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JR4社はいま買い時なのか? 年初来安値更新「割安」評価の裏に潜むリスク=栫井駿介

7月27日、JR東日本・JR西日本・JR九州・JR東海が年初来安値を更新しました。JR東海を含め、1年で20~40%下落しています。新型コロナウイルスの影響は甚大ですが、株価下落はチャンスとなることもあります。果たしてこれらの銘柄は買い時なのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

数字「だけ」を見ると割安か

JR4社が直近で年初来安値を更新しています。しかしJRといえば鉄板の銘柄とも言えるので、株価が下がっているということは、安くなって買い時なのではないか?という見方ができます。

そこで今回は、JRは今買い時なのかということについて、長期的な目線でお話します。

株価は、4社の1年間のチャートを見るといずれも新型コロナショックなどを受けて株価が値下がりしています。

JR九州がおよそマイナス20%JR東日本、JR東海がおよそマイナス30%、そしてJR西日本がマイナス40%という、安定した銘柄にしてはこれだけ下がってしまうと、株を持っている人にとってはがっかりする気持ちも強いと思います。

一方でこれだけ下がったのでJRというと安定しているイメージがありますから、また戻るだろうということで買いたい気持ちも湧いてきます。

そこで各社のバリエーション水準をチェックしてみるとこのようになります。

PERに関してはJR東日本が13.1倍、西日本が11.1倍、東海が7.2倍、九州が12.1倍と特に1桁となっているJR東海を中心に比較的低い水準となっています。

PBRについてもいずれも1倍を下回って割安と言われる水準で、東海に至っては0.75倍となっています。

配当利回りは各社まちまちですがJR九州に関しては3.89%と4%近い水準になっています。

これらの数字は各社とも予想を出していないので、いずれも直近2020年3月期の決算のベースとなっているので、今後業績がブレるに従って変化するものではありますが、今後平常時に戻った場合のことという考えると、これぐらいのバリエーション水準が目安になってきます。

数字だけ見るとをやはり割安に見えます。

多角化するビジネス

ではJRのビジネスモデルについてここで考えてみたいと思います。

鉄道をやっているということで在来線だったり新幹線だったりというところはもちろんですが、今各社とも多角化を進めています。

例えば駅ナカのショッピングモールや、会社によってはマンション販売に力を入れていたりもします。

またホテルなども持っていて、駅チカ駅ナカという優位性を生かしたビジネスをどんどん進めています。

大きく分けますと鉄道事業、さらにはショッピングなどの駅ナカ事業、それからホテルなとの観光事業、それにマンション販売なども行なっています。

見ればわかると思いますが、これらは全て新型コロナの影響を非常に受けやすいです。

そうは言ってもJRなので今はコロナで厳しいですが、やがては状態が元に戻れば通勤需要も復活するでしょうし、ホテルなどもお客さんが戻ってきて、長い目で見ればいいのではないかという考え方もできるでしょう。

では、それぞれがどれほどのインパクトを受けそうなのかということを、各社のビジネス事業の内容を分解して考えてみたいと思います。

<JR東日本>

まずJR東日本に関しては非常にバランスが取れています。

運輸が63%で、これで利益も結構出ていたりします。

ほぼ売り上げと同水準の利益構成となっています。

特にJR東日本というと東京首都圏があるのでそこの駅ビルで次々と開発を進めることで、安定した不動産事業というものも持っている訳です。

このビジネス事業、不動産事業といったところに支えられて、JR東日本は業績を上手く伸ばし続けています。

Next: JR西日本は少し運輸の割合が低くなります。どうしても人口密度が低かった――



<JR西日本>

JR西日本は少し運輸の割合が低くなります。

JR西日本というと大阪以西ということになりますが、どうしても人口密度が低かったりして、運輸では在来線はあまり儲からないというところも出てくるので、他の物に分散しなければならないわけです。

その1つとして流通事業、駅ナカ駅ビル、あるいはブランド用いてマンションを売ったりしています。

しかし運輸の割合は低くなっていて、若干安定感には欠けます。人口動態を考えても東日本ほど盤石ではないと思います。

<JR九州>

次にJR九州ですが、JR九州はクルーズトレインの「ななつ星」が注目されたりしてますけれども、鉄道事業はやはり厳しいところがあります。

この鉄道事業がおよそ3割4割を占めていて、利益率は11%となっていますが、ここにはカラクリがあります。

鉄道事業というと鉄道に投資をしてそれで利益を出していくのですが、コストが基本的には鉄道の減価償却費ということになります。

しかしJR九州は民営化した時に鉄道の資産を全て償却処分してしまって、ここに減価償却費がかかっていない数字となったのが、この利益率11.4%というものなんです。

したがって一見利益が出ているように見えますが、今後投資や修繕とかしていかないといけないということを考えると、当然どんどんコストがかかっていくことになります。

そう考えると鉄道事業から利益を生むのは正直厳しいと言える状況が考えられるわけです。

そこでどうしたのかというと、やはり「不動産」に力を入れていきます。

例えば博多駅を新幹線開業に合わせて大改修して、博多阪急やアミュプラザといった駅ビルの不動産賃貸事業を行っていたり、あるいはマンションを販売することで利益を出しているという側面があります。

<JR東海>

次にJR東海ですが、JR東海は逆に鉄道に特化した会社ということになります。

鉄道の中でも特に新幹線で「東京ー大阪」という鉄板の路線を持っているので、とにかくここで少しでも多くのぞみを走らせることによって、鉄道事業運用43%という高い利益率を出して利益の構成も9割を超えている新幹線1本の会社と言っていいです。

これまで説明したようなことを一言でまとめるとすると、JR東日本はバランスが非常に良く取れた鉄道会社であるということ、JR西日本はどちらかというと不動産や関連事業よりな企業だということができます。

JR九州は利益としてほぼ不動産屋で、鉄道は儲からない状況になっているので不動産屋として活路を見出してきたということになります。

一方でJR東海に関して新幹線一本足である意味純粋な鉄道会社と言えるかもしれません。

Next: 成長が見込めるかという観点で見れば、やはりどの会社も厳しいということ――



厳しくなる現状

さてこれまで各社ともに解説してきましたが、現在の状況に戻って成長が見込めるかという観点で見れば、やはりどの会社も厳しいということになってきます。

なぜなら人口が日本はここから減少していき、労働力人口もどんどん減少していく中で、顧客を増やすというのは厳しい状況となっているからです。

だからこそ多角化を進めてきたわけですが、この新型コロナを受けて、在宅勤務や出張を控えるといった動きがますます出てくるでしょうから、これまで頼りにしていたビジネス客ももはや鉄板ではなくなっているのではないかと想定されます。

この10年はどの会社も比較的業績は良かったのですが、それは何故なのかというと、景気が良くビジネス需要に支えられていたこと、あるいは外国人旅行客が増えたことによるインバウンド需要というのも間違いなくありました。

それらがホテル等にも波及しているわけです。

成長性は「東日本」が一番か

インバウンドはここ2、3年あるいはもっと長い期間厳しいかも知れませんし、ビジネス客も長期的に望めず、いったいどこで利益を出そうかということになると、もはや駅ナカ中心のビジネスをやっていくしかないと考えるわけです。

その観点で言えばJR西日本やJR九州などの人口動態が厳しいところは、駅ナカであっても開発できる余地のある、人口を抱える都市がそれほどありませんから、成長性は厳しいと考えられます。

成長性という観点で見れば東・西・九州で見ると、「JR東日本」が一番あるというのは間違いないと言えると思います。

リニアに賭ける「東海」は正念場

一方でJR東海に関しては今まで新幹線さえ走らせていれば儲かる会社でしたが、先程も説明したように、こちらもなかなか厳しい状況にあります。

そこでJR東海に関して鍵を握るのがリニアです。しかし、そのリニアもまた厳しい状況になっています。

そもそもビジネス需要が今後も見込めるかどうかわかりませんし、さらには静岡県の知事がリニアの建設に難色を示しています。

これで2027年開業予定となっていたのが後ろにずれ込むかもしれませんし、そうなるとJR東海は数兆円の投資を行って建設を始めていますが、それが経営の重荷になってしまうことが間違いありません。

各社とも老朽化で「設備投資」が必要

どの会社についても言えることですが、高度経済成長期の1960年代、70年代辺りで多くの鉄道が建設されています。

今これらの鉄道を使っているというところもありますが、建設されておよそ50年ほど経っています。

そろそろ各鉄道は寿命が近くなっていると言えます。

寿命が尽きる直前というのはもう減価償却が終わっていますので、会計的な利益はものすごく大きく出やすいです。

そのおかげでこの10年JR各社減価償却が少なくて、そこそこインバウンドなどもあって売り上げが伸びて、費用が減るということなので利益が増えてきて一見成長しているように見えますが、ここからはその逆回転が起こることが想定されます。

具体的は、老朽化した設備を更新しなければならないので、そこに多額のお金を投じなければいけなくなってしまいます。

最近では老朽化による事故が起きたということも出ていますし、また各所で地球温暖化による災害なども増えていて、これで突発的に巨額の費用が発生することもあります。

そういった観点で見ると、JRの利益は一時的で、利益が出やすい条件が揃っていただけです。今後のことを考えると、続けるのは難しいのではないかと考えられます。

Next: そこで見るべきなのが、キャッシュフローです。各社の状況を並べてみます――



キャッシュフロー

そこで見るべきなのが、キャッシュフローです。

各社のキャッシュフローを並べてみますと、実は利益が上がっているほど調子のいいものではないということがわかります。

赤の棒グラフが営業キャッシュフロー、緑の棒グラフが投資キャッシュフロー、赤の折れ線グラフが営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いて残ったもの、つまりいくらお金を稼ぎ出せるかというものです。

JR東日本に関しては今季がマイナスながら比較的安定していますが、JR西日本に関してはマイナスの年も少なくありません。

つまりJR西日本は必ずしも儲かっていないということになります。

JR九州に関しても明らかでプラスになることの方が少ないという感じです。

JR東海に関しては、儲かっていましたがリニアで巨額投資を行ったせいで、フリーキャッシュフローが今マイナスで推移しています。

特に緑の折れ線グラフを見ていただくとJR東日本は徐々に下に大きくなっています。

JR西日本にも傾向としてはやはりそうだと思います。

JR東海はリニアでもマイナスになりますから、今まさに古くなった設備を新しく投資しなければならないという局面になっています。

これが何を意味するのかというと投資すればその後減価償却費が発生するので、費用がまたどんどん増えるということになります。

したがって利益はこれから減る、あるいは増えないということが起こり得るわけです。

ではJR東海のリニアに関しても東海道新幹線の更新投資という風にも考えられるので、それに対してただ新幹線を更新していればまだ良かったのでしょうが、リニアという巨額の投資をしてしまったことがリスクを増大させてしまいます。ましてこの環境下でリスクが非常に大きくなってしまっています。

そこで先程のバリエーションの表を見ますと、JR東海が非常に割安に評価されています。

リニアの取っているリスクというのは、費用に対してそれに見合う十分なリターンが得られないのではないかということに投資家は嫌気がさして、JR東海を売っているということになります。

もっとも最初の株価のチャートに戻りますと、やはり一番大きな影響を与えているのは新型コロナウイルスであることは間違いありません。

新型コロナウイルスによってこの7月末に第1四半期の決算が発表されますが、ますます厳しくなることは間違いありません。

さらには長期的にも厳しいということを考えると株価は、まだまだ下がってもおかしくないと考えるのが私の見方です。

Next: 結論を言うと、新型コロナの影響はしばらく続きそうです。長期的な行動の――



投資対象としてはやはり厳しいか

結論を言うと、新型コロナの影響はしばらく続きそうです。

長期的な行動の変化もあってJRは厳しい状況であるということ、さらには老朽化や災害リスクということもあり、JR東海に関してはリニアの巨額の投資というのも今後尾を引いてくる可能性があるというわけです。

したがって成長もなかなか厳しい業界ですので、楽観的になれる状況でもないということになります。

それに対してまだ株価としてはPERは12、3倍前後と必ずしも割安と呼べる水準ではありません。

今後決算が相当ひどいものになると想定されるので、それを受けて株価はさらに深掘りすることが考えられます。

そのあと戻ることを想定しても、今は無理に投資する局面ではないと思います。

そして、その後株価が大きく下がった時には、可能性がある銘柄としては「JR東日本」です。

人口動態、駅ナカの強さ、そういったところが今後も強みとして出てきます。

キャッシュフローを見てもJR東日本は比較的安定しているので、長期的な配当の増加も期待できます。

このように株価が下がったからといってそれだけで投資をしていたら、その根底にあるリスクというのに気付けなかったりする訳です。

株価が下がったらその理由が何なのかということ、さらにはその企業が深く抱える問題というところまで理解したうえで投資をするというのが長期投資の本質です。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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image by:Tooykrub / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年7月30日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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