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コロナ後の「世界最強市場」マザーズ指数14年ぶり高値はバブルなのか?=栫井駿介

マザーズ指数が14年ぶりの高値を記録、米ナスダックを上回るパフォーマンスをあげています。これは果たしてバブルか、あるいは本格上昇なのでしょうか?結論としては、私は「バブル」だと考えています。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

マザーズ市場は「バブル」だ

今回は14年ぶりの高値を記録している東証マザーズ指数について解説したいと思います。マザーズというと日本の新興市場の代表格と言えて、赤字でも上場できたりと、若い企業が多いです。

そのマザーズの指数が14年ぶりの高値を記録していて、実はこれはアメリカのナスダック総合指数を上回るパフォーマンスで、新型コロナ後にそれだけのパフォーマンスを生んでいます。

これは果たしてバブルなのか、あるいは本格上昇なのかということについてお話ししたいと思います。

結論としては、私は「バブル」だというふうに断じています。その理由について説明します。

「絶好調」マザーズの中身

まずマザーズ指数の推移です。

マザーズ指数 月足(SBI証券提供)

リーマンショック前後に非常に大きく下がりましたが、その後アベノミクスを経て大きく上昇してきていながら2018年1月をピークにまた下落に転じ、この新型コロナショックで527ポイントという所まで下がりました。

しかしその後、急回復して今や1,368ポイントと2倍以上の上昇になっています。

これは世界でもまれに見るコロナ後の上昇率です。

世界ではアメリカのナスダック、これはamazonやマイクロソフト、アップルなどのハイテク企業が中心となっている指数ですが、これが調子がいいと言われている中で3月31日以降の上昇率はそれでも40%・50%というところです。

それに対してマザーズは100%、2倍という驚異的な数字を記録していて、まさにこの半年間においては世界最強ということができるわけです。

では、そのマザーズ指数はいったいどんな銘柄で構成されているのでしょうか?

Next: メルカリ、ラクス、弁護士COM…マザーズの代表的な5銘柄を解説



マザーズの代表的な5銘柄

マザーズ指数はどんな銘柄で構成されているのかというと、以下のようなものです。

1社ずつ簡単に解説します。

メルカリ<4385>

メルカリ<4385> 日足(SBI証券)

メルカリは皆さんご存知の通り、フリーマーケットアプリをやっていて、株価が上場してからさえないところもありましたが、この新型コロナで不用品の処分にインターネットで物を売買するということが根付いてくるのではないかということが考えられて、そこから大きく上昇して3月から2倍以上の株価になっています。

ラクス<3923>

ラクス<3923> 日足(SBI証券)

ラクスというのは経費精算など企業がデジタル化するにあたって必要なシステムを作っている企業です。実は私もよく利用していまして、当社のメール配信アプリはこのラクスが作っている「配配メール」というものを利用しています。

これが非常に使いやすくて、また営業の人に「ここをこうしたいんですけど」という要望を伝えたらすぐにそれを反映していくものすごい開発力を持っていて、とてもいい企業だと実感しています。

私がこのサービスを使い始めたのが2018年頃なんですけれども、その頃に買っていれば今ごろ大きな利益を手にしていたんじゃないかと思うと非常に悔やまれるところではあります。

フリー<4478>

フリー<4478> 日足(SBI証券)

それからフリーです。これは会計ソフトの会社です。中小企業ではこれまで会計が手書きや excel、あるいはダウンロード型の会計ソフトでやっていたりしたかもしれないのですが、このフリーだったら全てオンライン上でやることができるので、在宅勤務にも適しているということになり、その辺りの期待が上昇してこれも株価2倍以上に上昇している状況です。

弁護士ドットコム<6027>

弁護士ドットコム<6027> 日足(SBI証券)

弁護士ドットコムは電子印鑑システムクラウドサインがとても期待されて伸びているというところになります。

今、菅政権ではハンコ廃止が声高に叫ばれています。ハンコがなくなると一方で誰か署名したのかということを証明しないといけませんからそこでこの弁護士ドットコムが持っているクラウドサインが有力なのではないかということがあります。

この弁護士ドットコムを立ち上げた元榮太一郎参議院議員も自民党に所属していますから、弁護士ドットコムに非常に追い風になるのではないかと、株価はこの半年で3倍にまで上昇しているというところです。

BASE<4477>

BASE<4477> 日足(SBI証券)

BASEはインターネットショッピングのシステムを提供している会社ですが、上場して間もないものの、このコロナ禍で中小企業などにもネットショッピングが流行るのではないかということが見られまして株価も一直線に上昇していて、この半年でテンバガーをすでに達成しているというような状況です。

Next: 株価に比例しない業績。マザーズ市場はバブルにある



株価に比例していない業績

新型コロナに対応したDX(デジタルトランスフォーメーション)などの銘柄が非常に力強く上昇しているということがわかります。

では、業績も上昇しているのか?というと、必ずしもそうとは言い切れないところがあります。

コンセンサス(アナリストが発表しているものの平均)に対するPERに関しては、そもそもメルカリとラクスは赤字になっています。さらにfreeeも予想利益に対してPERは140倍もありますし、弁護士ドットコムに至っては1,200倍ととんでもなく高い数字になっています。

つまり、いずれもまだそこまで利益がついていないのに、それを大きく上回る、何百倍にもなるような株価がついているということになるわけです。

成熟企業だったらこんなに高いPERというのは到底容認されない水準なのですが、一方で今は先行投資の段階だからコストがかかっていてあまり利益が出ていないのではないかという見方もできるので、ここでは売り上げを対比で見るという見方があります。

株価を売上高対比で見るものをPSR(株価売上高倍率)と言います。これが新興企業だと10倍以下だったら比較的に伸びている企業だったら割安というふうにも見られることがあります。

そのPSRを見てみると、メルカリで8.9倍、ラクスで25.7倍、freeeで39.4倍、弁護士ドットコムで66.2倍、BASEが36.2倍とメルカリ以外は10倍を大きく超える水準となっています。

これだけPSRが高いと、いくら今後利益を出すようになっても、企業規模自体が何十倍にもならないことにはPERで見たときにまっとうな水準になるのは到底難しいというような状況にも陥るわけです。

したがってこれを見る限り、私たちのような腰を据えた長期投資家から見ると到底手が出せない水準ということになります。

以前の高騰はその後どうなった?

では、なぜ上がっているのかというと、投資家の期待が上昇しているからです。

いずれも政策だとかDXの波に乗る銘柄だと見られていますから、まず買いがどっと入ります。

そこで株価が上がっているのを見ると短期的な投資家が今のうちに儲けてやろうと思って買いが買いを呼んで、株価がどんどん押し上げられているという状況なのです。

このような現象はマザーズのような新興市場ではよく起こります。

かつて高値を記録した2018年の1月頃の状況を見てみましょう。

当時の時価総額上位の銘柄は、そーせい、ミクシィ、CYBERDYNE、ジーエヌアイ、サンバイオなどで、皆さんも耳にしたことがある銘柄群なのではないかと思います。

特に特徴的なのがそーせい、それからジーエヌアイ、サンバイオと、いずれも医療関係バイオ関係ということになります。薬というと、どうしても1つの薬がうまくいけばとんでもない利益を上げることがありますので、そこで夢を買う投資家が一気に殺到して株価が上昇するということもあります。

またサイバーダインは介護用ロボットで、体につけて楽に人を持ち上げられるというようなものです。当時はテレビでも盛んに取り上げられていました。

ただ、これらの企業の業績はPERを見たときに、ミクシィを除けばいずれも赤字という状況でした。

では、ここから株価がどう推移してきたのか、1つ1つ見てみましょう。

Next: かつて時価総額上位だった銘柄はどうなった?



かつて時価総額上位だった銘柄はどうなった?

以前のマザーズ高騰銘柄はどう推移してきたのか、1つ1つ見てみましょう。

そーせいグループ<4565>

そーせいグループ<4565> 週足(SBI証券提供)

そーせいに関してはこれもバイオベンチャーですけれども、3000円だったところがズルズルと下がって今は1300円というところです。

ミクシィ<2121>

ミクシィ<2121> 週足(SBI証券提供)

ミクシィは2018年頃はすでにモンストがヒットした後の下り坂に入りつつあったというところがあって、利益は出ているのですが、モンストが徐々に衰退していくに従って株価も下がってきてしまったというところになります。

CYBERDYNE<7779>

CYBERDYNE<7779> 週足(SBI証券提供)

サイバーダインも2018年頃が投資家の期待のピークで、実際はその後も利益がついてこなかったので、やはり株価が下落してきてしまいました。

ジーエヌアイグループ<2160>

ジーエヌアイグループ<2160> 週足(SBI証券提供)

一方で、唯一好調だったのはジーエヌアイグループです。ここは業績の方を見れば分かるのですが業績自体も大きく伸ばして今や黒字化しています。ちゃんと黒字化したことによって株価としてはプラスになったということです。

サンバイオ<4592>

サンバイオ<4592> 週足(SBI証券提供)

一方で、一番ひどいのがサンバイオです。この2019年1月のように、時々バイオ分野でこういうタワーができるのですが、薬がうまく承認されるのではないかということで期待が期待を呼んで一時的に株価が上昇することがあります。しかし、その後はその薬がやはりうまくいかなかったというようなことになると、株価が一気に滝のように下落するというような現象が起きます。これがいわゆるイナゴタワーと呼ばれるものです。

まとめてみますと、株価についてはそーせい−55%、ミクシィは−40%、サイバーダイン−68%、ジーエヌアイは+56%ですけれども、サンバイオは−83%と、当時高値を記録した銘柄が今は株価に関しては惨憺たる状況ということになっています。

Next: 夢で上がり続けるマザーズ指数、覚めるのはいつ?



夢は儚い

もっとも、当時はバイオ系中心の上昇だったということから今のデジタルトランスフォーメーションと必ずしも比べられるものでもないかと思われますが、マザーズの特徴としては個人投資家が中心の市場であるということ、それからその個人投資家というのが非常に夢見がちな存在であるということが挙げられます。

先ほど挙げたように、例えばバイオで世界を救うんじゃないか、あるいはこれから介護が必要になるにあたってサイバーダインが大活躍するんじゃないかというような派手な企業というのが人気になりがちですが、一方で、そこが利益を出ていなかったらやはり期待がやがて剥がれてきて株価が下落するということになるわけです。

また変動が大きいというところもあります。夢見がちなのですが、夢だけで株価は持ちませんから、やがて夢から醒めて株価が下がるということも必然のものとしてあります。その結果、変動が非常に大きくなるわけです。

それは、冒頭のチャートを見れば一目瞭然かと思います。

マザーズ指数 月足(SBI証券提供)

リーマン・ショック以前の1200から255というとんでもない下落を演じて、その流れが未だに続いています。

マザーズは今、このコロナ後の世界で最も上昇した指数だと言われていますが、コロナでの下落が大きかった、変動幅が大きいがゆえに、このような状況に陥ったという風にも見えるわけです。

私も個人投資家の皆さんを相手に会員サービスをやっていますが、よくここで挙げるような、調子が良くて将来の夢がありそうな銘柄どうですかというような質問をかなり受けます。

それが例えば、この株価自体が夢で形成されているから、いつかその夢から覚めるとわかっていて、それでも投資すると言うのなら構わないですが、確実性を重視しようと思ったら、この砂上の楼閣だったりとか、蜃気楼のようなものに投資しているというのは、決して安心できる投資とは言えません。

このサンバイオにあるように、この後ストップ安で売ろうにも売れないというような状況になりましたが、このようなことは極端かもしれませんけれども、今の株価の上昇ぶり、マザーズ指数の上がりっぷりを見ると、また下落局面ではこのようなことが起きてもおかしくないということを常に念頭においていかなければなりません。

私たちのような長期投資家は、今から買うというのは到底、難しいです。もし持っている人がいたら、売り時を探す局面だと思います。

これからまだ夢が続いて上昇するということももちろんあるんでしょうけれども、それに賭ける投資というのはこれはもうギャンブルになってきます。

確実な投資をしようと思ったら下手に今のマザーズのような銘柄を見るのではなくて、もう少しタイミングを待ってみるとか、あるいはもっと株価が抑えられているような企業を探す方が長期投資としては賢明だと考えます。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年10月19日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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