コロナ禍でフードデリバリーの需要は増えましたが、ここに来て配達員の供給過剰が見られます。UberEatsのリュックを背負って繁華街で立ち尽くす「ウーバー地蔵」も問題化。この国の雇用が最悪な状況に陥っていることが見て取れます。(『今市的視点 IMAICHI POV』今市太郎)
※本記事は有料メルマガ『今市的視点 IMAICHI POV』2020年11月30日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め初月分無料のお試し購読をどうぞ。
ウーバーイーツの配達員が急増中
今年春先に新型コロナウイルス感染拡大で非常事態宣言が各地で出されてから、飲食物の宅配、昔で言うなら店屋物(てんやもの)の需要が非常に高まり、その追い風を受けてUberEatsは全国主要都市に一気に広がる展開となりました。
東京都市部で比較的富裕層が多く住む港区のタワマンエリアなどでは、ひっきりなしにUberEatsのロゴのついた配達用リュックを背負った若者の姿が見られ、デリバリービジネスが急拡大していることが感じられました。
しかし、足元では「GoToイート」がはじまったり、そもそも「GoToトラベル」といった旅行が完全に禁止されていない中で、飲食店や料飲店の利用も5月あたりと比較すればかなりゆるくなっていることにも起因して、飲食のデリバリーが圧倒的な優位性を誇る状況ではなくなりつつあるようです。
また直近ではUberEatsの競合となるデリバリービジネスが乱立するようになり、競争環境激化の中でこれから報酬単価が下がることも予想されます。
しかし、このビジネスの個人事業主として参加する人々は非常に増加中で、その理由を調べてみますと、やはりコロナ禍の雇用環境が激変していることが大きく影響していることがわかります。
配達単価は1回550円程度だが、個人あたりの配達料は減少傾向
UberEatsはいったいどれぐらい稼げるのかですが、地域によって単価が違うのはピザ屋のアルバイトと同じようなもので、都内の主要地域はやはり高くなる傾向があるようです。
一般的には1回(配達する商品を引き取って客先に届けるまで)で平均550円見当のカネになるようで、仕事が多ければ時給換算で1,200円から1,500円ぐらいになってきたようです。
ただ、自転車でも持ち込みの125CC以下のバイクでも車でも単価は同じですから、ほとんどの人たちは自転車で配達するようで、健康にいいと言ってしまえばそれまでですが、1日に1万円以上稼ぐのはヒマな時間を含めてかなり難しくなってきているようです。
Next: ほかに働き口なし?待機して動かない「ウーバー地蔵」が増加
待機して動かない「ウーバー地蔵」が増加
少しでも効率的に稼ぐために、繁華街や大きな駅周辺で待機したり、平日より土日に積極的に働く、お昼の時間帯と夜の夕食時間帯を狙って稼ぐ、人気の飲食店のそばで待機する、天気の悪い日に稼働する……など、働く人たちはそれぞれに知恵を絞って努力されているようです。
しかし、それでも発注総数が減少傾向にあって配達者が増加してしまうと、タクシーの運転手の無線の取り合いと同じようなことになり、決して売上にはつながらないという厳しい状況にも直面しはじめています。
最近では主要駅などの周辺にUberEatsのリュックを背負った若者がゴロゴロたむろして、「ウーバー地蔵」などと呼ばれるようになっている様子。それぐらい、稼働しない時間が多くなっている状況です。
一般のアルバイトと違うのは、時間の拘束に対する対価が何もないこと。あくまで配達を行ってはじめて報酬が得られるわけですから、依頼件数と配達人の需給バランスが崩れれば、みな収入が減るという非常に厳しいことに陥りかねず、日によって稼ぎはかなり上下にブレるようになっているようです。
なぜ、そんなビジネスにこぞって参入しようとする人が多いのか?それにはやはり、それ相応の訳があるようです。
学歴・経験不問の仕事は「配達」しかないという現実
今年のコロナ禍では飲食店・物販・キャバクラ・クラブ・ホストクラブなどなど、同じ業界が横並びで閉店や営業不能に陥ることとなりました。
本来ならこうした業界に勤めていれば、同業界の他の店に転職することで事なきを得ていた人たちがほとんど、というのが実情でした。
しかし、過去の経験を活かせる業界がコロナ禍で軒並み閉店や事業縮小に追い込まれた結果、仕事にあぶれた人たちを収容することができるほかの業種がまったく見つからないままに、年末を迎えている状況です。
4月・5月に比べればこうした業界も完全封鎖からは免れていますが、雇用の回復にはつながっておらず、さらにそれを政府も地方自治体もまったく意に介さず、コロナ感染が拡大すれば平気で微々たる給付金を出しては営業の自粛や時間短縮を求めてきているわけです。
口減らしにあった人たちがとにかくなんとか働ける場所として見つけ始めているのが、こうしたデリバリーの業務委託ビジネスとなっているというわけです。
もともとこうしたビジネスをやっていた人間は存在はしていたものの、ある程度は限られていたはず。履歴書を出すこともなく、身分証明や利用するバイクや車のナンバープレート、保険等を提示して登録さえすれば、だれでも学歴・経験不問で働くことができるのは相当ハードルの低い仕事になっていることがわかります。
Next: 時間給の仕事は「高嶺の花」、配達員過多でもUberEatsは困らない
時間給の仕事は「高嶺の花」
今どきはピザや弁当の配達、深夜のコンビニ店員、スーパーのレジといっても、当然、履歴書提出により職務経験を見られますし、なによりこうした時間給の仕事は求人先自体が驚くほど募集が集まります。
学生のような存在でない限りは、まったく異質の業界から雇用にこぎつけるのは至難の業になっているのが実情です。
私の知人でも、銀座のクラブに勤めていた女性で、下手をすれば普通のサラリーマンよりよほど稼いでいた人でも、クラブという箱が軒並み閉店して、そもそも業界としての市場規模が維持できなくなったことで同じ仕事を続けられず、ようやく探しに探して、ピザの配達から宅急便のドライバーに転職したというすさまじい経験をしている人がいます。
また、大学院まで進学して博士号を取得したのにもかかわらず、大学の都合で教員をクビになったなどという高学歴者も、アルバイト先を見つけるのには相当苦労しているようで、正確な学歴や職歴を履歴書に書くと逆に敬遠されることから、そうしたフィルタリングのない仕事としてあえてUberEatsのデリバリーを行っているなどという話もあります。
雇用の現場は、我々がまったく想定していないような恐るべき状況に陥っていることを認識させられます。
供給過剰でもUberEats側はまったく困らない
こうした人材を個人事業主として契約するUberEatsのほうは、実際のデリバリーの出来高だけに報酬を支払えばいいわけですから、デリバリー人材インフレが起きても、まったく痛くも痒くもない状況。
冬の寒さが一段と厳しくなるこの時期でも、主要な街のあちこちにウーバー地蔵を見かけはじめている年の暮れです。
UberEatsをはじめとするデリバリービジネスが悪いとは言いませんが、仕事を探すとこれしか選択肢がないというのは、新型コロナ禍といえども異常な状況です。
株式市場ではすっかりポストコロナを織り込む動きになっていますし、そもそも国や中央銀行が緩和措置を増やせば増やすほど、実態経済とはなんの関係もなく株価だけが上がる始末。
その陰で、労働需給の実態がこんな厳しいところにあることを、政治家ももっとしっかり認識しなくてはなりません。
Next: 失業率では測れない。元気な人がまともな仕事に就けない現状
元気な人がまともな仕事に就けない現状
国内ではコロナ感染大爆発と医療崩壊で果たして年明けまで生き残れるかどうかというクリティカルな状況に直面していますが、元気に働ける人でもまともな仕事に就くことができないというのは相当な問題で、端金の給付金を便宜的に配るだけでお茶を濁している場合ではないことを痛感させられます。
こうしたミクロ的なお話をしますと、どうせほんの一部の話であると笑い飛ばす人が多いのも事実。
しかし、国内には失業率といったオフィシャルな経済指標の下に潜り込んで見えない層が大量に存在しており、そうした人たちが仕事をしたくてもまともに働けない現実を直視しなくてはならないのではないでしょうか。
ウーバー地蔵の激増状態は、私の目に映る恐るべき歳末の情景です。
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『今市的視点 IMAICHI POV』(2020年11月30日号)より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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