菅首相は所信表明演説を行い、2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすると宣言しました。これはかなりハードルが高い目標です。(『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』澤田聖陽)
投資に勝つにはまず第一に情報分析。「投資に勝つ」という視点から日常のニュースをどのように読むべきかを、この記事の著者で、元証券会社社長で現在も投資の現場の最前線にいる澤田聖陽氏が解説します。視聴方法はこちらから。
※本記事は有料メルマガ『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』2020年10月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
米中だけで世界CO2排出量の半分を占める
菅義偉首相は10月26日、就任後初めての所信表明演説を衆院本会議で行い、2050年に国内の温室効果ガス(greenhouse gas、GHG)排出を実質ゼロにすると宣言しました。
地球温暖化対策でGHGの排出量を減らしていかなければいけないというのは、世界共通の認識ですが、30年後にGHGを実質ゼロにするというのは、かなりハードルが高い目標です。
アメリカはトランプ政権で、パリ協定(第21回気候変動枠組条約締約国会議〈COP21〉が開催されたフランスのパリにて2015年12月12日に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定)を離脱しています。しかし、各企業ベースで見ると脱炭素化は進んでおり、年金や金融機関などの機関投資家の投資判断材料に「脱炭素経営」という目線が採用されるようになっています。
中国も国連総会でのビデオ演説で、習近平主席が2060年までに国内の二酸化炭素(CO2)の排出量を「実質ゼロ」とすることを表明しました。
参考までに、EDMC/エネルギー・経済統計要覧2020年版によると、2017年時点での各国のCO2排出量は以下のとおりとなっています。
1. 中国 排出量 9,258百万トン シェア 28.2%
2. アメリカ 排出量 4,761百万トン シェア 14.5%
3. インド 排出量 2,162百万トン シェア 6.6%
4. ロシア 排出量 1,537百万トン シェア 4.7%
5. 日本 排出量 1,132百万トン シェア 3.4%
6. ドイツ 排出量 719百万トン シェア 2.2%
7. 韓国 排出量 600百万トン シェア 1.8%
見ての通り、中国とアメリカの排出量が飛びぬけています。この2つの国で42.7%ですから、2カ国で世界の半分近くのCO2を排出していることになります。
日本は経済規模を考えると、優等生と言えると思います。
そもそも日本人は節電や省エネの意識が極めて高いですし、自家用車についても小型車が多いという事情があると思います。
またヨーロッパはかなり前から環境に関する意識が強く、ドイツの数字を見ていただければわかるように、CO2排出量もかなり少なくなっています(実はこれにはカラクリがあって、例えばフォルクスワーゲンは既にドイツ国内での生産量よりも、中国での生産量の方が多くなっています。中国での生産で排出されるCO2は当然中国のCO2排出量にカウントされます。もちろんトヨタ自動車も中国やアメリカでも生産していますので、同じ論理になりますが)。
実質ゼロ達成のために必要な施策は?
2050年GHG排出量実質ゼロという目標については、以下の施策が必要と考えられます。
・化石燃料を大幅に減らして、再生可能エネルギーによる発電を増やす。
・ガソリン車を減らし、EV(電気自動車)を増やす
・企業や家庭での節電
まず大前提として、かなりの技術革新がないと2050年にGHGを実質ゼロにするという目標達成は困難と考えています(経済規模を大きく縮小すれば現時点での技術でも可能かもしれませんが、そのような方向性は考えられないので)。
発電に関しては、再生可能エネルギーの発電効率(エネルギー変換効率)の上昇と蓄電技術の向上が必須になります。
再生可能エネルギーで一番普及している太陽光発電で検証してみますと、太陽光パネル等によって異なりますが、太陽光発電の現状での発電効率は平均で20%程度と言われています。
ちなみに他の発電効率を見てみますと水力発電が一番高いと言われていて80〜90%、火力発電は40%台(石炭、石油、LNGなどによって差がありますが)、原子力が30%前後、風力が20〜40%と言われています。
火力発電や原子力発電に比べて、太陽光は日照があるとき、風力は風がある時しか発電できず、発電できる時間が少ないという弱点があります。しかしながら日照や風量はコントロールできませんので、発電量を上げていくには発電効率を上げていくしかありません。
太陽光の発電効率もパネルの品質向上などにより年々上昇してきてはいますが、発電効率50%以上の太陽光モジュールを2036年までには開発したいという研究が進んでいるようです(まだかなり先ですが)。
化石燃料による発電比率を減らすのに、原子力発電をどうするかというのは大きなテーマです。
Next: 原子力発電の稼働を高めなければ達成困難。国民の理解は得られるか?
原子力発電の稼働を高めなければ達成は不可能
日本人は、福島原発事故の件もあり、現状では原子力発電に対してかなりのアレルギーがあると思います。
2019年の日本における原子力発電による発電の比率は、前年の4.7%から増えたものの、全体の6.5%に留まっています。未だに多くの原子力発電所が止まったままなのはご存じのとおりです。
ちなみに2019年データで見ますと、火力発電の割合は75%、自然エネルギー(再生可能エネルギー)の割合は18.5%となっており、火力発電の比率が引き続きかなり高い状況にあります。
個人的な考えでは、原子力発電の稼働を高めなければ、おそらく2050年のGHG排出量ゼロは不可能だと考えています。
一方、原子力発電は核のゴミの問題があります。
原子力発電を拡大してGHG排出量を減らすのか、原子力発電よりも火力発電の方がリスクを考えるとましなので、火力発電をベースとするかは意見が分かれるところです。
日本では、感覚的で明確に裏付けるデータがありませんが、おそらく後者の意見が現状では多いのではないかと思います。それだけ福島原発のトラウマは大きいのだと思います。
環境活動家の一部の人は、太陽光や風力等の再生可能エネルギーだけで全電力が賄えるという人がいますが、これについては前述の通り、私はかなりの技術革新がなければ無理だと考えていますし、2050年までの30年間で可能かと言えばかなり疑問です。
そうしますと2050年GHG排出量ゼロを実現する為には、原子力発電の再稼働が必要という結論になるでしょう。
国民の理解を得るのは難しい
今回の所信表明演説では、「安全最優先で原子力政策を進めることで安定的なエネルギー供給を確立する」という発言がありましたが、2050年に原子力発電の割合をどれぐらいに見積もっているかは具体的には話されませんでした。
日本は、他の先進国に比べると原子力発電を拡大する(再稼働する)には、国民のかなりの抵抗があると考えられ、難しい舵取りが求められます。
火力発電も進化しており、CO2排出量も昔よりは大幅に減っています。
個人的な意見としては、原子力発電を再拡大するよりも、火力発電と再生可能エネルギーを併用しながら、将来的には原子力発電は無くしていくのが良いと考えています。
たしかに地球温暖化問題は対処しなければいけない問題ですが、原子力発電の何か起こった時のリスクは甚大ですし、前述のように核のゴミの問題もあります。
そうしますと再生可能エネルギーの技術革新をできるだけ早く実現することによって、GHG排出量ゼロを実現するしかないということになります。
Next: 原発再稼働が前提の菅政権、達成のための現実的な施策とは?
菅政権は原発再稼働を前提としている
菅総理の考えとしては原子力再稼働が前提のようですが、繰り返しになりますが国民の理解が得られるのかかなり厳しいのではないかと考えています。
節電や省エネについては、日本はかなり得意分野ですので、必要電力量を徐々に減らしながら、再生可能エネルギーの技術革新と火力発電の技術革新によってGHG排出量実質ゼロに近づけていくのが、現実的な施策と考えます。
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『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』(2020年10月27日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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