込みとなりました。

ガソリン需要の減少が顕著です。やはり、外出禁止によるドライブ需要が大きく落ち込んでいるといえます。

また、石油製品需要自体も大幅減です。ジェット燃料や工場向けのディーゼル油の需要が落ち込んでいるのでしょう。石油製品需要は過去に見たことがないような落ち込みぶりです。

世界最大の石油需要国である米国でこれだけ減っているわけですから、世界的にも減少していることは言うまでもありません。

OPECの減産だけでは不十分であり、さらなる減産あるいは生産国・生産会社のデフォルト・倒産などで生産活動が抑制されることがなければ、原油相場の回復は難しそうです。

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2020年4月13日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

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江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2020年4月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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