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LINEの強みと儲けのしくみ 上場控え、立ち入り検査の影響は=栫井駿介

スマートフォンでメッセージや通話を楽しむアプリ「LINE(ライン)」は、多くの方にとってすっかりおなじみかと思います。そのLINEを運営する「LINE株式会社」が今年の夏前にも上場するのではないかと言われています。投資家の中にはIPOを心待ちにしている人も多くいるでしょう。その強みと儲けのしくみを分析してみました。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

これからのLINEの儲け方/関東財務局立ち入り検査の影響は?

今年夏前にも上場と報道

ロイターの記事によると、LINEは現在上場準備を進めていて、6月頃には上場する予定とのことです。

主幹事はモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、野村証券。東京証券取引所および米国のニューヨーク証券取引所かナスダックの同時上場となる見通しです。

2014年頃から既に上場準備を進めているようであり、これまでもたびたび上場観測報道が出ていました。今回は既に上場申請を行ったという噂もあり、にわかに真実味を帯びています。

ここ数年はIPO市場も好調だったので、これだけの大型銘柄がまだ上場していないというのは意外感があります。その理由は、LINEの株主事情によるものです。

一般的なインターネット企業のIPOでは、上場時の株主にベンチャーキャピタル(VC)が名を連ねています。VCは投資した資金を回収することで利益をあげるので、IPOできる環境になったら一刻も早く上場したいと考えるものです。

その点LINEの親会社は、「ネイバー(NAVER)」という韓国のインターネットサービス会社です。

VCが入っていないので、早い段階で上場して投資資金を回収するよりは、じっくり育ててより高く株を売れた方が会社にとってよく、焦って上場する必要性がないのでしょう。

スマートフォンの普及に伴って、LINEの業績はうなぎのぼりです。利益も相当出ているようなので、今年上場すれば高い価格で売れるという思惑もあると思います。

もし上場が実現すれば、インターネット系の会社ではここ数年で最大のIPO案件となりそうです。

メッセージングアプリでは一人勝ち

LINEは2000年に「ハンゲームジャパン」という名前で設立されました。テレビCMもやっていたので、覚えている人もいると思います。その後ライブドアの買収などを経て2013年に現在の「LINE株式会社」という名前になりました。

2011年にLINEのサービスを始めると、これが大ヒットとなります。開始から1年半で登録ユーザー数が1億人を突破し、現在の月間アクティブユーザー数は全世界で約2億1,500万人に上ります。

日本だけでなく、タイ、台湾、インドネシア、中東地域でもブームとなっています。

事業のほとんどが、「LINE」アプリに付属するサービスです。メインコンテンツはメッセージングであり、これがあらゆるサービスの入口となって「LINEゲーム」「LINEニュース」「LINEマンガ」「LINEバイト」などにつながっていきます。

「LINE」は、スマートフォンを使いこなす若者の間で広がりました。そのため、関連サービスも若者向けがほとんどです。「カカオトーク」「Viber」など、似たようなサービスも競争に名乗りを上げましたが、最近は全く聞かなくなりました。

インターネット業界では、1つのサービスが市場をほぼ全て抑えてしまう「Winner Takes All(一人勝ち)」という現象が起こりやすく、LINEも一人勝ちに成功したと言えるでしょう。

Next: 一人勝ちしたサービスは「フリーミアム」モデルで稼ぐ!



一人勝ちしたサービスは「フリーミアム」モデルで稼ぐ!

インターネット業界の一人勝ちと言えば、真っ先に思い浮かぶのがヤフー・ジャパンでしょう。

インターネット黎明期からサービスを開始し、ポータルサイトとして確固たる地位を確立しました。トップページに表示されるニュースは、今やテレビなどのマスコミ以上の影響力があると言っても過言ではありません。

ヤフーの主な収益源は広告です。それだけ影響力のあるメディアですから、大手企業もこぞって広告を出します。売上高の約6割が広告によってもたらされ、売上高・営業利益・当期純利益はいずれも18期連続の増加を記録しています。

その勢いは広告だけでは終わりません。ヤフーのサービスを月額会員制の「Yahoo!プレミアム」と結びつけることで、ヘビーユーザーから安定的な収益を獲得することができるようになります。

無料のサービスから入り、ヘビーユーザーから会費を取る「フリーミアムモデル」の典型的な事例です。これも既にヤフーの収益を支える重要な要素となっています。

同じように投稿型レシピサイトで一人勝ちとなっているのがクックパッドです。レシピ自体は無料で見られますが、人気ランキングや「殿堂入り」レシピを見ようとするとプレミアム会員登録をしなければなりません。

とはいえ会費は月額約300円とハードルは高くなく、順調に会員を増やしています。同時に、料理というコアなターゲットに絞った広告でも成果を上げています。

このように、一人勝ちとなるインターネットサービスは、フリーミアムモデルを軸として、広告や有料会員サービスで稼ぐことが多いようです。

Next: プラットフォームとしてのLINEの可能性は止まらない



プラットフォームとしてのLINEの可能性は止まらない

LINEの現在の収益構成は、コンテンツ41%、コミュニケーション24%、広告30%、その他5%となっています。「コンテンツ」はゲーム、「コミュニケーション」はスタンプが中心です。

LINEの収益構成

ゲームは「ディズニーツムツム」や「LINEポコポコ」など、LINEのユーザー層に合わせたライトなものです。スマートフォンのゲームらしく最初は無料でプレイでき、そこから先の課金による収入が中心になっていると考えられます。ゲーム内の課金もフリーミアムモデルのひとつと言えます。

様々な絵を相手に送り、トークを賑やかなものにしてくれるのがスタンプです。LINEがこれだけブームとなったのもスタンプの貢献が大きいと思います。無料のものもありますが、お金を払えば様々なスタンプを購入することができ、さらに誰でも自分で作ったスタンプを売ることができます。これまでのインターネットサービスの中で異質とも言えるビジネスですが、スタンプもフリーミアムモデルです。

主要な収益源の中で、今最も伸びているのが広告です。スマートフォンはPCと違い広告スペースが限られるので、ヤフーのような大規模な広告キャンペーンは打ちにくいと考えられます。その代わり、メッセージングアプリの利点を活かしたダイレクトマーケティングが可能となります。

これは大企業の広告だけでなく、喫茶店のような個人商店でも十分に使える機能です。広告主の幅が広がることで、LINEにとって安定的な収益源になっていくと考えられます。

ここまでに挙げた事業により、2015年には約1,200億円の売上高を記録しています。しかし、まだまだ手を緩める気配はありません。

先月には月500円からスマートフォンが持てる上、「LINE」「Facebook」「Twitter」が使い放題となる「LINEモバイル」を今夏に開始することを発表しています。また、LINEで決済が可能になる「LINE Payカード」の発行も開始しています。

「LINEモバイル」も「LINE Payカード」も、すぐに利益が出るような事業ではありません。特に「LINEモバイル」は、激化するMVNO競争の中で収支的には相当苦しい状況になるでしょう。

それでも新規事業を続ける理由は、LINEが掲げる「プラットフォーム戦略」にあります。

プラットフォームとは、あらゆる動作の土台となるもののことです。PCで言えば、OSであるWindowsにあたります。メッセージングアプリの「LINE」を土台として、様々なサービスに広げていこうという考え方です。

Next: スマホユーザーの9割超がLINE使用/「宝箱の鍵」騒動の影響は?



スマホユーザーの9割超がLINE使用/「宝箱の鍵」騒動の影響は?

MMD研究所の調査によると、スマートフォン利用者の9割以上がLINEを使っているという結果が出ています。

同じ調査でFacebookが5割に満たないことを考えると、驚異的な数字です。世代間でも普及率にほとんど差はなく、スマートフォン=LINEという状況です。

LINEは既にスマートフォンのプラットフォームとしての地位を確立していると言えます。

一旦プラットフォームになってしまえば、ヤフーのように様々なプレミアムサービスを提供することでどんどん収益を伸ばしていくことができます。携帯や金融分野へ進出するのも、プラットフォームとしての地位を強化し、更なる広がりを持たせるためのものでしょう。

目先の利益を優先せず、将来の大きなビジネスに広げられるのも、IPOを急かすVCが株主に入っていない利点と言えます。

「資金決済法抵触の疑い」ビジネス自体への影響は軽微

資金決済法に抵触している疑いがあるという毎日新聞の報道があり、上場が再び遅れる可能性は否定できませんが、ビジネスに与える影響はわずかと考えられます。

IPOに関しては投資家を焦らし続けているLINEですが、上場した暁には投資対象として期待が持てそうです。

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【関連】大手商社「減損ショック」の中身~三菱商事と三井物産はいまが買い?=栫井駿介

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年4月6日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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