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日本も追従する?中国で地方都市・農村向けビジネスが大流行しているワケ=牧野武文

中国では下沈市場(地方都市・農村)をターゲットとしたビジネスに注目が集まっています。なぜいま地方なのか。この流れに日本も追従するかもしれません。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2020年7月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

いま中国では地方都市・農村が熱い?

今回は、中国の下沈市場についてご紹介します。

下沈市場とは地方都市と農村のことです。今まで多くの消費者ビジネス、ネットビジネスは、購買力があり、人口も多い大都市を対象にしていました。ところが、今、大都市ではなく、地方都市や農村をターゲットにしたビジネスに注目が集まり始めているのです。大都市から下に沈んだところに商機があるということから、下に沈んだところにある市場ということで下沈市場という呼び方がされています。

下沈市場が市場として有望視されるようになった要因は、スマートフォンです。スマホの普及が地方にも波及し、ネット民の数はすでに大都市よりも地方の方が多くなっています。

また、都市と地方では、購買力に大きな格差があると言われていましたが、現在その格差はどんどん縮んで、都市と地方の格差はほとんどなくなったと言ってもいいほどになっています。

このような点に注目して、積極的に下沈市場を狙いに行って成功したのがソーシャルEC「ピンドードー」です。この成功により、一気に下沈市場が注目されるようになりました。

しかし、下沈市場の消費傾向は大都市と同じではありません。独特の消費傾向を持っていて、これを理解しないで、大都市向けのサービスをただ地方に持っていっても失敗するだけです。

今回は、下沈市場とは何か。どういう傾向のある市場なのか。そして、ピンドードーは、下沈市場のどこを捉えて成功することができたのかをご紹介します。

中国に残された個人消費フロンティア「下沈市場」とは何か?

中国のマーケティング業界で、ここ数年重要なキーワードになっているのが「下沈市場」です。下沈市場とは、地方都市と農村の消費者のことです。さまざまなビジネスが都市部では飽和状態になってきているため、下沈市場が注目されるようになってきています。

しかし、都市がダメだから地方を狙うという消極的な考え方ではありません。中国の経済発展は、常に大きな市場を発見することで進んできました。

中国の人口ピラミッドを見ると、ひょうたんのような形をし、40歳代後半と30歳代前半にピークがあります。しかも、その前後の差が大きく、不連続な印象を持ちます。

現在の50歳代後半が生まれた60年代は、大躍進政策の時代です。近代化を急ぐ中国は、ソビエト連邦からさまざまな技術導入をし、その見返りとして農産物を支払っていました。当時の社会主義状況では、各地が競い合うように豊作であるという水増し報告が上がり、そのでたらめの数字に基づいて、農産物の供出量が決められソ連に送られたため、自分たちの食べるものがなくなるという愚かな悪循環に陥ったのです。1,500万人から4,000万人という数字の開きはありますが、大量の人が餓死しました。

Next: 大躍進政策を推進した毛沢東が失脚をし、愚かな政策が改められると――



中国の人口ピラミッドを見ると、2つのピークがある。この人口ボーナスにより、中国は経済成長をしてきた

大躍進政策を推進した毛沢東が失脚をし、愚かな政策が改められると、にわかにベビーブームが起こりました。これが40歳代後半のピークです。この世代は、経済重視の政策に舵が切られる改革開放が始まるときに10歳前後で、90年代からの個人消費の成長に大きく貢献しました。家電製品、新しい食品、服飾、家具など中国の経済成長を支えたのです。このような人口ボーナスが中国の経済発展の礎となりました。

しかし、急激な人口増加が問題となり、80年前後から有名なひとりっ子政策が始まります。ひとりっ子政策は中央政府が指針を示しますが、具体的な実行は地方政府に任されていました。そのため、厳格に実行する地域(農村が多い)もあれば、実際には形骸化している地域(都市が多い)もあるため、厳密に何年から始まったというのは難しいのですが、80年ごろから本格化をしていったと言われています。

それが人口ピラミッドにも現れています。30代後半と40代前半はものすごく人口が少なくなっています。

日本でも、似たような人口ボーナス世代に団塊の世代(47年から49年生まれ)があり、その団塊の世代が親になると、団塊ジュニア(71年から74年生まれ)の世代も人口が多くなります。

これと同じように中国でも、先ほどのベビーブーム世代が子ども産むジュニア世代の人口が多くなっています。これが30歳代前半(80年代生まれ)の世代です。俗に80后(バーリンホウ)と呼ばれる世代で、貧しい中国の記憶のない世代です。この世代も、経済に大きく貢献しました。成人をする頃に、アリババやテンセントといったIT企業が登場してきます。EC、SNSなどのITサービスの主力となった世代です。

つまり、中国の経済成長、IT革命の背後には、人口ボーナス世代がいたわけです。しかし、そこから下は再び急激に世代人口が少なくなります。ジュニア世代が親になって、現在の10歳以下の人口が多くなってもよさそうですが、そうはなっていません。

80后は、結婚をしない世代なのです。生まれた時から豊かな中国しかしらず、自分の人生を楽しもうと考え、恋人を作り同棲はしても、子どもを産んで家庭を築こうとはなかなかしません。豊かになれば少子化になる。他国でも共通した現象です。

しかし、経済面から見ると、これは大きな問題です。人口ボーナスがなくなるわけですから、あらゆる業種が停滞をすることになります。その傾向はすでに始まっています。20歳代が好むファストファッション業界は、どのブランドも苦しむようになっています。今後、比較的若い世代が消費の中心になっている自動車、マンションなども成長が止まることは避けられません。

下沈市場で成長するEC「ピンドードー」

そこで注目が集まっているのが、下沈市場です。この下沈市場をうまく捉え、大成功したのがソーシャルECの「ピンドードー」です。

ピンドードーは、すでに利用者数や流通総額で、京東を抜き、アリババに迫る第2位のECになっています。現在でも成長を続け、利用者数で2020年中に1位のアリババを抜く可能性もあるほどの勢いがあります。

こういう、下沈市場を活用した成功例も登場することで、ますます下沈市場が注目されるようになっています。

下沈市場とはどんな特徴を持っているのでしょうか。そして、ピンドードーはそれをどのように活用して成功したのでしょうか。

次項からは、下沈市場とそのビジネスについてご紹介します。

Next: 中国では、都市のランキングが発表され、都市のクラス分けが一般にもよく――



三級都市以下と農村に人口が集中している

中国では、都市のランキングが発表され、都市のクラス分けが一般にもよく知られています。第一財経というメディアが毎年発表しているもので、170種類の商品の販売データ、19のネットサービスの利用データなどから、中国338都市の購買力や消費力を序列化したものです。

トップ4は、北京、上海、広州、深センで、一級都市(中国では一線都市と呼ばれる)と呼ばれます。その次は二級都市となりますが、二級都市の中から成長力が目覚ましい都市が現れてきていることから、2018年から「新一級都市」というクラスが新設されました。新一級都市は、成都、重慶、杭州、武漢、西安、天津、蘇州、南京などの15都市です。

以下、二級都市が30都市、三級都市が70都市、四級都市が90都市、五級都市が129都市となります。

このうち、三級都市以下と農村が「下沈市場」と呼ばれます。

しかし、不思議に思う方もいるのではないでしょうか。都市ランキングは基本的に消費力で決められています。つまり、三級都市以下の下沈市場は、消費力が弱い都市の集まりです。それがなぜ、巨大な消費市場になり得るのでしょうか。

それはまず、人口です。二級都市までの大都市人口は約3.9億人ですが、下沈市場にあたる三級都市以下の人口は約10億人もいます。

しかし、人数が多いからといって、すぐに巨大な消費市場だと言うことはできません。個人の消費力は大都市部に比べて小さく、しかも人口密度が低いために、ビジネスの効率はよくありません。地方に出店をしても、商圏として確保できる消費者数はわずかです。交通の便も都市部に比べればよくありません。同じ売上を確保するためには、大都市の数倍の店舗を出店する必要が出てきます。

ところが、スマートフォンの普及により、この事情が大きく変わりました。下沈市場では、スマホ利用率も低いものの、人数にすると3.96億人がネット接続(主にスマホ)ができる状態になっています。ネット人口を比較すると、大都市が45.7%、下沈市場が54.3%と、ネットの中では、すでに下沈市場の方が優勢になっているのです。

スマホ利用者の人口で比べると、すでに三級都市以下の方が多くなっている

しかも、大都市ではこれ以上ネット人口は伸びません。頭打ちになっています。しかし、下沈市場では10億人の人口のうち、3.96億人しかネット接続をしていないので、まだまだ伸びる余地があるのです。

だからこそ、下沈市場が注目されているわけです。すでに大都市よりも大きな市場になっていて、今後の成長力も高い。

なので、実体小売店では下沈市場に参入することができません。人口密度が低い地方都市では、お客さんに来店してもらう必要がある小売店は効率が悪すぎるからです。一方で、お客さんに来店をしてもらう必要がないネットサービスにとっては、巨大な消費市場が生まれたことになります。

ネットサービスは、大都市を中心に発展してきましたが、すでに頭打ち状態になっています。しかし、大都市よりも大きな市場がまだ中国には存在していた。フロンティアが残っていたと注目されているのです。

従来は一級都市、二級都市を狙うのがビジネスの常道でした。しかし、これからは三級都市に下げていかなければならない。狙う市場を下に沈めていく必要がある。それで下沈市場と呼ばれています。

では、下沈市場の消費者の消費力はどうなのでしょうか。地方では収入そのものが低い。確かにその通りです。しかし、近年、中国の人件費は高騰をし続け、都市と地方の格差は急速に小さくなってきています。

調査会社「企鵝智庫」のレポートによると、下沈市場の収入は大きく伸びてきています。18歳から30歳までを「下沈青年」、31歳から45歳までを「下沈中年」として、分けて比べてみると、下沈中年の収入分布はもはや都市と遜色がありません。違いは高給を取る人が少ない程度です。

平均の消費額を比べても、都市が4055元、下沈中年は3230元と格差は解消されています。地方都市は大都市に比べて物価も安いので、生活感覚ではもはや大きな違いはなくなっています。

Next: このように下沈中年の消費力が上がっているのは、地方都市で稼げるように――



下沈市場の消費者の収入分布を青年と中年に分けて見ると、下沈中年では都市部とほぼ差がなくなってきている

このように下沈中年の消費力が上がっているのは、地方都市で稼げるようになってきたからです。これにもネットの力が欠かせません。地方の農産物、工芸品などをECを使って出品し、利益を出せるようになってきています。また、地場の中小のメーカーなども、以前は近隣の都市にしか販売できませんでしたが、現在はECに出品をすることで全国規模のビジネスができるようになってきています。

この変化により、人の流れも変わってきました。80年代から始まった経済成長を支えた労働力は「農民工」でした。農民は、食料は自分で生産しているので売るほどありますが、現金収入がほとんどありません。自分の子どもに教育を与えるにはお金が必要です。そこで、農閑期に大都市に出稼ぎに出る。それが農民工でした。春節(旧正月)になると、農村に帰るため、毎年春先には数億人が中国国内を移動します。

農民工は低賃金であり、都市の建設や運搬、清掃などの肉体労働を担当しました。また、工場などの貴重な労働力にもなりました。中国は、このような安価な労働力が豊富にあったことで、国際競争力をつけ、経済成長をすることができました。

しかし、農民工はあくまでも農村が実家で、都市には出稼ぎにきているだけです。

これが2000年以降、「新青年」に変わりました。中国経済が成熟をし、人件費も上がってきたことから、出稼ぎではなく、農村から都市へ移住をし、都市を生活基盤とする人が増えました。特にEC、外売(フードデリバリー)、ライドシェアなどのサービスが始まると、宅配便配送員、外売配送員、ライドシェア運転手などの仕事でじゅうぶんに生活ができるようになっています。新青年たちは、北京、上海などの大都市よりも、実家から近い中核都市に行きます。一級都市は、家賃などの生活コストも高いからです。

このような新青年の進出が、新一級都市が成長する原動力のひとつになっています。

そして、現在「小鎮青年」という言葉が注目されるようになっています。小鎮というのは小さな町、集落のような意味です。つまり、実家から都市にいくのではなく、実家で暮らし、そこで稼ぐ人が増えているのです。地元の農産物や工芸品、特産品をECを使って販売する、あるいは宅配物流の仕事をするなどです。また、ソフトウェア開発を行ったり、服飾や加工食品のメーカーを立ち上げる人もいます。

このような小鎮青年は、都市部の大学に行って学び、数年間働いて仕事を覚え、人脈を作り、それから地元に戻って起業するUターン組です。このような人が核になって、地方のビジネスが次第に成立するようになっています。

下沈市場の消費者「2つの特徴」

下沈市場の消費者には2つの特徴があります。それは「国産志向」と「ソーシャル」です。

<特徴その1:国産志向>
下沈市場の消費者は、大都市ほど海外製品を志向せず、国産品を購入する傾向にあります。かと言って、愛国心から海外製品を嫌うというわけではなく、素朴に国産品を選んでいるようです。大都市であれば、百貨店などで海外製品と国産品を比較する機会がありますが、地方都市ではあまり手にする機会がありません。よくわかっていて、価格も安い国産品を選び、その品質に満足しているということだと思います。むしろ、大都市の方が、情報や他人の目を気にして、過度に海外ブランドを志向する傾向があるのかもしれません。

下沈市場でも、スマートフォンの使用ブランド調査では、国産のファーウェイと海外のアップルが拮抗していますが、「次に買う時に選ぶブランド」を尋ねると、圧倒的にファーウェイになるのです。家電製品や化粧品でも同様の傾向があり、下沈市場は国産品が好きという特徴があります。

<特徴その2:ソーシャル>
もうひとつがソーシャルです。商品購入をする決め手になる要素を下沈市場の消費者に尋ねると、1位にくるのは「優待価格」ですが、2位が「友人の勧め」です。「テレビ広告で見た」というマスメディアによる効果は小さく、それよりもブランドの公式アカウント、ウェイボー、Tik TokといったSNSでの高評価を参考にしています。つまり、マスメディアではなく、友人関係というリアルなソーシャル、SNSなどのデジタルなソーシャルを参考に購入する商品を決める傾向があります。

Next: このような下沈市場の特徴をうまく捉えたのが、2015年にスタートした――



ソーシャルEC「ピンドードー」の誕生

このような下沈市場の特徴をうまく捉えたのが、2015年にスタートしたソーシャルEC「ピンドードー」です。ピンドードーとは「たくさん集める」といった意味のネーミングです。利用者数、流通総額で京東を抜き、第2位のECに浮上をし、2018年7月にはナスダック上場を果たすという勢いのあるECです。

ピンドードーの基本は、共同購入です。自分が欲しい日用品があったら、1人でも購入することはできるのですが、「○○時間以内に○○人を集める」という商品ごとに定められた条件をクリアすると、大幅な割引価格で購入できるというものです。この共同購入者を集めるのにWeChatなどのSNSを使います。買いたい商品の情報を簡単にWeChatに転送できるようになっているので、これを友人知人に送ります。もちろん、「一緒に買わない?」「前使ったけどすごくよかったよ」などのメッセージをつけることでしょう。受け取った友人はその情報をタップすると、簡単に購入ができるようになっています。

これが下沈市場の消費者たちの口コミ重視の感覚に合いました。ピンドードーは瞬く間に下沈市場を中心に浸透していったのです。

ピンドードーの賢いところは、単に下沈市場に目をつけただけではなく、地方のビジネスをも成長させようとしているところです。地方のビジネスを成長させることで、経済力をつけさせ、それでECで買い物をしてもらおうというわけです。

ピンドードーに多く出品しているのは、地方の弱小メーカーです。例えば、あるトイレットペーパーは、50ロール(半年分)が6.8元(約106円)で販売されています。1ロール6.8元ではなく、50ロールで6.8元なのです。驚きの安さというか、安すぎて不安になる安さです。

ただし、品質はそれなりです。この6.8元のトイレットペーパーを買ったことがある人に聞いたところ、「ミシン目のところでは切れずに、ミシン目以外のところで切れる」と言っていました。また、おそらく再生紙をリサイクルするときの工程の問題だと思いますが、小さな黒い粒のようなものが繊維の中にいくつも埋まっているといいます。健康上問題があるようには思わないものの、やっぱりなんとなく気持ちが悪いと言っていました。

特に、ピンドードーがスタートした頃は、このような品質の低い商品が、激安価格で販売されていたことから、「貧乏人のEC」とバカにされることも多かったのです。現在でも、このような低品質の商品もありますが、割合は少なくなってきて、真っ当な商品が一般的になっています。

ピンドードーに出品をしているのは、多くが地方の弱小メーカーです。地方メーカーは大手に比べて、技術力、生産力、宣伝力、販売力、あらゆる面で劣ります。中国の経済が発展するにつれて、このような地方メーカーは淘汰されていく以外道はありませんでした。

「品質は高くないけど安い」というセールスポイントで生き延びていくことも可能ですが、それには宣伝力と販売力が必要です。地方メーカーにこの2つはありません。

ここにピンドードーがうまくハマったのです。ピンドードーでは、宣伝は消費者自身がやってくれるのです。もちろん、製品そのものに価格や安さ、機能などに特徴を出すことは必要ですが、影響力のある消費者が気に入ってくれれば、そこを起点に情報が拡散し、大量に売れる可能性があります。

また、ピンドードーへの農産物の出品も増えています。今までは農家は、地域の農産市場に出荷をする以外、収入を得る道がありませんでした。価格は市場が決めてしまうので、原価割れをしてしまう価格でしか売れなくても、農家には出荷するか、廃棄するかの選択肢しかなかったのです。しかし、ピンドードーが登場したことで、市場流通とは異なる流通が生まれました。規格に合わない、以前であれば自家消費するか、廃棄するしかなかった農産物を格安で出荷する。あるいは、特徴のある農産物であるのに、他の農産物と同一視され、安い価格でしか市場に出せなかった農産物をピンドードーで高級品として適正価格で販売する。

すべての弱小メーカー、農家が成功できるわけではありませんが、ピンドードーを活用して、収入を大きく増やした弱小メーカー、農家が登場するようになりました。

また、ベビー用品、若い女性向けの化粧品、特定分野のスポーツ用品、オーガニック食品といった専門性の高いソーシャルECも下沈市場では好調です。大都市ではこのようなニッチな専門店は、繁華街やショッピングモールに出店していますが、地方都市を中心するに下沈市場では、リアルな専門店はほとんどありません。そのため、ソーシャルECで購入する人が多いのです。遠くの街まで行かなくても買うことができ、ソーシャルによる口コミがあるので安心して買うことができるからです。

ピンドードーでもこのような商品を扱い始めている他、専門のソーシャルECが次々と登場しています。いずれもニッチな市場を狙っているため、売上規模は大きくありませんが、専門性の高いソーシャルECの成長が目立つようになり、女性向けの「小紅書」「モーグー街」、若いお母さん向けの「雲集」「三里人家」が注目されるようになっています。

Next: 経済の成長というのは、人口ボーナスに依存をしています。どの国でも――



下沈市場というフロンティアを発見できる中国ビジネスの強み

経済の成長というのは、人口ボーナスに依存をしています。どの国でも、ベビーブーマー世代が成人する頃に経済が成長します。人数が多いのでモノがたくさん売れる。景気がいいので給料が上がり、よりたくさんのものが買えるようになるという好循環が生まれるからです。

中国では、2回のベビーブーマーによる経済成長がありました。しかし、今後は、この人口ボーナスを期待することはできません。そこで、下沈市場という今までとは異なる新たなフロンティアを発見し、そこからピンドードーという成功例も生まれているのです。

改革開放が始まったとき、トウ小平は先富論を基本原則にすると訴えました。「私たちの政策は、一部の人を先に豊かにするためのものです。その豊かになった地区が、落伍している地区のお手本となり、手を差し伸べるというものです。先に豊かになった地区が、落伍している地区を助けることは義務なのです」というもので、このようにして、中国全体を豊かにするというものでした。

しかし、実際には、落伍した地区の安い労働力を使って、豊かになった地区の人々は自分の生活を楽しんだのです。それが長い時間かかって、ようやくトウ小平が思い描いた理想が実現されようとしています。

ちなみにピンドードーを創業したホワン・ジェンは、浙江大学を卒業後、ウィスコンシン大学に留学し、そのままグーグルに入社したエリートです。グーグル中国の立ち上げに伴って帰国をし、辞職後、ピンドードーを起業して成功しました。

起業した当時は、地方市場を狙ってもうまくいくわけがないと投資家から言われ、都市住人からは「貧乏人のEC」とバカにされました。

こういうスーパーエリートが、地方都市の構造を熟知をし、そこにうまくハマるビジネスを、スマホ、EC、ソーシャルといったテックを組み合わせて作り上げる。個人的に、こういう深みのある発想ができることに、中国テックビジネス業界の懐の深さを感じます。

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※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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