ハンコ(印鑑)の是非が話題になっていますが、ただハンコを廃止してデジタル化するだけでは足りません。日本経済が息を吹き返すためには、承認経路の複雑さを解消し、オジサンを駆逐する必要があると考えます。(『高梨彰『しん・古今東西』高梨彰)
※本記事は有料メルマガ『高梨彰『しん・古今東西』』2020年10月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
ここがおかしいハンコ文化。「ありえない」と感じた2つのこと
ハンコ(印鑑)の是非が話題です。
かつてハンコに面喰った経験がある者として、非常に興味深いです。特にハンコが持つ2つの非生産的な側面について、2つ目の問題まで変化が進むのか、楽しみでもあります。これが達成されれば、日本経済にもかなり有益です。
私が初めてハンコに面喰ったのは、勤めていた証券会社が倒産し、銀行へと転職したときです。何と言ってもカギとハンコの多さに圧倒されました。
ハンコについては、以下の2点に疑問を感じたものです。
<その1:「何でもハンコ」の姿勢がおかしい>
重要な決裁案件はもちろんのこと、ちょっとした資料にも必ずハンコが付いて来ます。
しかも、押したハンコが真っ直ぐじゃないとダメだと怒り出す人も。また、企業・業界によっては「部下は斜めに押さなきゃダメ」なところもあると聞いたことがありますが、どちらにしても滑稽です。
<その2:資料にズラッと並んだ「ハンコの列」がおかしい>
一番右に事務職のハンコが押され、順番に主任、そして管理職が続き、最後に部長や役員のハンコが押されます。しかも、事務職と管理職では、ハンコの大きさも異なります。
こんなところに権威を持ってきてどうするのかと(中途入社なだけに声には出さなかったものの)、「バッカじゃないの?」と本気で呆れたもの。まぁ、今もその感覚は一緒ですけど。
このズラっと並んだハンコ、列が完成するまでにかなりの時間を要します。しかも、所属長の決裁を確認し、その資料を保存するまでハンコの列に関係する人は、持ち場を離れることができません。「部長待ち」「役員待ち」ってやつです。
時間の無駄な上に、この時間分だけ残業時間も増えます。人によっては残業代を得るため、この手の慣習を歓迎する向きも。大体17時から仕事するフリをする人が、この中に入ります。
そして、これこそ日本株式会社の生産性を低下させる大きな一因です。
Next: ただハンコを無くしても無意味。決裁のシンプル化が日本復活のカギ
ただハンコを無くしても無意味
さて、ハンコ廃止・省略に向けて、電子化・ネット決裁が進もうとしています。
件の銀行も脱ハンコ化が進んでいます。その礎を築いた細谷英二さん(りそな銀行会長)はやっぱり流石だったなと。会長なのに「ハンコなんて逆さに押してやったよ」と茶目っ気満載に語っていた姿が懐かしいです。
話を元に戻しまして。問題は、「ハンコの列」です。物理的なハンコが無くなっても、ネット決裁の列が解消されなければ、かかる時間は一緒です。むしろ、ネット上の操作に不慣れなオジサンが居れば、その分だけ時間は余計にかかってしまいます。
また、そもそもハンコに列ができる程、権限移譲が現場に降りていないことこそが問題です。権限を移すだけでなく、現場の責任感を組織として醸成することも不可欠です。
この過程が達成されて、初めてハンコ廃止・省略は効果が出ます。
すでにハンコ廃止関連株の物色が市場では進んでいます。ごもっともな動きです。
しかし、システムを導入する企業はどうでしょうか。いたずらにネット決裁を進めるだけでは、余計な時間をかけるオジサンを増やすだけです。
菅内閣がこうしたオジサン達を本当に駆逐するのか。興味はこの一点に集約されます。
今回のまとめ
・ハンコ廃止が話題
・ハンコの問題、物理的な押印の手間よりも大切なことがある
・決裁のネット化を進めるだけでは、かえって生産性を低くしてしまう
<初月無料購読ですぐ読める! 10月配信済みバックナンバー>
※2020年10月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。
- IMF見通し、インフレ率は株高を示唆(10/14)
- ハンコ廃止に不可欠な「オヂサンの駆逐」(10/13)
- トランプ劇場続く(10/12)
- ハエに想う、民主圧勝アリかもね(10/9)
- Fed、マイナス金利はしないけど(10/8)
- 米議会選にもJumpの期待(10/7)
- ポスト大統領選相場の前哨戦だった、ここ数日(10/6)
- トランプ大統領感染を受けた、2つの流れ(10/5)
- 東証の「再発防止」って、何を防止する気でしょうか(10/2)
- 米大統領選討論、中身は無くとも「2 minutes」(10/1)
※本記事は有料メルマガ『高梨彰『しん・古今東西』』2020年10月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『高梨彰『しん・古今東西』』(2020年10月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中
高梨彰『しん・古今東西』
[月額880円(税込) 毎週月・火・水・木・金曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
チーフストラテジストとして、年200回ほど発行していたメルマガ『古今東西』が、『しん・古今東西』としてここにリニューアル。株・債券・為替などの金融市場全般から、マクロ経済、市場心理など、「これ何?」なことを徒然なるままにお伝えします。四方山話も合わせ気軽に読めて、しかも相場を「自分で判断出来る」ようになるメルマガです。是非一度お試し下さい。