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ドコモ完全子会社化は菅政権のご意向か。見捨てられるNTTの株主たち=栫井駿介

NTTは9月29日、NTTドコモを完全子会社化すると発表しました。NTTがドコモの株をすべて買い上げるということで、いまNTTドコモの株式を持っている人にとっては、高く買い取ってもらえるので非常にラッキーだと言えます。一方、その裏では損をしている人が必ずいます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

3,900円で買い取られるドコモ株

もともとNTTは、NTTドコモの株式を66%保有していました。ほぼ3分の2なので、実質的には支配していたということにはなります。

しかし、それでも子会社が上場しているということは、子会社の少数株主がいて、その少数株主にも説明をしながら経営をしていかなければならないということ。さらには親子関係の間で軋轢(あつれき)があったりもして、必ずしもスピーディなグループ経営が行える体制とは言えない部分があるわけです。

そういったものの解消を目指して、かつては親会社から独立して上場したNTTドコモを、再び完全子会社化するということになっています。

その買収金額は、4兆円にもなります。過去にもなかなか例を見ない、巨大な買収というような話になります。

NTTドコモ<9437> 日足(SBI証券提供)

NTTはドコモの株式を3,900円で買い取ると発表したので、株価はそれに向けて急騰しまして、今3,876円という、3,900円に近い金額で取引されているということになります。

ドコモを持っている人はほぼ間違いなくNTTに3,900円で、買い取ってもらえるということにはなります。

なぜならNTTは、すでに66%の株式を保有していて、このTOBによって発行済み株式の0.45%だけ買い増せば、このTOBは成立すると言っています。

またこの直近の株価に比較すると40%の上乗せ価格で、いわゆるプレミアムというのですが、40%もの上昇を見れば、もはや株主はみんな売りたいということにになります。

ですから、株主の方はこうやってTOBに応募するという形になります。

ただTOBに応募するには、今回三菱UFJモルガン・スタンレー証券の口座を開かないといけないということになるので、それが面倒だということは多少割り引かれるかもしれませんが、3,876円で市場で売るということもできます。

ただ、TOBに応募しなくてずっと持ち続けていたりしても、やがては強制的に3,900円で買い取られるということになるので、もはや株主である人は何の心配もしなくていいわけです。

買収劇の内幕

この買収の目的を、NTTは以下のように発表しています。

出典:NTT

NTTドコモの競争力強化、それから成長というようなことを言っています。

5Gが始まったところですが、5G・6Gということが始まってきますし、また今コロナ禍でリモートワークとかDX(デジタルトランスフォーメーション)とかそういった動きがどんどん加速しています。

そのような状況のなか、グループ一体となってお客さんに対して営業をかけるということをしないと、今後は過酷な競争を乗り切っていけないのではないかという風に考えるわけです。

実際にKDDIとかソフトバンクは、このコロナ禍のリモートワークを機に、どんどん法人に光通信などと携帯通信を一緒くたにして営業をかけていたりしてます。

このまま行くと、ドコモNTTグループが乗り遅れてしまうということを懸念したのではないかという風に思います。

またもっと長期的なことを考えれば、様々な技術開発などをしないといけませんので、それは一体となって行った方が良いということになるわけです。

さらにここにきて大きな話となっているのが、菅総理の誕生ということになります。

Next: 菅政権の誕生がドコモ完全子会社を急がせた?「料金値下げ」強行か



ドコモ完全子会社で「料金値下げ」強行か

菅総理は一番の政策として「携帯電話料金の値下げ」ということを言っています。これが、このNTTドコモの完全子会社化の動きを加速させたのではないかと見られます。

というのも、この買収自体はコロナ禍の4月から検討されていたということが、今回の発表資料に出ているのですが、菅総理の誕生を受けて、今にもやらなければいけないというような動きがあったのではないかと考えています。

その理由が、2つあります。

1つは、この料金の値下げということがもちろんあるでしょう。というのも、NTTは筆頭株主が財務大臣32%ということになってるわけです。もともと電電公社ですから、国が民営化して売り出したというのがこの会社の始まりということになって、まだその株式をすべて売ることはなく、32%を保有しています。

それだけの筆頭株主なので、政府の意向には逆らえないような人たちがいるところですから、国が値下げするとを言ったら値下げしないわけにはいかないと考えられます。

一方で、ドコモはいかにも上場会社として、値下げに関してはのらりくらりとかわしていた部分があります。けれども、この買収と政府の意向も受けて値下げが加速するのではないかと見られています。

いくつか新聞記ことを見ましても、ドコモがなかなか煮え切らずに料金を下げないところをしびれを切らして親会社であるNTTが買収をかけたという風にも言われています。

となると、これからこの料金を下げる可能性の高い、ドコモを買収したNTTというのが最終的には収益の面で損を被ってしまうかも知れませんし、会社の損というのは株主の損なので、結果、NTTの株主が損失を被るということになりかねません。

損失を被るのはNTTの株主たち?

またもう1つ、このNTTの株主が損をしているのではないかと考えられる点がありまして、それがNTTドコモの株価の推移です。

出典:マネックス証券

これを見ますと8月末に安倍総理が辞任を発表し、菅さんがいよいよ総理になるのではないかと言われている時に、過去にも携帯料金の値下げという話をしていましたから、そこから携帯会社の株は下落していきました。

先ほど4月からこの買収の検討していたということですが、実際8月頃からいくらで買収するのかというような話を始めたそうです。

それが8月11日に3,400円と、それから25日に3,600円、そしてこの株価が下がり始めてから出した数字というのが9月2日に3,750円、9月17日に3,800円、そして最終的に9月25日に3,900円という金額が決定しました。

ここにおかしな点があります。

というのも、目下この菅総理の誕生によって株価が下がっている中で、このTOB価格というのは交渉の中でどんどん上がっていっているわけなんです。

確かにこのTOBをかける時というのは現在の株価に対してある程度の上乗せ価格支払わないと、買い取られる方の株主に失礼だということになるので、上乗せすること自体は問題ないのですが、ただこの株価が下がっている中で、あえて高い価格を提示するというのが、ちょっと状況がよくわからないわけです。

しかも菅総理の単純の誕生によって外部環境が悪い中で、これが上がっていくというのはどうしても不可解と思わざるを得ません。

すでに66%の株式を持っていて、どんな価格であってもこのTOB成立することがほぼ確実な案件です。

だったらわざわざ高いプレミアムを支払わなくても、現在の価格に少しだけでも上乗せして、この価格なら3,000円くらいにしてしまえば、おそらくほぼ確実にTOBを成立したと言えるわけです。

当然、40%のプレミアムで買い取ってもらえたドコモの株主は得をしたということになりますが、一方で、誰がそのお金を払うのかというとNTTが払うことになります。

ですので、そこで利益が減ってしまったのを誰が被るかというと、最終的にはNTTの株主ということになります。

Next: 利益よりも政府の意向優先か。今後、NTT株は買いなのか?



利益よりも政府(大株主)の意向優先か

じゃあ、なぜこんな高い価格で買ったのかというと、証券会社が関係あります。買収という行為には必ず証券会社が絡みます。当然、証券会社も儲けなければいけないので、TOBなど買収のアドバイスによって手数料を得るわけですが、その手数料体系が今回どうなってるかわかりませんが、一般的にはこの買収金額に対して何パーセントという計算方式をとります。

したがって証券会社としては、この買収金額が上がれば上がる程入ってくる手数料が多くなるということになります。私自身もその証券会社に所属していたので、そういうことがあるということは身近に感じていました。

そして、この買収価格というのは当然、いま付いてる株価も基準にはするのですが、一方でDCF法といってちょっと難しい将来の財務諸表なんかを作って、実際に金融理論に基づいて株価を計算するという方式があります。

この方式というのは、鉛筆を舐めれば実はどうにでも動かせるものなんです。そこで証券会社としては高い価格を提示して、これぐらいの価格で買っても妥当だというようなことを言って、高い価格で買い取らせたという可能性があります。

そこに対して、NTTの経営陣というのは正直、会社の利益がどうなるかというのは二の次なんです。なぜならば、自分が大株主ではないので、利益が上がろうが下がろうが知ったことかというような、極端に言えばそういったこともあるかも知れません。

それより大事な大株主様である政府の意向を汲むということが、大切だったということも考えられます。

その結果、割を食うのは残ったNTTの株主ということになって、この買収劇の損得勘定ということになるわけです。

成長も期待できない、経営陣も信用できない

さて、そのNTTが買いなのかということについてです。

出典:マネックス証券

過去13年くらいの業績ですが、赤が営業利益なので、こうやって見ると業績に伸びているように見えますが、年平均に直すとわずか2.68%の成長に過ぎないのです。

図体がもともと大きいのでそんなに大きな成長は望めないのですが、それにしても物足りない数字であるといえます。

大きく上昇しているところのほとんどは、実はドコモの利益の上昇によるものなのです。

この時期には4Gが普及して一気にスマホも普及して、その料金を上げてそれによって利益上乗せさせる事が出来たからここで成長したのですが、一方で今起きている事はその料金を下げさせようとしているということなので、これまでのような成長が続くとはなかなか考えにくいです。

むしろマイナス成長に転じてしまう可能性すらあります。

まして今株主をある意味で軽視するような買収劇というのをやってしまう経営陣というのは、株主としては信用が置けないのではないかと考えられます。

株価を見ましてもここ5年上がったり下がったりをほぼレンジの中で推移しているという形になっています。

今後も大きな上昇というのは見込めないと考えられます。

配当が4.42パーセントとまずまず高いですが、当然利益が減ってしまうと配当も減ってしまう可能性も十分にありますし、一見安定しているようですが、前提条件が変わってしまうとその安定が大きく崩れてしまうということもあります。

そういうことから、NTTの長期投資は私の方からは必ずしもお勧めできません。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年10月4日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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