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コロナ共存社会で飲食店が悲鳴、安全重視・非効率な経営でも値上げできず=斎藤満

ウィズコロナ宣言後の各企業のビジネスモデルは、感染前とは異ならざるを得ません。特に集客商売においては、効率を差し置いても安全を確保する必要があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年5月29日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

コロナで集客に限界

全国で緊急事態宣言が解除され、部分的に経済が再開し始めました。それでも、繁華街の人出はコロナ感染前の半分にも満たないところが多いと言います。

コロナ自体が消えたわけではなく、感染リスクを抱えながらのウイルスとの共生を余儀なくされています。そこでのビジネスモデルは、感染前とは異ならざるを得ません。特に集客商売においては、効率を差し置いても安全を確保しないわけにはいかないのです。

銀座の老舗おでんやは、客席を半分にして、客同士の“密”を回避しています。6月19日開幕といわれるプロ野球でも、例えば東京ドームは客席を1列おきにするか、隣の席を空けるかの対応が必要になります。映画館やコンサートホールも従来の“満席”は感染リスクを高めるため、まばらにしなければなりません。

多くの客を集めて効率よく、競争的な価格を設定して利益を上げる従来のモデルが通用しなくなり、コロナと共生するためのビジネスモデルを考えざるを得なくなりました。

効率よりも、安全・安心

ウイルスの脅威と隣り合わせの状況では、商品の品質や価格と同じように「安全」「安心」がキーワードになり、付加価値にもなります。

どんなに美味しくても、価格が安くても、感染の不安を抱えてビクビクしながらの飲食では、美味しさも台無しです。顧客にとっての重要な“サービス”は、愛想ではなく、十分な間隔・スペース・換気の良さ・消毒体制の整備となります。

SARSやMERSの時は、日本での感染がなく、一時的な不安であったため、経済への影響はほとんどありませんでしたが、今回のコロナは消滅することなく、この秋以降の二次感染が予想されています。

それまでにワクチンの利用は不可能で、抗ウイルス薬のアビガンの承認も見送られました。治療薬がない中で企業は長期戦を覚悟せざるを得ません。

Next: 安全・安心を確保するために、客を半分以下に落とすとなれば、企業は損益――



値上げの限界

安全・安心を確保するために、客を半分以下に落とすとなれば、企業は損益分岐点売上を下げ、稼働率が低くても利益が出る体制をとる必要があります。

そのひとつは、安全というサービスを対価として値上げをする方法です。しかし、これもあまり上げてしまうと、より安全な自宅での「家飲み」「中食」にシフトさせる面があります。

実際、外出自粛・飲食店の営業休止の中で、酒屋の売上は増え、資源ごみの日には缶ビールの空き缶や酒瓶・ワインボトルの「資源ごみ出し」が目立って増えています。

これらをみると、安全対価の値上げにも限界がありそうです。

もうひとつは、客・売上の減少分に応じたコストカットです。材料費などの変動費は売上とともに減少しますが、問題は家賃・人件費などの固定費です。

オフィスや店舗の利益率が低下すれば、長期的には家賃の低下圧力になりますが、短期間に調整することは不可能です。

そこで、人件費を落とすしかありません。ロボット化、アルバイトの活用、家族労働に頼るしかありませんが、これにも限度があります。

スペースの確保

次の問題はスペースです。都心の繁華街では広いスペースの確保はコスト的にも困難で、狭いところで客が肩寄せ合って飲食している炉端焼きも見られます。

しかし、ソーシャルディスタンシングを維持するとなれば、この営業法はできません。ライブハウスやコンサートホールも客席を減らすしかありません。

これへの対応は、2つ考えられます。

ひとつは、顧客の自宅など、既存の店舗やホールに代わるスペースを見つけ、利用することです。飲食店であれば、自分の店以外に「仮想店舗」を見つけること。つまり、客の飲食する場所に出張して料理を作るか、出前、テイクアウトで、客の居場所を臨時のスペースとして活用することです。その際、出張、出前ではそのための人員が必要になります。

もうひとつは、SNSの活用です。コンサートホールやライブハウスで生の演奏を楽しみたい気持ちはわかりますが、演奏家も客も2mの間隔を確保して演奏したり聴いたりすることは困難です。

クラシック音楽の場合、室内楽やハイドンなど小編成のオーケストラ曲の演奏は、椅子の間隔を空けられますが、マーラーやR.シュトラウスの大規模編成の曲は、演奏家の感染リスクを考えると演奏できません。

編成を小さくして演奏できたとしても、観客の感染リスクがあります。プロ野球同様に1列おきに座るか、左右を空けると、客数が減り、チケット収入が減ります。

そこで利用されたのがSNSです。

先日、ある演奏家が使い手のいなくなったホールを安く借り、そこで演奏した模様をネット配信しました。通常1万円する料金に対して、ネットで有料配信し、ライブ分は1,000円を課金したところ、ある程度の客を得たと言います。

聴衆が集まって「密」にならないようにするには、各家庭でソファーにゆったり腰かけて演奏を聴くスタイルにすれば、家族だけのコンサートが世界中で同時配信できます。ライブでなくてもよければ、より安いコストでいつでも聴くことができます。

集客が頼りの野球場やコンサートホールの経営がそれだけ厳しくなりますが……。

Next: 問題は、こうした対応が短期的なもので済むのか、長期化するのかで対応の――



薬による安心までの時間

問題は、こうした対応が短期的なもので済むのか、長期化するのかで対応の仕方が変わってきます。

それは、ひとえに「ウイルス感染阻止の必要期間」にかかります。ワクチンや有効な抗ウイルス薬がいつ承認され、一般的な医療機関で身近に利用できるようになるかです。

早い時期にインフルエンザと同じ対応が可能となれば、従来の営業に戻れます。しかし、ワクチンの開発は欧米がすでに治験を始めているのに対し、日本では遅れていて、早くて7月から治験を始めると言っています。この冬のシーズンには間に合いそうにありません。

抗ウイルス薬についても、有力視されていた「アビガン」の利用にどこからか横やりが入ったようで、当面承認は見送られました。

アビガンの有効性はこれまでの利用実績でも認められていますが、一部の勢力には都合の悪い(恐らく効果がありすぎる?)薬のようです。そうであれば他にも有効とみられる薬が日本にはあり、これらの治験を進め、副作用チェック、米国との協議を急ぎ、承認を急ぐ必要があります。

結局、不安と同居する生活がしばらく続くと見ざるを得ず、その間は感染防止に注力しないと、クラスターを起こした企業が営業停止のリスクを負うことになります。

長期戦覚悟で、ニューノーマルに対応したビジネスモデルを構築するしかなさそうです。

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マンさんの経済あらかると』(2020年5月29日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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