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「万年割安」の商社株と原油相場をどう見るか=山崎和邦

投資歴54年の山崎和邦氏が思い出の投機家や重大事件を振り返る本連載、今回のテーマは初の連結最終赤字となった三菱商事・三井物産と、原油などコモディティ相場の見通しです。

三井、三菱の連結最終赤字転落は「良くやった」と言える

1:大手商社決算と原油価格

三井、三菱が初の連結赤字、主な原因は資源ビジネスの低迷という外部要因に帰せしめた。両商社の今回の減損会計については旨くやった、良くやった、と評したい。

今ならば資源ビジネスの在庫の減損を計上しても、流通金額の激減による赤字が出ても、これ全てが外部要因だから、不注意で不良債権を多額に出したとか自ら墓穴を掘ったとかいう話ではない。

この際、思い切って赤字を大いに出しておけば今後は資源価格の上昇に伴って、いわばキャピタルゲイン的な仕組みの利益が望める。株の暴落時に株価を時価会計にして買い値を安くしておいて、後日の値上がりで自然にキャピタルゲインが出る仕組みを作るのと同じである。

伊藤忠商事と三井物産、三菱商事とはビジネスモデルの違いもあろうが、この際は思い切って赤字を出した三井・三菱の方が、あとがやりやすい。

原油価格の暴落は経営ミスでも破廉恥なことでもない。

普通はサラリーマン社長というものは、損はチビチビと出して目立たないようにして次世代に引き継ぐものだが、その意味では今回の大手商社の「初の赤字決算」はこの機会に乗じて旨くやったというところであろう。株式市場でもそれを読んでいるから乱高下はしない。むしろ歓迎であろう。

筆者の記憶の範囲でこういうことがあった。

数年前、日本電産が大幅な下方修正をするという情報が出た。創業オーナー社長である永森氏のことだからこれを機にウミを全て出し尽くして今後は良くなる一方に違いない、よって大幅下方修正で株価が大幅に下がったら買ってやろうと待ち構えていたら、当日の株価は逆に上がって始まってしまい筆者は買いを諦めた。株価はその後、何倍にもなった。

やはり筆者と同じ考えの人が市場に沢山いて行動を起こしたのであろう。株価という狡猾な生き物はよく実相を見ているものだと痛感した。

Next: 2:原油安は原油輸入国の日本にとって必ずしもトクではない


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)、近著3刷重版「賢者の投資、愚者の投資」(日本実業出版)等。

2:原油安は原油輸入国の日本にとって必ずしもトクではない

いまから30年近く前、1987年頃の株式市場は、円高・原油安・低金利を「トリプルメリット」と称して前年につけた史上最高値を更新し、秋の所謂「ブラックマンデー」まで高騰し続けた。

2016年現在の市場では敏感な悪材料となる円高と原油安が、低金利と並んで3大メリットだと囃されていたのである。円高は「強い日本の象徴」だとされ、原油安は「資源輸入国の日本にとってはメリット以外の何ものでもない」とされた。

さて今回も教条主義者・原理主義者は、原油輸入国の日本にとって原油価格の下げはトクになる一方だと言っていた。よって日経平均2万5千円だ、と言っていた。

原油が安くなるというのは良いことばかりではない、と筆者は半年以上前にメルマガ「週報」にも何度も述べた。現に産油国は、国庫が赤字になったので一番売りやすい日本株を大量に売って補った。7年ぶりの海外投資家の売り越しはそれが主因である。そこへ、その力学を使ってヘッジファンドが仕組むから動きを増幅する。主因は原油価格の暴落であった。

お陰で日本国の時価総額は数十兆円も減った。日銀の標榜する「2%目標」も原油暴落のお陰で達成は遠ざかった。経済音痴の民主党議員はアベノミクスの失敗だと騒ぐ。これはデフレ脱却という第一使命を妨げる。経済は半分は「気」の問題だ。だから8年ほど前に『経済は感情で動く』(マッテオ・モッテルリーニ著・泉典子訳/紀伊國屋書店 2008年 刊)などというバカな本がベストセラーになったのも無理はない。

十数年ほど前だが、政策の催促の為か日経新聞が不況不況と騒ぎまくったせいで世の中が閉塞感に満ちた、これを識者は「日経不況」と揶揄した。

デフレ脱却の障害となった原油暴落は「やはりデフレ脱却は無理だ」との印象を与えるから「気」の問題を大きくした。筆者が昨年から述べてきたのはこれである。経済音痴(か、またはその振りをする)民主党は党名を変えてもダメだ。

株価も資源価格も熱狂と悲観を繰り返す。原油価格は、誰が、2008年高値の5分の1になると予測したか?その予測は回答を得られずとも、ある一定の基本的な考え方が確固として無ければ熱狂と悲観に振り回される教条主義に陥る。筆者は12カ月移動平均の40%乖離のみを見ている。ファンダメンタリストの言うことは。往々にして時局に左右されて本質を見失う。

Next: 3:各国民には固有の「恐怖のDNA」が存在する



3:各国民には固有の「恐怖のDNA」が存在する

我が国で原油価格と言えば第1次オイルショックを連想する。高騰に狼狽し、18年続いた高度成長がゼロ成長(当時は「安定成長」と呼んだ)に急転直下した73年秋の第1次オイルショックである。当時10ドルになってあわてたのだが、その前は2ドルが当たり前だったからウソのような話だ。一挙に5倍になったのだ。

これは第4次中東戦争で産油国が原油を武器として使った結果だが、10ドルで青くなったと言っても、2ドルが10ドルになったのから一挙に5倍である。都会の主婦たちはトイレットペーパーが生産停止になってなくなるという話を信じてスーパーマーケットの前に長蛇の列を為した。我が国には、このようなDNAがある。

国柄というものは、或る恐怖のDNAを引き継いでいる。

例えばドイツはハイパー・インフレである。それがナチス党の悪夢を生んだからだ。

アメリカは失業である。世界恐慌のころ、スーツ姿の失業者が街にごろごろしている写真を見るであろう。あれである。だから今でも雇用統計の発表にウォール街は右往左往するのだ。日本の中央銀行の使命はただ一つ、物価の安定(=日銀発行の通貨価値の安定確保)であるが、FRBの使命は二つあり、それは物価の安定と雇用の安定である。

そして、わが国の恐怖のDNAは「資源」である。これこそ第二次世界大戦への淵源になったからである。

第1次オイルショックの頃、長谷川慶太郎氏はただ一人、「原油価格はまた下がる。原油とて商品相場だ。上がったものは下がる」と断言し見事に的中して名を成し、これを以て彼は世に出た。

彼は自らを「本当は軍事評論家なのだ」と言い、その方面から的中させた。

余談だが、その後、湾岸戦争もイラク攻撃も、攻撃開始と戦闘終了の日付まで彼は正確に当てた。後から聞くと彼はアラビア石油の現場から天気図をFAXで送ってもらっていて砂嵐の始まりを読めたから、そこから逆算して日取りを推理した、タナゴコロを指すようなものだ、と嘯(うそぶ)いた。彼ほど多くを予言し多くを的中させ多くを外した人はない。

第1次オイルショックの際、田中角栄内閣は中東へ行って日本に原油を売って下さいと外交した、これにイスラエルがカチンと来て、「油乞い外交」と揶揄した。イスラエルの後見人を任じているアメリカはこの時の不快さを忘れず、その1~2年後には僅か5億円の使途不明金を田中に渡したとロッキード社のコーチャン副社長に証言させて、田中角栄氏を葬った(アメリカでの証言を日本の法廷で証拠とすることは法理上できなかったが、検事や判事の心証は大いにクロに傾いたであろうと推測できる)。

Next: 【見通し】商社株とコモディティ相場/原油相場



商社株とコモディティ相場

商社株は「万年割安株」で見直される機会は少ない。

扱う商品の価格が下がれば利幅は減る。変動商品を扱う企業の株価はそうなりやすい。金利が下がれば銀行の利益は減ることと同じである。

現にマイナス金利の導入を決めた時にメガバンクの株価が一斉に売られた。コモデティを扱うのだから当然に扱い商品の価格変動の影響を受ける。

資源主力の三井物産はその典型だ。79年にホメイニ師がパーレビ国王を追放して政変が起きた時のイラン原油開発に比重を掛けた三井物産の痛手は大きかった。これは価格変動よりも大きいカントリー・リスクである。

三井物産は扱う商品の7割が天然資源だと言う。こういう不安定なものを扱うビジネスモデルは、割安に評価されるが一方、旨みもあるということになる。三井物産の株価が、良く言えば躍動的、悪く言えば不安定なのはそのためだ。

扱う主力商品の種類によって当該商社のリスクも旨みも違ってくる。

商社株はPERから見てもPBRから見ても割安である。銀行株がPBRからみて割安であることと共通している。株価は常に未来を買う。現在の価値に興味はない。商社株の性質、買い時、売り時と言っても、大勢には逆らえないから大勢に乗ることを優先して考えることが現実的であろう。

原油相場

米国の指標であるWTI原油は、Wボトム(毛抜き底)を形成したが、45ドルまで来るとシェールオイル企業が採算に乗るから当面は35ドル~45ドルのレンジであろう。日本株が大天井を突いてから、WTI投信へ投資しておられる読者が多いということが読者の質問やセミナー後の懇親会から分かったので、メルマガでも多少の見通しは述べている。

株価動因の主力の1つが原油である。39ドルから明らかにリスクオンの流れに変わった。原油相場は2月底打ちして上昇。リスクオンの流れになってきた。NY原油は4週連続の上昇。26ドル台から37ドル台へ42%上昇。そして40ドル乗せした。

昨年3~-6月にかけての上昇以来である。その時は11週上げた。一応、2月で底を打ったと言える。NY原油はFOMC後のドル安を受けて40ドル台を回復した。3ヶ月半ぶりの40.36ドルを付けた。WTIは1,74ドル高の40.2ドルで引けた。

では、どこまで戻せるか。2008年12月~2009年2月までリーマンショックの嵐の中、3本連続で月足は下ヒゲをつけて上昇した。今回も下ひげを連続して上昇してきた。リーマンショック時のパターンに似てきた。それなりに戻ってきてもおかしくない。

今月20日以降、産油国の会合が行われる。ちなみにゴールドマンサックスGSが11日(金)に見通しを出した。在庫が積みあがってきているから弱いという。今後数週間大幅に下落すると言う。

誰がいつ何を言おうと自由だが、筆者はGSを実のところ逆指標の参考にしてきた。「曲がり屋に向かえ」という。産油国の会合では何も決まらない可能性は高いが、それも織り込んだろう。一旦売られても、又上げてくるのではなかろうか?

一方、主要産油国の4月の会合で増産の凍結に合意するだろうという思惑もある。原油の在庫が4月まで増加しても思ったほど下がらないのならば、既報で既述の通り、買戻しが一気に入るかもしれない。

Next: 【補足】ノルウェイ政府系ファンドについて



ノルウェイ政府系ファンド

砂漠の国の産油国とは少々色合いが違うが、ノルウェイの政府年金基金は世界最大級の国営ファンドである。サウジのファンドより大きい。

筆者がノルウェイへ行ったとき、オスロの国営ファンドの本部を覗いてみたら学校の教室くらいなもので「これが北海油田を基盤とする世界最大級のファンドか」と拍子抜けしたことがあった。しかし残高は100兆円で世界最大級だ。

因みに毎日、日経新聞の一面の左下に出るドバイ原油のドバイ王国へ行った時に原油取引所を覗いて写真を了解なしに撮ったらフィルムを没収されてしまった(そんな時の用意にインスタント・カメラを用意しておいた。10年前のことである)。

ドバイ原油はメジャーとの結びつきが薄く小売に近いし、アジア原油市場の指標であるから毎日、新聞に出るのであろう。
 
国営ファンドは、砂漠の国のファンドとノルウェイとを合わせて300兆円くらいであろう。そのうちノルウェイの保有する日本株は約6兆円で、前年から24%増えたという。保有株式の最大はやはり断然トヨタで、10位までの他の銘柄を全部合わせた分の2~3割はあるとのこと(3月12日付日経新聞)。

原油安を受けて赤字となった中東ファンドは日本株を売り越してきたが、ノルウェイは買い増しを続けた。ノルウェイ年金基金も原油収入が元手だが、国家歳入に占める原油の比率が中東諸国ほど高くないからだろう。

【関連】大手商社「減損ショック」の中身~三菱商事と三井物産はいまが買い?=栫井駿介

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