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楽天モバイルには○○が足りない。格安料金で競合の「PR封じ」に成功も伸び悩むワケ=シバタナオキ

楽天モバイルは月額2,980円という非常に安価な値段で携帯キャリアビジネスに参入しました。順調とは言えないようですが、競合の「PR封じ」には成功しています。今回は同社の価格戦略・PR戦略について解説しながら、今後の成長に欠かせない要素を考えます。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)

※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2020年6月16日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:シバタ ナオキ
AppGrooves / SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。

UQモバイル・Yモバイルの「楽天対抗プラン」とは

今日の記事では、楽天モバイルの価格戦略とPR戦略について少し気になった点があったので、それらについて書いてみたいと思います。

ご存知の方も多いかと思いますが、楽天モバイルは月額2,980円という、非常に安価な値段でMNO携帯キャリアビジネスに参入しました。

さらには、先着300万名を対象に1年間無料にするという、かなり衝撃的なマーケティングキャンペーンを打ってきています。

そんななか、au・KDDIの傘下であるUQモバイルが、楽天キラーと呼ばれる料金プランを発表しました。

出典:UQmobile

この料金プランを見ると、まさに楽天モバイルをモロに意識しているプランと言えるでしょう。

楽天モバイルでは、auへのローミングエリアにおける利用は月5GBまでとなっていますが、UQモバイルでは10GBまで対応できるようにしたという点が、差別化だと言えるでしょう。

出典:Y!mobile

Yモバイルも非常に多様なプランを提供しており、今回UQモバイルが発表したプランと、YモバイルのMプランが、かなり似ていると言えるのではないでしょうか。どちらも2,980円で、結果のデータ量が10GBを超えるプランになっています。

au・KDDIから見ると、楽天モバイルの参入は自社のマーケットシェアが減る要因になりかねないので、当然ながらこのように手を打ってくるわけです。

ただここで疑問になるのは、何故わざわざUQモバイルという、auとは関係のないブランドで、このような楽天モバイル対策を行っているのでしょうか。

Next: そもそもソフトバンクやKDDIが、なぜサブブランドに自社ブランドの名前を――



ソフトバンクとKDDIが、サブブランドの名前に自社ブランド名を使わない理由

そもそもソフトバンクやKDDIが、なぜサブブランドに自社のメインブランドの名前を使わないのか。その理由を少し考えてみましょう。

普通に考えると、ブランド認知にかかるコストというのは非常に大きいので、ソフトバンクやauという名前が認知されているのであれば、サブブランドに関してもその名前を使った方が、本来であればマーケティング費用が安く済むわけです。

・UQモバイルはauのサブブランドに

UQモバイルは通信速度の点でも優位です。MMD研究所の調査によれば、UQモバイルの通信速度は他の格安スマホと比較して上位にあり、ソフトバンクの格安サブブランドであるワイモバイルをも上回っています。

また、今年10月には、auを展開するKDDIが「UQモバイル事業」をUQコミュニケーションズから継承予定。つまり、UQモバイルは「au」の格安サブブランドとなり、KDDI自らが運営することになります。その意味では、今後も安定したサービス展開が期待できます。

出典:UQモバイルが「楽天キラー」な新料金、月2980円で10GB・超過後1Mbps – Engadget(2020年5月25日配信)

ここにあるように、KDDIに至っては、UQモバイル事業を子会社から親会社に関してまで積極的に介入しようとしているわけです。そこまで積極的に介入しようとしているのに、何故ブランド名を統一しないのでしょうか。

ブランド名を統一しない一番の理由は、「似たようなサービスをまったく違う価格帯で販売しているから」と言えるのではないでしょうか

ソフトバンクとYモバイルのサービスを比べると、当然、ソフトバンクの方が至れり尽せりのサービスをしているわけですが、本質的に提供しているサービスは、データ容量などの違いはあれども非常に似ていると言えます。auとUQmobileに関してもまったく同じ構造になります。

一方で、料金体系は倍近く違うことになるわけですが、似たようなサービスを2倍近い値段の差を付けて販売している状況の中で、ブランド名を統一してしまうと、ユーザーが安いほうのプランにどんどん流れていってしまって売上が減る、という恐怖がかなり大きいのではないかと思います。

ソフトバンクもau・KDDIも、MVNOにシェアを取られて、その対策の一環としてYモバイルやUQモバイルを積極的に展開しているわけですが、価格帯の違いがあまりにも大きいため、本体のブランド名とサブブランドの名前を統一するには未だ至っていない、というのが現時点の状況だと言えるでしょう。

Next: こうして見ると、楽天による2,980円という値決めは、非常に理に適って――



楽天モバイルによる巧妙な「競合のPR封じ」作戦

こうして見ると、楽天による2,980円という値決めは、非常に理に適っていると個人的には思えてきました。

具体的には、こんなことが起こっていると言えます。

1. 楽天モバイルが、UQモバイル・Yモバイルというサブブランドの料金とほぼ同一にした

2. KDDIとソフトバンクの両社は、UQモバイルとYモバイルにて「楽天モバイルよりお得なプラン」を打ち出した

3. 一方で、KDDIとソフトバンクは、メインブランドの契約者を減らしたくないために、UQモバイルとYモバイルの新プランを積極的にPRできないというジレンマへ

UQモバイル、Yモバイルの新プランを積極的にPRすると、

・メインブランドの料金が高額であることを間接的にPRしてしまう
・楽天モバイルがソフトバンク・auよりも遥かに安価であることをPRしてしまう

という二重のジレンマに陥るからです。

ソフトバンクやau・KDDIのPR担当の方は、相当お腹の痛い思いをされているのではないかと思います。

楽天モバイルの成長が加速されるのは、アレが発表されてから……?

楽天モバイルは、当初予定されていた通り、順調に会員数を増やしていくのでしょうか?

個人的には、今のままだとまだまだ厳しいと思います。YモバイルやUQモバイルと、そしてMVNOからのユーザー獲得というのは、サービスの差別化という点では割と難しい気がしています。

もし本格的にユーザーを大規模に獲得するとすると、NTTドコモ、ソフトバンク、auという3つの MNOからのユーザー獲得がメインになるのではないでしょうか。

そう考えると、まだ足りないピースがひとつだけあります。

それはズバリ……「iPhone」です。

日本は世界でも例を見ないほどiPhone比率の高い国であり、iPhoneを販売できないキャリアはかなり高い確率でユーザー獲得に苦戦します。

恐らく、次の新しいiPhoneの製品発表のタイミングで、楽天モバイルがiPhoneを取り扱うことになるかと思いますが、果たしてその後、どのくらいのペースでユーザー獲得が進むのか、というのを注意して見ていきたいと思います。

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image by:Ned Snowman / Shutterstock.com

『決算が読めるようになるノート』 2020年6月16日号『Q. 楽天モバイルの料金発表から読み取れる「競合のPR封じ」とは?』より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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